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JBBAボディビル・テキスト⑳
指導者のためのからだづくりの科学
各論(解剖学的事項)‐神経系3

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月刊ボディビルディング1975年3月号
掲載日:2018.04.16
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野誠之

2 中枢神艇系

A 脳
 脳は頭蓋腔におさめられ、文夫に保護された軟い器官で、成人男子で1350g~1400g、女子で1200g~1250gほどの重さであるが、個人差は著るしく、脳の重さの差が必ずしも知能の差ではない。
 脳における神経細胞の数は、生後一定しており、脳が発達すると言う事は機能が高まり、新しい神経路が次々に形成されてゆくことである。
 脳は大脳(大脳半球十大脳核)、間脳、中脳、後脳(橋と小脳に分れる)、延髄に分けられ、普通、中脳、橋、延髄の3つを合せて脳幹と呼んでいる。(間脳をふくめて言う事もある)
 これは脳がキノコの様な形で、大脳半球と小脳がキノコの傘に、脳幹がキノコの柄にたとえられ、間脳から延髄にいたる部分が外観上、幹の様に見えることと、これらの大部分は灰白質が白質と入りみだれ不規則に点在していると言う、同じ様な構造をもち、機能的にも大脳と脊髄との伝導路であり、また、灰白質も脊髄の様に一定の棒の様でなく、大小の独立した魂、すなわち核を作り、脳神経に所属するものは知覚神経の終止核と。運動性ないし分泌性の神経の起始核や、伝導路の中継所としての核で、多数あり同じ様な働きをしているため、合せて脳幹と呼ばれている。しかし、この脳幹と言う言葉は正式用語ではなく、またはっきりと定義づけられたものではない。
 なお脳は硬い頭蓋腔をもっておおわれ、さらに硬脳膜、蜘蛛膜、軟脳膜と言う3枚の膜をかぶり、内部は腔となってその間に脳脊髄液を満たして栄養供給、排池の作用、外カからの保護等を行っている。すなわち、脳脊髄は脳脊髄液につかっている様なものである。内腔は上から左右側脳室(大脳半球部)第3脳室(間脳部)、中脳腦水導(中脳部)第4脳室(橋・延髄部)、および脊髄中心管と呼ばれ互いにつながって脊髄まで続いている。参考図D‐23、D‐24
〔参考図 D-23〕脳膜(頭頂部の前頭断)

〔参考図 D-23〕脳膜(頭頂部の前頭断)

〔参考図 D-24〕中枢神経模型図

〔参考図 D-24〕中枢神経模型図

①延髄――大後頭孔の高さの所にあり、明僚な境なしに脊髄に続いている円錐状の肥厚部で、上にいくほど拡がっている。
 脳神経(末梢神経)の多くの核をもっており、脳神経の反射の中枢をなすと共に、嚥下、嘔吐、セキ、クシャミ、睡液および涙液の分泌等の中枢をなし、さらに呼吸運動、心臓運動、血糖量等の調節中枢がある。すなわち、自動中枢や反射中枢が多く存在するばかりでなく、神経線維の通路でもあり、極めて重要な所で、生命の維持に絶体必要な部分である。
②橋――延髄に続く部分で、白質の肥厚部と考えてよい単純な形をしており、小脳の左右両半球を橋の様につないでいるため、橋と言われている。
 その表面に多くのすじが横走して橋腕を形成しているが、これが延髄と小脳とをつないでいる。機能的にも諸種伝導路の通路に当るもので、また、三叉神経の反射の中枢をもなす。脳神経の内、三叉神経、外転神経、颜面神経の起点でもある。
③中脳――橋の上に続く部分で、脳全体から見れば最も細く、くびれた部位で、中央は第3脳室からつづく中脳水導(大脳導水管)によってつらぬかれている。腹側部を大脳脚と言い、左右一対の白質の柱で腹側を形成し、背側部を視蓋板と言い、その皮面に一対の上丘(視蓋)と、その下部に一対の下丘と言う2対の半球状の隆起を形成しているが、これを皿丘体と呼ぶ。
 中脳は大脳と脊髄および小脳とを連絡する多数の伝導路の中継所に当っている他に、動眼、滑車、両神経の核があり、眼球運動や瞳孔収縮の運動の中枢である。なお、皿丘体附近は聴神経の線維を受け、大脳の視覚領、聴覚領と連絡し、また、延髄や脊髄に線維を送り、視覚、聴覚と全身の運動や姿勢に関する反射を構成する。錐体外路系の中の重要な中枢の一つである。赤核はこの中脳にある。要するに、中脳は全身の筋の緊張や姿勢に関する反射の中枢でもある。【参考図D-25】
〔参考図 D-25〕鉢体外路系の諸中枢を示す略図

〔参考図 D-25〕鉢体外路系の諸中枢を示す略図

④小脳――小脳は大脳の背側下方、延髄の上方、橋の背側で、第4脳室をへだてて位置し、大脳半球についで大きく肥厚した部分で、正中部の虫部と両側の左右小脳半球に分けられる。上、中、下、3対の小脳脚は、これらによってそれぞれ大脳、橋、延髄と相互に求心性および遠心性の連絡を行なっている。
 小脳の表面には多数の溝と小脳回とがあって、著しいしわを示している。
 回とは、溝と溝との間の堤防状の高まりのことである。小脳では、この溝や回(回転)が互いに並んで横の方向に走っており、またそれらが細かい点で大脳半球とすぐ区別出来る。
 表層を皮質、内層を髄質と言い、皮質は灰白質で、内層は白質で4対の小脳核(内側から外に向って室頂核、球状核、椎状核、歯状核)がある。
 この内、歯状核が特によく発達しており、中脳の赤核、延髄のオリーブ核とともに中脳‐延髄‐小脳をつなぐ三角形を形成している。すなわち赤核↔オリーブ核↔歯状核↔赤核の三角形は錐体外路運動系として運動を円滑に行わせるのに特に重要である。
 すなわち、小脳は、大脳と脊髄の間にはさまった脳部で、運動効果器からの運動、位置の感覚(深部感覚)のインパルスに基づいて、筋運動の微細な調節をし、また、前庭平衡器からの平衡感覚のインパルスにもとづいて体平衡を保つ機能を果たしている。
 小脳は直接生命維持に絶対必要と言う訳ではない。要するに、主として運動および平衡の調節中枢をなしている
 小脳が障害または除去されると、片方の場合は強迫姿勢や無緊張を、両方の場合は運動失調症が現われる。
⑤間脳――中脳の前上方に続く部分で、大脳下部と中脳との間にある。
 脳の下部にある灰白質で大脳核と言われるものの内で、視床と視床下部を合せて間脳と言う。
 末梢からの知覚路は、すべて視床で新しい神経元(第3ニューロン)に中継されて大脳皮質に行く。視床下部とは第3脳室の下にある部分で、その前下方に脳下垂体がある。
 視床下部には自律神経系の総合的統括を行う高位中枢があり、交感、副交感神経系の両中枢があるといわれている。なお、自律神経系と密接な関係にある物質代謝、睡眠、体温、生殖の中枢があり、さらに内分泌系の中枢である下垂体とも密接に連絡している。
 大脳核とは、大脳半球の深部にある灰白質の部分で、間脳も大脳核の一つである事はもちろんであるが、その他に尾状核、レンズ核、扁桃核の4対の核がある。視床とレンズ核の間は白質でへだてられており、この部分を内包と言うが運動、知覚の伝導路の大部分はここを通っている。
 大脳皮質と視床との間にある尾状核とレンズ核を合せて線条体と言う。
 線条体は、錐体外路系の中枢で、不随意的な骨格筋の運動をつかさどっている。線条体の部分がおかされると手足が絶えずふるえ、筋の緊張がたかまり、パーキンソン病をおこす。
⑥網様体(網様体賦活系)――脑斡部に神経線維の間に神経細胞が満ちて比較的散満にひろがっている部分、すなわち中脳、橋、延髄にわたって灰白質と白質が混在して網目状を呈する部分があるが、これを網様体と呼んでいる。この網様体が反射の抑制、促進、意識の発現等に関係すると考えられており、これは解部学的にはよくわかっていないが、生理学的な実験からそう言われている事である。
 すなわち、脳幹部の働きが大脳皮質の活動の水準をコントロールすると考えられており、その理由は、意識の発現に関する所が網様体であり、その網様体から視床を通って神経線維が大脳皮質全体へゆきわたっているが、この網様体の働き方の強弱によって、大脳皮質全体の活動が高まり、このとき感覚の信号があれば、初めて感覚あるいは知覚が起こって来るものである。また、大脳皮質の活動が高まった時に、運動領の細胞が働くと、そこではじめて運動と言う効果が表出されてくると言われている。
 しかし、脳幹の網様体はそれ自身だけで働きを起こすものではなく、これを働かすものは、末梢から送られてくる感覚性のインパルスが大脳皮質に到達する途中で、感覚性神経路より枝分れした分枝を伝わって網様体に流れこみ、網様体を賦活する。その結果、大脳皮質の活動水準が高められる。故に我々の意識の水準を支配している仕組みは脳幹部の網様体の働き方如何であって、その活動の根源は網様体に流れこむいろいろの感覚性インパルスである、と言われている。
 この働きの起こる中脳、橋、延髄にわたってある網様体を総称して、意識の水準をコントロールする所として網様体賦活系と呼んでいる。
⑦大脳――大脳は脳の約80%を占める最も大きい部分で、皮質は灰白質から、髄質は白質からなり、髄質の中には神経細胞の集合である大小さまざまの核がある。
 大脳を大きく分けると、大脳半球、大脳核、間脳(脳幹の方に入れて言う事もある)になる。
 間脳、大脳核については⑤間脳の所で概要を述べたので、ここでは大脳半球についてのべてゆく。
 大脳は中枢神経系のうち最も発達した部分で、約140億の細胞からなり、脳脊髄の最上位に位置し、頭蓋の大半を満たしているほぼ半球形の臓器で、縦裂によって左右の両半球に分かれているから大脳半球と言われ、縦裂の底にある脳梁と言う白質によって左右が連絡されている。
 半球の表面には複雑な形をしたしわがあり、しわの山の部分を大脳回と呼び、谷の部分を大脳溝と言う。
 この回と溝との大部分にはそれぞれ名前がつけられており、大脳溝のうち大きなものは中心溝と側大脳裂で、これによって大脳は、中心溝を境として前の部分を前頭葉、中心溝より後で側大脳裂の後下方の部分を側頭葉、半球の後突出部を後頭葉と言う様に、幾つかの部分に分けられている。【参考図D-26】
〔参考図 D-26〕大脳

〔参考図 D-26〕大脳

 人間ではとくにこの大脳半球がよく発達し、ここでは単なる感覚の受け入れや運動の発令だけでなく、記憶、判断、推理、意志、感情等の高等な精神活動、すなわち私たちの知的な心の働きを主に営なんでいる。いわゆる理性の働きはここである。
 大脳半球の表面は神経細胞が沢山集まった灰白質の層で、大脳皮質と呼ばれ、それより内側に白質がある。
 大脳皮質とそれ以外の灰白質(大脳核・小脳・脳幹・脊髄)とを結ぶ投射線があり、それらの出発点と到着点とは違っているが、いずれも途中で集まって内包と言う部位を通っている。
 また大脳半球皮質の同側の2点間を結ぶものもあり、これを、連合線維、左右の大脳半球の相対部を結ぶものを交連線維と呼び、その内、特に重要なのは大脳皮質の大部分の左右の連絡をいとなむ脳梁と呼ばれる強大な白質板である。なお、脳梁の下方にあり、視床下部の乳頭から海馬旁回の先端の鈎にいたる弓状の一対の白質の束を脳弓と言う。
 脳梁と脳弓との間に、左右側脳室の内側壁の一部である一対の薄い板からなる透明中隔と呼ばれるものがある。
 これら白質の中にもまた細胞の集団である大きな灰白質のかたまりがありこれを大脳核(大脳基底核)と呼んでいる。
 大脳皮質がわれわれの高等精神機能を行うと共に、意識の宿る所であるがこの様な機能(官能)は皮質全体にわたって一様に営なまれているのでなく、特定の機能は特定の部位に局在していると言う特徴がある。すなわち皮質の各部がそれぞれ特定の役割をなしており、身体末梢の特定部位と大脳皮質領とは点対点の対応関係にあると言う機能局在がある。これを大脳皮質における局在の法則と言う。それぞれの機能の行われる部位を中枢又は領域(領野)と呼んでいる。【参考図D-27、D-28】
〔参考図 D-27〕運動中枢の局在を示す図

〔参考図 D-27〕運動中枢の局在を示す図

〔参考図 D-28〕体性知覚中枢の所在を示す図

〔参考図 D-28〕体性知覚中枢の所在を示す図

大脳皮質の諸中枢の主なものは次のとおりである。
㋑運動領――中心溝の前方の部分(前頭葉の中心前回とその附近)で、意識的な筋の運動(随意運動)の中枢である。従って錐体路系の起始神経元の細胞体はここに存在している。
㋺体知覚領――中心溝の後方頭頂葉の前縁部分(中心後回とその附近)で、主として皮膚の知覚を受け入れる所である。
㋩視覚領――大脳半球の内側面で後頭葉に鳥距溝と言う溝があるが、その周囲の部分。
㋥聴覚領――外側溝に面した側頭葉の一部。
㋭味覚領――側頭葉の内側面にある海馬旁回にあると言われているが、正確にはわかっていない。
㋬嗅覚領――これも海馬旁回で味覚領の近くにあると言われている。
㋣連合領――以上㋑~㋬まで記したものは何れも第一次的な単純な中枢である。すなわち運動領と言ってもそれは単に各個の筋を収縮させるだけの中枢で、複雑な調和のとれた運動はさらに高次の中枢によって支配されている。また、体性知覚領でも何かに手がふれたとしても、ただ、何かがふれたと言うだけでそれが何であるかを判断するまでにはいたらない。
 視覚領、聴覚領でも同様で、ただ物が見える、音が聞えると言うだけで、見えるものが何であるか、聞えるものが何であるかと言う事を知り分ける事は出来ない。実際にはこれらの一次中枢の上に二次、三次等々のより高位の中枢があって、手にふれたものが何であり、見えるものが何であり、聴える音が何であるかを判別して、より高度な、より複雑な運動や知覚や精神活動が行われている。しかし、これらの高位な中枢の種類や、位置、範囲等についてはまだ余り詳しくわかっていない。そこでこれらの中枢を総合して連合領(連合野)と言っている。
 大脳皮質の内、運動領や知覚領等の占める部分は約1/3で残りの大部分は連合領と云われ、高等な精神活動を営む所であるが、連合領は運動領、知覚領のみでなく、連合領自身の内部とも神経線維を連結して、判断・記憶・意志・思考等の複雑で高等な作用を行っている。
 大脳内の伝導路は、大別して①遠心性のものは運動領から錐体路へ、②求心性のものは視床から知覚領へ、が2大幹線である。(細部は他の機会に)
 連合領に属する高次中枢の一例として、言語中枢があげられる。これは運動性(前言語野・上言語野)視覚性(後言語野後方)、聴覚性(後言語野)の3中枢に分けて考えられる。これらについてのべて見よう。
「下前、前頭回の後部の前言語野に、運動性言語中枢(ブローカの中枢)があるが(上言語野は前言語野に対し補助的に働く)、この部分は意味のある言葉を発音するのに必要な総合運動を支配するもので、この中枢に故障が起ると他人の話す言葉はよく理解出来るが、自分で意味のある言葉の発音が出来なくなる運動性失語症になる。しかし、各個の筋もそれを動かす一次中枢も健在であるから、何かなしの音を発する事は出来、また、同じ筋を使う呼吸・嚥下・咀嚼の各運動等はおかされない。
 聴覚領の上部に後言語領があり、ここに聴覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)があるが、これは聞いた言葉の意味を理解する中枢である。故にその機能が停止すると、聴覚性失語症と言って言葉は聞えてもその意味を理解することが出来なくなる。
 最後に視覚性言語中枢と言うのは、前記聴覚性言語中枢の後上方、すなわち、頭頂葉の前下隅にあり、この中枢は文字を見てその意味を解する所で、その作用がなくなると失読症と言って、文字は見えても、その意味を解する事は出来ない。
 この様にして、言葉が話されたり。聞いたり、読んだりして理解されるのである。これ等の中枢がうまく働く事によって完全な言語運動が行われているが、おそらく、これら3中枢を統合する、さらに高次の中枢が存在しているのであろう。しかし、その詳しい事はまだ十分に理解されていない。
 大脳辺縁系――大脳皮質にも、発生的に古い部分と新しい部分とがあり、新しい皮質と古い皮質とに分ける事が出来る。
 魚類や両棲類ではほとんど古い皮質ばかりで、新しい皮質は、はちゅう類あたりからはっきりして来ている。ところが、人間では新しい皮質が大部分(90%)を占め、古い皮質は大脳の底部や大脳半球の中におしこめられている。
 新しい皮質とは、基底核と視床を合せて新皮質系と呼び、これに対して古い皮質とは視床下部と幾つかの核を合せた部分すなわち、左右大脳半球を結合する脳梁をとりまく部分、これを大脳辺縁系と呼んでいる。
 この古い皮質は旧皮質と古皮質、及び中間皮質に分ける事が出来る。
 旧皮質とは大脳半球の底面に押しやられ、嗅脳と呼ばれている部分で、この嗅脳が海馬旁回に移行している部分を梨状葉と名付けている。
 古皮質は海馬体と透明中隔からなっているが、海馬体は海馬旁回の内部にかくれている。
 中間皮質は新皮質と古皮質との間にあり、新皮質と旧皮質の中間の細胞の構造配列をもっている部分で、帯状回や海馬旁回等がそうである。
 この大脳辺縁系は、少なくとも生きると言う事を支える神経機構の座であると言われ、自律機能に対して非常に大きな影響を及ぼす所である。
 自律機能の中枢は、従来視床下部にあると言われていたが、視床下部よりさらに上位にある大脳辺縁系が視床下部の働きを調整していると言われる様になった。それは大脳辺縁系は食欲、性欲、睡眠欲等の本能的な欲求や、喜怒哀楽や動物的な快・不快・満足・不満足等の感情、ないし情動と表現される感覚に関する本能的な欲求行動の発現にかかわる神経機構であるためである。
 すなわち、われわれが命を保つに直接必要な基本的な心の働く所である。
 大脳辺縁系の中には本能や情動の座と、内臓の働きを調整する中枢とが同居していると言う事は、心と身体の結びつきを考える上に大切な事である。
 これに反して新しい皮質は、人間の精神機能をよりよく、より能率よく生活する人間として、社会的に生きるための高等な精神作用の場である。中でも額に近い前頭葉は、人間が前向きに、独創的に生きるに必要な意志・計画・想像等の働きをつかさどる。
 人間が万物の霊長と称され知覚のある営みが出来るのは、大脳辺縁系(古い脳の系)の命ずるまま、すなわち本能のまま動いている動物と違って、新しい皮質によって本能や肉体の手綱をとる能力をもっているからである。
 赤ん坊の時には、新しい皮質の働きはまだ充分行われていないが、古い皮質はすでに活動をはじめている。大体3才頃までに新しい皮質の知覚と判断をする脳細胞の配線が出来あがってくる。俗に「3ツ子の魂、百まで」と言われるが、脳生理から見てももっともな事である。
 人間は生まれた時から、脳の神経細胞の数は大人みたいにちゃんと揃っている。しかし、それだけでは人間らしい心の働きは発動しない。これらの細胞から多くの神経線維が発達してきて、周囲の細胞とからみ合い、細胞同士の間に配線が出来る事が必要なのである。この様な配線が進むにつれて、知能が発育するもので、配線が複雑微妙にうまく出来ている人ほど、頭がよいと言う事になる。
 大脳辺縁系で渦まいている本能的エネルギーは、それ自体が動物的であるが、単に動物的であると言う理由で否定される可きでなく、人間が逞しく生きるための原動力となるものである事を知り、如何にして人間的に高等な、エネルギーに振り替えていくかを考えるべきである。逞しい生命力を育むと共に、それをより高度な目標に向かって活用出来る様に努力すべきである。
 要するに、知・情・意とこれを支え補っている気カや直感的な心、それらの土台になっている体力、これらすべてが調和のとれた発達をする様に方向づけなければならない。
 古い皮質の直感的な働きがにぶると自動調整や反射がにぶり、交通事故や職場での災害をおこし易くなる。
 自発的に未来に希望を見出して、計画を立て、それを自分に応じた形で実現していくのは新しい皮質の前頭葉の働きである。
 ものを覚える働きは新皮質の側頭葉と古い皮質の海馬との2つとされている。理屈抜きで本能的、直感的に覚える、また、体験を通じて覚えるのが海馬で、知識として考えて覚える時に働くのが側頭葉である。海馬で覚えた事は消えにくく、側頭葉をとおるものは忘れ易いと言われている。すなわち体験による印象は、知的に習い覚えたものよりも、ずっと強烈で忘れ難いのもこのためである。
 要するに、ここで大切な事は、古い脳の系は情動に関係があり、同時にこの系の中にある海馬等は記憶のからくりと深い関係があると言う事で、快・不快等の情動と記憶の間にも深いつながりがあり、多くの事柄は情動を伴って記憶されると考えてよいことである。すなわち、情動を伴った記憶ほど忘れ難いと言う事である。ここに、単に記憶する事と、俗に言う会得する事との神経機構的な違いがある。会得するという事の意味を認識してもらいたい。
 中枢神経機構を人間の行動(運動)面から見ると、「脊髄と脳幹は反射運動の」、「大脳辺縁系は情動運動(本能運動の」、「新皮質は随意運動の」各々の神経機構であると要約出来る。
(次回は脊髄および末梢神経について)
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月刊ボディビルディング1975年3月号

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