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ノドがいわいたとき、コーラやジュースや氷水よりも買って飲むなら牛乳

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月刊ボディビルディング1975年7月号
掲載日:2018.06.27
野沢 秀雄

〈牛乳は欠陥商品か〉

 いつものようにパラパラと夕刊をめくっていたら、「牛乳が栄養食品といわれているがウソだ。こんな常識は誰がつくったのだ」と大阪の某大学教授が意見を書いているではないか。

 その内容は「欧米人とちがって、東洋人や黒人は牛乳の中に含まれる乳糖(ぶどう糖とガラクトースが結合したもの)を分解する酵素を持っていない。だからいくら飲んでも下痢するだけで、体内に消化・吸収されない。だから牛乳を飲んで健康になるのではなく、かえって不健康になるのだ」といったものである。

 果たしてこの意見は正しいのだろうか。これが正しいかどうか、われわれスポーツマンにも愛飲者の多い牛乳について、今月は徹底調査をしてみよう。

〈日本人のうち4人に1人〉

 この教授によると日本人のすべてが「乳糖不耐症」といわれる牛乳不適合民族であるかのように書かれているがこれはまちがいだ。母乳にも牛乳と同じように100g中に約5gの乳糖が含まれ、赤ちゃんは乳糖を消化・吸収してグングン大きくなる。

 幼児・学童となるにつれ、母乳や牛乳を飲む機会がだんだん少なくなり、それに伴って、体内の乳糖分解酵素がなくなるが、これには大きな個人差がある。少しずつでも牛乳を飲み続けている人は、年をとっても酵素を持っている。とくに戦後は学校給食にミルクが出されるので、最近のヤングたちはよほど牛乳ぎらいで、アレルギーの者でないかぎり、まず平気だと考えてよい。アメリカやヨーロッパでは、牛乳や乳製品(チーズ・バターなど)が豊富なため、大人になっても牛乳で下痢する人はほとんど見かけない。

 では現実に、日本人の何%ぐらいが「乳糖不耐症」なのだろうか?新聞記事が載った翌日、私が関係する牛乳メーカーに電話で問合せたところ、日本人の場合、約25%、つまり4人に1人で、しかも年令の若い人は10人に1人ぐらいで、逆に年をとるほどこの率はふえてくるという説明であった。

 これを読んでいる読者の中で、不幸にも10人のうちの1人にあたっている人がいれば「お気の毒」というほかないが、心配することはない。方法はいくらでもある。
記事画像1

〈痛い失点もあったけれど〉

 牛乳について批判する意見はほかにもある。第一は「牛乳汚染」の問題だ
 ギュウちゃんが食べる飼料中に農薬BHCやDDT、あるいはPCBや抗生物質までが含まれ、これらの有害物質が濃縮されて、乳中に集まるという恐怖だ。実際に昭和45~46年ごろの牛乳には危険なβーBHCが0.3~0.9ppmという高濃度で含まれており、社会問題になった。
 だがいつまでも指摘されたまま放置していたのではない。各メーカーとも必死になって、無農薬の牛乳を集め、現在はなんと0.01ppm以下まで水準は下がっており、ほかの食品と比べて問題はなくなったといってよい。その気になればできるものだ。

 第二は牛乳にヤシ油を混合した「ウソつき牛乳」の問題だ。これは今から4年前におこった事件で、次のような背景があった。

 ギュウちゃんが動物である以上、どうしても牛乳が出る季節と出ない季節の差が大きく、牛乳メーカーは一年中フレッシュな生牛乳をパックすることができない。「夏バテ」でぐったり疲れるときはギュウちゃんも乳の出が悪く、しかもそんな夏の季節にこそ、牛乳の需要はピークに達する。このアンバランスを解消するために、乳業会社は春や秋のよく乳の出る季節に工場へ集荷し、乳脂肪を分離し、乳固形分(たんばく質と乳糖)をスプレードライ法で噴霧乾燥しスキムミルクの状態にしておく。

 夏の需要期に再び工場で配合して、もとの成分に調整し出荷するわけだがこの過程で、ヤシ油を一部分混合してしまったというわけだ。動物性の油脂にくらべて植物性の油脂はコレステロールを下げ、動脈硬化を予防し、若さを保つのに効果があるといわれ、ヤシ油はともかくとして、ライスオイルや小麦胚芽油などを混合すること自体決して健康上わるいことではない。正々堂々と「植物性油脂入り」と表示しこれを宣伝して売ればよかったのだ。

 ともあれ現在は、このような異なる脂肪を混ぜる操作はいっさいされておらず、分析すればすぐに判明する。それでも心配な人は「成分無調整」と書いてある牛乳を買えば、生牛乳をうすめただけの牛乳が飲める。

 以上のように、痛い失敗やイメージダウンはあったものの、牛乳はやはり牛乳。いいところが多いことを次にのべよう。

<本当はどうしても必要な食品>

 牛乳はプロティンスコア74のたんばく質を2.9%含んでおり、これが人間の成長発達に役立っていることは疑いのないところだ。アメリカから送られてきたスキムミルクのために若者の身長や体重など、体位が変化したことは間違いない事実である。

 だが実は牛乳にはもう一つ見落してならない重要なポイントがある。それはカルシウムだ。厚生省では日本人1日あたりに必要な栄養素の量を5年ごとに定めているが、「牛乳を国民一人ひとりが毎日1本飲む」ということを前提にして、すべての計算や計画をおこなっている。牛乳1本中に0.2gのカルシウムが含まれるので、1日の必要量の1/3はこれでまかなえることになっている。
「自分は牛乳をまったく飲まない」という人がいれば、早急にほかの食品をあたらないと「骨折しやすい」「疲れやすい……」といった不都合なことが次々とおこってくる。

 私が経験した例では、ある家庭の赤ちやんが牛乳アレルギーで、かわりに「豆乳」を与えて育てていたところ、骨がフニャフニャして、虚弱体質の子供になってしまった。豆乳にはたんばく質はあっても、カルシウムは1/7ぐらいしかないので、こんなときは小魚・豆腐・ごまなど、もしくはカルシウム剤を補強してやらないと、どうしても遅しい筋骨の発達はのぞめないのだ。

〈うまい方法〉

 牛乳で下痢をする人は次のようにするとかなりよい。

(1)冷たい牛乳を一度に飲むと腸が冷えて吸収されず、下痢をおこすので、暖めて少しずつ飲む。意外に少量から慣らしてゆくと下痢をしなくなることが多い。
(2)プロティンパウダーを飲むときは、カルシウムを強化したもの(1%程度)を用い、自分の好きなフルーツとまぜたり、ソーダで割るとよい。
(3)スキムミルクならいいと考える人がいるが、スキムミルク中には約50%の乳糖が含まれ、よけいに悪い。
(4)フルーツ牛乳やコーヒー牛乳を飲む人も多いが、たんばく質は1.8~1.9%で、しかも内容量は180ccしかないので、1本当り、純たんばく質は白い牛乳にくらべて40%も少ない計算になる。白の牛乳とカルピスやオレンジ、グレープとまぜると、はるかに栄養価が高く、しかもおいしい。
(5)またヤクルトジョワの新聞広告には「牛乳からの良質のたんばく質、外食で不足しがちのカルシウムが1日の必要量の1/3も含まれています」と書かれているが、これはひっかかりやすい宣伝で、決してたんぱく質は1日の必要量の1/3もあるわけではない。ジョアのたんばく質は、ヤクルト本社の広報室に確めたら、1本中に5.5g。ということは白1本の牛乳よりも少なく、とうてい1日の1/3どころではない。まちがいやすい表現は止してもらいたいし、われわれも見破らねばならない。いずれにしろジョワ系のものにも「乳糖」が多いので下痢する人は同じことだ。

 以上のように、牛乳に関して、いくらかでも賢明になれただろうか?最後に一言。これからの盛夏で、モーレツな暑さが続くが、コーラやソーダや氷水よりも、買って飲むのなら牛乳。安くて、しかも健康に役立ち、ふとる心配がないのだから絶対におすすめする。下痢しやすい人も、「だいじようぶ」と思って飲めばさほどでもない。同じ飲むなら牛乳、をモットーにしようではないか。
〔筆者は明治製薬食品事業本部勤務 栄養士〕
月刊ボディビルディング1975年7月号

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