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なんでもQ&Aお答えします 1980年2月号

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月刊ボディビルディング1980年2月号
掲載日:2019.08.26

野球の補強運動としてのウェイト・トレーニングのやり方

Q 僕は高校一年生です。学校では硬式野球部に入っていますが、基礎体力を強化するために自宅でウェイト・トレーニングを行なっています。ウェイト・トレーニングの経験は8ヵ月です。現在は下記の基本的な6種目の運動を1日おきに週3日のペースで行なっています。

<トレーニーングスケジュール>
記事画像1
 そこで質問があります。

〈1〉今の時期は野球部の練習があまり激しいものではないので、ウエイト・トレーニングの方は上記のスケジュールでも体力的にさして負担になりません。しかし、これから先、野球部の練習が今より激しくなった場合、ウェイト・トレーニングの方はどのような方法で行うようにしたらよいでしょうか。少しくらいの体力的な負担になるとしても、今のようなトレーニング・スケジュールを押し通すほうがよいでしょうか。それとも、トレーニングの内容を軽減して行うようにしたほうがよいでしょか。

〈2〉全身的なパワー(瞬発力)をつけたいのですが、それにはどのような運動を行うようにしたらよいでしょうか。

〈3〉グリップと手指の力を強化したいのですが、そのための運動をいくつか教えてください。

<現在の体位>
記事画像2
(静岡県 K・H 高校生 16歳)
A 適切な方法でウェイト・トレーニングを行うことは、野球によらず何のスポーツにとっても身体を補強する面でプラスになります。しかし、適切さに欠く場合には体調をくずす原因にもなり、かえってマイナスになることもあります。したがって、あなたもそのへんのところを十分に留意して、ウェイト・トレーニングを続けるようにしてください。

 それでは、〈1〉の質問から順にお答えすることにしましょう。

〈1〉結論から申しますと、体力的に負担を感じる場合には、軽減して行うにようにする必要があるといえます。厳密にいえば、野球とウェイト・トレーニングとでは運動としての性質が異なり、したがって、それによってもたらされる疲労のかたちもいく分違ってくるということがいえると思います。ウェイト・トレーニングを野球のようなスポーツの補強運動として行なっている人たちの中には、理由として、ウェイト・トレーニングを野球のようなスポーツと切りはなして考え、かなり無理をしている人もいるようです。しかし、疲労のかたちがたとえ違っていたとしても、その疲れたからだを回復させるための身体のしくみから考えれば、両者を身体運動として同一の観点からとらえるようにしなければなりません。

 つまり、より有酸素的、より無酸素的、より全身的、より局部的とった運動の相異による疲労のちがいがたとえあったとしても、疲労したからにはそのかたちのいかんを問わず、疲労の解消は、疲労を解消するために関与するあらゆる内臓器官を含めた、全身的な生理の問題としてとらえるようにしなければならないということです。

 以上に述べたような理由によって野球の練習がより激しいものになっていけば、運動としての性質がいくぶん違うにしても、オーバー・ワークにならないためには、ウェイト・トレーニングの内容を軽減する必要性も生じてくるということが理解いただけると思います。

 ことにあなたの場合は、運動としてはなんといっても野球の練習の方が大切なわけですから、疲労が身体にとどこおるようならば、必然的にウェイト・トレーニングの方を軽減しなければならないということがいえます。

〈2〉全身的なパワーをつけるには、いろいろな運動種目によって多角的に身体を鍛練することも必要ですが、直接的な方法としては、次のような運動を行うとよいでしょう。
〔ハイ・クリーン〕

〔ハイ・クリーン〕

〔リストローラー・エクササイズ〕

〔リストローラー・エクササイズ〕

(a)ハイ・クリーン

<かまえ>
両足の甲の上にバーベルのシャフトが位置するように立ち、腰と両膝を屈して、肩幅よりもやや広い間隔でシャフトをオーバー・グリップで握る。このとき、腰の位置が肩よりも高くならないように注意して背の下部と腰を反らすようにする。なお、両足の間隔は、肩幅かそれよりもやや狭いくらいがよい。〔写真参照〕

<動作>
力が腕と肩に片寄らないよう留意して、脚と背と腰の力を十分に使ってバーベルを顎のあたりまで一気に引き上げ、引きあげたなら、連続した動作で、腰を少しおとし、腕と手首を返して肩の前で受けとめる。おろすときは、バーベルをいったん大腿部の前へおろし、次いで、落ちついた動作で、上体を前傾させながら脚を屈して下までおろす。バーベルを引きあげるときと同様に、おろすときも、背の下部と腰をできるだけ彎曲させないように留意する。

(b)スクワット・ジャンプ

<かまえ>
スクワットの場合と同様にバーベルを後ろ肩にかつぐ。このとき、シャフトが頸椎に当たらないように留意する。

<動作>
スクワットの状態(しゃがんだ姿勢)から瞬発的に上方へジャンプする。無理な重量を使うと危険。着地のときにバーベルの衝撃で顎を痛めることがあるので、跳びあがっておりるときに、バーベルが肩から浮かないように留意する。

〈3〉グリップを強化するための最もポピュラーなものとして、次のような運動があります。

(a)リストローラー・エクササイズ

<動作>
リストローラー(おもりが付いているひもを棒にくくりつけた形状の器具。ダンベル・シャフトとプレートを利用したものでもよい)を上腹部の前あたりで保持し、両手を交互に動かして棒を廻し、ひもの先端についているおもりを巻きあげる〔写真参照〕この運動は単に、グリップのみではなくリストの強化にも効果がある。ただし、おもりを内側に巻きあげる場合と、外側に巻あげる場合とではいくぶん効果が異なるので、できれば双方とも行うようにするのがよい。

 次にグリップと手指の強化の双方に有効と考えられる運動を紹介します。

(b)ピンチ・グリッピング・フラット・エッジ

<動作>
複数のプレートを平らな面を外側に向けて床の上に合わせ立てそれを上方から手指で挟んで床から浮かす。比較的大型のプレートを2枚使って行なったり、または、軽量のプレートを3枚以上使って行なったりするとよい。

 では、最後に手指を集中的に鍛錬することができる運動を紹介します。

(C)フィンガー・プレス

<動作>
壁に両手をついて寄りかかり指の力によって体を突き離すようにする。両腕は伸ばしたまま、指の先に意識を集中して行うようにするとよい。なお、足の位置と壁との距離によって手指にかかる負荷を調節するとよい。

ベント・アーム・プルオーバーの正しい運動法

Q ボディビル歴1年8ヵ月、自宅で1人でトレーニングしています。1ヵ月ほど前から、上体を強化するためにベント・アーム・プルオーバーを採用していますが、いまだに運動のやり方がしっくりきません。それほど無理な重量を使用しているわけではないのに、回数が進むにつれて肩がはずれそうになります。このようなことになるのは先天的にからだの構造に何かの欠陥があるからでしょうか。それとも、運動のやり方に誤りがあるためでしょうか。
 なお、今までに肩の脱臼はおろか亜脱臼さえしたことはありません。

(神戸市 坂田輝雄 会社員 22歳)
A あなたの骨格を実際に診たわけでもなく、また、運動を行っているところを実際に拝見したわけでもないので、あまりはっきりしたことはいえません。したがって、推測によって意見を述べさせていただくことにします。

 ベント・アーム・プルオーバーを行うと肩に異常を感じるといった話はよく耳にすることです。そして、そのようなことの原因は、多くの場合、からだの構造に問題があるというよりは、運動のやり方に問題があると思われます。そこであなたの場合も、一応は運動のやり方に問題があるものと仮定して、参考までにベント・アーム・プルオーバーをより安全に行うための注意事項について、述べさせていただくことにします。

 ベント・アーム・プルオーバーで、肩に異常を感じるのは大方の場合、バーベルを床の方へおろしたときに肩の関節に不当な負荷がかかることによります。したがって、肩に不当な負荷がかかるようであれば、以下に述べることがらに留意して運動を行うようにされるとよいでしょう。

(1)バーベルを床の方へおろした時に、左右のグリップの間隔より両肘の間隔の方がきょくたんに開きすぎてはいないか。

 バーベルを床の方へおろすときに、両肘の間隔が左右のグリップ間隔よりもきょくたんに開きすぎると肩の関節が逆をとれれたような感じになるので、肩の関節に不当な負荷がかかるようになる。

(2)バーベルを床の方へおろすときに、左右の上腕筋の内側(上腕二頭筋と上腕三頭筋の隣接する部分)が内方向よりも上方に向いていないか。
 
 左右の上腕部の内側が上方へ向くと、結果的に両肘が開いた状態になり、脇が甘くなって肩の関節に不当な負荷がかかるようになる。
 したがって、バーベルを床の方へおろすときには、左右の上腕部の内側できるだけ内方向へ向けるよう留意し、脇をしめるような感じで運動を行うようにする。

ボディビルを始めて行う人のために

Q 私は一年ほど前から貴誌を購読していますが、自分自身はまだボディビルの経験はありません。やりたいと思ってはいるのですが、時間的に余裕がなくて、できませんでした。しかし、これからは時間的な余裕も少しずつできてくると思うので、かねてから念願のトレーニングを始めたいと考えています。

 そこでボディビルを始めるに当たってお伺いしたいことがあります。ちなみに、私の体位は下記のとおりですが質問の事項を箇条書きにしますのでよろしくお答えください。

◎現在のからだのサイズ
記事画像5
◎質問事項

〈1〉トレーニングは自宅で、1人で行うつもりですが、さしあたって器具をどのようにそろえたらよいでしょうか。

〈2〉開始時間における妥当なトレーニング・スケジュールについてご指導ください。

〈3〉仕事でかなり重いものを片手にぶら下げて持ち運びしますが、そのような力を強化するにはどんな運動を行ったらよいでしょうか。

〈4〉第2段階におけるスケジュールの内容と、その実施時期についてお答えください。

(山口県 大貫 芳明 店員 23歳)
〔サイド・ベント〕

〔サイド・ベント〕

〔ダンベル・シュラッグ〕

〔ダンベル・シュラッグ〕

A ボディビルを始めるからには中途でやめしまうことのないよう、気ながに続けて欲しいと思います。時間的な問題はやる気さえあれば、なんとか解消できるのではないでしょうか。
 では、体のサイズを参考にした上で順を追ってお答えすることにします。

〈1〉体のサイズから推測される、あなたの体力から考えると、さし当り器具を下記のようにそろえれば十分であろうかと思います。
記事画像8
〔註〕プレートは、ダンベルで使用する場合を考慮して、5kg以下の軽量のものを多くとりそろえ、しかも、1.25kgと2.5kgを必ず4枚ずつ用意する。また、ラックは、ベンチ・プレスとスクワットの双方に兼用できるものをそろえればそれに越したことはない。なお、腹筋台については有れば便利であるが、さし当たっては無理をしてそろえることもない。
〈2〉体のサイズから考えるかぎり、普通人としては水準の体力を所有しているものと判断できのるで、最初からいわゆる一般的は初歩スケジュールでトレーニングを行うようにしてもなんらさしつかえないでしょう。当分の間は、1日おき、週3日のペースで実施してください。
記事画像9
〔註〕各種目のセット数は、トレーニング開始当初は2セットが妥当。その後、トレーニングに慣れるにしたがって漸次3セットずつ行うようにするとよい。ただし、シット・アップに関しては、1セット当たりの反復回数が余りにも多い場合は、強いて3セットを行うようにする必要もない。

〈3〉ボディビルを仕事に活かすというのはたいへんよいことです。
 使用筋に関しては回答が煩雑になるので省略させていただくとして、該当種目について2、3紹介します。ただし、ボディビルの開始当初からそれらの運動種目を採用すると、トレーニングが過度になるおそれもあるので、第2段階のスケジュールにおいて採用されるのがよいと思います。

◎サイド・ベント

<かまえ>
片方の手のみにダンベルを持ち、両足を少し開いて立つ。ダンベルは、腕を伸ばして、大腿部の横にぶらさげるようにする。

<動作>
上体を左右、横へできるだけ深く屈曲し、また、伸展する〔写真参照〕。左手にダンベルを持てば右側、右手にダンベルを持てば左側の外腹斜筋を強化できる。

◎ワン・ハンド・デッド・リフト

<かまえ>片方の手のみにダンベルをぶらさげ、両足の間隔を余り広くしないようにして立つ。ダンベルは大腿部の側面よりもやや前方斜めの位置にかまえる。なお、左右のツマ先はいくぶん開くのがよい。

<動作>
腰を前方よりも気持ち斜め外側の方向へ屈するようにして、ダンベルを保持した手と同じ側のツマ先のあたりにおろし、おろしたなら腰を伸ばして元の姿勢に戻す。背の下部をできるだけ彎曲しないように留意して行う。そのためには、ダンベルをおろすときに膝をいくぶん屈するようにすると動作がやりやすくなる。

◎ダンベル・シュラッグ

<かまえ>
両手にそれぞれダンベルを持ち、両ももの横にぶらさげるようにして立つ。
〔写真参照〕

<動作>
腕を伸ばしたまま、両肩を上方へすくめる動作を行う。シュラッグとは肩をすくめるの意。単純に肩をすくめるだけでなく、前方から、あるいは後方から前後上下に廻すようにしてすくめてもよい。

〈4〉あなたの場合にかぎり質問〈3〉の趣旨を盛りこんだかたちで第2段階のトレーニング・スケジュールを考えてみることにします。ただし、採用種目を6種目かいきなり9種目にしないで、体力的に負担にならないように十分に配慮しながら、1種目ずつ漸次的に採用種目に加えるようにしてください。

<トレーニング・スケジュール>
(1日おき、週3回)
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 第2段階のトレーニングに移る時期的な問題としては、次のことがらを参考にしたらよいでしょう。

(イ)第1段階におけるトレーニングが体力的にかなり余裕を持って行えるようになった。
(ロ)個々の運動における正しいフォームが十分に身に付いた。
(ハ)体調が余りくずれることなく、長期的に割合安定したコンディションでスケジュールが消化できるようになった。
(ニ)ベンチ・プレスが正しいフォームで、体重の80%以上の使用重量で所定の回数・セット数を行えるようになった。
(ホ)スクワットが正しいフォームで、体重とほぼ同じ使用重量で所定のセット数を行えるようになった。

〔回答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生〕
月刊ボディビルディング1980年2月号

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