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JBBAボディビル・テキスト⑲
指導者のためのからだづくりの科学

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月刊ボディビルディング1975年2月号
掲載日:2018.04.06
名論(解剖学的事項)‐神経系2
日本ボディビル協会指導審査全委員長 佐野誠之

⑥神経系の形態学的分類

 前回で神経および神経系の大要を,神経のはなしという形でなるべく分かり易く,その全般にわたって述べたが神経系は形態学的には次のように分類されている。
記事画像1
 しかし,神経系の体系はこのほかいろいろと違ったものが提称されており体神経系と自律神経系に分けるのも1つの立場である。この立場で,いままでのところを言葉をかかえて簡単に整理してみよう。
㋑体神経系(動物神経系)
 われわれの身体を,外界の状態と変化に適応させることを主たる仕事とするもので,末梢部は皮膚その他の感覚器官に分布して外界の情報を集める知覚神経系と,骨格筋に運動を指令する運動神経系とからなり,この両神経系の間に中枢神経系(脳・脊髄)があってこれを支配している。体神経の末梢部は形態学的には脳神経・脊髄神経の中を走っている。(参考図D‐16)
 体神経系のつかさどる感覚とか運動というものは,動物だけに限られたものであり,この意味から別名,動物神経系ともいわれている。
㋺自律神経系(植物神経系)
 おもに平滑筋の運動と,腺の分泌とをつかさどるものである。
 平滑筋の運動と腺の分泌という運動は,消化器,呼吸器,循環器,泌尿器,生殖器等の働きを起こすものであるがこれらの器官系の官能(機能)は,動物ばかりでなく植物にもみられるものである。それがため,植物的官能(機能)ともいわれ,また,このために,植物神経系ともいわれる。
 自律神経系は,植物性というなにか低級な生活機能のように思われるが,生物学的な面からみれば,生物としての個体や種族を維持するのに欠くことのできないものである。それ故に生命神経ともいわれている。
 これに比べると,体神経は大脳半球を主体として,人体活動のうち最高等動物としての人間を特徴づけるような高級な部門だけに関与しているので,これは生命や種族の維持には直接関係はない。自律神経系も末梢部と中枢部とが区別されており末梢部は交感神経系と副交感神経系をつくっている(参照図D‐13)
 末梢神経としての脳髄神経系は,体神経系の線維と自律神経系の線維とが混在して集まったものである。

⑦神経と運動との関係

 さて,われわれが運動に関して考えるとき,以上のような神経系が,どんな役割を果たしているかということを知ることが大切である。機能的な面は生理学的事項として研究され,種々発表もされており,これらに関しては章を改めて述べるが,一応,神経系の仕組みを知っておかなければ理解することは難しい。
 運動を意図的に行う随意運動は,大脳皮質運動野を中心に,運動前野等の部位から出て下行する遠心性線維で,延髄の腹縁で錐体と呼ばれるところを通過する。この場合,錐体交叉をして脊髄で運動ニュ‐ロンに続いている錐体路系と,多数の神経核と線維からなる極めて複雑な構成をなしている錐体外路系により,脳神経核や脊髄前柱にある運動ニュ‐ロンの活動に続いて起こる筋の収縮が,身体運動の最終効果である。
〔参考図D‐16〕脊髄の中の線維走向

〔参考図D‐16〕脊髄の中の線維走向

 形態学的機能面からみると,錐体路系は運動前野で形成された運動のプログラムを,運動野を介して受けとり,これを末梢に伝え,運動の方向を規定するものである。一方,錐体外路系は運動表出のときの姿勢や,身体各部の状況,さらには,運動進行中の筋肉からのフィ‐トバック等に基づいて,運動の実体を微妙に調節するものと考えられている。
 それ故に,錐体外路系の活動は反射性であり,これに属する核や神経路は脳で折り返される反射の中枢や経路になっている。(参考図D‐17,D‐18,D‐19)
 運動ニュ‐ロンには,錐体路や,いろいろの錐体外路系の線維,知覚ニュ‐ロン,あるいは介在ニュ‐ロンの末端等の多くの線維が終わっている。これらが,それぞれ興奮性,抑制性のものを含んでおり,これら多数の線維を伝わってくる興奮性,抑制性の総和として,自らの活動を起こし,その結果筋を収縮させている。
 反射も,髄意運動も,その最終効果が運動ニュ‐ロンの活動によるものであり,両者は運動ニュ‐ロンの活動を起こすまでの経路の違いである。
 脊髄反射が反射弓という比較的単純で,シナプスも少ない経路を介しているのに対し,随意運動は,大脳半球の中でも意図や意識といった高度の働きを営む部分が関与した,非常に多数のシナプスを含む複雑な経路にもとづいて行われる。
 関与するシナプスが多いということは,つまり,シナプスで生じる神経の伝導に変化が生じ易いことになるので随意運動では同じ刺激に対しても,その時々によって,反応に違いが生じるという。変動性が特徴である。また,経験の蓄積に伴う神経系内の構造的な変化もシナプスの部分で生じてくるので,経験の影響を受けて変化する性質をもっている。
〔参考図D‐17〕脊髄レベルにおける筋運動のフイ‐ドバックを機構略図

〔参考図D‐17〕脊髄レベルにおける筋運動のフイ‐ドバックを機構略図

 これに反して,シナプスが比較的少ない反射は,一定の刺激に対して不可避的に,一定の運動が生ずるという定型的な性質をもっている。
 以上のことは非常に重要なことで,神経面よりみて,学習,練習による習熟の必要性を示している。
 最近,心理現象の様々な側面を,神経の構造と機能とに対応して研究されてきているが,これは,心理現象がいかなる物質過程において生ずるかを解明する研究であり,これを生理学的心理学と呼んでいる。最近の脳生理学の急速な進歩により,意識・知覚・学習・動機づけ・知能など,様々の心理現象の神経学的基礎がある程度解明されてきているためで,運動についても同様である。ここに心と身体の接点を見ることができる。神経の重要さを改めて認識していただきたい。
〔参考図D‐18〕錐体路,および錐体外路中枢の所在を示す略図

〔参考図D‐18〕錐体路,および錐体外路中枢の所在を示す略図

⑧神経の発生について

 人体は,受精卵から分裂・増殖・分化等を経て,複雑な組織の構成をなすに至ったもので,人体各部は細胞と細胞の生産物である基質から構成されている。人類を含めて脊椎動物では,一般に発生の早期に胚をつくっている細胞の集団が,外胚葉・中胚葉・内胚葉の3つに分化し,その各胚葉部からいろいろの組織や器官ができる。
 組織とは,同種の細胞および基質から構成されたそれぞれの特性を有する細胞の集合体である。すなわち,同じような形状,機能を有する細胞が集まって組織を形成する。すなわち,細胞→組織→器官→器官系→全体という階層性をもって構成され,形態を整えていくが,生物の形態は一定不変のものではなく,絶えず一定の法則に従って変化する。それ故に,生物のある時期における形態は,この変化の過程の一コマにすぎない。この変化を形態発生といい,哺乳動物の場合はとくに胎生学と呼ばれている。
〔参考図D-19〕錐体路(皮質脊髄路)

〔参考図D-19〕錐体路(皮質脊髄路)

 形態発生は2つの形式で考察され,その1つは,個体が胚子から出発し,その個体の生存期間を通じて行われる変化で,これを個体発生といい,いま1つは,ある種族が単細胞動物から進化して,その種族の存続している全期間を通じて行われる変化で,これを系統発生と呼んでいる。以上のことから個体発生を研究する科学が発生学,系統発生を研究する科学が古生物学,および比較解剖学である。
 発生の法則としては「個体発生は,系統発生をくり返す」という法則が認められている。
 解剖についての記述は,そのほとんどが成人についてなされているが,人が成人に達するまでの過程を知ることは,解剖学のいろいろの記述を理解するうえで重要なことであるが,誌面の関係で割愛することにする。
 神経細胞は胎児期に分裂して増殖するが,生後2週間以後は数を増さないといわれており,また,ほかの細胞とは異なり再生不能で,その寿命は個体の寿命に等しい。発生のはじめ,単純な1本の神経管であったものが,胎児としての発育につれて,次々に脳の重要な部分が出来,こみいった構造になっていく。
 しかし,人間の胎児の脳は,出産時ではどの動物よりも未完成で,たとえ満期で生まれても,脳の完成の度合いからみると,みな早産児といえる。
 神経管の前端が,なぜふくれて大きくなり,脳というものになったのであろうか。これについて考えてみよう。
〔参考図D‐20〕脊髓反射(膝蓋腱反射様式図)

〔参考図D‐20〕脊髓反射(膝蓋腱反射様式図)

 体の前端,すなわち頭部には,目・鼻・耳等の大切な感覚器官がある。このような感覚器官が,何故に体の前端部(前頭)に位置しているのかは,誰でも理解し易い推定で説明されている。
 それは,原性動物のアメ‐バ‐が移動するときに行う運動様式をアメ‐バ‐運動(原形質を進行方向へ伸ばしてはちぢめて体をその方向に進めるやり方)といっているが,これを見ても分かるとおり,動物は前進する習性をもっており,目や耳や鼻は外界の状況を認知する器官であるから,いち早く外界の状況を知るためには前進方向の前端,つまり頭部にこれらの器官が位置するのが有利であるためと説明されている。
 しかしこれは,われわれが現時点で理屈づけた推論であり,自然発生的にこのようになっているので,これは天の摂理と解する他はなく,また,自然の力の偉大さや,その巧妙さに驚かされるものである。
 これら重要な感覚器官からの報告がいち早く中枢神経に知らされるためには,すぐ近くにある神経の前端部に伝えられることが必然的なことであろう故に,ここでこれら報告を受けとるための多くの細胞が必要となり,自然と神経官の前端が大きく発達して脳というものになったのであろう。
〔参考図D‐21〕ヒト胎児脳の矢状断面

〔参考図D‐21〕ヒト胎児脳の矢状断面

 そして,重要な感覚器官からの報告を受ける部位が脳の中に発達するにしたがい,これらの情報を逆に体の必要な部分に伝えて,これに応じた適切な反応・動作を行わせる処置や指令を発することが必要になってくる。
 このために,筋肉を動かすための命令を発する神経細胞や,腺の分泌を促進する神経細胞等が生じ,発達し,動物が高等になるにつれて感覚の内容も次第に複雑になり,これらの働きに対応する脳の細胞も数を増し,その種類もふやさなければならなくなり,これら感覚器の作用の発達につれて脳も次第に大きくなり,その構造も複雑になった。そして,人間にいたって脳は他の動物に比べて格段の発達をなし,とくに大脳部は人間の知能発達にともなって,脳の前端部が極度に発達して大きくなった部分である。
 脊髄は脊柱の内部にあって,長い棒のような形をし,その中心にごく細長い腔所があるが,これを中心管と呼んでおり縫針ぐらいの太さである。これは,脊髄が脊柱腔の中にあるため,神経管の膨大も制約され,神経細胞の灰白質が外に出ず,中心管のまわりにあるため,これに出入りする神経線維がその外表部をとおるのである。
〔参考図D‐22〕大脳の作用局在のおおよそ①随意運動 A‐運動性②体性感覚 B‐感覚性

〔参考図D‐22〕大脳の作用局在のおおよそ①随意運動 A‐運動性②体性感覚 B‐感覚性

 すなわち,人類が発生した初期は,神経細胞は1本の管状物で,この神経管の内側は内腔をなし,余地が少ないため神経細胞の原形質突起が管の外側へ延びることになったためである。
 これに反し脳の場合は,本来ならば神経管の内腔をかこんで内部にあるべき灰白質が,脳の働きの複雑化が原因となり,いくつかに分裂して,神経管の最前端にあるため,一部が表面に出てきたためである。すなわち,脳の役目の複雑化につれて,多くの神経細胞が必要となり,その居場所が本来の内腔(神経管の内腔)の周囲だけでは狭すぎるので,前端表面の方へ余地を求めて移動せざるを得なくなったために起こった現象であろう。それが人類において最も著しくなったものである。
 この事実は,われわれの個体発生の過程においてみてもこれを如実に示している。
 胎児のように若い時期には,神経管の内腔の周囲の壁を構成していた若い神経細胞が,一種のアメーバー運動によって外方へ向って移動,つまり表面へ移動してきた神経細胞がそこに層をつくって排列し,1つの灰白質をつくったものである。
 脳の内腔(これを脳室という)の周囲からはなれて外方に向って移動した神経細胞群の全部が表面まで到達するものではなく,その一部が移動の途中で止まって,皮膚とは別の灰白質の塊を所々に形成したものが核と呼ばれるものである。細胞の中にある核と同じ文字を使うが,これとは少し意味が違っている。この核の役目は,高位中枢である皮質と,下位の中枢である脊髄や脳の内部の原始的な灰白質,または中枢神経の外にある神経細胞の小集団である神経節の細胞等との中継をするものである。
 脳は頭蓋骨の内部におさめられているので,その外形は頭の形によく似ている。表面へ出たものが大脳半球と小脳といわれるもので,本来の神経管の原型を比較的とどめている部分が脳幹といわれる部分である。(参考図D‐2O)
 人類においてはこのような膨大部が極点に達し,大脳半球が非常に大きくなったため,本来は前方にあるべきものが後ろの方までひろがって,脳幹や小脳までも上前方からおおいかくすようになり,現在のような形態を呈するようになったものである。(参考図D‐21)
 以上が個体発生よりみた脳・脊髄形成の過程であるが,われわれの身体のどこをとっても,目をみはるような造化の巧妙さが溢れている。部分として考えられる機能が,全体との調和の上に如何に巧妙に配され,コントロ‐ルされているかが理解していただけたと思う。
 われわれ個体の生命活動と同様,社会生活においても,個々の活動,存在価値を全体との調和を保ちながら発展していきたいものである。
(次回より各論的事項に入る)
記事画像9
月刊ボディビルディング1975年2月号

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