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[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]
掲載日:2017.10.03

パワーリフターを目指したい

Q
 私は高校時代は柔道部に入っていましたが,卒業後すぐに就職しましたので何かと忙しく,3カ月間ほどまったく運動から遠ざかってしまいました。
 仕事のほうもようやく馴れたので近くのボディビル・センターに入会し約1年半になります。柔道は2段でしたが,もともと体格には恵まれていたので,この1年半でだいぶ筋肉もつき筋力も強くなりました。
 最近になってパワーリフティングに興味をもち始め,数年後には競技会に出場してみようかとも考えています。だが,専門の選手となる気持は薄く,練習の励みと楽しみのためにという軽い気持ですが,できることなら好記録を出したいと願っています。
 現在,年齢19歳,体重79kg,ベンチ・プレスの最高記録105kg,スクワット150kg,デッド・リフト170kgです。練習は1週間に2~3日,1日約45セットですが,やはりパワーリフティングの種目と重量に挑戦するのが好きであまり数多くの種目は行いません。とくに腹筋運動などは苦手で,ゼイ肉もいくらかついています。
 数年後にパワーリフティング競技会を目指すにはどのような練習計画をたてたらよいのか,長期的計画について教えてください。 (西宮市・神部)
A
 全日本パワーリフティング選手権大会も今年で8回目を迎えますが,年々参加者数と記録が向上し,5〜6年後にはボディコンテストを凌ぐとも思われます。
 とくに地方大会などでは,むしろコンテストよりも親しまれており,盛大に行われているところが多くなってきました。これは大会の規模が大きいという意味ではなく,特定のコンテスト・ビルダーだけでなく,一般の練習者が気軽に参加しているという意味においてです。
 たしかにボディコンテストと異なりどんな体重,どんな実力,どんな体格の人でも割合に簡単な気持で参加でき結果をあまり気にせず楽しく競技できる魅力がパワーリフティングにはあります。これがパワーリフティングを伸展させている最も大きな要因ではないかと考えます。
 日本でのパワーリフティングは,8年前に全日本ボディビルダー記録挑戦会として,むしろコンテストで陽の当らない人たちを救済する目的を強くもって発足したのでしたが,その当時とは隔絶の感があります。
 パワーリフティングと姉妹スポーツの重量挙げは,選手以外の一般練習者は極めて少ないのですが,パワーリフティングはその逆で,むしろ選手は少なく,一般練習者が競技会に参加しているのをみても,今後のこのスポーツの発展が推察されます。
 さて,あなたのご質問に対する解答ですが,いますぐに選手を目指すというのではなく,数年先に気軽に参加しできることなら好記録を出したいと願う人は他にも多くいると思われますので,あなたのみに限定せず,一般論を多く取り入れてお答えしますのでご了承ください。
⑴ ただ競技会に参加して楽しむだけなら,ごく一般的なボディビル練習をしていれば十分です。大会の1カ月ほど前から3種目を中心にしたトレーニングに切り替えれば,ある程度の結果が期待できます。
⑵ より以上の成績を望むなら,それにふさわしい努力が必要とされることはいうまでもありません。具体的には,○イロー・レピティション練習○ロ下半身,下背筋,腕,肩を中心にしたパワー・アップ。○ハ前記○ロに必要とされる筋肉づくり。○ニ記録に挑戦する強い意志力などです。
⑶ 専門の選手となるか否かは別として,競技会を目指して練習し,好記録を望むのでしたら,いままでの楽しいトレーニングを180度転換して苦しいものになる覚悟が必要とされます。
 何事も趣味として接しているときには楽しいものですが,ひとたび他人に勝とうとしたときから,それが苦痛を伴なうものになるのです。ちょうど歴史書,文学書,その他の書物を趣味として読んでいる間は楽しいが,それが教科書となったときには,とたんに灰色になるのと同様の理屈です。
⑷ 前記⑶を覚悟のうえで好記録を望む人だけが,⑸以下をお読みください。それ以外の人には不要です。
⑸ まず,年齢と最高記録との関係を知らなければなりません。とくに,あなたのように19歳で経験1年半という人にとって最も大切なことは,すぐに記録を目指さないということです。人間の極限に近い筋力は,19歳や20歳ででるものではありません少なくとも23~25歳を過ぎてから極限の力が発揮されるものです。
 それと同時に,その最大筋力はわりと長年月,保持・増進されるものです。このことは,重量挙げの有名選手の年齢と記録を詳細に調べると納得できるはずです。これが水泳などの競技と根本的に異なるところです。
⑹ このような競技においては,そのピークより以前にあまり専門的に練習し,記録のみを追求すると大成しないという一般的傾向があります。これは決してピーク以前に専門的トレーニングをするなという意味ではありませんが,自然の流れにあまり逆らわないということです。
 日本の陸上競技,重量挙げなどが高校生,大学生など若年者の記録が世界的にみても高いレベルにあるのに,一般成人の記録がそれほどでないことをみても,一面の真理がそこに隠されていると信じる者です。
 しかし最近では,練習技術,指導技術の進歩などに伴ない,すべての競技が若年化傾向に向っていることは否めない事実です。
⑺ パワーリフティングを目指すあなたが,長期的にこの競技を続けたいと考えるなら,あまり先走りしないことをお勧めします。つまり,あなた自身がおっしゃるように長期的計画をたてることです。
⑻ その長期的計画の第一歩は,必要とされる筋肉づくりです。目先の記録のみを追求しすぎると,すぐに行き詰まります。とくにあなたのような重量級では,国際的にみて他種競技と同様に,軽量級に比べて振わないのが実情ですから,国内的な記録に照準を合わせて,いたずらに記録に追っかけ廻されないことです。
 パワーリフティングが,筋肉の造形美を競うボディコンテストと根本的に異なるといっても,それに必要とされる筋肉づくりを怠ってよいということではありません。
 パワーを増強するといっても,その土台となる筋肉がなければ絶対にその望みは達成できません。しかしこの場合には,ディフィニションがどうだとか,カットがどうだとかは必要とされません。むしろ,格好は悪くとも,太く量のある筋肉が絶対に必要とされます。
 これを怠たり,記録のみを追求すると,始めの短期間は記録が向上しても大成は望み薄です。
⑼ つぎの段階は全体的なパワー・アップです。挙上技術の習得に血道をあげてはいけません。元来,パワーリフティングは重量挙げなどと異なり,技術的要素が少なく,本来のパワーが決め手となる競技です。
 技術はどんなに完壁に完成されたところで,それ自体として効果を発揮するものではありません。技術とは,体力,あるいは持てる力(これは筋力という狭い意味のみではありません)を最大限に発揮する手段に過ぎません。
 かりに100単位の力を持つ者が完壁な技術を習得したとしても,出力は100単位が限界です。いかに技術でカバーしても150単位の出力にはなりません。もし,200単位の力を持つ者が,技術的には80%のものしか習得していなくても出力は160単位となります。
 したがってこの期間は,軽自動車より普通自動車,普通自動車よりはダンプカーのパワーを蓄積するのが肝要です。
⑽ つぎの段階は,蓄積されたパワーをいかに出しつくすかという方法論的問題となります。これには2つの出力方法が必要とされます。1つは運動技術であり,もう1つはこれを導きだす練習技術です。
⑾ その練習技術,練習方法としては極限の最大筋力を競い合うパワーリフティング競技なのだから,ハイ・レピティションではなく,当然ながらロー・レピティションにすることです。さらに,あまり必要とされない練習は割愛し,必要とされるものを優先することです。そうかといって,毎日,毎日最大重量に挑戦するのは疲労と故障を起こし易く,存外効果が薄く,途中で生折するものです。
 いくらパワーリフティングの専門練習とはいっても,競技の場と同じように各種目とも1回挙上方式ではあまり効果がありません。5~6回44~5回,2~3回,1回などの方法を巧みに組み合わせる必要があります。この練習方法だけを抜きだしても,よほどの誌面を使わなければ説明できませんが,ここでは割愛し長期的計画に焦点を合わせます。
⑿ つぎには最終的な運動技術ですがこれは単に技術と考えてよいものです。例えば,スピードをもって挙上するとか,挙上動作中にとくにどの部分に注意するとかの類ですが,これこそ詳細に解説したら1冊の本になります。この質疑応答には副わないと考えますので,別の機会にゆずることにします。
⒀ 競技会に臨む意志力などによっても記録は極端に変わります。とくに最高を極めている選手は,自己催眠などによる潜在能力開発を知らず知らずのうちに実践していますが,これらのことも前記同様にここでは割愛します。

経験8力月で伸び悩み

Q
 私はボディビル経験8カ月の24才のサラリーマンです。開始時から3カ月ぐらいまでは自分でも驚くほど発達をしましたが最近は少し伸び悩んでいます。現在の体位は,身長172cm,体重69kg,胸囲106cm,大腿囲58cm,上腕囲35cmです。
 本誌の記事を読むと,発達が行き詰ったときには集中練習をすると効果的と書かれていたので,私も採用しようかと思いますが如何がなものでしようか? 具体的な方法,注意などを教えてください。
 練習回数は現在のところ1週間に4日,1日に約40セットを1時間で終わらせています。 (広島市・木田)
A
 お手紙に練習開始前の体位が書いてあれば,もう少し詳しくあなたの練習効果を把握できるのですが,現在の体位でみる限りでは経験8カ月としてはなかなかの発達だと推察されます。
 最初の3カ月間はあなた自身が驚くほどの発達をし,最近では少し伸び悩みとのことですが,これは伸び悩みというものではありません。誰でも開始後3~4カ月は,面白くてたまらないほど各部の筋肉が発達し,体調がよくなるものです。とくに,他種スポーツをほとんど行なっていなかった人ほどこの発達の度合いが大きいものです。
 これは,いままで身体各部にあまり運動刺激が与えられていなかったところに,バーベル運動などにより大きな筋肉刺激が与えられたために,急速に筋肉が肥大したものです。しかしこれも,筋肉がウェイト・トレーニングに慣れるにしたがって,順次発達のスピードが低下してきます。通常では開始後2~6カ月後にはゆるやかな上昇曲線に変わります。
 これ以後は発達し難いというのではなく,最初の数カ月間の発達があまりにも急激すぎるとみるべきです。あなたがちょうどその時期に入ったのです。
したがって,決して伸び悩みとか,行き詰まりというものではありません。
 もし,ボディビル開始当初のようなスピードで筋肉がどんどん発達したなら,誰でも2~3年後には体重が30~50kg程度も増加して,人間ばなれのした体になってしまいます。
 ボディビルは体力増進,筋力および筋肉増強の特効薬的方法ですが,夜店で売っている〝ガマの油〟の能書きほどの驚異的効果は保証いたしかねます
 本誌をはじめ外国のボディビル雑誌などには,たしかにあなたのいわれるように,発達が行き詰まったときは集中練習が効果的と記されていますが,この場合の発達の行き詰まり状態とは現在のあなたのような状態をいっているのではありません。もっと長期間トレーニングを積み重ねた結果のものです。ここではっきりいえることは,現在のあなたにとって集中練習はまず不必要ということです。
 経験8カ月で1週に4日,1日40セットの練習量は決して少ないものではなく,今後,選手としてのコンテストビルダーを目指すと仮定しても十分な練習量です。
 また,はじめの頃から強い練習をしていると,その期間の発達スピードは早まるが,その反面,比較的短い期間に発達のスピードが鈍化する傾向もあります。
 ではここで,集中練習法について少し説明しましよう。
 いままでに述べたように,各部筋肉がウェイト・トレーニングの刺激に慣れてきて,発達が停滞した場合に,より以上の発達を望むなら,刺激の量と質を増加させる以外に方法はありません。しかし,全身について練習量と強度を増加したのでは,体力的に無理が生じ,オーバー・ワークになってしまいます。そこで,特定の身体部分に狙いを定めてそれを行なおうとするのが集中練習です。
 この場合,その狙いとする部分に費やす練習量によって差異が生じますが通常は集中している筋肉部分以外の発達は考えずに,現状維持かそれ以下で満足すべきです。ここもやりたい,あそこも発達させたいでは,結局全身的トレーニング法と同じになります。かといって,集中部分以外の練習量を落とさないで,特定の部分に集中したのでは,全体的な練習量から考えてオーバー・ワークになります。
 この集中練習法については,後日詳しく解説する予定です。それまでは,特定の筋肉に強い刺激を与える集中練習法は,経験者でも2~3カ月を限度とし,中級者では1~2カ月間を区切って試みるべきだということを知っておいてください。

酒とタバコはやめるべきか

Q
 私は4カ月前からボディビルを始めました。1週間に2~3日,1日に約50分の練習をしています。年令は27歳です。
 トレーニング開始前は,全体的に肉付きは悪いのに,腹部だけは少しゼイ肉がついていて格好の悪い体でした。ところが最近では練習の効果が現われたのか,腹部が少し締まり,胸や腕などに筋肉が多少盛りあがってきて,トレーニングの面白さを感じはじめてきました。
 最近になって,同じジムで練習している先輩にアドバイスを受ける機会をもち,いろいろ参考になりましたが,それによると,酒とタバコはやめた方がよいとのことでした。
 私はあいにくかなり酒も飲みますしタバコも1日に30本ぐらい喫います。いままでに何回かやめようとしたことはありますが,なかなかやめられず,いつも三日坊主に終わってしまいました。どうしてもこれをやめないと発達しにくいものでしょうか? (保谷市・田沢信一郎)
A
 いままでに酒とタバコに関する質問はずいぶんたくさんありました。指導員によってそれぞれ答えがだいぶ異なると思いますが,筆者はいつも次のように答えることにしています。「タバコは喫わない方がよい。酒は適量であれば気にすることなし」と。
 これについて,もう少し補足説明しましょう。
〝酒は飲むべし百薬の長。酒は飲まぬべし百毒の長〟と古来よりいわれています。適量に飲んでいる限り,マイナス要素は極めて少なく,むしろ健康面,精神面にプラスになると信じる1人です。しかし,適量の範囲を越えた飲酒は,単に肉体的なものばかりでなく,生活と心を荒廃に導きます。
 要は,飲む人の心がけひとつで,毒にも薬にもなるということです。
 ただ気をつけるべきことは,習慣的に飲酒を繰り返すと,知らず知らずのうちに酒量が増え,自分ではさほど多いと感じないうちに,体に対する適量の線を越えることです。これさえ踏みはずさなければ,それほど気にする必要は無用と考えます。
 一方,タバコに関しては,どのような喫いかたをしても,体にプラスになる要素はひとつもないと考えます。ニコチンやタールの影響をここで改めて述べるまでもないと思います。しかし肉体的に(とくに筋肉の発達に)どの程度の悪影響があるかは,現在のところ具体的にはわかっていません。
 筆者は学生時代の2~3年間を除いてはタバコを口にしないので,喫煙には否定的な考えをするのかも知れませんが,肉体的にプラスにならないことだけは確実にいえるのではないでしょうか。
 ここで,あなたのご質問の要旨とは少し異なりますが,これに関連した質問を受けることが多いので,一括して私の考えを述べたいと思います。
 それは,ボディビルをやるためにはあらゆる面で出来るかぎりの節制をしなければいけないのか? ということに対してです。
 コンテストを目指すビルダー,とくに大きなタイトルを狙っている者は,通常の人では信じ難いほどの節制をしているものです。これは肉体的にも精神的にもいえることです。また,そのくらいの節制がなければ成功はあり得ません。
しかし,一般の練習者がこのマネをする必要があるかというと,私の答えは「ノー」です。ボディビルとは,それほどの一大決心をしなければできない運動ではありません。簡単な気持で1週間に1~3回練習すればそれでよいのです。
 かりに,酒,タバコ,バクチ,その他この世の中の悪を一身に背負っているような人でも,なんら生活の変更をせずに軽くトレーニングするだけで十分なのです。いままでの生活にトレーニングさえ加えれば,それですべて完了です。
 ボディビルをするために〝聖人君子〟の如き生活を余儀なくされるのなら,この運動の実践者は両手の指で数えられる程度の人数に留まるでしよう。また〝聖人君子〟とまではいかずとも,それに類似することを要求したなら,これまたボディビルは敬遠されるでしよう。
 ただし,ボディビルを実践した結果健康に留意するようになり,酒,タバコ,夜ふかしなどを控えるようになったというのは大歓迎です。さらに発展して,不真面目な人間がスポーツ,体育を通じて更生したというのなら,これに勝るものはありません。
 いずれにしろ,これらのものは最初から要求するのではなく,副次的に,結果としてあらわれるものです。

中・高年者のトレーニング法

Q
 私は現在,会社のボディビル・クラブで自分の練習かたがた初心者に指導していますが,最近では中・高年者の人が多くなってきましたので,どんな方法で練習させたらよいのか思案しています。
 自分自身が35歳なので,中年者の体調,体力などについては実感的にわかっているつもりですが,ときとして他の人に無理をさせているのではないかと感じることがあります。
 私はコンテストなどに出場した経験はありませんが,相当激しい練習を行なったことがありますので,他の人にもそれを押しつけているのではないかと不安にかられます。いまのところ,体を痛めたとか,過労になったという苦情は聞きませんが,1週間~10日に一度程度しか練習にこない人が多いので気がかりです。
 練習器具はバーベル,ダンベル,ベンチ・プレス用ベンチ,フラット・ベンチ,腹筋台,インクライン・ベンチ鉄棒,ディッピング・バー,スクワット・スタンド,カール・スタンド,それに手製の簡単なラット・マシンがあります。夏期は屋外で練習していますが,冬期は寒いので倉庫の一部を整理して屋内で行なっています。
 私の立場に立って,現在ある器具で適切なトレーニングをさせ,中・高年者に最も効果的な運動方法,指導の基本的な考え方などについて伝授してください。 (大阪府・一実業団責任者)
A
お手紙だけでは,どんな種目と運動方法で指導しているのか詳しく判りませんが,あなたが苦慮なさっているのは基本的な問題だということは理解しました。どんな形でさせたらよいのか,ということよりも,現在の自分の指導法でよいのか? 1週間~10日に一度きり練習にこないのは,何か無理があるからではないか? と不安になっているものと解釈いたします。
 中・高年者のトレーニング法については,若い人のそれとは大きく異なるものもあり,また類似のもの,あるいはまったく同一のものなど,各人の考え方により千差万別なので,一言には説明し難いところです。ましてや〝伝授〟するなどという大それた立場にいない筆者なので,あくまでも筆者なりの中・高年者トレーニングの全般的な考え方を述べることで解答に替えさせていただきます。とくに,ご質問が漢然としたものなので,このような方法をとらざるを得ません。何か具体的なご質問でしたらもっと明確にお答えできるのですが.……。
⑴ お手紙の中に電気関係の相当大きな会社の名刺を見受けましたが,練習している部員もかなり多いことでしょう。練習器具も実業団クラブとしては一応のものが揃っているところからも,それが判ります。ただ。問題点としてはやむを得ぬことながら,ボディビルダーを対象とした器具がほとんどです。
⑵ 一般のボディビル・センターでも最近では中・高年者が増えてきていますが,大きな会社の実業団クラブではその傾向がより強いのは当然と思います。また,それらの人たちこそ,切実に運動不足解消と体力増進を望んでいるはずです。
 会社の中のボディビル・クラブの最大の目的と利点は「生活に密着した運動」を行うことですから,その線に副ったボディビルが推進されていることは喜ばしいことです。
⑶ これらの人たちは,コンテストやパワーリフティングを目指すものでもなければ,筋肉隆々に憧れているものでもありません。極めて純粋な極めて単純な,そして極めて軽い気持でスポーツに触れることを望んでいるものです。
 したがって,ハード・トレーニングはもちろんのこと,系統だった定期的な練習が敬遠されることもあります。それが,ある場合には他から見ると「いい加減」な練習態度と映るわけで,あなたのような熱心な人や,とくに指導している人にとっては理解できず落胆する原因ともなるのです。
 しかし,これは何も取り越し苦労する必要のないことです。それが,その人の練習ペースなのです。指導する側は,とかく効果を第1に考えるので,どうしても理想的な練習を要求することになります。だが,練習者側の希望が,もしそこになかった場合には,それこそあなたが心配している「押し付け」になるのです
 トレーニングは,各人の目的,年令,体力,生活環境などに適応させることが最も大切です。ストレートに練習効果だけを考えるものではないと思います。
 したがって,あなたの会社の部員が,1週間~10日に一度しか練習しなくとも,それはあなたの責任でもなければ,指導方法の誤りでもありません。1カ月に3回でも4回でも運動に親しませているということはむしろあなたの手柄です。立派にボディビル普及の役目を果しているといえるのです。
⑷ あなたはコンテストにこそ出場しなかったが,かつて相当ハードなボディビル練習に打ち込んだ経験者とのことですが,あるいは,それがためにひとつの盲点に落ち込んでいるのかも知れません。
 選手出身者の共通の欠点は,①前記のように,効果のみを重視した指導方法になり易い。②自分が歩んだ道,あるいは自分が実践した練習方法を他人にも押しつけ易い。③経験に頼り,新しい技術,練習方法などに拒絶反応を示し易い。
 とくに中・高年者のトレーニング法は,あなたが熱心に練習した当時より格段の進歩をとげていると思われます。5~10年前では中・高年者のトレーニング法を対象とした研究はとくに日本の市井ではあまりなされていませんでした。
⑸ 中・高年者のトレーニング法の具体的な点に関しては,①重量練習はあまり必要でなく,むしろマイナスになる場合が多いので,軽量によるハイ・レピティション練習が望ましい。②少種目を多セット繰り返すのではなく,多種目で広範囲の運動をする。③小さな筋肉部位の種目ではなく,全体的な運動効果をもつ種目を中心にする。④バーベル,ダンべル中心ではなく,他のマシン類などの種目も広汎に取り入れる。⑤筋肉に強い刺激を与える種目ではなく。循環器系統,呼吸器系統の機能強化を目的とした運動を多くとり入れる。⑥重量具,器具などにのみ頼らず,自分自身の体を用いる運動を多く行うと,故障を誘発せず,興味深くトレーニングできる。⑦常に余裕のあるトレーニングということに留意し,すべての意味で無理しない。
 そのほかにもまだいろいろ述べたいことがありますが,ご質問の趣旨を外れるといけないので次の機会に譲ります。最も重要なことは,とくに中・高年者のトレーニング法と限定せずに,練習者の立場に立って,共に研究し,共に理解するということです。そして,これでよいと信じたら,自信をもってそれを指導することです。
(解答は日本ボディビル協会事務局長'68ミスター日本 吉田実氏)
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[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]

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