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甘やかされた筋肉の未来 免疫の知識1

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月刊ボディビルディング
掲載日:2017.07.18

医学的見地から考察する筋肉生理学 第18回

風邪気味で体調が悪い時に飲む風邪薬。今の時代は簡単に入る。抗生物質も抗ウイルス剤も開発が進み、ワクチンも常備されるこの時代。大きな戦争もなく、飢餓に苦しむこともない飽食の生活。筋肉を大きくさせるには最高のタイミングである。しかし、このままヒトの身体は強く大きくなっていくのだろうか?

ウイルスも出会いが大切

私たちの身体は、皮膚、口の中、肛門、そして胃腸のいわゆる表面に、たくさんの微生物(虫、細菌やウイルス)を飼っている。これを微生物側からの視点では“寄生”といい、私たち側からの視点では“共存”という。

本来、身体の中は、細菌もウイルスも住めない。母親の身体の中では、表面である皮膚も口も生殖器もすべて無菌状態だ。無菌だからこそ、邪魔されることなく大切な臓器が成熟してその働きを高めることができる。しかし、生まれた瞬間から、膨大な数の細菌やウイルスに暴露される。オギャアと泣いた時から吸い込む周りの空気にも、「可愛いね」と触れる周囲の人たちの皮膚にも、愛情を持っておっぱいをくれる母親の乳首にも、細菌とウイルスが満載だ。だから赤ちゃんはすぐ熱を出すし、ぐずる。下痢をし、吐く。熱を出すことで病原菌のタンパク質を変性させて弱くし、下痢や嘔吐をすることによって水に流して一気に異物を流し去る。このようにして自分に悪さをしない細菌やウイルスのみを種々選択し、寄生、共生させていくのだ。

元気なヒトでも、身体には100兆を超える細菌が住んでいるといわれる。口の中だけでも何百種類、腸などには何万種類の細菌を寄生させている。これはあくまで個別なもので、多くの他人と触れあうとまた新たな病原菌に出会うが、そのたびに自分に都合が良いか判断しながら選択して排除したり寄生させたりする。

食べて戦う!

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お母さんの乳首に吸い付くことで、栄養と同時に、お母さんが共存共栄させてきた“優しい病原体” も赤ちゃんの身体の中に入って行く。乳首を消毒するなどもってのほかである


“免疫”という言葉がある。病から逃れることだ。生まれた以上は、もう子宮の中の無菌状態には戻れない。病にならないためには、全部排除するのではなく、相手を見極めて、利用すべきものは利用するしかないのだ。

このシステムの原理はまず、自己と自己でないという認識を持つことに始まる。外からの侵入者である異物は、平面ではなく立体だ。ウイルスならタンパク質で出来た殻、細菌なら脂肪やタンパク質が入り交じった膜…これらを体中の隙間をパトロールしている白血球が見つけ、見つけると膜で取り囲んでしまう。そして膜の中にある消化剤で溶かす。この行為を、貪食作用という。

食べることは粉々にすること。粉々にした断片を同時に周りの仲間に送る時に、この細胞同士の通信に使われるタンパク質をサイトカインという。タンパク質を利用した応援隊の要請である。仲間を呼び寄せ侵入者と一斉に戦うシステムである。ちなみに、ホルモンは臓器の間のメッセンジャー、サイトカインは細胞の間のメッセンジャーで、両方とも自分の身体、細胞が作り出している。ほとんどすべての生き物がこうして自分を外からの侵入者に対して守るシステムを作っているからこそ、個体が維持できる。この“食べる、食べて粉々にして応援する仲間を呼んで戦う”というシンプルな行為は、ほとんどの動物が持っているために“自然免疫”と呼ばれている。

遺伝子を組み替えて記憶する

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飽食の時代、食品を見て考えて調理し、よく咀嚼して食べるという基本行為を忘れたボディビルダーは、筋肉を健康に大きくすることはできない


地球上には無数の生き物がニッチを求めて生存競争をしている。私たちヒトの身体も絶えずその波にさらされており、油断をすれば崩壊の危険がいっぱいだ。

周りから襲って来る大量の種類や数の侵入者に対し、それを食べて仲間を呼ぶという元から備わっているシステム(自然免疫)では、臓器などに働きを細分化された複雑な身体は守れないと判断したのだろうか、ほとんどの背骨を持つ動物は、新たな防御システムを造るようになった。これは、白血球が最初に出会った白血球から学んで記憶した情報を元に、自らの遺伝子を適当に組み替えて戦うシステムを作る。戦う手段は抗体というタンパク質を作ることで、やや時間がかかるけれども、これによって一度かかった病気に対して二度目にはすばやく戦える抵抗力を得ることができる。これを獲得免疫という。これを経験的に学んだ学者たちがワクチンを作り出したことで、天然痘やポリオなど多くの病気の蔓延が克服されてきた。

なお、このように細胞自らが学び、記憶し、そして自らの遺伝子を組み替えるというシステムは、日本人が発見し、ノーベル医学生理学賞を受けている(1987年、利根川進博士)。

乗っ取りと共存

進入した微生物は、当然白血球の攻撃を受けるが、一部の細菌はその細胞を乗っ取る。細菌は自分のタンパク質を相手の膜を通して注入し、細胞の骨組み蛋白であるアクチンにくっついて自分の土台とする。そしてどんどん自分に都合の良い環境に作り替えていく。

乗っ取った細胞に運んでもらいリンパ腺などで似た細胞をたくさん乗っ取り増殖すると、当然、乗っ取られた個体もがんばろうと細胞が集まるのでリンパ腺は腫れ、熱が出る。ウイルスはタンパク質の殻で囲まれた“さまよう遺伝子”である。なお、ウイルスは好き嫌いが大変激しいので、特定の場所の細胞にしか感染できない。肝炎ウイルスなら肝臓のみだし、インフルエンザウイルスなら呼吸に関係する粘膜のみだし、エイズウイルスなら白血球のみなのだ。

ウイルスは、細胞膜から自分の遺伝子のみ注入させ、細胞システムを乗っ取る。乗取られた身体は自らの細胞と戦うことになり、膨大なエネルギーを費やすことになる。細胞自らは命を絶ち(アポトーシス)、または別の白血球の攻撃を受け炎症を起こして、身体は消耗していく。

しかし、感染した相手が死んでしまうとウイルスも生きていけないので、感染した個体が死んでしまう前に、咳やくしゃみ、下痢、嘔吐、けが、性行為などでまき散らすことで別の元気な場所に移る。居心地が良ければ、集団で生活している家畜や都会の人口密集地で簡単に増やしていける(パンデミック)。なお、そこで一部のウイルスはその個体と共存していくことになる(キャリア)。分子レベルの混乱と動乱の中に平和が生まれることも、免疫の力である。

現代人は除菌しすぎ!

毎日決まった時間に餌が摂れることはなく、むしろ飢えていることが基本なのが動物の身体なのに、絶えず食べ、しかも高カロリーが当たり前になって来たゆえに、現代人は肥満と糖尿病で苦しむようになってきた。たかだか数百年では、人という動物の代謝システムは変えられない。これと同じように、100年前まで細菌を、数十年前まではウイルスも知らなかったヒトが、これらによる病気を排除したかのように誤解するのは慢心である。

身体の免疫システムは、いつでも細菌やウイルスに戦うように白血球をたくさん作り、学ばせる用意ができている。母親の胎内から出てから成長とともに適度に病気になりながら、それを乗り越えて共存共栄状態を保っているのがデフォルト(初期状態)なのだ。

これまで人の周りには、家畜が居て、ハエや蚊が飛び交い、建物は開放され外と中の空気は絶えず入れ替わっていた。家畜や昆虫の死骸、糞などは乾燥して絶えず空気中を漂っていた。こうして子供たちは今よりはるかに不衛生な中、微生物に馴らされ、免疫もそれに対応してきた。ところが戦後経済が豊かになり、生まれた時から煮沸消毒した哺乳瓶を使い、母親の乳首までアルコール消毒をする人もいるし、最近に至っては毎回全身除菌スプレーまでして子供に触る風潮まである。それに、元気な大人まで抗菌グッズなどを好んで使う。もちろん、これらは抗がん剤や病気と戦っている抵抗力のない患者さんに対しては有効だろうが、この行き過ぎが子供たちの免疫システムを混乱させているのも事実である。

免疫細胞が暇を持てあますと…

脊椎動物は背骨という芯を持つことで、役割分担をする臓器や、移動のためにこれらを統合する神経血管インフラを高度に発達させることができた。

生物同士は元々、残酷な面があり、他の生き物をとらえて食べることで自分の肉体を維持している。多くの生き物は、細胞が微生物をそうするように、丸呑みする。丸呑みした後は、消化器という道をゆっくりと通しながら(これも筋肉を使う)、消化液をかけて溶かしてバラバラにしていく。それをもっと効率良くしたのが咀嚼、顎を使って噛むことだ。こうするともっと大きな複雑な構造物も粉々にできる。

これを吸収するシステムは、腸管にある表面の細胞だ。細胞から取り入れる時、その隙間から必要のない異物や微生物が紛れ込む。それを排除するシステムは、原始的な生物の時代から備わっている。腸管の免疫システムはすべての動物の基本システムなのである。

バラバラに分解されドロドロになった食物は、分子レベルで腸を覆う細胞の中に入っていく。細胞同士は手を繋ぎ合っていて、一旦細胞で分別してからしか取り入れられないようにバリアを作っている。幼少時はこの繋がりが緩いのだが、緩いと微生物が直接身体に入り込んでしまう。しかしその一方で、隙間には白血球という警察官がいて、敵をその本能で撃退しつつ、情報を記憶する。

生まれた時から小動物が近くにいて育った子どもたちは、アレルギーに苦しむことが少ない。これは大人になってからでは遅い。これは楽器の習得のように、免疫システムにも幼少時の一定の不潔さが大切なことを示している(衛生仮説)。

戦後の現代、乳児のころに病にかかって亡くなることは激減し、感染症による脳膜炎による脳障害や発達障害なども少なくなった。しかし未知の重篤な感染症を経験して繋いで来た免疫の情報システムは、緊張して待機している。それなのに、何も侵入してこないとなればどうなるのだろうか?仕事や勉強、スポーツでは緊張感や競争が良い意味で大切なことが多い。何もない、ゆったりとした環境は、免疫システムにとってあまり好ましいことではない。わずかな異物の侵入によって排除するシステムがコントロール不良となり、過剰な反応を起こしてしまうのだ。免疫細胞の暴走――これがアレルギーである。

屈強な人にも免疫異常は起きる

あなたの身体も、ウイルスや細菌も、同じ物質でできている。細菌の膜とヒトの膜も構造は同じ。その構造物の区別は表面の微妙な差を認識し、しかも学習で成り立っている。では、警戒力と攻撃力のありあまった力を持つ免疫細胞がもし自らを攻撃したら――?これは現実に起きている。関節リウマチなどの自己免疫疾患である。

自らの臓器や関節などを異物と見なして壊し始めると、それを食い止めようとして炎症が起きる。炎症が暴走すると、より破壊が進む。昔はただ炎症を抑えるステロイドホルモンでしか治療ができなかったが、分子レベルでの治療薬が開発されたために、患者が救われる時代になってきている。

本来なら、分子状にまで分解された食品や成分であるタンパク質が粘膜を飛び越えて血流に入ってくることはありえないのだが、粘膜が鍛えられていないと、粘膜の間にできた隙間から入り込んでしまい、そしてぬるま湯に浸かったように危機感のなくなった白血球も、これを見逃す。情報伝達も今ひとつになる。こうなると食品アレルギーで苦しみ、アトピー皮膚炎で苦しみ、しょっちゅうウイルス性腸炎でお腹を壊すことになる。

粘膜を鍛え直そう!

免疫を高め、身体の抵抗力を強くし、アレルギーに苦しまないためには、清潔にしすぎないことだ。身体を覆う皮膚をゴシゴシ洗うことで、大切なバリアを壊さないこと。空気は乾燥しているが、乾燥は粘膜にとって害あって利はない。微生物の傷口からの進入が容易くなるだけだ。

鼻や口腔は一種の加湿器である。肺や気管支の粘膜を守っている。鼻も口も眼も湿りけを維持しよう。本来は、ジムや人混みの中など外出先から戻ったら、手洗いとうがいをして、簡単な入浴かシャワーをすれば、それでじゅうぶんなのである。

粘膜も鍛えなければ強くなれない。最初から分子状になっているサプリメントは腸管粘膜からの吸収も早い。理論上は栄養学的にも血流に乗って筋肉にとっては有用だ。しかし、本来の粘膜は時間をかけて顎と歯を使って時間をかけて食物を噛み砕いて、ゆっくりと消化管の中を通していく間に鍛えられていく。こうすることで胃腸の粘膜が身体にとって有害なものとそうでないものを選択排除できる力がついてくる。たくさんの種類の形あるものを、時間をかけて食べる、この動物としての栄養を取り入れる基本を忘れてはいけない。

腐敗と発酵は紙一重だ。納豆やヨーグルトなど、微生物が食べ物を守り身体に良い状態にしてくれたことを利用しよう。腸も脳も考えることで、筋肉を発達させることができる。アレルギーを起こし、細胞の間のメッセージを送り過ぎて暴走させることでタンパク質を無駄に使うことのないようにしよう。
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発酵食品は微生物がお腹に優しく加工した産物。身体に優しい微生物を摂り入れることで、これを利用して大きな筋肉を作っていこう



過剰な免疫反応を抑える抗アレルギー薬は分子レベルで細胞の暴走を防いでくれる。最近は眠気の副作用も少ない薬も普及している。数カ月の単位で身体の反応を落ち着かせるためにはこれらは役に立つ。環境を変えようとするあまり、いきなりペットを飼うことや、不潔な環境を作ることは勧められない。清潔な状態に慣れてしまっている身体には、むしろ新たな感染症を引き起こす可能性もあるのだ。

面倒ではあるが、アレルギーを起こす原因をじっくり突き止めていき、慣れていくことが大切である。皮膚などに痒みがあったり、ミミズ腫れになったりしている場合、掻きむしってはいけない。細胞のバリアが壊れている中で掻いてしまえば、より破壊され、微生物の侵入と炎症拡大を起こすだけだ。痒み止めを塗るか内服をすることで抑えていこう。
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皮膚が炎症している時は、掻いてはいけない。余計に皮膚のバリアが壊れ、微生物の進入と炎症の暴走を許すだけだ

  • 浅見尚規(あさみ・なおき)
    筋肉評論家/1957年生まれ
    宮崎県小林市三和会池田病院脊椎脊髄外科勤務

    タイトル
    1991年NBBF 東九州大会優勝
    1997年NBBF 広島優勝、
    1997年NGA(USA)マスターズ優勝

    趣味:筋トレマシン収集、読書
    ブログ: http://ameblo.jp/asaminaosan/

文・浅見尚規

[ 月刊ボディビルディング 2013年4月号 ]

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