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卵黄に含まれ、水と油をくっつける「レシチン」の働き

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掲載日:2018.02.16
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レシチン ~フォスファチジルコリン~(Lecithin:Phosphatidylcholine)

レシチンは、卵黄を意味するギリシャ語のレキトースが語源です。
食品では卵黄に多く含まれていますが、動物の脳や骨髄、心臓、肺、肝臓といった主要器官、植物では大豆や酵母などに含まれています。

ヒトでは、体重のおよそ100分の1をレシチンが占めています。体重が70kgの人なら700g
のレシチンを持っている事になりますね。マヨネーズを手作りしたり、お菓子を作る方は、聞いた事のある名前ではないでしょうか。レシチンはチョコレートなどを作る時に、滑らかさを出す為に使う食品です。簡単に言うと“水と油をくっつける"働きがあります。ことわざにある"水と油"とは、性質が正反対で交わらない事を意味しますが、レシチンはこれらをうまくくっつけてくれるのです。ドレッシングには水の成分と油の成分があり、分離している事が多いです。でもマヨネーズはそれがきれいに混ざっています。その時使われているのが卵黄で、実際には卵黄に含まれるレシチンという成分が、きれいに混ざる役目をしています。

また、レシチンには界面活性作用という働きがあります。先程、"水と油をくっつける"と簡単に言いましたが、同じ働きは体内で脂質、脂肪酸コレステロール、ビタミンA、E、D、Kなどの脂溶性ビタミンを包み込み、ミセルという溶けやすい分子の形を作ります。その働きにより、脂は腸で吸収し易くなります。

しかし生化学で言う「レシチン」は、食品で言うレシチンとは少し違います。
厳密に言えば、フォスファチジルコリンという、とても長ったらしい名前の物質を指します。
また、その他の代表的なリン脂質の、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリンを含めての総称となります。名前が違うようにそれぞれのレシチン類はそれぞれに特有の生理活性機能があります。
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脳の神経伝達物質

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レシチンは神経伝達物質のアセチルコリンという物質の材料となるために、神経細胞に沢山存在しています。ですから、レシチンが沢山あると頭が良くなる、という事になりますね。

アセチルコリンという物質が不足すると記憶障害が起こり、アルツハイマー病などの脳疾患障害の原因になります。アルツハイマー病は、近年増加中の深刻な認知症です。アルツハイマー病患者の脳では、アセチルコリン濃度が非常に低下している事が分かっていて、レシチンを補給する事で脳神経細胞の働きが活性化する事が期待されています。(Hirsch M.J.&Wurtman R.J.(l978)Science.202(4364)223-225)

また、ビタミンB12を同時に摂取する事で、フォスファチジルコリンをアセチルコリンに変換する酵素の働きが活性化します(E.Otomo.(1998)Ageing and Diseases.11(5)90-95)。

大豆より卵黄の方がフォスファチジルコリンの量が2.5倍も多く、また卵黄レシチンのフォスファチジルコリンは大豆レシチンのフォスファチジルコリンより、脳内に移行しやすい可能性が示されています。

血中脂質を正常に保つ

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レシチンは、血液中で中性脂肪やコレステロールを運ぶ、リポタン白というタン白質の構成成分です。
レシチンが不足すると、リポタン白が正しく形成されず、LDLコレステロールが血管に沈着したり、中性脂肪が蓄積するなど、血中脂質に異常が見られるようになります。

ビタミンEを一緒に

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EPA同様、レシチンも不飽和脂肪酸です。グリセリンに飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、リン酸、コリンがくっついた形をしています。ですから体内で酸化されやすいため、ビタミンEとの同時摂取が望ましいでしょう。

肝臓の代謝機能を正常に保つ

肝臓は身体の色々な組織で使う中性脂肪を製造しています。その為、通常4~5%の脂肪
を含んでいます。レシチンには肝臓から余分な脂肪の排出を促進する働きがあります。その為、レシチンが不足すると脂肪肝になります。

細胞膜を守る

細胞膜の役割を簡単に言えば、

①物質の移動や情報の伝達を仲介する
②代謝や整合性に関与する
③異物を排除する
の3つでしょう。

細胞膜には必ずレシチンが含まれていて、その膜を通して身体に必要な物質を摂り入れ、不要な物質を排出しています。また、様々な情報をキャッチする受容体というアンテナがあり、この受容体が正確に働くためにもレシチンは欠かせない栄養素の1つです。細胞膜に異常が起こると、

・老化
・ホルモンバランスの乱れ
・虚血性疾患
・免疫疾患
・悪性腫痕(ガン)
・脳疾患
・神経疾患
・貧血
・皮膚の異常

などが起こります。
体内にある60兆個の細胞には細胞膜がそれぞれあります。細胞膜は、主にリン脂質という脂とタン白質で出来ています。リン脂質は親水性(水に馴染む部分)と疎水性(脂に馴染む部分)という、相反する特性を持っている複合脂質です。

この細胞膜の間をタン白質が動き回る事を“流動性"と言い、この流動性が高まる事でレシチンは細胞膜内の様々な代謝を調節しています。これにより、細胞はいつも元気にしていられるのです。

卵を食べるとコレステロールが上がるのか?

卵には沢山のコレステロールがあるから、卵を沢山食べると血中のコレステロール値が上がって、動脈硬化や心臓病を引き起こす、と信じている人はまだいるようです。


しかし、卵のリン脂質にはコレステロールを調整する働きがあるため、卵を食べても血中のコレステロール値は増加しません。(Kim J.M.et al.(2002)J of Nut Health & Aiging.6,320-323)

身体に悪影響を及ぼすのは、コレステロールそのものではなく、酸化したLDLコレステロールが血管壁に沈着する事です。
実は最近、血中コレステロール値が180~260mg/dlある人の方が寿命が長く、逆にコレス
テロール値が160mg/dl以下だと脳血管がもろくなり、脳障害を起こしやすくなる事が分かつてきました(K.Okumura et al. (1999)Jap Circ Journal.63,53-58)。女性は270くらいが一番長生きだという事も発見されています。
  • 星 真理(ほし まり)
    栄養整合栄養医学協会認定 分子栄養医学管理士
    栄養学の専門家として老若男女を問わず、一般人からトップアスリートにいたるまで、あらゆるニーズにも対応した栄養指導/栄養セミナーを個人、競技チーム、学校、企業を対象に行っている。
    著書「アスリートのための分子栄養学」(体育とスポーツ出版社)
    分子栄養学(正式名称:分子整合栄養医学)
    Ortho-Molecular Nutrition and Medicine
    ノーベル賞を2つ受賞した米国人生化学者ライナス・ポーリング博士(1901~1994年)が、栄養学と医学とを融合させて研究し、分子整合栄養医学として確立した栄養医学。

  • アスリートのための分子栄養学
    2014年3月31日初版1刷発行
    著者:星 真理
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社


[ アスリートのための分子栄養学 ]

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