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なんでもQ&Aお答えします 1974年1月号

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月刊ボディビルディング1974年1月号
掲載日:2018.07.12

「脊椎が分離している」といわれたがトレーニングは続けられるか

Q 現在腰を痛めて治療中の者ですが、アドバイスをお願いします。

 仕事中に約40kgの物を持ったとき、腰がギクッとなり、それ以来、からだを曲げるとすごく痛むのです。医者に診断してもらったところ、腰椎の下から4番目の骨が分離しているとのことでした。

 しかし、痛むのは骨盤と腰椎が接しているところから右へ約10cmの部分です。そのほか脚の裏の筋も痛みます。腰の痛みはその腰椎からくるもので、そのまま重いもので練習していると、その分離している箇所がすべり、背骨がずれ、やがて手術をしなければ治らなくなるといわれました。医師はまたこれは先天的なもので、たまたま腰がギクッとしたときに発見できたのだというのです。

 ところで、私はこれからも練習を続けたいのですが、いつかのボディビルディング誌で、セルジオ・オリバがコルセットをつけてトレーニングをしているのを見ました。これは果たして効果のあるものでしょうか。できたらこのような品物の購入法や、治療中、治療後の練習方法、および全体的なからだの保護対策をご指導ください。

(富山県・若林真琴)
A あなたのお手紙によりますと間違いなく脊椎分離症です。これは読んで字のごとく脊椎が分離しているわけですが、だからといって「もう何もかもダメだァー」と悲観することもありません。脊椎分離症の症状が軽ければ、なんと分離しているにもかかわらず、本人が全然気がつかないという場合も多いのです。

 この雑誌に載っているビルダーの中にも、脊椎分離症の人が案外いるかも知れません。マサカ!と思うでしょうが、本人が自覚していないのですからその可能性もまたあるということです。

 データによりますと、だいたい20に1人の割合で脊椎分離症を発見できるといわれています。したがって、ビルダーに限らず、一般の人の中にもこのような人は大勢いる計算になるわけです。そして、脊椎分離症なのに本人が気がつかずに、レスリングをしたりウェイトリフティングをしたりして、中にはそのまま一流の記録を出している人もいるのです。また一方では、この症状のためにトップの座からずるずると引き降ろされて、ついにはスポーツ界から消えていく運命の人が数多くいるのも事実です。

 スポーツマンと脊椎分離症とは昔から縁のある病気です。とにかく脊椎分離症と判った以上、気をつけるに越したことはありません。

 あなたが仕事中に腰を痛めたのは、脊椎分離症であったためのように感じられますが、本当はそうではなく、脊椎分離症は腰を痛める以前から存在していたものであって、あなたが腰を痛めたことと、脊椎分離症とは直接関係のないことだと私は思います。

 文面にも、たまたま腰がギクッとしたので発見できたと書いておられるように、あなたは自覚症状がなかったのですから、腰を痛めたときに撮ったレントゲン診断の結果、分離が発見されたのであって、決して分離していたからそのために腰を痛めたのではないと思います。

 ですから、腰を痛めたのに対して別の病名がなくてはなりません。それはビルダーで知らない人はいない、その名も有名な椎間板ヘルニアです。それがあなたの病名なのです。

 この病気は、腰椎と腰椎の間の軟部組織(軟骨板)の中の髄核が、それを囲む線維輪から飛び出して神経根を圧迫することによって痛みを感ずるのです。急性のヘルニアは症状が強く感じられ、腰痛だけではなく坐骨神経痛をともない、さらにその痛みは下肢へと放散する場合もあります。

 あなたの手紙の内容では、数日間の絶対安静が必要だと思います。普通、ヘルニアは髄核が線維輪から脱出することをいい、その手前の状態をギックリ腰というのです。したがって、本当はギックリ腰と椎間板ヘルニアは同じものではないのですが、ほとんどの人が同じものだと思いこんでいます。

 椎間板ヘルニアの場合も、椎間板の損傷や線維輪の一部断裂だけなら手術しなくても治りますが、脚の裏まで痛むというのは相当重い症状だと思いますので手術の必要があるのではないかと考えられます。もっとも手術をするか、しないかは医者の考えることですが、お手紙の内容では、多分強度の椎間板ヘルニアのようです。しかし最悪の場合でも、手術さえすればほとんど完全に治ります。
 さて、話を変えてもう一方の脊椎分離症に戻します。

 たしかに分離した部分が滑って背骨がずれて手術をしなければならないこともありますが、それは脊椎スベリ症というまた別の病名の場合であって、たんに脊椎分離症で、痛みがなければ手術の必要はまったくありません。

 では分離症がスベリ症にまで進んでいくかというと、その可能性もありません。分離症で痛みのある場合には、血液の循環を良くするために軽いトレーニングをすることです。痛みがなければとくに気を使うこともないでしょう。いままでどおり練習を続けてもよいのです。コルセットをする必要もありません。ただしいま述べたのは、現在痛みのある椎間板ヘルニアが治ったあとは脊椎分離症の方は気にしないでトレーニングしてもよいと説明しているのですから間違わないでください。

 痛くもないのにコルセットをするのは血液の循環を悪くするだけです。腰痛のコルセットは固定を目的とし、トレーニングのコルセットは固定ではなく発汗促進を目的としているのです。したがって、材料もスキン・ダイビングのときに使用するようなウェット・スーツの素材で作られています。

 このように使用目的がまったく違うのですから、トレーニング用のコルセットはあなたになんの益もありません。いまあなたに必要なことは、1日も早く椎間板ヘルニアを治す努力をすることです。完全に治ったら、またトレーニングが楽しくできることでしょう。そのときには、練習スケジュールの中に背筋を鍛える種目として、バック・エクステンションを加えてください。そうすれば再び腰を痛めることも少ないでしょう。

練習で腰を痛めたが再発するか

Q スクワットのトレーニングをやり過ぎて腰のうしろ側を痛め、医者から腰部筋筋膜症と診断されましたが、これはギックリ腰とは違うのでしょうか? なおってからまたスクワットをやった場合、再び腰を痛める心配はないでしょうか?よく、一度痛めるとなかなか完全にはなおらず、ちょっと強い運動などをやった場合に再発するという話を耳にしますが。   (岡山県・妹尾)
A ボディビルを実践している人のほとんどが、必ず一度は経験するといってもよいほど多い障害がこの腰痛で、初心者、上級者の差別なく、いつでも、どんな時でも襲ってくる嫌な障害です。そして症状が重い場合はそのままボディビルを続行することができないこともあります。

 では、200kgぐらいの重量でスクワットができるような人なら絶対に腰痛が起こらないかというと、そうではなく、初心者よりはいくらか率は低いがやはり安心はできないのです。ただ、同じ腰痛になった場合でも、初心者は重症であっても、よく背筋の鍛えられた上級者は軽症で済むというケースは充分考えられます。

 腰痛を起こしやすいトレーニング種目は、スクワットとデッド・リフトですが、それ以外のなんでもない種目で痛めることも案外あるものです。あなたの場合はスクワットのトレーニングをやり過ぎたと書いてありますが多分腰を痛めた日のトレーニングだけが、いつもよりセット数が多かったのではないかと思います。

 腰部筋筋膜症は、腰の筋肉が疲労して活動能力が弱まって筋や筋膜が障害を起こしたもので、ギックリ腰(椎間板ヘルニア)は脊椎の骨と骨との間の軟骨がずれて、神経根を圧迫する症状です。ですから腰部筋筋膜症とギックリ腰とは別のものです。

 筋膜症は普通トレーニング不足で急に過激な運動をしたときによく起こります。また、トレーニング不足でなくても、筋肉疲労時に何度も何度も同じトレーニングをすると、筋や筋膜が耐えきれずに起こる症状です。なお、筋膜は筋肉表面をカバーしているものですから、筋膜症とは筋と筋膜の両方のことなのです。

 筋膜症が進行すると筋肉の断裂になります。この場合は、切れた筋肉の端をつなぐ手術をしなくてはなりませんが、普通、スクワットで筋断裂等はあまり考えられないのでそれほど心配することはありません。ギックリ腰の重症よりも筋膜症の方が完治が早く、なおればまた元に戻りますからクセになることもないでしょう。

 治療の方法としては、思いきってボディビルのことを忘れて1週間ぐらい練習を休んでのんびりすることです。なにもしなくても、1週間の日数が自然となおしてくれます。あせってまだ完全になおっていないうちにトレーニングを始めると、かえってなおりが遅くなります。

 今後のトレーニング方法としては、とくにスクワットの練習には充分注意し、セット数を少なめにするとともに軽いウェイトからはじめて順に増量していくようにしてください。その後セット数も体調に合わせて、あせらずに少しずつ増量していくようにすればよいでしょう。

肩幅を広くするには

Q 私は肩幅が狭く、しかもなで肩で、他の人と並んでも何か細く見えて劣等感を感じています。ボディビルを行うことによってなおすことができるでしょうか。できるとしたらどのような種目をどのようなスケジュールでやったらよいのでしょうか。    (東京・山本昭夫)
A あなたのお手紙を読むと、ただ肩幅だけを広くすればそれで目的が達せられるようにとれるのですが、ほんとうは、肩幅だけが狭くて劣等感を感じるのではなく、全体的に劣等感を感じるような体格でとくに肩幅が狭いから広くしたいのではないでしょうか。

 もしそうでしたら、肩幅を広くするための運動だけでなく体全体を鍛えるべきで、肩幅だけを広くしようとするのは変で、また消極的な考え方です。体の一部分だけを大きくしようとするよりも全身をトレーニングして、そのうえでとくに肩に重点を置いて鍛えることが結局は一番早く肩幅を広くさせることになるのです。しかし、トレーニングをしてある程度の発達があったとしても、トレーニングをやめてしまえばいつかは元に戻ってしまうのです。なければならないという理屈になってしたがって、あなたが希望するような肩幅になれるかどうかはあなた自身の努力にかかっているといえます。これを前提として、具体的なトレーニングの方法について話を進めましょう。

 肩幅を広くする種目としてはバック・プレス(首のうしろ側で肩から頭上ヘバーベルをあげる)が最も効果があります。この他にもスタンディング・ラタラル・レイズやダンベル・プレス等数種目ありますが、バック・プレスが効果という面では群を抜いているといえます。

 練習を毎日するのは逆効果で、1日おきに他の種目より3〜4セット多く消化するぐらいが適当でしょう。余力があればオールターニット・ダンベル・プレス(両手にダンベルを持って、肩から交互に挙げる)を3セットほどすれば充分だと思います。

 バック・プレスは背筋が弱いと腰を痛めることがありますので、とくに、ウェイトリフティング式のフロント・プレス等は初心者には禁物です。バック・プレスをするためには背筋を強化しなければならず、背筋を強化するためには足、腰を鍛えるスクワットが強くなければなりません。このような循環をくり返せば最後は結局全身を鍛えなければならないという理屈になってしまいます。

体重と手首を発達させたい

Q 私は19才の学生です。6カ月前からウェイト・トレーニングを始め、部分的には発達しましたが、どういうわけか体重がほとんど増えません。それと手首が太くならないのです。

 現在の体格は身長160cm、体重48kg、胸囲84cm、前腕囲25cm、上腕囲28cm、手首囲14、5cmです。トレーニングはベンチ・プレス、ツーハンド・カール、アップ・ライト・ローイング、シーテッド・プレス、スクワットの6種目でスケジュールを組んでいます。体重を増やし、手首を太くする方法を教えてください。   (大阪府・T・T)
A まず体重増加の方法ですが、一番早く体重を増加させるには大腿を太くすることです。上半身を鍛えて体重を増やすのはなかなかたいへんで日数を要しますが、その逆に下半身を発達させると、面白いように体重が増えてきます。とくに、初心者のうちはこの傾向が強くあらわれます。そのためには、スクワットを1日おきに5〜7セットぐらいしなければなりません。スクワットはボディビルの運動の中でも最も苦しい種目の1つで、どうしてもみんなに嫌われているようです。しかしその効果は大きく、たんに下半身を発達させるだけでなく、胸廓を広げ、心肺機能の向上にも役立ち、それがすべてのトレーニング効果の起爆剤として作用するのです。このような意味から、スクワットは下半身のトレーニングであると同時に全身運動なのです。

 初心者ならスクワットは3セットで充分ですが、あなたがより以上の効果を望むのでしたら3セットでは少なすぎます。さっきも述べたように5〜7セットが必要です。それもあまり軽い重量ではだめです。ボディビルは決められた練習量を消化していれば自然に体が良くなるのではなく、次第に運動強度を増やしていかなくては発達しないのですから、たとえ2〜3年のボディビル歴があっても、最初からずっと同じようなトレーニングを続けていたのでは発達も遅く、体重増加もあまり期待できません。

 あなたのお手紙のスケジュールを見ますと、スクワットが一番最後に書いてありますが、もしこの順序でトレーニングしているのでしたら、これからはベンチ・プレスの次にスクワットをやるようにしてください。始めのうちにスクワットをしないと、より大きな効果は出てきません。

 それからスクワットと同様に体重増加に重要な種目としてはシット・アップがあります。ぜひスケジュールに付け加えてください。シット・アップは冬期なら多少汗ばむくらいまで頑張ってみてください。ボディビルは体質によって発達度合が大きく左右されますが、それでも身長から100を引いた体重までなら大体だれでも到達可能だと思います。あなたの場合は、現在48kgですから160−100=60、つまり60kgを第一目標としてください。しかし、トレーニング次第ではもっともっと増加しますので、あきらめずに頑張ってください。

 もう1つのご質問の手首を太くする方法ですが、結論を先にいいますと、手首を太くする方法はないということです。逆にいえば、どんなにトレーニングしても手首は太くならないということです。たとえ太くなったとしても1〜2cm程度です。

 手首の細い人は一般的にそのほかの骨格も細いのですが、このような人ほど筋肉が発達すればプロポーションが美しく感じられるものです。手首の太さは先天的なものですから太くすることはあきらめてください。それよりもリスト・カールをして前腕を太くすることをおすすめします。細い手首に太い前腕は非常に美しく見えるものです。美的感覚の点から考えても、手首の太さに固執するのは不自然です。また、手首が細ければそれに比例して筋力も弱いかといえば、決してそのようなことはありません。

 あなたの身長160cmから見て14、5cmの手首は特別細過ぎるものではありません。そして前腕囲25cmは一般の人よりも太く、上腕囲28cmも日本人の平均上腕囲とほとんど同じサイズなのですからそれほど気にする必要はありません。むしろ半年間のあなたのトレーニング効果は充分あったのではないかと思います。そして今後一層の努力によって一段とサイズ・アップさせてください。

 手首や足首の細い、いわゆる骨細のタイプで成功した人にミスター・ユニバースのフランク・ゼーンがいます。彼は世界トップ・ビルダーの中で最もプロポーションの美しいビルダーといわれていますが、手首は非常に細く、それが長所となっているのです。あなたも体重さえ増やせばきっと美しいプロポーションの持主になれるでしょう。

正しい呼吸法は

Q ボディビルにおいての呼吸法は、力を入れるときに息を吸うのか、吐くのか、それとも息を止めたままなのが正しいのか、正しい呼吸法を教えてください。
(群馬・石井隆一)
A ボディビルの呼吸法については、力を入れるときに吸っても、吐いても、あるいは止めていてもよいといわれています。指導者によっては、ごく自然に呼吸すればそれでよいという人もいます。しかし私は呼吸の仕方によってトレーニングの効果が大きく左右されると思っています。果たして力を入れるとき息を吸っても吐いても同じなのでしょうか?生理上まったく正反対の動作をしているのに、どうでもよいとは考えられません。体験上からもバーベルを挙げようとしている場合、息を吸いながら力を出すことは難しく、一番筋力を出しやすい状態は息を一瞬止める(怒責作用)ときで、次が息を少しずつ吐きながらのときです。

 現在では怒責作用も害があるとの説と、害はないとの説があってはっきりしません。しかし私は心臓や内臓諸器官に疾患がある人にはよくないが、一般健康人にはとくに有害だとは思いません。ボディビルに対する偏見の第一にあげられるのがこの怒責作用ですが水泳や100mスプリンターたちの怒責もほとんど変わらないのに、ボディビルに関しては医学関係者までが特別視しているのではないかと、ひねくれるのは私1人ではないでしょう。

 ですから特別怒責作用を神経質に考えることはありません。いったん吸いこんだ息を少しずつ吐きながらバーベルを挙げるか、バーベルを挙げ切ったときに止めていた息を吐くのが一番良いでしょう。ただ、最初息を吸うときこれ以上吸えないというほど吸い込むのはよくありません。

 以上は呼吸の仕方ですが、この方法でトレーニングするだけでは理想的とはいえません。この呼吸法で大きく胸廓を広げながら、声を出して数を数えながら挙上するか、ヒュー、ヒューと音がするくらい大きく呼吸することです。これが呼吸法において最も大切な点で、生きているのか死んでいるのか判らないように静かにトレーニングする人と前者とでは、将来格段の差がついてくると思われます。

 性格によって静かにトレーニングする人もいますが、上級者はほとんど大きく呼吸しています。声を出してイチ、ニィ、サン……と数えていなくてもそのビルダーの胸を見れば、軽量のときでも波のように上下に大きく動いているものです。初心者の場合はとくにトレーニング中の深い呼吸は筋肉発達にアクセルを踏むみたいに効果があります。

 呼吸法に限らずトレーニング中のおとなしさや静かさはプラスにはなりません。きょうもトレーニングをするんだという意欲をみなぎらせ、元気よくビルダーらしくトレーニングしてもらいたいものです。

(解答・位田達穂)
月刊ボディビルディング1974年1月号

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