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なんでもQ&Aお答えします 1976年11月号

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月刊ボディビルディング1976年11月号
掲載日:2018.08.30

アナボリック・ステロイドについて

Q 私は現在30才ですが、昭和45年から本誌を愛読しながら、ボディビルと水泳をやっております。ボディビルを始めた動機は、身長に比べて体重が少なかったからですが、その後もほとんど変わらず悩んでいます。
 最近、ビルダーの間ではプロティンを愛用している人が多く、相当な効果もあると聞きましたので、私も蛋白補強剤として使用したいと考えていますが、最近、いろいろと問題になっているアナボリック・ステロイドがプロティンの中に含まれているのではないかという話を耳にし、少し心配になってきました。
 そこでお尋ねしたいのですが、プロティンとステロイドの違い、効果、それを使用した場合の弊害等についてお教えください。
(板橋区蓮沼・金子哲也)
A
 プロティンはその名前のとおり、栄養素のうち身体をつくる「たんぱく質」の英語名です。市販されているプロティンパウダーを略してプロティンと呼ぶことがしばしばありますので、質問者の意味もおそらくプロティンパウダーを指すものと思います。
 輸入品、国産品ともに主原料は大豆の中からたんぱく質だけを集めて粉末にしたものです(たんぱく質の純度は90%以上。無水物計算で96%といえる)。ある会社はこの大豆たんぱく粉末に香料などを加えてリーヤプロティンとして販売しています。またある会社は乳たんぱくや卵たんぱく粉末を加えて販売しています。またプロティンは小麦胚芽油・ビタミン各種・カルシウム・レシチン・カンゾウなどを配合して、一度に効率よく栄養分がとれるようになっています。各社のプロティンはすべて栄養食品です。
 一方「アナボリックステロイド」はたんぱく同化ホルモン剤で薬品です。
 ホルモンは人体の器官で必要に応じて合成されるもので、外部から与える必要は本来は全くありません。ホルモンすべてを合計しても「郵便切手一枚くらいの重さ」しかなく、ホルモンは互いにバランスを調整しあっていて、微妙に身体内部の活動を支配しています。あるホルモンが多くなるとただちに司令が働いて他のホルモンを刺激して多すぎるホルモンをストップさせます。
 たとえば外部からあるホルモンを投与すると体内で合成するホルモンをストップさせます。だから長期間ホルモン薬を与えると、その人が持っているホルモン分泌系統がやられて「廃人になる」ことがおこりうるのです。
 ホルモンの中でよく使用されるのは副腎皮質ホルモン剤です。病気によく効くため、医師が使用するケースが多いのですが、先ほどの副作用が激しくて、ムーンフェイスという顔がふくらむ病気(したがって腎臓などもやられる)になったり、女性の生理現象が止まって排卵しなくなったりすることが往々にしておこります。
 ステロイドホルモンには男性ホルモンとたんぱく同化ホルモンがあり、どちらも錠剤・粉末・注射液として製薬会社から製造発売されています。男性ホルモンは副作用が強いのに対して、後者は現在のところ男性ホルモン剤ほどではないため、外国のスポーツ選手の間でこっそり使用する例がふえていることはご存知のとおりです。
 その効果は「たんぱく代謝の改善・体重増加·食欲増進·体力強化·組織新生増加」とされ、筋力や筋肉に効果を持つことになります。しかしながら薬剤であり、目的はがん・ホルモン異常・胃かいよう・筋ジストロフィー・精神病など重病のときや手術前後の体力維持・火傷・骨折など、どうしても必要な場合に限り用いられるのが本筋です。スポーツマンが筋力増強に用いるのは邪道で危険なことです。
 私の手元にも45種のアナボリックステロイドのカタログがあります。薬局でふつうは買えないけれど、特別に頼んだり、医師に分けてもらう人があると思われます。だが、これはあくまでも「薬剤」なので素人が勝手に使うと危険です。
 副作用は判明しているものだけで次のとおりです。①性ホルモンを刺激して分泌を狂わせる。②肝臓がやられる③尿量が減って顔や体がむくんでくる④糖尿病と同様の現象がおこる。⑤首すじが固くなり、けいれんをおこす。⑥めまい・吐き気がおこる。
 先日京都の国際会議でアナボリックステロイドの世界会議があり、各国から医師や化学者が参加しました。結論は「その害は不明でありこれから何がおこるか判らない」ということです。
 健康にあふれた体をつくるはずだったのに、将来のいつか突然「ガタガタになる」かも知れず、これではかないません。過去の例で「安全だ、だいじょうぶ」といわれてきた薬剤が実は大変な害を与えたケースも多いのです。キノホルム、スモン、クロロキン、クロマイ・・・・・・当時誰が今日の事態になると予測したでしょうか?
 「健康な体は一生の財産」です。体は大切に管理して一生使うものです。一時期の迷いやあせりで、判らない不明なものを使って台無しにしてはいけないのです。ボディビルで苦労してつくった体は健康のシンボルであるけれど、盆栽のように薬品でつくった体は価値がありません。
 ホルモンは必要に応じてひとりでに自分の体内でできます。激しいトレーニングをすると男性ホルモンやたんぱく同化ホルモンが要求され、ひとりでに脂肪やレシチン、カンゾウ、コレステロールなどの材料を組みあわせて、自動的に、本当に必要なだけ、無理なく、無駄なくつくられます。
 プロティンにアナボリックステロイドを入れた製品はありません。少なくともいままで私が知っている範囲の製品に入っていることはありません。必要なときに自分の体内でうまくつくれるような原料や素材は入っていますが、これらはホルモンでなく、安心できる食品なのです。あくまでもたんぱくの補給が目的です。
〔解答=健康体力研究所·野沢秀雄]

簡単な器具なしトレーニング法

Q ボディビルを始めて4ヵ月になります。最近は運動にも馴れてトレーニングをするのが楽しみです。
 現在は、シット・アップ、スクワット、ベンチ・プレス、ベント・オーバー・ローイング、スタンディング・フロント・プレス、カールの基礎6種目を行なっています。ところが残念なことには、仕事の都合上、このところ出張が多いので十分なトレーニングができません。
 そこでお尋ねします。出張期間中、器具なしトレーニングを行いたいと考えていますので、そのやり方についてご指導ください。
(山形県・山本)
A
 規則的にトレーニングが行えないと、いつしかトレーニングに対する意欲がなくなってしまうものです。あなたはそんなことのないように頑張って欲しいと思います。
 では、器具なしトレーニングについて説明いたします。
 あなたの場合、ボディビルを始めてわずか4ヵ月、現在のトレーニングの内容も初歩的なものであるので、器具なしトレーニングの方もごく簡単なものを行うのがよいと思います。

<腹の運動>
腹の運動は、腹筋台がなくてもできますので、自分で工夫して行なってください。

<脚の運動>
〇ヒンズー・スクワット
 これは器具を用いずに行うスクワットで、できるだけ反復回数を多くして行なってください。1セットで充分でしょう。
〇片脚のスクワット
 文字どおり片脚で行うスクワットです。バランスがとりにくければ、壁や柱につかまってやってもかまいません。1セットごとに脚を変えて2セットずつ行えば充分でしょう。

<胸の運動>
〇プッシュ・アップ
 いわゆる腕立て伏せ運動です。からだを弓なりにしないように留意して1回1回正確に行なってください。2〜3セットが適当と思います。

<広背筋の運動>
〇けんすい
 広背筋の運動としてはけんすいが一番わかりやすいと思いますが、ぶらさがれるものがないとできないので他の運動と別にして、公園などの鉄棒を利用して行うようにしてください。運動のやり方としては、両手の間隔を肩幅より広くして行うほうが広背筋によく効きます。

<肩の運動>
〇逆立ち腕屈伸
 壁から30〜40cm距離をとって両手をつき、逆立ちして足を壁にもたれさせます。このとき、膝を少し曲げておくほうが後の動作がやり易くなります。その体勢で腕を屈伸して体を上下させます。両手の間隔は肩幅より広くするほうが効果的です。そして、初めから腕を深く曲げないで、可能な範囲で反復して2〜3セット行なってください。

<腕(上腕二頭筋)の運動>
〇自力抵抗によるカール
 両手を腹の前で上下に握り合わせ、上の手で負荷を与えながら、もう一方の腕のカール運動を行います。1セットごとに上下の手を変えて2〜3セット行えばよいでしよう。
〔解答=1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威〕

ジャンプ力を強くするトレーニング法

Q ボディビル歴3カ月。学校ではバレー・ボールをやっています。そのようなわけで、ウェイト・トレーニングによってジャンプ力を強くしたいのですが、どのような運動をやったらよいのでしょうか。
 現在は、シット・アップ、スクワット、ベンチ・プレス、ベント・オーバー・ローイング、スタンディング・ロー、それにカールの6種目の運動を行なっています。各種目のセット数はベンチ・プレスとスクワットは3セットずつ、他は2セットずつです。なお、反復回数は、シット・アップだけは無制限、他の5種目は10回を基準にして行なっています。
 トレーニングの週間頻度は週3日ですが、終了後は毎日相当強く疲れを感じます。そして、翌日になってもその疲れが残っていることもあります。
 バレー・ボールの練習は日曜日以外は毎日で、ボディビルのトレーニングを行なった翌日は、バレー・ボールの練習でからだの動きがにぶくなるようです。僕はバレー・ボールもボディビルも両方とも好きなので、なんとか両立させたいと思っていますが、両立は無理でしょうか。
 バレー・ボールの方は学校できめられた練習をしなければなりませんのでどうにもなりませんが、その分、ボディビルの方で調節したいと思います。
 そこでお願いですが、バレー・ボールとボディビルがなんとか両立できるように、ボディビルのトレーニング法についてご指導ください。
<現在の体位>
身長 168.5cm 上腕囲 28cm 体重 55kg 前腕囲 24cm 胸囲 81cm 大腿囲 48cm 腹囲 68cm
(杉並区・木田 高校2年)
A
 まず、ジャンプ力を強化するための運動について述べるとします。ジャンプ力とひと口にいっても、上方へ跳びあがる場合と横へ距離を跳ぶ場合があります。この2つの跳躍は、厳密にいえば筋の作用の仕方が異なります。したがって、ジャンプ力を強化するといっても、どちらの跳躍に重点を置くかによって、当然、トレーニングの仕方も多少異なってきます。
 あなたの場合、バレー・ボールのための跳躍力を強化したいということですから、前者、つまり、上方へ跳びあがるジャンプ力の強化についてお答えすることにします。
 ウェイト・トレーニングは、上方への跳躍力の強化についてはかなり有効です。とくにそのための運動を行わなくても、基礎種目だけでもある程度は強化されます。とはいえ、積極的に跳躍力を強くするためには、そんな悠長なこともいっていられないので、跳躍力の強化にとくに有効と考えられる運動種目を紹介することにします。

◎フル・スクワット・ジャンプ
<動作>ごく軽量のバーベルを肩にかつぐか、ダンベルを両手にぶらさげるかして、フル・スクワット(完全に腰を落とした状態)の体勢から、上方へ出来るだけ跳びあがる。
<反復回数>15〜20回ぐらい。
<注意事項>バーベルを肩にかついで行う場合は、シャフトが頸椎に当らないように座ぶとんなどの当て物を使用し、いくぶん背中の方へずらしてかつぐようにする。また、運動中にシャフトが肩から離れると、着地したときに頸椎に衝撃を与えるおそれがあるので、両手でしっかりと押えて、肩に固定した状態で運動を行うように留意する。

◎ハーフ・スクワット・ジャンプ
<動作>フル・スクワット・ジャンプの場合よりも多少重めの重量を使用して、ハーフ・スクワットの状態から上方へ出来るだけ跳びあがる。
<反復回数>15〜20回ぐらい。
<注意事項>フル・スクワット・ジャンプの場合と同じ。

◎スティッフ・レッグド・ジャンプ
<動作>両膝をなるたけまげないようにして、上方へできるだけ高く連続的にはねる。いわば、トランポリンのマットの上で連続的にはねる感じで跳躍する。
<反復回数>20回
<注意事項>重量は使用しなくてよいが、所定の回数を最後まで全力をもって跳びあがるようにする。

 以上の3種目を1~2セットずつ、週に2~3度ずつ行なってください。しかし、3種目ともかなり疲労度の強い運動であるので、初めの1ヵ月は1セットずつ行うのが無難です。無理をすると脚に疲労が蓄積し、ときには筋や腱の弾力性が弱まるために、下腿三頭筋腱(アキレス腱)を損傷することにもなります。重々注意が必要です。
 筋や腱が硬く張っているときは、ウォーミング・アップを十分に行い、運動は強度をセーブして行うようにします。危険を犯してまで全力で運動を行う必要はありません。また、疲労がひどいときには運動を休むぐらいの気持のゆとりも必要です。
 
 次にトレーニングの問題についてお答えします。
 学校の部活動として行なっているバレー・ボールとボディビルを両立させることは、体力的にかなりの負担があると思います。しかし、その2つを両立させることは決して不可能ではありません。
 ボディビルとは、元来、実施者自身にとって体力的に過度な負担にならない程度に行うのが原則であって、なにも疲れたからだにムチ打つようにして歯をくいしばって行わなければならないといったものではありません。したがって、ボディビルを行う場合、まずそのへんのところをよく自覚する必要があります。とくに、あなたの場合のように、体格的に大人に成り切っていない年齢では、ことさらにそのことを念頭に置いてトレーニングを行う必要があります。
 短期間で過大な効果を得ようとすることは、知らず知らずのうちにトレーニング内容を欲ばることにもなるのでくれぐれも注意してください。
 話が少し横道へそれた感もありますが、上述したことは、あなたがバレーボールとボディビルを両立させていくためには最も大切なことですから肝に銘じて忘れないようにしてください。
 さて、あなたの現在のトレーニングについてですが、内容が量的に多すぎるのではないかと考えられます。あなたの体力と体位から推察するかぎりにおいては、現段階で6種目の運動をしめて14セットも行うのは、体力的にかなり負担になるものと判断されます。しかも、学校で部活動としてのバレーボールを行なっているとあれば、いよいよもってトレーニング量が多すぎるといわざるを得ません。事実、トレーニング終了後の疲労感が強く、ときには翌日までもかなりの疲れが残るとあっては、オーバー・ワークの一歩手前にあるといっても、まず、まちがいないと考えられます。
 したがって、これからもあなたがボディビルを続けていくことで多少なりとも効果を得たいというのでしたら、この際、思い切ってトレーニングの量を大幅に減らす必要があると考えられます。からだが消耗している状態ではいくらトレーニングに励んでも効果は得られません。それどころか、かえってからだを悪くしてしまう危険がともないます。
 前述したように過大な効果を狙うことは厳に慎しまなければなりません。現在の自己の置かれている立場、またその状態によって、妥当と考えられる目標を定め、無理のない地道なトレーニングを行うようにしなければなりません。それにあなたの場合、ウェイトトレーニングによって跳躍力を強化したいという希望もあるのですから、そのための体力的負担をも十分考察した上でトレーニング量を決める必要があります。
 一応、参考までに、あなたに妥当と思われるトレーニング・スケジュールを記述しておきます。多少、内容的に不満を感じられるかもしれませんが、がまんも必要です。

<トレーニング・スケジュール>
①シット・アップ  傾斜した腹筋台で行う場合は2セット。平らなところで行う場合は1セット。いずれの場合も反復回数は正確な動作で行える範囲で無制限。
②ベンチ・プレス 10回×2セット
③スタンディング・プレス 10回×2セット
④フル・スクワット・ジャンプ 15〜20回×1セット
⑤ハーフ・スクワット・ジャンプ 15〜20回×1セット
⑥スティッフ・レッグド・ジャンプ 20回×1セット

<注意事項>
①以上6種目、計8〜9セットを2〜3日おきに週2日行う。
②当分は上記の内容で行い、体力的に余裕が出てきた場合は2ヵ月目から跳躍力強化の運動を2セットずつにする。
③以後、さらに体力的に余裕が出てきたら、他の基礎種目を漸時1種目ずつ無理のない範囲で加える。
④トレーニングの週間頻度についてはバレー・ボールを行なっているかぎり、週に2日が適当と考えられる。
 
 最後にひとことつけ加えれば、今の段階では、トレーニング終了後に、内容的にいくぶんもの足りないぐらいがちょうどよいのではないかと考えられます。十分運動したというほどにボディビルのトレーニングを行うことは、多少なりとも疲労が後に残り、かえって毎日行なっているバレー・ボールとの両立を難しくするおそれがあります。くれぐれもオーバー・ワークにならないように留意してトレーニングしてください。
(解答=竹内 威)
月刊ボディビルディング1976年11月号

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