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筋肉ドクターの健康道〜ボディビル医学について

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月刊ボディビルディング
掲載日:2017.07.26

第十一回 腰痛と座骨神経痛の話

 今回も整形外科医らしく? 日本人が訴える症状の中で最も多い〝腰痛・坐骨神経痛〟についてお話しようと思います。

 最初に私が腰痛を覚えたのは、恐らく高校を卒業してから大学に入るまでの期間。世に言う浪人の時代だったと思います。何故、こんなに憶えていないかと申しますと、それほどきつい腰痛じゃなかったからです。トレーニング中にちょっと腰が痛いからベルトでもしようかな? 程度でしたから。

 そして時は流れて、大学病院での研修医時代、上の指導医の先生について外来を見学している時。

患者さん「足が痛いんです(と下腿を指差す)」

指導医「ああ、それは腰が悪いからです」

 そこで感じた私のファースト・インプレッションは〝おかしい?〟。なぜなら下腿が痛いと言っている患者さんに〝腰が悪い〟と、この指導医が言っていたからです。。不勉強な私だからこそ持てた疑問ですが、教科書でしっかり予習していたら、そんなことは思わなかったのではないでしょうか。実は大多数の整形外科医と異なり、今でも私はそれはおかしいのではないかと思っています。

 そんなに人間の身体って馬鹿でしょうか?自分の悪い箇所も分からないような…。確かに心臓などの内臓が悪い人が、背中を痛がったり胸を痛がったりする関連痛や放散痛というのがあるのは否定しません。しかし、下腿が痛い人は普通下腿が悪いと思いませんか?

 そして、研修病院も変わり、なんと脊椎外科をメインにやっている病院へ異動しました。そこでは、数ヶ月待ちで脊椎(背骨)の手術が行われており、また一般病院ではなされないような脊椎の大手術も多々行われていました。

 そこで感じたのは、腰や下肢痛を訴える患者さんの画像所見と症状の不一致です。異常だと教えられた画像所見のとおりに痛くなったりしびれたりしている人もいれば、全く症状を訴えない人もいました。左右逆の症状を訴えたり教科書に載っている損傷レベルの神経症状とは異なるレベルの症状を訴える人もしょっちゅうでした。

 また、実際術後の患者さんを見て、それほどに手術が効果的だとは思えないという感覚も持ちました。確かに、痛みが消えて喜んで帰る患者さんもいましたが、外来でその後もずっと投薬、リハビリを続けている患者さんも多数。これで治ったと言えるのかな? と疑問に思ったりもしました。また腰椎のリハビリで有名な牽引治療は、多くの患者さんに実際行われていましたが、治らない人はずっとやり続けていました。これって本当に治療なんだろうか? と疑問に思うことも多かったです。

 そして、流石に整形外科の勉強も進んでくると、腰椎疾患ってますます意味が分からず、混乱している状態でした。ちょうど私が医者になった頃より、EBM (Evidence basedmedicine)という概念が一般化されてきました。しかし、この概念は今現在の医学会で認知されているものとは少し内容が異なるようです。

 最近のお医者さんは、それってエビデンスあるの? ないの? と、その診断や治療に有効性があるのか無いのかという白黒つける意味で使用していることが多いですが、実際のEBMは、根拠を参考に患者さん個々の状態に合わせて治療を選択したりするという意味で、決して治療の良し悪しに白黒つけるものでは無いようです。

 簡単に言いますとインターネットの普及のおかげで、論文検索が非常に容易になって医学というものの研究がしやすくなったということです。それによって、ある治療は厳密な統計操作によって得られた情報からどのくらいの人に有効性があるのかないのか? あるいは実は害があるのか無いのか? ということを客観的に評価しやすくなったということです。それを用いて、今まで徒弟制度で行われていた医療を客観的事実から治療法を選択する医療にしていきましょうというのがEBMです。

 ここで、治療ということですが、人間には多様性というのがありまして、100%の人に有効性があるという治療は無く、また100%の人に無効だという治療も無いわけです。だから、それを考慮して、個人個人に最適だと思われる治療を選択するということです。

 もちろん過半数の人に有効性が無くて、過半数の人に害が認められた治療を最初から選択するなんてことは無いわけですが、それも患者さん本人が強く望めば最終的にやることもあるというのが、EBMのもとの考えのようです。

 私の個人的見解としましては、EBMでほとんどの人に有効性の低いと分かっているものは、保険診療(税金を使う治療)からは早急に外すべきだと思います。一部の人にしか有効性が無く多くに人に害かもしれない治療を徒弟制度で行われていたからと言って、ダラダラと多くに人が額に汗して得たお金からの血税を使うべきではないと思います。と、私が書くということは、全くダラダラと保険診療でそういうことがなされているということです。

 しかし、このEBMも症例数の少ない稀な疾患では、あまり価値がありません。少ない患者さんにある治療をして、どうなったかを偽薬と本当の薬を処方して違いを見るには、ある程度の症例数がいる必要があります。また、診断が容易でないとそれも難しくなります。 ということで、このEBMの有効性が非常に高かったのが、「腰痛」だと私は思います。患者数は日本一だし、診断は腰が痛かったらみんな「腰痛」ですから。

 そして、統計的に調べやすかったため?1990年以前に行われていた腰痛概念、治療を厳密な統計的に処理をすると現在認識されている腰痛概念、治療と統計結果に大きなギャップが生じることになりました。

 で、その頃読んだ『腰痛をめぐる常識の嘘』という福島大学の菊地臣一教授が著された本は更に私の混乱に拍車をかけました。現在、腰痛の原因疾患であると考えられている、腰椎椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、腰椎椎間板症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎側彎症、などの違いが分からなくなりますし、腰痛の原因としての病態も極めて疑わしいと思いました。

 そうこうしているうちに、私にとってある衝撃的な出来事が起こりました。滋賀県の湖西の高島というところに住んでいた時、トレーニングジムでトレーニングしている時でした。ドンキーカーフレイズマシンをフルスタックしている最中、マシンの腰を当てる台が高重量にしていたためか斜めに動き、ガクガクとポストに何度か引っかかった時でした。「ギクッ」と腰から痛いのかどうかも分からないような激痛が起こりました。ベルトはしていたのですが、痛みのためにショック状態になっているのが自分で分かりました。

このままでは、気を失いそうだ。かっこ悪い!、と思った私は側にあったベンチに横になりました。5分くらいでしょうか。落ち着くまで横になっていました。そして座ろうとしたら、まだショック状態が続いて頭がクラクラしたため、もう一度横になり2分くらいでしょうか。そして、ショック状態が治まったのを確認してからゆっくりと、フルスタックになっているバーベルプレートをゆっくりと元に戻し、そっと動きながら車を運転して帰りました。

 その日は寝返りをどうやって打てば良いのかも分からないくらいの痛みでしたが、朝になり何とかゆっくり動き出し、朝に風呂に入って腰を温めると少し腰が楽になることを発見し、それからしばらくは起床時は腰が痛みで動かせないため朝に風呂に入る生活が何日か続きました。

 そして、1週間ほど経過したある日、右足の先がしびれて軽く感覚障害が出ているのに気付きました。そして、右母趾、右足関節を背屈しようとしたら、力が入らないことに気付きました。しかし、徐々に痛み自体は引いてきていたので様子を見ていました。また、動かさないことは良くないと思いジムには通うようにして、出来ない種目は軽重量にしてトレーニングをリハビリとして続けていました。

 そして、3週間ほど経過した日、まだ跛行が残る私に病院の事務員さんが検査したらとあまりにも心配されるので、腰椎のMRIを撮ってみました。すると、第4第5腰椎椎間板ヘルニアが右寄りにドンとあり、それを見た私の上司が「これは神経根の下に入り込んだヘルニアやから、手術せな治らんな」と言ってきました。

 しかし、ある程度の腰痛の知識があった私は、症状は徐々に軽快傾向にあったので気にせずに生活するようにしていました。何か変わったことをしていたかと言いますと、一つは有名なアンドルー・ワイル博士のCDを毎朝目覚まし代わりに流していました。どういうものかと言いますと、自然治癒力を高めるような自己暗示のCDです。

 もう一つは、今ならやらないと思いますが、その当時はあまり知られていなかったグルコサミンのサプリメントも摂るようにしてみていました。これは、今なら採用しない方法ですが。
記事画像1
 そして、3ヵ月後MRIを再撮影してみました。すると綺麗にヘルニアは消失していました。なかなか巨大なヘルニアだったので、自分としても意外でしたが。そして、麻痺の方も徐々に回復し、前脛骨筋のトレーニングも問題なく出来るようになりました。

 そうこうして治した後もヘルニアが消失したにも関わらず、その後も時々腰痛になることは時々ありました。そして、腰痛の本体はストレスが関連するということをやんわりと分かっていましたが、本態はよく分からない状態でした。そんなある日、TMSジャパン(http://www.tmsjapan.org/)の長谷川先生の本と出合いました。これは、面白い本だぞと、もう腰痛は治っていましたが、長谷川先生の講義を受けに行きました。実は、この長谷川先生と菊地臣一教授は繋がっておられることも知るようになりました。そして、心理社会的危険因子、ストレスと腰痛という意味が、すっと腑に落ちました。しかし、心理社会的因子と言われましても、自分がそれほどストレスに晒されている自覚もありませんでしたし、自分の考え方がそんなに悪いとも思いませんでした。きっと、皆さんそうなんだと思います。

 実際、外来診療で心理社会的なストレスみたいな話をすると「私にはストレスが無い」とか、「思い当たるけれどどうしようもない」といった話をよく返されます。

 そして、以前の号で話をさせて頂いたような、心理についての自分の考察に至るきっかけとなりました。現在はほとんど腰痛も起こさず、心理的に自分の感情のコントロールをしっかりやるように心がけています。それだけで再発もほとんど無くなりましたし、腰痛に対しての認識が全く変わりました。

 ということで、次回は腰痛に関する最近言われている内容を書いてみたいと思います。
記事画像2
小島 央(こじま・ひさし)
誕生日: 昭和45 年12 月28 日(38 歳)
住所: 京都市伏見区 職業: 整形外科医 趣味: 健康(筋トレ)、ボディビルディング
初出場の2007年ミスター京都でベストルーキー賞受賞
資格: 医師、日本体育協会認定スポーツドクター
現在、外来診療の他にセミナー活動、腰痛・膝関節痛のある高齢者に運動指導、(オリジナルマシーン製作計画中)、等をしている。
ホームページアドレス http://ironclinic.com
[ 月刊ボディビルディング 2010年1月号 ]

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