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筋肉の量と力の関係<2>

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月刊ボディビルディング1976年7月号
掲載日:2018.07.17
国立競技場トレーニング・センター
主任 矢野雅知
 今日のベスト・リフターたちは、まず第一に、先天的に有利な条件をもっているから強いのである。多くの場合この先天的に有利な要素というものが小さな筋肉で巨大な重量を持ち上げられるということの、大きな役割を占めているのである。

 では、筋肉の太さを最大限まで発達させてしまったら、このような人はどうなるのか?という問題がある。だがこんなことは極めてまれにしかない。というのは、そういった天分に恵まれている人は筋肉を大きくすることが、一段と筋力を強くさせるということに気づいていないのである。そんな人は実際の能力を競技会で十分に発揮することなどめったにないということになる。

 ところが、強力無比のロシアのリフターたちは、その単純明快な事実にすでに気づいているものと思われる。たとえば彼らの下背部の、まったく信じられないほどの筋肉の発達に注目するがよい。彼らは天分にプラスして、あくまでも筋肉を太くすることに意を注いでいるのだ。

 ロシアのリフターたちは、われわれの考えられるすべての方法を用いて。まず筋肉を最大限まで太くしてしまうのである。何度も言うように、重量物を持ち上げるには筋肉を使わなくてはならない。信じようが信じまいが、理解しようとしまいと、同意するしないにかかわらず、筋肉がもっと太ければ、もっと重いものを持ち上げられるのである。筋肉を太くすることは常に筋力を高めることになる。そして筋力を高めることは、常に筋肉の太さを増大させることになるのである。

 コロンブはたとえ14インチの腕しかなくても、シュワルツェネガーよりもっと重いものが持ち上げられる。だがコロンブに15インチの腕があれば、14インチの腕のコロンブよりももっと重いものを持ち上げられるだろう。16インチの腕ならば、15インチの腕のコロンブよりもさらに強いのである。少なくともサイズが増せば、実質の筋肉組織も増えるのである。ただし、脂肪組織が増えてサイズが大きくなっても。筋力は増加しないのは当然である。

 リラックスして体側にぶらさげている時に、18 1/8インチ(約46cm)と測定された腕の持ち主がいた。しかし、腕を曲げた時は18 1/4インチにしかならなかった。彼は「なぜ、たった1/8インチしか増えないのだろうか」と聞いたので、次のように私は答えたものである。「……そりゃあ、脂肪は曲げることが出来ないからさ」
 ステージの上でリラックスして立っていると、AAUミスター・アメリカのキャセイ・バイターはちっとも目立たない。ズラリと並んだ他のビルダーの中には、リラックス・ポーズでは実際にバイターよりもはるかに印象的であるし、大きさも目立つ者が多い。だがしかし、ひとたびバイターが筋肉を緊張させると、まるで人が変わったように大きく見える。グンと迫力が加わる。これはバイターの身体のサイズのほとんどすべてが、筋肉のサイズなのである。コロラド大学の生理学者、エリオット・プリーズ博士は、バイターが腕を曲げるまではさしたる印象はなく、何とも感じなかったが、彼が腕をググッと曲げるや、膨張されて波うつ筋肉の迫力に「私はまるで信じられないほど驚ろかされた……」と語っている。

 チャック・アマトもリラックスしたときと、筋肉を緊張させた時では雲泥の差がある。彼のからだのサイズも、バイター同様に筋肉のサイズなのだ。
【キャセイ・バイター】

【キャセイ・バイター】

 なん年間というもの、ほとんどのボディビルダーはバルク・アップについて大きな間違いをしていた。コンテストの前には、からだを大きく見せるために、脂肪組織を加えることによってサイズを得るという間違いである。しかし、脂肪組織の多くは筋肉の太さを増大させることにはならない。それはコンテストで勝てないことを意味している。

 ところが、トレーニングが適確に行われている限り、加わったすべてのサイズは筋肉組織の形成によって太くなったものであろう。そうするとフィジーク・コンテストの前にカットダウンする必要はほとんどないことになる。ただ、フィジーク・コンテストは別として、あまりにも激しいデフィニションを、つねに維持しようとするのは賢明なことではない。いやむしろ、健康のためにはバカげていることかもしれない。だからといって、必要としない脂肪までからだにつけるのは、常に不利であるということだけは間違いないことである。

 ポール・アンダーソンはたしかに強かった。しかし、彼はあまりにも太りすぎていた。それに気づこうが気づくまいが、彼は脂肪を減らすことで、もっとすごい記録を作ったであろうと思われる。たとえば、自動車はトランクの中に砂をいっばいにつめ込んでも走ることが出来る。しかし、砂が入ってない方がもっとよく走ることが出来るだろう。それと同じである。余分な脂肪はちっともいいことはないのだ。
 私が思い出せる限りでは、多くのボディビルダーはリラックスしたときの胸囲と腹囲の間には、20インチ(約50.8cm)ぐらいの差がある身体を求めている。ビルダーが羨望しているそのようなタイプの身体の持ち主を、私はひとり知っている。実際に20インチ以上の違いを持つそのビルダーとは、セルジオ・オリバである。

 彼自身も認めているように、このような体型はフィジーク・コンテストでは有利になる。しかし、重量物を持ち上げるということでは、かえって不利となってしまう。オリバはフィジーク・コンテストに出場するようになった以前は、ウェイト・リフターであった。それもかなり優れた選手であった。しかし、彼のウェストがもっと大きければ、さらに優秀なウェイト・リフターになっていただろう。だからといってオリバのウェストに脂肪を加えればもっと有利になる、と言えないことは今さら説明するまでもない。

 オリバのウェストが小さいというのは、先天的なもの、遺伝によるものと私は考えている。その遺伝が形のよいウェストをオリバに与えたのである。つまり、彼のウェスト・サイズは、彼のトレーニングの結果によるものではないと考えられる。それと同時に、細いウェストがリフティング競技において、彼の脚と肩を十分に使わせないようにしてしまうのである。したがってフィジーク・コンテストで有利なことは、しばしばウェイトリフティングでは不利になってしまうというのは、このことからも明らかである。

 しかし、これはボディビルダーとウェイトリフターは違ったトレーニングをしなくてはならない、ということではない。リフターとビルダーは、同じ方法でトレーニングすべきである。このことはいずれは実現されるだろう。それが実現されれば、今よりもさらによくなるに違いない。
【セルジオ・オリバ】

【セルジオ・オリバ】

 ボディビルディングに取り組んでいる人のトレーニングは、ほとんどが決して強度なものではない。彼らのトレーニングは、実際はたいしたものではないのである。また、ウェイトリフティングに取り組んでいる人のほとんどは、今日見られる通常のボディビルダーのような体格にはならない。彼らはそんなことにはかまわないのである。しかし、基本的な法則は同じである。ボディビルダーもウェイトリフターも両方とも、この法則にのっとったトレーニング方法を行わなくてはならない。このことは、フットボール・プレーヤーやスイマー、あるいは筋力と持久力が要求される何か他のスポーツを行う人についても同様である。

 ところが、ウェイトリフティングの軽量級、あるいは何か他のスポーツにおいて、筋肉のサイズを最大限まで作り上げることは、必ずしも有利なことにはならない。少なくとも、一部の筋肉ならともかく、からだ全体の筋肉組織を太くする必要はないと言えるだろう。

 たとえば、18インチ(約46cm)の腕はスプリンターにとっては決して有利なものではなかろう。なぜなら、ランニングするときには、彼の腕の筋肉はほとんど用いられないからである。しかし、そのスポーツ種目で用いられる筋肉を太くすること、すなわち筋力を高めることは、常にそのスポーツの成績を向上させることになる。

 このことは、かなり誤解を招いている問題なので、ここで少し明らかにしておきたい。

 人間のからだはひとつの「単位」である。からだはひとつの単位として反応を示すのである。

 たとえば、上体の筋肉を発達させることなくして作り上げた脚の筋肉は明らかに制限されてしまうので、より以上に筋肉を太くして筋力を高めることが出来ないことになる。

 つまり、短距離ランナーはスプリントに必要のない筋肉を上体につけて体重を増加させることなしには、スプリントで使われる脚の筋肉を最大限まで高めることは出来ないのである。より太い筋肉が、常により強い筋力を生み出す。「技術や他の要素がすべて同等であるならば、どんなスポーツにおいてもより強い筋力がさらによい結果を生み出す」のである。

 しかし、現実には、技術や他の要素がすべて同じであるということがないので、筋力を高めることの真価にまだ気がつかないことが多いのである。それから、どんな筋肉でもトレーニングするには多くの時間と労力を必要とするので、筋肉を太くすること、つまり筋力をつけることや、各個人の回復能力によっては、いろいろな制限を受けることもあるだろう。それに、筋肉を太くすることは、不必要な体重増加につながるので受け入れがたいとすることもあるだろう。

 そうなると、実際にはトレーニング内容はどこかで妥協したものとなってしまう。事実、ほとんどの人がどこかで妥協しているのである。私はそれらをいちいち取り上げないが、各人が各様の根拠にもとづいてどこかしらで満足してしまうのだろう。しかし、すでに述べてきたことを理解していれば、もっと簡単にトレーニング処方は決定されるのであり、成績も向上するのである。
 全般的にみて、ほとんどのウェイトリフターは、大多数のボディビルダーが行なっているトレーニングよりも適切になってきた。しかし、トレーニー(ボディビルダー、ウェイトリフター、パワーリフター)全体としては、適切なトレーニングを行なっているものはきわめて少ない。それというのは、彼らはウワサや迷信に惑わされて、筋肉に関する法則を十分に理解していないからである、と私は考えている。かりによい結果をもたらしたと思える場合があっても、それはトレーニングが正しかったということよりは、組織的なウェイト・トレーニングの効力が大きかったという単なる証明にすぎないのである。

 私は適切でない、理論的でない多くのトレーニング・スタイルに気づいている。たとえばボディビルダーのトレーニングは正しいものではない。ウェイトリフターのトレーニングの方が適切である。というのは、ウェイトリフターのトレーニングはボディビルダーのトレーニング・スタイルと比較して、その内容の高さは倍である。全般的にウェイトリフターは、ボディビルダーよりも激しくトレーニングする。しかも彼らは、ボディビルダーよりもトレーニングの量が少ない。大多数のビルダーはあまりにトレーニングを行い過ぎるのである。あまりに頻繁にやりすぎる。あまりに多種目をやりすぎる。そしてあまりにセット数が多すぎるのである。

 ウェイトリフターはボディビルダーよりも、もっと激しくトレーニングする。しかし、それは必要以上にハードなものではない。ウェイトリフターは、トレーニングを多量に行い過ぎるという間違いをおかさないのである。
 たくましい筋肉は、まず第一に食物の摂取方法によって決まる。また、遺伝や年令によっても影響される。

 ウェイトリフターがトップビルダーと同じように、真剣に食事のことに関心を向けたら……。そして彼らが、ウェイトリフティングのための専門種目を行うのと同じくらい、主要な筋肉組織すべてをトレーニングしたら――そのとき彼らはボディビルダーのように発達した体格になるだろう。それもほとんどのボディビルダーが必死になってトレーニングに打ち込んで最終的こ得たものと同じ結果を、もっと少ない労力で得ることが出来るのである。

 これはウェイトリフターが用いている最近のトレーニング・スタイルがすべて正しいからである、ということを意味しているのではない。ただ、多くのボディビルダーのトレーニング・スタイルよりは正しいということである。

 しかしながら、ウェイト・トレーニー達は思い違いをしている。正しいトレーニング知識よりも、誤ったトレーニング習慣に盲目的に従っているのである。しかも驚くべきことには、多くのウェイト・トレーニーの中には医学博士や生理学を身につけている専門家などもいることである。

 ボディビルダーとウェイトリフターの2つのタイプの体つきは目立った存在である。しかし、彼らのリッパな体格は、適切なトレーニングのたまものというよりも、遺伝によるものであろう。先天的に筋肉が発達しやすかったと思われる。これは、彼らのトレーニングは逞しい肉体を作り上げるのに適してないと言っているのではない。だいいち、トレーニングなしにはそういった太い筋肉を作り上げられないではないか。ただ、適切なトレーニングを行えば、もっと少ないトレーニングで、もっと短期間に同じような結果を得ることが出来るといいたいのである。

 では、適切なトレーニングを行えば、間違いなく効果があると断言できるか?――そう、確かに適切なトレーニングは、さらに良い結果をもたらすだろう。しかし、それは推測の域を脱してない。事実として捉えられてない。だが、彼らのトレーニングは、実際にほとんどが不用である。しかも。そのトレーニング内容のほとんどが悪い。発達を抑制してしまっているのである。ということは、つまり――小量のトレーニングで、筋肉のサイズと筋力を維持することが出来る。現状維持のトレーニング量より、もっと強いトレーニングを行うことによってからだは発達するのである。だがあまりにトレーニングをやり過ぎれば、その努力はまったくの無駄骨となってしまう。トレーニングのやり過ぎは、むしろ逆効果となるのである。ボディビルダーの多くはトレーニングをやり過ぎるのである。(つづく)
月刊ボディビルディング1976年7月号

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