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肉体美の研究 ポーズの基本

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月刊ボディビルディング1971年8月号
掲載日:2018.02.04
早稲田大学体育局講師 加 藤 清 忠

-人体の方位-

 「方位」というのは、普通よく物の位置を示すために用いられる「方角」とか「方向」と同じ意味である。ある基本姿勢にしたがって、人体各部の位置を表現するために、解剖学上から、この「方位」という言葉が用いられる。

 つまり、われわれのからだについての方向を示そうとするものである。

 そのためには、活動的でいろいろな姿勢をとりうる人体の基本姿勢を決めておかなくてはならない。解剖学では図に示すような人体の直立姿勢が、基本姿勢として約束されている。

 この図の姿勢を言葉で表現すれば「水平面上に直立して、両上肢の手のひらを前に向けて下垂し、両下肢はつま先を前に向けてそろえた姿勢」ということになる。つまり、体育で行なわれる“気をつけ”の姿勢で、つま先をそろえ、手のひらを前に向けたものと考えればよい。

 われわれのからだは三次元の立体であるから、これをぴったり合う箱に入れるには、直方体の箱を用意しなければならない。直方体には面が6つある。すなわち、前面・後面・右側面・左側面・上面・下面の6つである。したがって、からだの方位の基本も6つということになる。

 このからだの基本的な方位から、筋肉の表現を考えようというのが、つぎの問題である。

-印象し易い方位と印象し難い方位-

 例えば、顔を前面から見れば、耳とか眉、目、口といった諸部分は、たやすく印象されるが、鼻については前面よりもむしろ側面からの方が、その形を容易に見ることができる。このように、方位によって印象が容易であったり困難であったりすることは、形態を構成している筋肉においても当然いえることである。

 筋肉美を表現しようとする場合に、この方位の問題を無視することはできない。印象し易い方向から見ることは筋肉の形や発達の度合を知るのに容易である。もちろん実際には、斜めから見るという場合もあるが、いま前面・側面・後面といろいろの基本的な方位における主要筋の難易度を示せばつぎのようになる。
記事画像1
 この表で、易とは印象し易い方位のこと、難とは印象し難い方位のこと、不とは印象が不可能であることを示す。例えば、僧帽筋であれば、側面からよりも、前面か後面からの方がより容易に印象し易いし、また、腹直筋では、後面からは見えないので不可能であり最も印象し易いのは側面より前面ということになる。
人体の基本姿勢

人体の基本姿勢

 つぎに、このような方位を組み合わせて、いろいろのポーズを示すことにする(モデルは田中正剛君)

 写真1は、前面の脚と腹と胸に、側面の腕と顔である。写真2は、右側面。写真3は、左側面のポーズであるが、このように同じ人間でも方位によって随分と印象が異なることがわかるであろう。とくに田中君の場合は、脚においてその傾向が著しい。

 写真4は、側面の脚と後面の上体の組み合わせ、写真5は完全な後面のポーズを示す。部分的に見れば、脚は側面からが最もダイナミックな印象が強く、また、胸や腹は前面から、腕は側面からが最も印象し易い方位であるということができる。6つの基本的方位のうち、上面と下面については普通のポーズでは用いられない。写真6のように上体を前傾すれば、部分的には上面からのポーズをとることができる。

 しかし、視覚に入るべき面積が少なくなって、印象し易い方位ではない。
記事画像3
記事画像4
記事画像5

-シンメトリーとアシンメトリー-

 動物でも植物でも、その組織や器官等が複雑に、しかも秩序正しく配列されているが、それぞれの構成を「体制」といっている。そして、この体制にはいろいろな型が見られる。例えば、うにやひとでのように、いくら回転させても同じ形のもの、とんぼやかえるのように真中から2つに割れば左右同じ形に重ねることができるもの。またかれいやひらめのように、このどちらにもあてはまらないもの等である。

 では人体についてはどうであろうか。基本姿勢の図を見れば、すぐに真中から重ねることができることがわかる。しかし、もう少し詳しくいえば、見えない所(内臓諸器官)や機能の上(右ききと左ききがあるように)は、そうではないが、外見上はそのような体制になっている。この真中から左と右を重ね合わせて、ピッタリ合う場合をシンメトリー(Symmetry)、合わない場合をアシンメトリー(Asymmetry)といっている。別の言葉でいえば、左右相称と左右非相称である。

 これをもう少し正確に表現すれば1本の基本線(正中線)を中心にして反対相称になっているのがシンメトリーであり、反対相称になっていないのがアシンメトリーである。

 ここでは、姿勢についての両者の関係を考えようというのが問題である。前述のように、解剖学的な人体の基本姿勢の上では正しくシンメトリーを構成しているが、姿勢でいえば、気をつけの姿勢とか、椅子にキチンとすわったり、正座した場合である。

 しかし、日常生活では、このようにキチンとしたシンメトリーの姿勢を保っているときよりも、活動的であればあるほどアシンメトリーの姿勢の方が多い。

 歴史的にみると、日本人は建築などではアシンメトリーの構成を用いているにもかかわらず、服装や姿勢に関しては、まったくシンメトリーであることを重視した。これは西洋とは逆である。江戸時代などでは、シンメトリーをくずす人に対しては、悪口をいったり、また、よた者視したりした。とくに、女性に対してこの傾向が著しかったようである。これは、整頓性とか、肉体的消極性を重んじる儒教思想などの影響によるものと考えられるが、この傾向が近年まで続いていたことは事実である。

-立体姿勢と美的効果-

 シンメトリカルな立位姿勢とは、気をつけの姿勢のように、左右キチンとそろえて立っている姿勢であるが、体全体が左や右に傾斜しないかぎり、脚を左右に開いても、腕を左右同じに曲げてもかまわない。要するに、両脚に等分に体重をかけ、顔は正面に向いた姿勢がシンメトリーである。

 これに対して、左右のどちらか一方の腕に重心を移動させて、体を曲げた姿勢がアシンメトリーである。顔を横に向けたり、右腕を上げ左腕を下げたりすることによってもシンメトリーはくずれるが、このどちらの姿勢になるのかの基礎は両脚にあることはいうまでもない。

 前者のように左右均等に体重をかけてキチンと立ったシンメトリーの姿勢を「等立」、後者のように一方の脚に体重を移したアシンメトリーな姿勢を「偏立」といっている。また、偏立姿勢で体重のかかっている方の脚のことを「立脚」、休ませている方の脚のことを「休脚」という。

 このような等立と偏立の差異について実際に示せば、写真7はキチンと両脚をそろえて腕を曲げ、前面のポーズをとった等立姿勢であるが、写真8では、この等立をくずして両脚を左右にわずかに開き、左立脚・右休脚の偏立姿勢をとったものである。そして、写真9では一段とアシンメトリーの傾向が著しくなって、ほとんど全体重を左脚にかけ右脚はわずかに床につくだけで、しかも右腕を曲げ左腕を伸ばすという上体の変化も加わってくる。

 この3枚の写真を見くらべてみるとわかるように、等立姿勢はいかにもキチンと整頓されていて、硬い感じがするのに、偏立姿勢では、全体的に曲線的な動きが感じられるようになる。これを「曲勢」とか「動勢」とかいっている。

 等立の場合には、静的で安定感があり、端正であるが、それがまた冷硬性とか無味乾燥にもつながってくることになる。これに対して、偏立の場合には、動的でいかにも有機的機成としての美的効果が生まれるが、悪くすると安定感のないものになってしまう場合もある。しかし、有機体としての人体からいえば、キチンとした等立姿勢よりも、アシンメトリーの偏立姿勢の方が、より美的であるといえるのである。
記事画像6
記事画像7
記事画像8
記事画像9
記事画像10
記事画像11
月刊ボディビルディング1971年8月号

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