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筋肉は免疫力アップで発達する

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月刊ボディビルディング
掲載日:2017.07.25

医学的見地から考察する筋肉生理学 第19回

前号に続き、免疫の話の第二弾。身体のいろいろなトラブルを監視し、ガンの発生や微生物の侵入と戦っている免疫システムが、どのような仕組みで高度に発達した筋肉を守っているかについて説明していこう

筋肉、神経、血管は三位一体

動物の身体は、何十兆個もの細胞からり立っている。そのため、遠く離れた場所にある細胞へ栄養補給するためのインフラとして血管が作られたのだが、一定方向に動く柔軟性と強度が必要だった。そこでタンパク質の立体構造を作り替え、道を補修・増築するコラーゲンなどの線維性のタンパク質を作る修復部隊を配置し、かつ、もともとあったアクチンなどの細胞骨格や、枠組みを作っていた蛋白をミオシンなど他のタンパク質と組み合わせ、細胞膜を通してカルシウムやナトリウム、カリウムといった電解質の濃度差を利用することによって、電気を使って動かす装置である筋肉を作り出した。つまり、筋肉は“運動に特化した特殊技能”を持たせた高度な複合タンパク質集団なのである。

ただ、筋肉の動きを増幅させ、確実に制御し保守点検するためには、膨大なインフラとエネルギーが必要となる。パソコンの進化を思い浮かべればお解りいただけるだろう。小さなチップをいくつも組み合わせることで計算能力を高め、それを維持するために電気というエネルギーがたくさん必要となり、制御する中枢が大切になった。神経という制御システムは、必要性に迫られてできたものなのだ。

システムは常にクリーンであるべし

精密化されたシステムは、分子レベルで小さな反応を将棋倒しのように連続させることで、大きな反応をさまざまな方向に伝えたり、一部をせき止めて制御したりしている。

筋肉細胞が集まった筋線維という単位を電池とすれば、運動単位の集合体として、それを直列並列に正確に並べ、正確な動きを神経から来る命令通りに協調して行なう必要がある。わずかな引っかかりがあるだけで大きな装置に狂いを生じさせてしまうため、そこに異物が紛れ込むことは許されない。だからクリーンルームが必要になるのだ。

また、疲弊して他の電池に負担をかける電池が一カ所でも出ないように、監視システムが必要となる。筋肉組織や、それを制御する神経系が無菌に保たれる理由はここにある。
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人目に曝され、順位がつけられることのストレスの大きさは経験してみないと解らないものだ。苦労して作って来た筋肉が果たして評価されるのか?なお積み重ねてきた筋肉は、終わった時の脱力感によって、免疫の力で一瞬にして縮んでいくこともある

無菌に保つ

植物や動物は生物学的な分類上、すべての細胞の中に遺伝子を入れた核を持つ“真核生物”という(ほ乳類の赤血球は例外で、動くために核を捨てた)。ばい菌、バクテリアなど細菌は核がないので原核細胞(生物)という。遺伝子を核の中の膜で守っていれば安定度は増すが、膜がない方が自由である。にもかかわらずどちらも存在するのは、生物にも自由な個性があるということだ。

すべての生き物は、自分を守るために、外から侵入する異物や自分の中でできた廃棄物、疲労物質などのゴミを排除する“自然免疫”というシステムを細胞レベルで持っている。細胞一個単位で動く生き物は、異物と認識すると、まず膜で取り囲んで自分の細胞の中に入れて(飲み込む)消化液で溶かすという行為を基本とする(貪食作用)。この細菌の基本的な戦うやり方は、ヒトの身体にも受け継がれていて、この細胞を大食細胞(マクロファージ)という。

骨髄から少し未熟なまま生まれたマクロファージは、血液という道路を通って全身に運ばれ、血管の壁から這い出し、いろいろな臓器に入っていく。皮膚や肝臓、腸といった臓器に入ると、そこで居座り成熟しながら敵を迎え撃つ。特に皮膚や腸は敵からの侵入が絶えず行なわれている最前線なので、玉砕覚悟で教育成熟したマクロファージがたくさん配置されている。腸や血管から入ってくる栄養素を選択加工する巨大な工場であり解毒現場でもある肝臓は、傷つき死に絶え、または修復不可能な細胞群を処理する必要がある。そのためにも掃除役としてマクロファージが必要になるのだ。そしてこの“細胞に取り込んで毒や異物侵入者を溶かす”というシステムは、基本的に動かないはずの植物の細胞にもあることが最近解ってきた。

一方、人間は背骨を持つ動物の範疇に入るが、背骨を持つ動物は昆虫、エビやイカなどと違い、特殊な防御監視システムを持っている。背骨という身体の芯であり、神経の保護装置であり、同時にカルシウムやリンなどの、生きるために、また動くために必須な金属類の貯金場所として発達した場所を維持するために、より高度な監視システムを作り上げたのだ(獲得免疫)。

リンパをマッサージ?

リンパマッサージ(医学的にはリンパをマッサージすることなどできないのだが、医学の素人たちの間の気楽な隠語と筆者は理解している)で知られるリンパ。生物学的にリンパとは、まず動脈によってミクロのレベルまで送り込まれた血液が、細胞にしみ込み、またしみ出して静脈となって戻っていく過程で細胞の間に滲み出た液体成分や白血球など動く細胞の流れる道をいう。

そもそも血液でさえ、静脈や動脈のようにはっきり肉眼で見ることは、腕や体幹などの太い場所に来るまで不可能だ。だからもし「リンパを指で触れることができる」とすれば、それはリンパ液と白血球の経由地点であるリンパ節(リンパ腺)であろう。ここではたくさんのT細胞やB細胞などが情報交換のために待機集合し、近くにある病変に対して戦う前線基地になっている。
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医学的に言えばリンパをマッサージすることなどできないが、緊張した筋肉をほぐす事でミクロのレベルでリンパの流れを改善することはできる。過度の神経や筋肉の緊張は免疫細胞の働きを弱める

白血球は教育される

大食細胞(マクロファージ)はかなり原始的な生き物にも備わっているが、ヒトの中にあるマクロファージは白血球の一員だ。戦い疲れた細胞や、ガンに侵された細胞をとりあえず壊すナチュラルキラー細胞もその一員である。その他の仲間に、脊椎を持つ動物はT細胞とB細胞というリンパ球もある。いずれも骨髄から未熟なまま血液に乗って体中を巡回している。

白血球は学習する能力があり、さらに、学習したものをメールのようなもので他の白血球に伝える能力もある(サイトカイン、インターフェロン)。そのうちのT細胞は、骨髄から生まれてすぐ、胸骨と心臓の間くらいの場所にある胸線という構造物に向かい、そこでしばらく教育され、学習する。ここで学習する内容は、体中を監視しているマクロファージからの情報を受け取った、成熟したT細胞から受け渡される侵入者や自らの細胞のコンディションについてである。なお、胸腺には死亡率90%ともいわれるほど大量に落ちこぼれが出るが、落ちこぼれた細胞は自ら死んでいき、次世代の細胞の元となる。

この白血球の教育は大切で、外来侵入者
の種類によって得られる情報は、主にタン
パク質を作り替えたり構造を変えたりして行なわれるために時間がかかる。胸腺からしっかりとした情報処理ができるT細胞だけが、もうひとつのB細胞に命令して異物攻撃用のタンパク質(抗体)を作らせることができる。

白血球の間の情報であるサイトカインやインターフェロンはタンパク質であるので、タンパク質特有の立体的な構造を使って情報を送る。この情報がうまく理解できない細胞は害でしかない。前号でも書いたが、このB細胞も自ら遺伝子を組み替え無限数の異物に対応可能な能力をT細胞からの命令で作る能力がある。

なお、胸腺は免疫の司令官を作る大切な教育機関なのだが、成人になるとその役目が終わるのか、なぜかどんどん小さくなって見えなくなっていく。この司令塔であるT細胞にも教育され成熟していく過程で役割分担が起き、“微生物をしっかり処理する役目のもの”や“自分の細胞状態を認識してガンや微生物、その毒素に犯されて回復不能になったものを食べてしまうもの”などに分かれる。抗生物質や抗ウイルス剤で抗菌しすぎている現代は、成熟し、暇になったはずのリンパ球同士の役割分担のバランスが崩れ、結局自らの身体を攻撃してしまう(自己免疫疾患)、制御がきかなくなってしまう(アレルギー、過敏症)ことに苦しむようになってしまった。

笑いは筋肉を鍛える?

忙しくて眠る時間を削って大切な仕事をこなしている間、または良い成績を目指して厳しいダイエットで準備をしている間は、あまり風邪を引かない。それらが終わって「やっと休める」「休暇だ」と思うと体調を崩すものだ。これは緊張感という自律神経が免疫システムの緊張の糸の一つを引いていることの現れである。すなわち自律神経のバランスこそ、身体の抵抗力を高める大切な要素といえる。神経が発達しすぎたヒトは、“ほどほど”を自分の身体に解らせることが難しいのかもしれない。

笑いや気分を高揚させることで、末期ガンで苦しむ患者の寿命が伸びることは、昔から報告されてきた。実際、ガンが縮小する例もある。精神的な落ち込みや緊張といった自律神経の異常は、胃腸などの臓器に簡単に障害を起こすことも事実だ。最近、神経は筋肉の動きを制御しているだけでなく、自律神経が免疫の細胞をコントロールしていることが解ってきた。笑いと安らぎのある時間は、ガンを攻撃する能力を高め、またはガンに犯された細胞を修復または早く死なせ、別の細胞の再生に余裕を持たせる。すなわち免疫細胞の監視攻撃力を上げるのだ。

ピリピリと張りつめた緊張感は、高重量の種目に挑戦したり、筋肉の動きに意識を集中させるのには大切であるが、過度に続いたり、調整時のイライラで精神状態の不安定さが起きるようなら、結局は体中の臓器を監視保守する免疫細胞の能力を落とし、短い命の筋肉になる。
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笑いは内臓も免疫力も鍛えられ、身体の保守点検には最高の薬である。良く笑い、家族や仲間と過ごして欲しい

微生物は排除しすぎない

もともと動物や植物は群れるものだが、親子や兄弟、家族や親戚という単位が基本なのに、村から都市ができ、何千何万にも群れが膨れ上がると、文化的にもそして分子レベルでもトラブルが起きるようになった。中世ヨーロッパを壊滅するほど猛威をふるったペストや、紀元前から悩まされてきた天然痘やポリオ、第一次世界大戦時代のスペイン風邪以来不定期だが人類を悩ますインフルエンザも、すべて同一種の生き物が群れすぎることに原因がある。家畜として同じ場所に集団で群れさせられた野生の動物までもが微生物の格好の餌食となり、何万という動物を同時に殺傷させてしまうほどだ(鳥インフルエンザ、口蹄疫など)。

微生物は本来、感染した相手が死んでしまっては寄生できないし、増えることができない。一方、免疫というのは戦いすぎると自らの消耗も激しいため、完全な徹底的排除ではなく、基本的にはそれほど危害を加えないものなら当たり障りのない平和的解決を目指している。微生物も長い歴史の中でそれを解っているからこそ、さまざまな動植物に寄生しているのだ。

この時、寄生する微生物は種を超えないことが多い。ただし想定以上に集団が膨れ上がると、微生物も必死なので、死んだ肉体を乗り越え、時に種を乗り越えて大規模な感染が起きてしまう。イノシシを家畜化したブタの体内で、鳥やブタのウイルスがシャッフルされて遺伝子変換が起こり、種を超えてヒトに感染するのはこのためだ。

ヒトは、発見されてからたかだか数年から数十年の抗生物質や抗ウイルス剤を使うことによって、免疫の力以上に微生物を徹底的に排除しようとする。しかし細菌もウイルスもその遺伝子を組み替えて対応する。薬剤耐性微生物ができるのは当たり前のことなのだ。したがって微生物を根絶するなどというのは、人間の思い上がりに過ぎない。

微生物が暴走すると…

もともと隙間を求めて平和的に生きていく微生物だが、時に暴走する異分子がいる。疲れがたまると唇周囲が腫れるヘルペスや帯状疱疹は、小さい頃に感染して何十年も神経に隠れていたウイルスが、皮膚の近くまで出てきて増殖し、身体がそれに驚いて戦う炎症の成れの果てだし、C型肝炎ウイルスは何年、何十年もかけて肝臓細胞の遺伝子に隠れながら負担をかけていく。

T細胞という免疫の司令塔に感染するエイズウイルスは、もともとサルが免疫担当細胞の遺伝子の中に共存させていたのが、ヒトが森林やジャングルに入り込み、彼らの領域を犯して接触した結果、ヒトに感染することになった。そのため、ウイルスと人間が共存認識できない状態となり、苦しんでいる。

細菌より小さな電子顕微鏡でしか実体をとらえられないウイルスは、悪の権化のようにいわれているが、実は、ヒトの遺伝子の半分以上はウイルスの遺伝子が感染してそのまま取り込まれている痕跡がある。この痕跡を利用して、ほ乳類は胎盤という大切な組織を作り出してきたようだ。ウイルスの感染によって命を落とすこともあるが、たくさんの生き物を作ってきたのはウイルスかもしれないともいわれている。理屈の上だけで忌み嫌い、排除しすぎる傾向には問題が多いのだ。
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よく眠ることも筋肉にとっては大切だが、あまりリラックスしすぎると身体を守るはずの免疫細胞は勝手に暴走を始め、アレルギーなどに悩まされることがある。ダラダラとした生活もほどほどに

筋肉の環境を作る

「忙しくてジムに行けない」「ジムが遠いから足が向かず、結果的に身体が大きくならない」「成績が伸びないのは、うちのジムにマシンが少ないから」…身体の変化に驚き、不思議さに惹かれてのめり込んだはずのウェイトトレーニングなのだから、その環境は自ら作り、筋肉の声を聞くべし。骨格筋への神経伝達がスムースにいくように生活環境を整え、緊張感とリラックスを生活リズムに取り入れ、自律神経をほどよく刺激すれば、内臓も強化され、身体の警察であり修復部隊である免疫細胞を鍛えられる。そして免疫という強力な保守、警察力をうまく利用し、ことを荒立てすぎず、なるべく平和的な解決を目指し、静かに潜ませていることこそ地球に優しく生き物同士が生きていく基本であることを忘れないでほしい。
  • 浅見尚規(あさみ・なおき)
    筋肉評論家/1957年生まれ
    宮崎県小林市三和会池田病院脊椎脊髄外科勤務

    タイトル
    1991年NBBF 東九州大会優勝
    1997年NBBF 広島優勝、
    1997年NGA(USA)マスターズ優勝

    趣味:筋トレマシン収集、読書
    ブログ: http://ameblo.jp/asaminaosan/

文・浅見尚規

[ 月刊ボディビルディング 2013年5月号 ]

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