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筋肉発達のしくみ

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月刊ボディビルディング1969年5月号
掲載日:2018.02.26
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横浜国立大学教授 小野 三嗣

筋収縮ということ

 筋肉は、収縮することによってはじめて、力を出すことができます。これはしごく単純明快な事実ですが、おそらく皆さんがひとりで考えたばあい、ともすれば、迷路にまよいこんだような気がすることが多いと思います。

 腕をのばしながら、相手を突きとばしたりすると、筋肉をのばすことによって力を出しているのではないか、と考えたりしがちです。とくに筋肉には伸筋と屈筋があると教えられると、さらによけいにこんがらがってきます。伸筋とはのびるときに力を出す筋で、屈筋とはまげるときに力を出す筋だ、などといわれると、あるいはそうかもしれないと、うっかり信じてしまうこともあります。だが、これらはすべて誤りなのです。

 腕をのばすことができるのは、腕の伸筋群という筋肉を収縮させるからで、このとき、その伸筋に対する拮抗筋としての屈筋は、その緊張をゆるめて、せいぜい伸筋が収縮するのをじゃ
ましないようにするだけなのです。

 ところで、この〝収縮〟ということばを〝短縮〟ということばにおきかえますと、またまた間違いが生じてしまいます。つまり、「筋肉は短縮することによってのみ、力を出すことができる」というのは誤りだからです。腕をまげようとするとき、そのまげる動作をじゃまするものがないばあいは、むりなく腕をまげることができますから、まげるほうの筋はあきらかに短縮されています。これを私たちは〝等張性の収縮〟(アイソトニック・コントラクション)または〝動的の収縮〟(ダイナミック・コントラクション)と呼んでいますが、「力を出すこと=筋が収縮していること」と解釈することのできるばあいです。

 これに対して、元来動かすことのできないもの、たとえば柱をひっぱろうとするときを考えてみましょう。腕は渾身の力をふりしぼってその柱をひっぱっているのですから、腕の屈筋群はせいいっぱいの力を出していることだけは確かです。しかし、柱は動かないのだから、腕はまがってくる可能性はありません。つまり、屈筋群の短縮は見られないのです。これを私たちは〝等尺性の収縮〟(アイソメトリック・コントラクション)または〝静的の収縮〟(スタティック・コントラクション)と呼んでいます。この事実は、筋は収縮しさえすれば、短縮しなくても力を出せるものであることを示します。

力を出すしくみ

 トレーニングに関連して、きわめて重要なことは、筋が収縮しようとするとき、その収縮をさまたげるような条件が加われば加わるほど、大きな力を出すことができるということです。つまり、抵抗が強いほど力が出るのであって、逆説的ないい方をすれば、抵抗がなければ力の出しようがないということです。「ノレンに腕おし」という言いならわしがこの事実をうまくいいあらわしております。

 この抵抗がなければ力が出ないというしくみを、生理学的実験で証明することは簡単です。犬の下肢筋に収縮の命令をつたえる運動神経はそのままにしておいて、下肢筋の収縮状況を中枢側につたえる(筋紡錘から)知覚神経だけを切断すると、下肢筋は収縮して力を出す働きができなくなり、犬は立っていることができずに、腰がぬけてしまうのです。筋肉に収縮命令をつたえる神経には異常がないのに、収縮状態を知るための神経に異常がおきただけで、力が出せなくなるということは、
抵抗してくれる何かを感じることによってのみ力を出すというしくみが存在していることを示しています。

トレーニング方法の差が筋力発達にどんな差をもたらすか

 筋そのもののトレーニング方法を大別すると、前述したように、等張性の収縮を利用するものと、等尺性の収縮を利用するものとに分けることができます。ウェイト・トレーニングで、ダンベルやバーベルを使うのが等張性、ラックを使うのが等尺性ということになります。

 この両者の違いによって、トレーニング効果がまったく異なると考えるのは誤りです。等尺性のほうはそれほど複雑ではなく、どちらかというと、筋線維を太くすることによって、筋線維1本あたりの力が増加するようになりますが、筋運動の持久性を高めるという効果は期待うすになります。

 等張性のばあいは、用いる重量のいかんによって、効果に大きな差が生じると考えるべきです、最大筋力の1/3以下の軽重量を用いるばあいは、瞬発的筋力の増強はほとんど望めませんが、動的筋持久力は増加します。最大筋力の2/3以上の重量を利用するばあいは、これと反対に、持久力よりもむしろ瞬発力が強まるという可能性のほうが大きいのです。とくに負荷量が最大筋力以上のばあいは(動的収縮の一つの型であるエクセントリック・コントラクション)、瞬発力増強効果はとくに強いといえます。

 ここで一つ、とくに注意をうながしておきたいことがあります。それは以上述べた効果のあらわれ方の相違はあくまでも、いちおう原理的に期待され、多くの人たちの観察結果を整理することにより、統計的な立証がなされているにすぎない、ということです。

 個人差という問題は、このばあいもきわめて大切なことであり、人によってはまったく同じトレーニング方法を採用しても、効果にいちじるしい差異が見られることは、少しも異とするに足りないといえましょう。

 トレーニングというものは、あくまでも個人のものであることを、もう一度ここで強調しておかなければなりません。充分な証明がかならずしも行なわれているわけではありませんが、少なくとも実験的結果として、体質の差を考えるほうが穏当のようです。そのためにこそスポーツ適性ということがありうるのです。

 ただ走っていても、ある人は太もものほうがよけいに発達し、ある人はフクラハギのほうが発達するといった例が見られます。前者は短距離走向き、後者は長距離走向きということになりましょう。

 ボディビルをやるばあい、A、B両者がまったく同じことをやっていても筋肉のついてくる部位がちがい、体型に差が出てくるのも、このへんの消息を物語るものといえます。

 同時に、忘れることのできない原則は、性急に効果を判定すべからずということです。ボディビルを1年やったところで、A、B両君を比較し、A君のほうがB君よりもはるかにすみやかに効果があらわれたからといって、この差がそのまま持続するとはかぎりません。2年目になって、A君に停滞があらわれ、逆にB君にいちじるしい効果の急上昇が見られたりすることがあるからです。

栄養と筋肉の発達

 筋肉をつくっている主成分がタンパク質であることから、タンパク質を多量に摂取すれば筋肉が太くなると考えている人がおります。また、筋肉をよけいに使わなければならないスポーツまたは労働では、筋のタンパク質の消耗がはげしいから、その消耗を補給する意味で、タンパク質を余分にとる必要があると考えている人もおります。

 そのどちらも誤りであるということに注意しなければなりません。

 成長途上の幼児や少年のばあいは、タンパク質を充分に含んだ、かたよりのない栄養をとることによって、筋肉だけでなく、すべての組織が発達することは確かです。しかし、ここで問題になるのは、すでに成長のとまってしまった青年以上の年令層であって、この人たちが摂取した食物は、その内容が何であれ、食べすぎれば、熱の形になって身体を温める役目をしたり、余分な脂肪沈着をおこしたり、その他疾病の原因となる危険のほうが多いのです。食べたタンパクを筋肉にしたかったら、その筋肉を運動させ、それにタンパク質がとりこまれるようにしてやらなければなりません。運動せずにタンパクを食べすぎることは、百害あって一利なしというわけです。

 また、はげしい筋運動をしても、そのために筋タンパクがよけいに消耗することはないという事実も、実験的に確かめられています。ですから、筋タンパクが消耗するから補給すると考えることは誤りということになります。

 ただし、はげしい運動をすると、赤血球がこわれやすくなることがあり、そのために貧血になることが知られていますが、これを防ぐには、タンパク質を充分にとっていなければなりません。一般の人で体重1kgあたり1日のタンパク質1gというのが最低基準とされていますが、ボディビルなどをやるときは、1kgあたり1日2gぐらいとるようにしたほうがよいといわれています。

 また、筋肉が力を出すための、直接の引金役をつとめるのは、高次の燐酸化合物(アデノシン3燐酸、クレアチン燐酸など)ですが、とくに筋肉を使うからこれらを補給しなければならないと考える必要はありません。化学変化という面からとらえてみると、分解したり、結合したりして、エネルギーの出納を行なってはいるものの、結合に要するエネルギーを他からもってくるからです。

 この〝他から〟というのが消耗補給を必要とするエネルギーということになるので、グリコーゲン、ブドウ糖という形のものが、次々と補給されなければなりません。つまり、筋運動をすればするほど、これらを余分にとり入れる必要がおこってくるのです。これをもっとも効率よく補給する食品は炭水化物――デンプン類が多く含まれる米、パン、めん類などです。脂肪も、やや効率は下がりますが、運動のための力源として、とくにスタミナを考えるとき重要な食品となります。しかし、急場にまにあうというものではありませんから、これからマラソンをやろうなどという朝に、あぶらっこいものをたくさん食べても、ほとんど役に立たず、わるくすると、早くバテるもとになるだけです。油ものはふだんから気をつけて摂取しなければなりません。

ホルモンと疲労との関係

 筋肉を発達させるばあい、どのていどの疲労状態がもっとも有効かということを考える必要があります。運動の巧緻性を高めようとするときなどは、疲労した状態ではぐあいのわるいことが多いのですが、筋を発達させようとするとき、まったく疲労しないような方法でこれを発達させることは不可能なのです。

 ドイツのへッチンガーなどが、最大筋力の40%くらいの負荷でウェイト・トレーニングをすれば、それで充分に効果があげられるといい、それ以上大きな重量を使う必要はないと述べていますが、それでもあるていど疲労を感じるほどに行なわないと効果のないことは同じです。

 ただ、このような軽い重量でのトレーニングでは、筆者らの実験によりますと、初心者のばあいは効果を出せるが、経験をつむにつれてあまり効果が見られなくなってきます。軽いものを何回も使うよりは、最大筋力の70%以上の重量で、早く疲労をおこさせるほうが効果的のようです。

 毎日あまり疲労を感じないていどのトレーニングをくりかえしていると、1カ月や2カ月ではほとんど何の変化も見られませんが、筋に疲労感が残るほどの力を出しますと、1カ月でも相当の効果があります。

 背筋力トレーニングをするときに、1回9秒くらいの最大のがんばりをつづけてみたことがありますが、こういうときは筋がだんだん痛みを感じるようになり、1週間もたつと痛みのため
にあまり力が出せないようになります。力が下がりはじめて3日目くらいで、トレーニングを中止し、1週間くらい休んで力を測ってみたら、トレーニング期間中に示した最大筋力よりもはるかに大きな力を示しました。このような現象を〝スーパーコンペンセイション〟といい、急速に力を増加させようとするとき、ひじょうに有効な方法なのです。ここでのキー・ポイントは、疲労のために筋力が低下してから休むという点であり、疲労のための筋力低下がおこるまえに休んだのでは、このスーパーコンペンセイションはまったくおきませんでした。

 したがって、このようなはげしい疲労は筋力増加に役立たない疲労でありかえって妨げになる疲労であるという意味で、これを〝陰性疲労〟と名づけています。

 疲労することがなぜよい結果をあたえるかということは、充分には証明されていませんが、疲労性の代謝産物やホルモンなどが関係していると考えられます。

 ホルモンも運動と密接に結びついていますが、筋肉をふとらせるホルモンとしてもっとも有名なのが、タンパク同化作用をもつ男性ホルモンです。哺乳力の弱い赤ん坊にこのホルモンを注射するのは、タンパク質を同化させ、体重を増加させる力があるからです。老人で筋力が低下した人にこれを使ったら、筋力が増加したという結果を示した実験もありますが、老人ではこのホルモン注射で睾丸ガンを発生するおそれがあるといわれていますので、筋力をつけるという目的でこれを使用することは避けなければなりません。

 女性が男性と同じようなトレーニングをしても、男性のように筋骨隆々というようにならないのは、女性の体内には男性ホルモンがごくわずかしかないからです。

ぜひ生理学の知識を

 筋肉を発達させたいと考えるばあいまず食事に気をつけること、そしてその人の身体に合った運動をすることが必要であり、目的によって運動の方法程度、部位が異ならなければなりません。そして、あんがい無視されがちでその実きわめて重要なことは、ここに述べたような、筋肉発達のしくみについての理屈を知っておくことです。

 同じトレーニングをしても、なぜ?どのようにして?――を知っていてやるときと、まったく知識なしでやるばあいとでは、効果がちがってくることも、実験的に確かめられています。

 したがって、ボディビルをする人はからだの各部の筋肉の名称、個々の筋肉の働きなどを含め、生理学的事実なども勉強したほうが、はるかに早く、自分の思ったような身体をつくりあげることができる、といえましょう。

今月の表紙の人物

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「あいかわらず金子さんは強いですね。あまり挙げるとぼくら若い者が困りますよ」
「なにいっているんだい。君だって最近は170kgやるじゃないか。ぼくは43才でもやればできるという意味でやっているんだよ」
 金子武雄氏(43歳)はもちろん、中大路和彦氏(34歳)もそろそろ中年の部類にはいる年令だが、かたやプロレス、かたや初代ミスター日本という2人だけにさすがに強い。
 長年鍛えあげた体は引きしまり、年令を感じさせない。2人がますます元気に練習にはげむ姿はまことに頼もしいかぎりである。
 なお、金子氏は、ふだん200kgを挙げるそうである。

窪田氏、新橋ボディビル・センターで講演

 去る3月14日夜、新橋ボディビル・センターに集まった30数名の会員を前にして、窪田登氏が体力トレーニングにかんする講演を行なった。

 内容は、「体力とは何か」ということから始まり、トレーニングの意味およびその方式などで、たんにボディビルダーだけにとどまらず、体力や健康づくりを目的としたトレーニングを実施している会員諸氏にとっても身近がなテーマであっただけに、出席者の熱心な聴講ぶりも、また印象的だった。

 また、講演の中にたびたび、筋力や筋肉づくりのトレーニングと並行して、持久力を養成するトレーニングもぜひ実施するように、との示唆がなされていたが、これなどはボディビルダーとしても忘れてはならないトレーニング上のキー・ポイントであろう。

 なお、この講演会は、新橋ボディビル・センターにおける会員の質的向上をはかる目的で企画されたもので、これがその第1回目。こんごも会員の要望に応じて随時このような講演会を開いていくつもり、と会長の山城侑氏は張りきっている。
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月刊ボディビルディング1969年5月号

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