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チャンピオンへの道
(心理学によるトレーニングの効果) 1976年9月号

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月刊ボディビルディング1976年9月号
掲載日:2018.07.04
川俣 宏

良き環境、よき指導者を求めよ

寒帯地方の土地に生えている小さな木を、太陽の光の強い、土地の肥えている温帯の豊かな土地に植え換えるととても同種類の木とは思えないほど大きい木に成長するという。

 動物の実験においても、温度、栄養それに適当な刺激、精神的に不安のない環境で育成するのと、そうでないものとでは大きな相違が生じる。たとえば、よく食卓をかざるブロイラー若鳥や、牛、豚などの食肉用の動物は、専門家が日夜、いかに早く、大きく、おいしく、安価に育成するかに努力しており、事実、昔と比べたら格段の差がみられる。

 人間の世界でも同じである。古くは中国の聖人孟子の母が、良い環境を求めて3度も家を引越した゛孟子三遷の教え″は有名である。

 環境によって大きく左右されることはボディビルダーとて同じである。良い指導者、良い先輩、良い同僚がいるか否か。また設備が良いか悪いかなどによってその発達成長は大きな影響をうける。

 いくら死にもの狂いで努力し、大木になろうと頑張ってみても、その環境が寒々と冷えきった、太陽の光のない環境であったならば、成長は止まり、一生小さな木のままで枯れてしまうであろう。このように、その環境が、現在、および未来にわたって大きなプラスとなったり、マイナスとなったりするのだ。

 人間は先輩から後輩へとひきつがれつつ、階層的に生き、階層的体験の中で生活している。人生は、ある意味では人と人との出会い、環境との出合い等、出合いこそ大の人生を決定するといっても過言ではない。その意味でも目標となり、刺激となり、その人の個性を引き出し、大きく成長にみちびいてくれる有能な指導者に出合うことは大きなプラスとなる。

 人は自分の実力や素質のほんの少ししか、見出し、自覚できないものだ。平々凡々とした人々の中にも、すぐれた素質を持っている人が多数いるものだ。その人が、よき指導者に見出され良い環境に身を置いたとき、はじめて一般の人から抜きん出た存在となるのである。人間として生まれ不幸にして自分の天分も知らず、大器のまま人生を終える人がなんと多いことか。

 ここにボディビル界でよく知られている良き指導者と弟子を紹介しよう。
 1974年、1975年の世界パワリフティング選手権大会フライ級で優勝した因幡英昭選手には関二三男氏という名コーチがついている。おそらく始めてジムに入会した当時の因幡選手は、自分が世界でもっとも力の強い男になろうとは考えていなかったに違いない。それが良き指導者に恵まれたお陰で世界チャンピオンの栄誉に輝いたのである
【フランコ・コロンブとその師匠シュワルツェネガー】

【フランコ・コロンブとその師匠シュワルツェネガー】

 つぎに日本のファンにもお馴染のフランコ・コロンブも、シュワルツェネガーという偉大な指導者にめぐり合って今日の栄冠を手にしたのである。常に高い目標に向って努力し、そして積極的に良き環境、良き指導者を求めることが、成功への道につながるのである。

良き種子をまけ

 富めるものはますます富み、貧しきものはますます貧しくなる、という言葉がある。現実に、働けど働けど、ぜんぜん生活に変化が表われずにいる人がいるかと思えば、反対に、大した努力もしていないようでいながら、どんどん生活も向上し、富む人がいる。このような差がどうして生ずるのだろうか。この差を心理学者や宗教家は゛心の状態″にあると力説する。

 現実のいろいろの事がらは、心をフィルムとするならば、スクリーンにうつし出された心の映像がすなわち現実であるという。心で思わないことは、現実には絶対に表われないものだ。心の暗さ、悲しさ、喜び、明るさ、そんな心の状態が現実の生活に表われるのだ。
 
 勝つためにはどうすればよいか。自分の潜在意識に勝利を確信し、栄光を手中に収めるまで、決してあとずさりせぬという決心と、幾多の失敗に出合っても動じない強い心を作り、その心に強烈な自信、信念、哲学の良き種をまくことだ。そのときこそその人には将来、美しい花と、おいしい果実をスクリーンに現実として表現できるのである。

 勝負の差、これは動じない心だ。勝利者こそ、最も多く失敗した男といえるかも知れない。輝けるチャンピオンが、実は失敗の常連?むじゅんするこの意味は、勝者はその敗北に挫折することなく、信念と自信をもってこれをのりこえ、同じ失敗を二度と繰り返さなかったことだ。

 失敗の原因を追求することによって、その失敗は将来大きく伸びる肥料となったのだ。失敗は竹の節と思え。
物事の発展は直線的に順調に進むものではない。竹の節のように、また、階段のように、一歩一歩、段階的に進歩発達するものだ。

 腕の発達にしても、チャンピオン・クラスの人に聞いてみると、ようやく38cmの壁に、そして40cmの壁、 42cmの壁と血のにじむような練習を重ねてたどりつく。

 それを越えてからは、さきに述べた ゛富める者ますます富む″ように加速度的に発達する。もちろん、そのときは腕ばかりではなく、胸も脚も比例してよくなる。

 このように、心と行動のパターンを会得すると、人生は雪だるまのように大さく飛躍するのだ。再びいう。チャンピオンは苦難の厚い壁を挫折することなく、強く逞しく乗り越えてきた行動力のある人たちなのだ。チャンピオンを目指すもの、心に良き種をまけ!その種が立派なものであるならば、必ず立派な花が咲く。
【因幡選手と師匠・関二三男氏。左は遠藤光男氏】

【因幡選手と師匠・関二三男氏。左は遠藤光男氏】

 さきのモントリオール・オリンピックの日本女子バレーボール・チーム。決勝戦で強敵ソ連を3セット、ストレ一卜で破り金メダルを獲得した。
 
 テレビのアナウンサーはいう-はじめて見ました。涙のない金メダルの感激、すがすがしい勝利の笑顔です。よくやりました日本チーム-そうです。選手にとって、この勝利は当然だったのです。この感激を何度も何度も心に映し、夢に見、何度もリハーサルをしたのです。

 山田監督いわく-この金メダルを心の画面にえがくこと8年、とくにこの2年間、選手たちは朝5時起床、1日8時間に及ぶハード・トレーニングを休みなく続けてきました。それはモントルオール入りしてからも続けました-。金メダルという大きな種を心にまき、それに向って努力してきた当然の結果が大きな実を結んだのです。
月刊ボディビルディング1976年9月号

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