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躍進ビルダーたちの
トレーニングと食事法

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月刊ボディビルディング1976年1月号
掲載日:2018.07.26
野沢 秀雄

1.日本人のわるいくせ

コンテストを開催したり、参加したりすることは、主催する人、出場選手ともにたいへんな苦労がともなうものだが、単に苦労というだけでなく、大きな喜びもあるにちがいない。
 まず出場するビルダーは日ごろのトレーニングの成果を発表し、「よくなったなあ」と人びとに感銘を与える喜びがあろう。また世話をする人びとは「ほほう今年はこんな立派な選手が現われたか」「彼はみちがえるように逞しく変身したなあ」という発見の喜びがある。
ことしのミスター日本コンテストでは榎本選手・奥田選手・木本選手。アポロ・コンテストでは東海林選手・三浦選手、学生コンテストでは川浪選手・白尾選手・南選手など、今までの体格を短期間で急激に進歩・発達させわれわれを驚かせた選手は多い。
ところが悲しいことに「そんな急に体が大きく発達するのは不自然だ。ホルモン剤を飲んだり、注射しているにちがいない」などと悪口をいう人がいる。日本人は「ひがみやすい」心理状態にある人が多く、自分でできないことを他人が成し遂げたり、自分以上の力のある人をとかくけなしやすい。

2.本当に本当の話

「あの選手はホルモン剤を使っているのではないか」という噂が流れる背景には、実際日本でも医者や外人などから内密に入手する一部の人があるためである。私も「ある第三者からすすめられているが使用してもいいものだろうか」と何人かの有名選手から相談を受けている。
はっきりいうが、ホルモン剤そのものを外から体内に与えるのは危険きわまりない。ホルモンは身体の必要に応じて、脂肪・コレステロール・レシチンなどから、体内で合成されるものなのだ。一時期でも迷ってホルモン剤使用の習慣がつくと、自分で合成する能力が失なわれて、一生涯、高価で入手しにくいホルモン剤を使用しなければならない。そうしないとブヨブヨ脂肪太りの体になるほか、二次性徴はじめセックスのほうまでおかしくなりかねない。ホルモン剤を使ったために、人生を台無しにした人が何人もいる。これこそ「本当に本当」の話なのだ。
薬に頼ろうとするのは弱い人間であり、「男らしくない」ことである。努力して鍛える姿こそ正々堂々と立派で美しい姿だ。もし今後、ホルモン剤(同化ホルモン・性ホルモンのいかんにかかわらず)の話があっても誘惑されないでほしい。外人選手が使っていても他人は他人だ。たった一つしかない自分の大切な体を、つまらないことでメチャメチャにするのはバカらしいではないか…。

3.超人的なトレーニング

 コンテストに出場する選手たちは、まったく一般の人から見たら信じられないような発達した立派な筋肉の持ち主ばかりである。どの選手もこのレベルに達するまでには汗まみれの激しいトレーニングがあったにちがいない。
その証拠に私自身、大森トレーニング・センターで古谷・加藤両選手の練習を見たが、毎日毎日、2時間~2時間半も、せいいっぱいの重量で、セット間の休憩が無いのはもちろん、互いに会話する時間もなく、バーベルやダンベルに取組んでいた。外は寒い雨というのに汗は流れ落ち、過度と思われるくらい筋肉に負担をかけ、痛めつけ、呼吸や脈拍は乱れているがまだ反復を繰返す。「ああこの2人は人間をこえて神のようだ」と思わず感じたが、このような限界ギリギリまで挑戦して、あの筋肉のバルクとデフィニションがつくられてゆく。両選手はもちろんのこと、コンテストに出場するのどの選手も「単にホルモン薬でインスタントにつくりあげた」ような生やさしいものでは決してない。みんな限界いっばいのトレーニングに耐えて築いたのだ。

4.仕事にも熱心なビルダー

ボディビルダーと社会における仕事についても意見はさまざまである。心が小さく、ひがみやすい人は「あの選手が大きくなった理由は毎日仕事らしい仕事もしないでトレーニングばかりしているからだ」などと悪口をいう。
確かにそんなビルダーもあったかも知れないし、「ビルダーはきつい仕事をイヤがってやらない」という話をある人から聞いたこともある。だが反面朝8時半か9時から黙々と仕事に取組み、夕方5時までまじめに勤務を果たし、職場から愛されている選手の数が圧倒的に多い。先の古谷・加藤の両選手や榎本選手・奥田選手など、いずれも社会人としての良識や使命を果たしている。
自分の努力でつくった体や、みっちり覚えこんだトレーニング法や食事法などを活かして、一般の人や運動部の人たちを指導・アドバイスできる職業が早く確立できればいいが、とりあえずは怠け心をおこさずに、毎日毎日を充実して生きていただきたい。

5.特別な食事方法

コンテストに出場前のある期間、特別の「人並みはずれた食事」になることはある程度なら止むを得ないと私は考えている。「2カ月間、米飯・パン・うどんなどいっさい食べない」という選手がいるが、この無理が効くのは若さにあふれた27〜28才ぐらいまで。実際に日本コンテストの決勝まで進出したある選手は、「自分はもうすぐ30才だが若いときのような肉・魚・卵だけの食事で毎日をすごすことに体がついていけなくなった」と述べているように、無理なことは事実なのだ。あくまでも人間の限界ギリギリに挑戦するという立場のときに許されることでふつうのトレーニングのときに同様にして体を損っては何にもならない。
ときには危険を覚悟して、「健康」と反するようなことをしなくてはならないのがスポーツマンの宿命だ。ウルトラCも太平洋横断ヨットレースも限界ギリギリへの挑戦なのだ。
幸いなことに少しぐらい片寄った食事法ならホルモン剤ほどの危険はないし、たんばく質オンリーでも50%以上になることはないので、私は特別の期間、体力のある人が試みることは差しつかえないと考えている。その場合ビタミン・ミネラルなどのバランスには注意がいるし、コンテスト当日には肉のほかに、かえって砂糖など甘い物が役立つことは当然である。
なお最後にうれしい報告をしよう。急成長した奥田選手の食事法である。ふつうの人とそれほど変らず、あの体をつくったのだ。あなたも「意志さえあればなれる」とこれを見て感じてくれたらこれほどうれしいことはない。
〔奧田孝美選手〕

〔奧田孝美選手〕

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月刊ボディビルディング1976年1月号

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