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日本水泳連盟 飛込委員会 JOCエリートアカデミー強化担当 毒島泰士 #2

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掲載日:2019.01.28
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極度の緊張感の中、高く繊細な技術で競われる飛び込み競技。
(公財)日本水泳連盟飛込委員会 JOCエリートアカデミー強化担当、(公財)日本オリンピック委員会 専任コーチ[情報・科学]として将来的にオリンピックや国際大会で活躍できる選手の発掘と育成を行う毒島泰士氏に、「フィジカル×トレーニング」をテーマに話を伺った。

フィジカル面で重要な事

まずは可動域を増やした上で筋力が発揮できるようにしてほしいという点、それから体幹の強化です。身体が固いと動作や演技の幅も狭くなってしまいます。あとは筋力の左右差がないか等のバランスも重要です。

中学生と高校生では目的を変えていて、中学生の時には自体重でまず量をこなしていく方法を重視しています。
飛び込みで大事なのは腹筋と背筋、足の力です。体幹部の強さとジャンプ力が求められますので、そこまで高い負荷ではありませんが量をこなすようにしてもらっています。

高校生になると筋肉量やパワーを高める必要が出てきますので、ウェイトトレーニングを入れてパワーや最大重量をどんどん上げていきます。これは男女とも共通です。これらに加えて、瞬発的なトレーニングであるプライオメトリクス種目も入れていきます。高校生以上はそれに尽きると思います。

飛び込みにおけるパワーとは、台から飛ぶときに必要になるものです。
飛び込みには、高飛び込みという動かない台から飛び込むものと、飛び板飛び込みという板を使って飛び込むものの二種類があります。

両方ともパワーは必要なのですが、特に体の質量も大事です。飛び板飛び込みにおいては板を強く押し下げて反動をつけるために筋力やパワーの大きさやジャンプ力が必要になってきます。

高く飛べることで滞空時間が長くなり技が出しやすくなるので、高難易度の技も取り入れやすくなります。
筋力トレーニングとしては「肋木腹筋」をよく行います。ぶら下がった状態でレッグレイズをするように、両足を揃えて頭上まで引き上げる種目です。慣れてきたら足に重りをつけて行っていきます。

特徴的な怪我

正確な統計は随時変動してしまうので後々にその効果を発揮するのですが、我々の競技は下半身で踏み切って上半身から入水するため、腱鞘炎や骨折など手首の怪我は多いです。続いて肩、腰、膝が多いです。

中学生頃の骨が固まりきっていない時期に、瞬発的な衝撃を硬い床から受けることでスネの後内面に痛みが出る「シンスプリント」も多く見られます。

手首に関しては入水時の角度によるものもありますが、通常、入水時には手首を片方握るようにして飛び込んでいます。そうすることで自分と水の間に空間を作り、手を開きながら入水していくことで水しぶきが上がらないようにする技術があります。

自分の体重に加えて上から落ちてきた衝撃を手のひらで全て受けますので、どうしても手首は痛めやすい部分になります。同様の理由から肩や肘も多いです。飛び込みに特徴的な怪我だと思います。

高飛び込みの台から飛び込むと、まっすぐ入水したとしても衝撃は強いです。
飛び込みをやっていない方が同じことをしようとすると、水しぶき云々の前にまずまっすぐ飛び込めないと思います。体を固める独特のフォームがありますので、それがマスターできればまっすぐ飛び込むことはできるようになります。

体が曲がっている状態で入水すればそれだけ衝撃が分散されるのですが、まっすぐ飛び込んだ分だけ手首への衝撃は集中して強くなっていきます。

そのため身体への負荷を考えて、基本的に高台(10m)から毎日多くの本数を飛び込むことはしていません。
水泳連盟としては野球の投球制限のように明確な飛び込み本数は設けていないので、各々の所属する環境に任せてしまっている部分はありますが、コーチは各々そういった認識を持っていると思います。

練習時間外、日常生活での取り組み

まずは食生活です。
男子、女子の選手ともに脂質を取りすぎないようにしながら、しっかりと食べる事意識させています。
エリートアカデミーは成長期の選手ですので、男女問わず補食も用意し体内のエネルギーや水分が枯渇しないよう努め、世界で戦う為の体づくりをしています。

脂肪の量と水しぶきの量については立証された研究がありませんので、正確な関係性は明らかにはなっていませんが、少なくとも飛び込み競技のアスリートにとって体脂肪が優位に働くということは考えにくいので余分な脂肪は身につけないよう注力しています。

食生活以外では、睡眠や学習、趣味、交友といった時間が人間には必要ですが、トップアスリートにとって最優先すべきは競技ですので、いかに効率的でシンプルな時間の使い方ができるかが後の勝敗のカギを握ります。

目標とした競技結果を最優先に生活を送っていれば、自ずと競技に関する事に多くの時間を費やします。選手やコーチが競技以外に比重があれば、それに多くの時間を費やし、競技に対する時間が減少する事になります。
これは、コーチやスタッフが強制的に仕向けるのではなく、選手自身に競技に最大の興味がなければなし得ない事ですので、いかに仕向けるかが重要です。その方法や選手への携わり方はそれぞれの選手の個性に応じたものでしょう。

メンタル面への要望

単純に、質は量だと思っています。
試合中どんな精神状態になっても、会場がどんな雰囲気になっても、自分がイメージしていた状況とかけ離れた状況になっても、飛び込み競技においては、身体が勝手に成功への演技(プロセス)を無意識にやってくれることが理想です。

自分が成功しているときでも、うまくできていないときでも、環境や状況に左右されないくらい身体や感覚が優先していることが大事で、それをカバーしていくには、やはり量だと思います。頭で考えて行動するのでは遅いし、精神的な要素が身体活動に多くの影響を及ぼしてはいけません。

強靭な精神とは、「海」で例えるなら「深海」です。海面の天気や波、潮の状況を全く受けない深海になるためにはたくさん水の量が必要です。競技にどれほど時間を費やしてきたかの量が、深海の精神を育むイメージを持っています。

日々、「いつも通り」の質を高める練習を積み重ね、本番で何が起きようと「いつも通り」を実現できる力を育みます。

指導者を目指す人へ

単純に、自分の目的に対するたくさんの時間と量を費やす事で良い指導者になれると思います。
生きていく上では、自らの夢や自己実現に対する障害は限りなく存在しますが、一番の障害は自分自身です。自らがどれほど高いモチベーションを維持して続けられるかがとても重要です。それをコントロールしているのは自分自身です。

「勘違い」や「場違い」でも構いません。自らに対する客観的な良し悪しは後ほど修正できます。必要なのは、成長する為の行動を続けられるかだと思います。

多くの経験と知識がその人の実践力に繋がっていきます。結局それが選手に落とし込めるものになるので、経験と知識の量が指導者の質に繋がると考えています。

また、人の前に立つ仕事ですので、「人間性」が非常に大事です。信頼関係に関わってきます。
選手や周囲の人々にそれを求めるのではなく、自分自身が常に人間性の成長を意識しなくてはなりません。その為には、「人としての正しさ」を常に追求する必要があります。
本やインターネット、映画などでもそれを学ぶことができますので、常に磨きをかける必要があるでしょう。私は上記で述べた「知識」と「経験」だけの職人になるのではなく、それをうまくアウトプットできる人間性が非常に重要であると考えます。
たとえ良い知識と経験を持っていても信頼度が低く、誰も私の話を聞いてくれなければ、何の役にも立ちません。

指導者のゴールは人それぞれですので、目的や目標はそれぞれですが、失敗してもブレずにPDCAサイクルを続け知識や経験を積み重ね、人間性を高めていくことが重要であると考えています。

指導に際しての哲学・考え方

「個を育てる」ことが根底にあります。
自分の事は自分が一番良くわかっているという選手を育てたいと思っています。

指導者の価値観や技術論が全てになってしまうと指導者を超える成長がなくなってしまいます。新しいものをどんどん吸収するためには選手が主役であり、監督やコーチ、トレーナーはあくまでそのサポートであることを忘れてはなりません。端的に言えばそれらを意識しています。

飛び込みは割と、コーチに依存しやすい競技だと思います。
飛び込んだ一本ごとに指導を受けます。それも信用を築くための非常に重要なコミュニケーションですが、そこに頼りすぎてしまうと自分がどういう演技をしたいのかがぼやけてしまいます。
たとえば、文字や絵を描いていて、一筆一筆の度に様々な人から「あーだ」「こーだ」と言われ、その通りに筆を動かしていたらどうでしょうか?全体像がぼやけてしまって美しくならないのではないかと思います。
選手自らの感覚と求める全体像を大事にしたいと考えています。

飛び抜けた選手になるためにはまず個がしっかりしていて、それぞれが一番自分のことをわかっている必要がありますので、選手との距離感には気をつけています。

自分で一番良い質を追い求められる選手を影ながらサポートするというのが指導者の役割かと思います。
「これが全てだ」という言い方はせず、ルールや原則を伝え、あとは選手が自分の体と柔軟性と体力・筋力と美的センスで理想へ近づく努力をすることが望ましいと考えています。