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マイク宮本の2014 アーノルドクラシック観戦記

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[ 月刊ボディビルディング 2014年6月号 ]
掲載日:2017.09.11
Photo & Report by Mike Miyamoto

Photo & Report by Mike Miyamoto

 アーノルドクラシックは、ボディビル界ではミスターオリンピアに次ぐ権威のあるタイトルと言われています。歴代のミスターオリンピアであるロニー・コールマン、ジェイ・カトラー、デクスター・ジャクソンは皆アーノルドクラシックのタイトルを獲っていることから、ミスターオリンピアになる為の登竜門的な存在となっています。また仮にミスターオリンピアになれなくてもアーノルドのタイトルを獲ったリッチ・ギャスパリ、ショウン・レイ、フレックス・ウイラーは、現役引退後も、アーノルドクラシックチャンピオンのネームバリューを使い、リッチ・ギャスパリはアメリカを代表するサプリメント会社を経営したり、トークが上手なショウン・レイは大手ボディビルディング雑誌マスキュラーデベロップメントのレポーターになったり、また抜群のプロポーションを誇ったフレックス・ウイラーは、サプリメント会社の広告塔として活躍し、皆ボディビル界の臀堂入りをしています。

 今年のアーノルドクラシックは、2013年の覇者、アーノルドクラシック26年の歴史の中で最多優勝数4回を誇るデクスター・ジャクソンが不参戦ということで、絶対王者不在の中、コンディション次第で参加選手11人全員が優勝を狙える、非常に激しいバトルが繰り広げられました。

 選手11人がまずステージに上がり、簡単に紹介され、ゼッケン番号順にグループ審査を受けた後、トップ5を占う1stコールが場内緊張の中アナウンスされました。1stコールとは、ゼッケン番号順の審査をした後、トップ5(1位から5位、参加選手数や選手同士の差によりトップ6やトップ3に変わる場合があります)を決める為の比較審査となります。当然選手は皆この1stコールに呼ばれる為に、24時間365日すべてのエネルギーとありとあらゆる作戦を施してきます。

 その1stコールでまず呼ばれたのは、今回優勝候補筆頭のデニス・ウルフ。183cm、121kgの巨漢ながら細いウエストと限りなく横に広がる肩で美しい逆三角形の体を形成しています。デニスは2011年、2012年、2年連続で2位に甘んじており、今回のハードな仕上がりから優勝にかける意気込みが伝わってきます。続いては、デニスに続く優勝候補のショウン・ローデン。176cm、108kgとデニスに比べると一回り小さいですが、細い関節と丸みを帯びた筋肉は、ボディビル史上まれに見る美しい体を形成しています。特にダブルバイセップスは、ボディビル彫刻かと思わせます。昨年度の覇者デクスタージャクソンと似たタイプの体で細い関節や丸みを帯びた筋肉では似ていますが、プロポーションではショウンの方が良く、デニスと共にどちらが優勝してもおかしくない体です。またショウンは38歳ですが、顔にはしわ一つなく、透明感のある滑らかな薄い皮膚が筋肉を更によく見せています。

 3番手は、ミスターオリンピア史上最多優勝数8回を誇るリー・ヘイニーの再来と言われているセドリック・マクミラン。186cm、120kgのセドリックは、2009年のプロカード取得以来、リー・ヘイニーの再来と言われ続け、次期ミスターオリンピアとメディアに、はやし立てられて来ましたが、これまでこれといった結果は残してきていません。結果を残していないどころか、昨年の4月に行われたアーノルドクラシックブラジルでは、試合前の選手打ち合わせミィーティングに出席せず、アメリカからわざわざブラジルまで行って、試合の出場資格を失うという失態を演じています。このようにファンとメディアの期待を常に裏切ってきたセドリックですが、遂に眠れる獅子もついに本気を出してきたのか、今回のコンディションは過去最高に良い仕上がりでステージに上がってきました。

 4番手は、アーノルドクラシック2007年度優勝の176cm、108kgのビクター・マルチネス。ビクターは、2007年アーノルドクラシックに優勝し、その年のオリンピアでは物議をかもす準優勝になりました。今でも王者ジェイ・カトラーを破り優勝しても良かったと一部エキスパート達は2007年のミスターオリンピアのビクターについて振り返ります。アーノルドクラシックのタイトルを獲り、ミスターオリンピアまで後一歩の地位まで上り詰めた後、ビクターの人生は様々な難関が待っていました。翌年の2008年に膝を壊し、膝にメスを入れる手術をし、1年間、脚のトレーニングから遠ざかることになりました。膝がどうにか回復し、ようやくトレーニングが出来る状態になったばかりの2009年に、ニューヨークの高層ビルで働いていた最愛の妹が誘拐され殺されるという不幸に見舞われました。もちろん今回のビクターは、2007年全盛期のビクターではありませんでしたが、様々な障害を乗り越えて、ステージに立つ不屈の魂のビクター・マルチネス40歳の生き様が見えてくる体を披露し、見事1stコールに呼ばれました。

 最後の1stコールに呼ばれたのは、180cm、117kg、31歳の若きホープのエバン・セントパニでした。エバンは、2009年のプロデビューのニューヨークプロを優勝で飾り、大きな骨格と密度の高い筋肉からセドリックと同様に将来のミスターオリンピアと囁かれれています。

 トップ5を占う、1stコールはデニス、ショウン、セドリック、ビクター、エバンとなりました。鍛えられた美しい体は、時代に関係なく美しいですが、ボディビルの審査は時代の流れ、人々の価値観から常に変わっています。ここ最近は、ウエストが細く、肩幅が広い、いわゆるきれいな体のラインを形成しているボディビルダーの方が、上位を付ける傾向にあります。90年台は、逆にサイズ重視で多少ウエストが太くても圧倒的なサイズを誇るドリアン・イエーツが、プロポーションや全体的な美しさでは上回るショウン・レイやフレックス・ウイラーを負かしていました。90年代のサイズ重視の審査でボディビル界がモンスター化していくことに危惧を抱いてた人達にとっては、喜ばしい傾向と言えるでしょう。ただプロポーション重視の審査になると、遺伝子的に恵まれた人が、生まれた瞬間に有利に働き、多少骨格が崩れていても極限までのコンディショニングを死ぬ気で作り上げてきた、努力家のビルダーが報われなくなる傾向があると唱える人もいます。ボディビルの審査基準は、いつの時代も議論が止まらないから、ボディビルはいつの時代も面白いのかもしれませんね。
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ローデン(左)とウルフ。タイプこそ違えど、甲乙つけ難い二人

ローデン(左)とウルフ。タイプこそ違えど、甲乙つけ難い二人

左よりマルチネス、マクミラン、セントパニ

左よりマルチネス、マクミラン、セントパニ

 今回の審査基準で一番得をしたのは、遺伝子的に一番恵まれた骨格を形成しているセドリック・マクミランでしょう。一方、2011年、2012年アーノルドクラシックチャンピオンのブランチ・ワレンは、剃り上げた頭のてっぺんまで、血管が見えるコンディショニングを作り上げてきましたが背が低くウエストが太く、タイプ的にはブロッキーな四角い体の為、1stコールでは呼ばれませんでした。同じく1stコールに呼ばれなかった、2013年アーノルドクラシック準優勝のベン・パクルスキーも体形的には、今の審査では損をするタイプでしょう。ベンは、32歳にして177cm、121kgの体を作り上げ、脚に関しては全選手の中でも一番発達しています。ただその素晴らしい脚の発達に、上体が追いついていなく、ウエストも細いタイプでない為、全体的なプロポーションという観点では、評価が下がり、今回の審査基準では昨年準優勝という実績でも1stコールには呼ばれませんでした。

 2ndコールは、1stコールに呼ばれず信じられないという表情をしていた過去2度アーノルドクラシックチャンピオンに輝いたブランチ・ワレンと、何で俺が1stコールに呼ばれないんだと怒り心頭で審査員を睨みつけるようにポーズを取っていた昨年度2位のベン・パクルスキーを中心に審査が進められました。

 2ndコールの中には、昨年3位をつけた47歳の大ベテランのトニー・フリーマンもいました。189cm、125kgの体で「Xマン」と言われるトニーは本当に、アルファベットの「X」のような体をしています。ウエストが細く、背中は翼のように広がり、脚も程よいサイズとカットがある体をしていて、トニーだけの体をステージで見ている限りとても47歳には見えず、まだまだ現役で行けるような気がします。ただ32歳のベン・パクルスキーや31歳のブランドン・カリーの横に並ぶと、筋肉の張りや皮膚の艶から47歳の年齢を感じてしまいます。ただ47歳にしてトッププロとしてアーノルドクラシックに出場し、自分の子供と同じ世代と戦っている事自体、評価できるでしょう。トニーは、よく記者会見で年齢の事を聞かれますが、一度も自分の年齢に関して、言い訳がましいことを言った事がありません。アメリカでは、職場や面接で年齢を聞いて、年齢によるステレオタイプな判断をする事は法律的に禁止されています。トニーはよく「プロはプロ」と年齢に関して聞いてくるメディアに軽蔑したような目つきで答えます。トニーの中では、25歳のルーキープロだろうが、47 歳のベテランプロだろうが、「プロはプロ」年齢で判断するなという考えがあるのでしょう。そのように年齢は、ただ単に数字に過ぎないという考えがあるからこそ、47歳というプロのボディビルの世界では高齢ながら自分の子供の世代のトッププロと互角に戦えているのでしょう。

 また47歳のトニーと同じ2ndグループの中には、昨年第1回アーノルドクラシックブラジルで優勝に輝いた31歳、173cm、105kgのブランドン・カリーがいました。ブランドンの体は、絞れていなくても、一つ一つの筋肉部位がまん丸な為、筋肉の盛り上がりでよく見えます。アーノルドブラジルでは、それでも優勝できましたが、ベストのベストが集まる本家本元のアメリカのアーノルドクラシックでは、厳しいダイエットをし更に血管が浮き上がったハードな皮膚感もないと1stコールでは呼ばれません。

 2ndコールのグループには、トニー・フリーマンと非常に似た186cm、114kg、42歳のエド・ナンがいました。審査もトニーと比較される場面がありましたが、トニーの方が、ポージング、サイズ、コンディショニング、身長すべての点で上回っており、姿形が似ている為、結果的にトニーをよりよく見せるための引き立て役のような役割を果たす事になりました。

 2 0 1 3 年のアーノルドクラシックで100万円(1ドル100円と換算した場合)のベストポーザー賞を受賞したフレッド・スモールズは、2ndグループでも下位の審査でしたが、ファイナルのフリーポージングではロボットの動きとクラシックなボディビルのポーズを上手く組み合わせたフリーポージングを披露し、観客からスタンディングオーベーションの拍手喝采を受けていました。
優勝 デニス・ウルフ(ドイツ)

優勝 デニス・ウルフ(ドイツ)

 アーノルドクラシックは、26年間コロンバスの象徴的な建物であるベテランメモリアルオーディトリアム(退役軍人記念会館)にて行われてきました。44年前、アーノルド・シュワルツネッガーがまだ20歳だった1970年、当時無敵を誇ったミスターオリンピアのセルジオ・オリバをこのコロンバスの退役軍人記念会館のステージで破り、それ以来無敵のアーノルド神話を作り上げました。そのボディビル界にとって非常にゆかりの深い建物とステージが、老朽化により立て壊すことになりました。ですので今年がかつてアーノルドも立ったことがある同じステージで、アーノルドからトロフィーをもらえる最後のチャンスとなりました。その最後のチャンスを物にしたのは、抜群のプロポーションのショウンを圧倒的な筋量とハードなコンディショニングで上回ったデニス・ウルフでした。

 デニス・ウルフは今現在はアメリカ、ラスベガス在住ですが、ドイツ出身ですので、アーノルドクラシック26年間の中、初のドイツ人がチャンピオンとなりました。アーノルド・シュワルツネッガーは、ドイツのお隣の国オーストリア出身なので、トロフィーを渡す時、ドイツ語で話しかける場面が見られました。2011年、2012年過去2回の挑戦で2位に甘んじていたデニスは3度目の正直で遂にボディビル界で2番目に権威のあるタイトルを手にしました。3回の挑戦で、優勝できたというといとも簡単に聞こえますが、デニスは2005年にプロカードを取得して以来必ずしも順風満帆なプロ生活を送ってきたわけではありません。183cmの長身、121kgの巨漢ながら細いウエストも維持し、青い瞳と金髪のコマーシャル的にも非常に絵になるデニスはデビュー当時から注目の的でしたが、彼のプロ生活は浮き沈みが大きく、2009年にはオリンピアで上位15位にも入れず、大方のメディアはデニスは全くの期待はずれでもうだめだと報じていました。

 8回オリンピアに輝いたロニー・コールマンがグル(教祖)と言われるチャド・ニコルをコーチとして雇ったり、4回オリンピアに輝いたジェイ・カトラーは、ダイエットに関してのエキスパートであるクリス・アセートを採用したりと、アメリカでは通常プロでもトレーニングやダイエットはその道のエキスパートに教えをこうのが一般的です。ただデニス・ウルフは、名前のとおり一匹狼(ウルフ)なのか、すべて自分で行ってきました。そのためか、仕上がりに波があり、良い時もあれば、悪い時もありましたが、遂に自分に一番見合う調整法を己の力で見出してきたようです。このように、一匹狼のデニスですが、優勝後の記者会見では、ボディビルはチームスポーツと話し、特に10年前のプロカード取得の時から、常にそばにいてくれた金髪のきれいな奥さんに感謝を示していました。今回の賞金1300万円を使い、今まで苦楽を共にして来た奥さんをこの10年間で初めてバケーションに連れて行けると喜んでいました。

 2位は、抜群のプロポーションと非常に美しい体のラインを形成していたショウン・ローデンとなりました。今回の審査基準は、ウエストが細くラインがきれいなショウンに非常に有利に働いていましたが、ボディビルは、あくまでも筋肉コンテスト。圧倒的な筋量とハードさを誇るデニス・ウルフに伏すことになりました。王者デニス・ウルフは、狼のように闘志むき出しのポーズをとりますが、2位のショウンはポーズを取る時はまるでボディビル彫刻のように静かに止まり全く正反対のタイプの1位と2位の争いは、非常に盛り上がりを見せてくれました。

 ショウンは、長くトッププロに君臨しているようなイメージがありますが、2010年のダラスプロがプロデビュー戦で、その時は最下位の16位でした。最下位のプロデビューの2年後の2012年は同じダラスプロに出場し優勝するだけでなく、その後更にアーノルドヨーロッパでも優勝しています。38歳と決して若い年齢ではないですが、ここ2、3年で一番プロボディビル界で成長してきた選手といえるでしょう。今年の1月からロサンゼルスのゴールドジムベニスで、ボディビル界のゴッドファーザーの異名をとる伝説のトレーナー、チャールズ・グラスの指導を受けてから、弱点ポイントとして指摘されていた、バックダブルバイセップス時の背中の立体感や厚みが大分改善されました。スタイル、プロポーションはすでにボディビル界でも指折りの物を持っており、また大臀筋の切れ、脚のサイズ及び形は申し分ないので、上半身を胸の上部と肩を中心に筋量を付けてきたら、今年の9月20日に行われるオリンピアでは、デニスだけでなく、オリンピア上位群にとっても非常に怖い存在となるでしょう。

 ショウンは、昨年まで元ミスターオリンピアのロニー・コールマンが経営しているサプリメント会社と契約していましたが、今年からVPXに移籍しています。ショウンの非常に美しい体は、3年契約である情報筋によると1億円に乗ったと噂されています。1億円は、眉唾物ですが、このような噂は火のない所からは出てこないので、それなりのお金が動いたのは間違いないでしょう。ちなみに今回2位の賞金は、1億円と比べると少ないですが、750万円でした。

 3位は、眠れる獅子のセドリック・マクミランが遂に目を覚まし浮上してきました。アメリカ人は幼少から様々なスポーツを経験し、それと同時にスポーツや社会で最低限必要な競争心も育てられます。セドリックは、よく競争心が欠けていると指摘される時があります。それに対して彼は幼少の時スポーツをやってこなかったから、今でも他の選手に比べると競争心は少ないと認めています。

 今回もサウスカロライナの自宅から、戦地コロンバスに食べ物を何も持って来ていませんでした。ボディビルダーにとって食事は、トレーニングよりも大切で、特に最後の2、3日は非常に大切となってきます。恐らく、アマチュアを含む全ボディビルダーの中で食べ物を何も持ってきていない選手は、セドリックくらいでしょう。まあ競争心がないというか、脅威的な遺伝子を持ち備えているというか、セドリックが本気を出してすべてに取り組んできたら今年のオリンピアになれるくらいの潜在能力があるのは間違いないでしょう。ただ今回の3位の賞金500万円の小切手を握りながら、「今ツリーハウス(大きな木の上に建てる小屋)を作っていて、この賞金を使って立派なツリーハウスが作れる」と目を輝かせながら話していました。セドリック・マクミラン36歳、今年のオリンピアは、どうなるのかファンは今から期待と共に、不安を抱きながら過ごすことになるでしょう。
2位 ショウン・ローデン(アメリカ)

2位 ショウン・ローデン(アメリカ)

3位 セドリック・マクミラン(アメリカ)

3位 セドリック・マクミラン(アメリカ)

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左よりウルフ、カリー、ワレン、マルチネス

左よりウルフ、カリー、ワレン、マルチネス

左よりローデン、マクミラン、スモールズ、ナン

左よりローデン、マクミラン、スモールズ、ナン

左よりフリーマン、パクルスキー、セントパニ

左よりフリーマン、パクルスキー、セントパニ

 4位は、2007年度のアーノルドクラシックチャンピオン、波乱万丈のビクター・マルチネス40歳となりました。2008年の膝にメスをいれる手術、2009年の最愛の妹の誘拐殺人とそうそうたるボディビル人生と私生活がビクターを襲いましたが、その後2011年第1回アーノルドクラシックヨーロッパで見事優勝し、すべてがまた上手く回りだしたように思われた矢先、ヨーロッパからアメリカに凱旋帰国した際、アメリカ永住権が期限切れで、移民局に捕まり、過去犯罪暦があったビクターは、不法滞在としてその後7ヶ月間刑務所に入る事になります。プロのボディビルダーとして一日8000カロリーの高タンパク質の食事から、一日800カロリーのほとんどタンパク質を含まない食事を7ヶ月間強いられました。7ヶ月の塀の中の生活の後、不屈の魂のビクターは、どうにか失った筋肉を戻し、以前のようにゲストポージングの依頼も来るようになり、2012年メキシコのゲストポージングの際ファンサービスの一環で腕相撲をしている時、自慢の腕を折ってしまいます。まあ小うるさいプロなら腕相撲とかは怪我する可能性があるから、絶対やらないでしょうが、陽気なカリブ海のドミニカ共和国出身のビクターは、細かい事は気にしなかったのでしょう。2012年は1kgのダンベルを握るのですら困難なリハビリ状態から2013年はオリンピア出場を果たし、2014年の3月1日にアーノルドクラシック4位に付けたのは、どんな困難な目に遭っても、常に前に進んでいくビクターの強さを見ました。4位のビクターには、賞金300万円が渡されました。食べ盛りの5人の子供がいるビクターにとっては、300万円は助かるでしょう。

 5位は、31歳の若きホープのエバン・セントパニとなりました。エバンは、2007年24歳の若さでナショナルズで優勝し、その後、2009年のプロデビューのニューヨークプロを優勝で飾り、2011年のロサンゼルスプロと2013年のフロリダのタンパプロも優勝しています。身長180cm、117kgとフレームが大きいので将来のミスターオリンピアの筆頭候補と言われています。今回優勝したデニス・ウルフと似たような体のタイプですが、前面から見たときの脚のセパレーションやサイズが見劣りし、上半身もまだデニスほどの筋量は兼ね備えていないので5位に落ち着いています。東海岸のコネチカットの郊外で育ったエバンは、古き良きアメリカの良心を兼ね備えており「メイド イン アメリカ」のニックネームがあり、礼儀正しく、品行方正なエバンは今後のボディビル界を担っていく人物となるでしょう。賞金150万円が渡されました。

 6位は、2011年、2012年過去2回チャンピオンに輝いているブランチ・ワレンとなりました。2 年前優勝した時は、1300万円の賞金をもらえましたが、今回は13分の1の100万円まで下がってしまいました。ブランチは、迫力のあるマスキュラーな体つきという点では、胸を中心に全身に血管が走り、王者デニスにも勝っていたかもしれません。ただ今回上位5人とは、ほとんど審査されず、6位の順位となっています。ボディビルは、ステージに上がるまでは、自分との戦いですが、ステージでは相手との戦いとなります。ブランチは169cmの体に110kgの筋肉を可能な限りつけ、迫力はありますが、美しさは欠けています。今回1位のデニスは183cm、3位のセドリックは186cm、5位のエバンは180cmと3人が180cm以上あり、2位のショウンと4位のビクターは共に176cmですが、二人とも体のラインがきれいなので180cm級の選手と比べられても見劣りしません。上位5人と比べるとブランチの体は、劣るというより全く違う体形のため、適正な比較審査が出きずに6位になってしまったとも思われます。今年のアーノルドクラシックから212(95.4kg級)の部門が創設され、身長170cm以下の選手はほとんど212クラスに移り、ブランチと同じ背丈が上位にいないので、ブランチの迫力のあるマスキュラーな体より、背の低い四角いブロッキーな体の方が先に目に付いていました。昨年オリンピアで7位の好成績を残したローリー・ウインクラーも本来、今回のアーノルドに出るはずでしたが、オートバイの事故により出場出来ませんでした。ウインクラーは、169cmとブランチと同じ背丈ですので、もしローリーが出場していたら、審査員の視線もブランチまで降りてきて、結果も変わっていた可能性も考えられるでしょう。

 7位は、昨年度準優勝のベン・パクルスキーとなりました。脚に関しては、全選手の中でも一番でしたが、脚がよく見えれば見えるほど上半身の弱さが見につき、絞りもそれなりのコンディションな為、ファイナルのトップ6には進めず、賞金というより参加賞の20万円だけを受け取り帰る事になりました。ちなみに7位から11位までの賞金は、皆同じ20万円となるので、7位のベンが一番損をしたことになります。ベンはカナダのウエスタンオンタリオ大学の運動生理学を優秀学生で卒業しており、プロのボディビルダーとしてゲストポーザーとして世界中を飛び回るのと同時に、ウェイトトレーニングやダイエットのセミナーとしの講師としても人気があるので、賞金はそこまで気にしてないかもしれませんが。

 8位は、昨年第1回アーノルドクラシックブラジルで優勝したブランドン・カリーとなりました。7位のベンとは逆で彼は、上体の厚みがずば抜けているので、下半身の弱さが目立ち、8位となりました。ボディビル界ではまだまだこれからの31歳なので、脚が上半身に追いつき、もう少し高い筋密度のある体を作り上げてきたら、今後楽しみな選手となるでしょう。

 9位は大ベテラン47歳「Xマン」のトニー・フリーマンとなりました。昨年の3位から9位まで順位を落とし、周りから遂にトニーも引退かとささやかれていましたが、当の本人は、全くお構いなしで試合後「今シーズンは、プロコンテストが全部で22あるから、8つか9つコンテストに出る予定です」と楽しそうに話していました。今年の8月で48歳になるトニーは誰よりも元気で、ボディビルを楽しんでいるようでした。

 10位は、トニー・フリーマンを大文字の「Xマン」だとすると、小文字の「xマン」エド・ナンとなりました。

 11位は、最下位ながらフリーポージングでは、一番盛り上がりを見せたフレッド・スモールとなりました。アーノルドクラシックは、プロなら誰でも参加できるというわけではなく主催者から招待された選手しか参加できません。それに対してオリンピアは、前年度のオリンピアで5位に入るか、他のプロのコンテストで優勝するか、どちらも該当しない選手は、試合に出続け、上位を付けてがんばって点数を稼ぐというように、出場資格制となっています。アーノルドの招待制の難しい所は、中堅のプロの選手は、がんばってもなかなかお呼びがかからない点があります。ただフレッドのように、鍛え上げた体を上手く使い、ロボットのような動きとクラシックなボディービルのポーズを上手く組み込ませ、観客を喜ばせる事が出来る選手は、中堅どころでも是非来てくださいと主催者から招待される事になります。フレッドは順位は、最下位でしたが、お金を払って見に来てくれた観客を十分楽しませ、プロのボディビルダーとしてはきちんと役目を果たしたといえるでしょう。
4位 ビクター・マルチネス(ドミニカ)

4位 ビクター・マルチネス(ドミニカ)

5位 エバン・セントパニ(アメリカ)

5位 エバン・セントパニ(アメリカ)

6位 ブランチ・ワレン(アメリカ)

6位 ブランチ・ワレン(アメリカ)

7位 ベン・パクルスキー(カナダ)

7位 ベン・パクルスキー(カナダ)

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アーノルドにトロフィーを手渡され、歓喜の雄叫びを挙げるデニス・ウルフ

アーノルドにトロフィーを手渡され、歓喜の雄叫びを挙げるデニス・ウルフ

 26年間アーノルドクラシックの象徴として使われたコロンバスの退役軍人会館の老朽化による取り壊しの為、伝統のあるこの建物で行われた最後の大会となった今年は、招待選手11人全員が、皆それぞれの持ち味をだし、最後を飾るのに相応しい素晴らしい大会となりました。新たな会場で行われる第27回大会の来年は、どんな素晴らしい大会になるのか今から楽しみです。
[ 月刊ボディビルディング 2014年6月号 ]

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