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なんでもQ&Aお答えします 1977年1月号

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月刊ボディビルディング1977年1月号
掲載日:2018.08.28

サム・アップ・カールとは

Q.サム・アップ・カールとはどのような運動でしょうか。また。その効果について説明してください。

(山中初男 17歳)
A.サム・アップ・カールとは、言葉の示すとおり、サム(親指)を上にして行うダンベル・カールのことです。

普通のダンベル・カールの場合は、ダンベルを水平か、または水平に近い状態に保持して運動を行いますが、サム・アップ・カールの場合は、ダンベルをタテにした状態でカール運動を行うようにします。

このように、ダンベルをタテにした状態では、必然的に親指が上に位置するようになるので、それでサム・アップ・カールというわけです。

いうまでもなく、この運動は上腕二頭筋を強化するための運動ですが、普通のダンベル・カールの場合とは多少効果の面で異なります。

上腕二頭筋は文字どおり2つの頭を持つ筋で、長頭と短頭から成っています。サム・アップ・カールはその2つの頭のうち、どちらかというと長頭の方により強く効く運動だといえます。

なお、左右の手にそれぞれダンベルを持って行なっても、または、片手ずつ行なっても、どちらでもかまいませんが、使用筋が意識し易いという点では片手のほうがよいでしょう。

怒責・休息時間・ウォーム・アップについて

Q.ボディビル歴2カ月、バーベルとダンベル、それにベンチを購入してトレーニングを始めました。しかし、基礎的なことで知らないことがたくさんあります。そのうち次の3つについてお尋ねします。

①ボディビルの運動は、息を吸ったり吐いたりしながら行い、絶対に怒責してはいけないのでしょうか。

②初心者の場合、セット間の休息はどのくらいとったらよいでしょうか。

③本運動に入る前に準備体操を行なっていますが、冬期はそれだけではなかなか体が温まりません。バーベルを使って行うウォーム・アップの運動を教えてください。

(山梨県甲府市 K・Y 19歳)
A.質問にお答えする前に一言お願いしておきます。ボディビルを始める動機にはいろいろありますが、最初は非常に意欲にもえて取り組んでいたのに、6カ月、1年と経つうちに、だんだんとトレーニングから遠ざかっていく人をよく見かけます。そんなことのないように、効果をあせらず、2年、3年と着実なトレーニングを続けてください。そのうちに自分でもびっくりするような効果が必ずあらわれてきます。

では質問事項について順を追ってお答えします。

①呼吸法と怒責について

ボディビルの運動は、重量を使用して行う性質上、怒責(いきばること。運動中、息を吸い込んだまま呼吸を止めて息ばった状態を指す)がともないやすいといえます。とはいえ、怒責をともないやすいというのは、なにもボディビルに限ったことではなく、他のスポーツにおいても怒責をともなうことはめずらしいことではありません。また、日常生活においてもこのようなことはしばしばあります。

したがって、考えようによっては、怒責に対する訓練としての怒責も必要であるといえないでもありません。

しかし、ボディビルのトレーニングでは、ことに実施者が初心者である場合には、できるだけ怒責しないことを原則として運動を行うことにしています。とくに、からだの弱い人の場合は強度な怒責をひんぱんに行うことで、健康を害することがないともいえません。また、よしんばからだを害することがないとしても、種目によっては、激しく怒責して運動を行うことは非常な危険に身をさらすことになります。

つまり、運動中に怒責することによって胸圧が上昇し、著しいときは頭部への動脈が強く圧迫され、血液の循還が抑制されて、瞬間的に失神状態になることがあります。

事実、スクワットやスタンディング・プレスの運動中に意識を失い、倒れてケガをした例もあります。したがって、ボディビルの運動は、そのような立ちくらみの現象による不測の事故に対処するためにも、できるだけ怒責しないようにして運動を行う必要があるといえます。

ボディビルの運動はその性質上、全然リキまずに運動を行うのは無理なことですが、息を吸ったり吐いたりして呼吸を止めずにリキむ程度なら、まず危険はないでしょう。また、その程度のリキみでも怒責に対する訓練にはなるでしょう。

ところで、立ちくらみを防ぐには、運動中の呼吸の深さについても注意する必要があります。

運動中の呼吸の深度は、胸廓の拡張を促す目的で行う特定の運動種目を除いては、動作に合わせて自然に吸える量を吸い、自然な気持で吐くくらいがよいとされています。深呼吸をするような感じで息を無理に多く吸い込むことは、そのことによって胸圧が著しく上昇し、怒責するのと同じような状態になるので危険です。また、息を吐くときは、一時に大量に出しすぎると苦しくなってしまい、酸素が不足して、これまた立ちくらみの原因になるので吐くというよりは唇からもらす感じで少しずつ出すようにするのがよいでしょう。

予測できない事故を防ぐために、無理をしないであくまでも慎重に行なってください。

②セット間の休息時間について

ボディビルの場合、筋運動を継続する困難さを呼吸疲労のかたちで訴えていると考えてよいと思います。したがって、サーキット・トレーニングのように心肺機能の強化を意図して行う場合はともかくとして、筋の強化と肥大を目的としたごく一般的なトレーニングでは、運動の合い間に適当な休息をとることが必要といえます。

つまり、運動の強度をある程度、一定の内容に保つためには、呼吸疲労の回復を待って次の運動を行うことが必要であるということです。

このことから、セット間における適切な休息時間とは、呼吸疲労の回復し得る時間であるともいえます。そしてこの回復に要する時間は、運動種目と実施者個々の体力によって異なるので具体的にどのぐらいであるとははっきりいえません。強いていえば30秒〜3分ぐらいであるとはいえますが、もちろんそれよりも長い場合も短い場合もあります。要するに、呼吸の乱れがある程度しずまり、次の運動をやる気になるまで必要に応じて休むようにすればよいわけです。

しかし、だからといって筋が冷えてしまうまで必要以上に休息を長くとることは、運動の機能を低下させ、トレーニングに対する意欲をも減退させてしまうことがあるので注意してください。とくに冬期においては、からだが冷えやすいので、衣服による保温を考えるとともに、休息時間にも十分注意をはらうようにしてください。

③バーベルを使って行うウォーム・アップ

からだが温まりにくい冬期のトレーニングにおいては、本運動に入る前に入念なウォーム・アップを行う必要があります。その意味で、あなたも考えておられるように、重量を用いたウォーム・アップを行うことは大変よいことです。

重量を用いて行うウォーム・アップとして最も愛好されている運動にクリーン・アンド・プレスがあります。この運動は全身的にからだを使う運動ですので、ウォーム・アップの目的にかなったものといえます。運動のやり方は後述するとして、その前に注意しなければならないことがらについて述べておきます。

重量を用いて行うウォーム・アップは、本運動を行うための筋力とスタミナがそこなわれない範囲で行うことが肝心です。ウォーム・アップでからだが疲れてしまうようでは、ウォーム・アップとしての意味がなくなります。このような意味から、重量を用いたウォーム・アップは、本運動として正式に行う場合の40~50%ぐらいの筋力発揮を限度として行うのがよいとされています。

たとえば、クリーン・アンド・プレスを本運動として正式に行う場合、30kgで10回行えるようなら、ウォーム・アップとしては10~15kgを使用して、10~15回ぐらいの回数を反復すればよいでしょう。セット数は、その日の気温や体の状態に応じて適宜増減して行なってください。

◎クリーン・アンド・プレス

<かまえ>両足の甲がバーベルのシャフトの下に位置するように立つ。両足の間隔は肩幅よりもいくぶん狭いぐらいでよい。次にからだをかがめ両腕を伸ばして、左右のグリップの間隔が肩幅よりもやや広いくらいの間隔にシャフトをオーバー・グリップで握る。

かがんだ姿勢のまま胸を張り背すじをそらして腰背部を緊張させる。ただし腰の位置が肩より高くならないように留意する。かまえの姿勢で腰背部が彎曲していたり、また、腰の位置が肩よりも高くなっていると次に説明する動作において固有背筋が正常な状態で作用しがたくなるので、腰を痛めるおそれがある。

<動作>かまえの姿勢がととのったら引きあげ動作にうつる。腰背部を彎曲しないように留意して、脚を伸ばしながら上体を起こし、全身を1つのバネとして上方へ一気に伸ばし、また、肩と腕の引きによってバーベルを首のあたりまで引きあげる。この場合、腰背部を彎曲させて動作を行うと腰を痛めるおそれがある。

シャフトを首のあたりまで引きあげたら、少し膝を屈し、腕と手首を返えしてバーベルを胸の前で受けとめる。以上の動作を連続した動作で行うことはいうまでない。

おろすときは、膝と腰のクッションを使ってバーベルをいったん大腿部の前までおろし、ぶらさげた状態で、腰背部を彎曲させないように注意して、上体を少しずつ前傾しながら脚を屈して床までおろす。

以上がクリーン・アンド・プレスのやり方ですが、これをウォーム・アップの運動として行う場合には、加速をできるだけ用いないように心を配って動作を行うようにしてください。

広背筋の下部と大胸筋の上部を重点的に鍛えたいが

Q.ボディビル歴2年、自宅でトレーニングをしています。からだの発達状態は2年程度のキャリアからすれば良いほうだとは思いますが、他の部分に比較して広背筋の下部と大胸筋の上部が少し不足ぎみです。そのようなわけで今年はこの部分の強化にポイントを置いてトレーニングをしようと考えています。

自宅でトレーニングをする関係上、採用できる種目も限られますが、上記の部分に有効な種目とそのやり方をご紹介ください。所持器具はバーベル、ダンベル、フラット・ベンチ、スクワット・スタンドです。それにチンニングは物干しを利用して行えます。

また、現在までに採用した広背筋と大胸筋のための運動種目と現在行なっている上記の部分のトレーニング内容は次のとおりです。

<現在までに採用した広背筋の種目>
①ベント・オーバー・ローイング
②ワン・ハンド・ローイング
③エンド・オブ・バー・ローイング
④チンニング
⑤チンニング・ビハインド・ネック
⑥ベント・アーム・プルオーバー

<現在までに採用した大胸筋の種目>
①ベンチ・プレス
②ダンベル・ベンチ・プレス
③ストレート・アーム・ラタラル・レイズ・ライイング
④ベント・アーム・ラタラル・レイズ・ライイング
⑤ストレート・アーム・プルオーバー
⑥ベント・アーム・プルオーバー
⑦プッシュ・アップ

<現在の広背筋のトレーニング内容>
記事画像1
<現在の大胸筋のトレーニング内容>
記事画像2
(福島県・野口光明 店員 21歲)
A.まず広背筋の運動について説明します。広背筋の下部を発達させたいとのことですが、この部分はなかなか発達させにくい部分といえます。広背筋の上部に関しては、きょくたんな話が広背筋のための運動を行いさえすれば発達するといえますが、下部はそう簡単に発達しないものです。

もとより広背筋の下部に有効と考えられる運動種目はあります。しかし、広背筋の下部の発達を促すについてはそれらの種目の選択に加えて、適切な動作で運動を行うことが大切です。

運動によって広背筋の上部を刺激することは比較的やさしいですが、下部を刺激するのは大変むずかしいといえます。ただなんとなく運動を反復しているようでは下部を的確に刺激することはできません。つまり、それなりの動作上のポイントをよくつかんで運動を行う必要があります。

では、比較的、広背筋の下部に有効と思われる運動種目と、動作上のポイントを紹介しましよう。

◎クロス・グリップ・チンニング

<かまえ>懸垂用のバーの下に横向きに位置し、左右の手指を組み合わせるようにしてバーにぶらさがる。

<動作>背をできるだけそらし、上体をうしろへのけぞらす感じで腕を屈してからだを引きあげる。引きあげたときに、からだの一部をバーにふれさせる必要はない。要するにこの運動のポイントは、下半身の力を抜き、顔と上半身を後方へできるだけのけぞらすようにして、腹部がグリップの下へいくようにからだを引きあげることである。

◎ストラッドル・バーベル・ローイング

<かまえ>バーベルを横向きにまたいで立ち、上体を床面と平行になるぐらいに前倒する。次に、左右の手指を組み合わさせてシャフトの中心部を下から握る。

<動作>上体を起こさないように留意して、腕を屈し、肘で引きあげる感じで前後のバランスをとりながらバーベルを持ちあげる。

この場合の動作はエンド・オブ・バー・ローイングと似た動作になるが、バーベルを引きあげたときに、グリップの位置がみぞおちとへソの中間あたりにくるようにする。グリップが胸のあたりにくるように引きあげると、広背筋の下部に効きにくくなる。また、バーベルを引きあげたときに上体が起きすぎても効果が半減する。【写真参照】
【ストラッドル・バーベル・ローイング】

【ストラッドル・バーベル・ローイング】

以上が広背筋の下部のための運動です。次に大胸筋の上部のための運動について説明します。

大胸筋においても、広背筋の場合と同様に、発達に困難がともなうのはむしろ下部の方で、上部の発達を促すのは運動の選択さえ適切であれば比較的容易であるといえます。したがって、運動の動作そのものについては、とりたてて注意しなければならないということがらはありません。ただていねいに動作を行うことに心掛けていれば、使用できる重量が増えていくにつれて筋量も増加してきます。

では大胸筋の上部に有効な運動種目を3つ紹介します。

◎ベンチ・プレス・ロゥア・ツー・ザ・アッパー・ペクツ

名称は長たらしいが、要するにシャフトを鎖骨のあたりへおろして行うべンチ・プレスのことです。

左右のグリップの間隔は肩幅の倍ぐらいにする。グリップの間隔が狭すぎるとシャフトを鎖骨のあたりへおろしにくくなる。またその反対に広すぎても、動作の動きが小さくなるので効果が減少する。そのへんのところを考慮してグリップの間隔をきめることが肝心である。

なお、運動中は背と腰をなるたけそらさないようにする。できることなら背と腰をベンチに密着させて行うようにするのがよい。両足をべンチの上にのせ、膝を立てれば背と腰がベンチに密着しやすくなる。

◎バックライイング・ダンベル・ベンチ・プレス

ベンチにからだをながながと横たえるのではなく、ベンチの一端に背から上だけをのせて仰臥し、その姿勢で行うダンベル・ベンチ・プレスである。

バックライイングとは、背から上だけをベンチにのせて仰臥することであるが、このような姿勢でダンベル・ベンチ・プレスを行えば、運動中の上体のそりが抑制されるので、普通に仰臥して行う場合よりも大胸筋の上部に対する刺激が強くなる。なお、運動中、両手にもったダンベル(ダンベル・シャフト)の向きは写真のように常にからだと平行ではなく交差するように保つのがよい。

また、ベンチの他方の端を木片やプレートの上に置き、わずかでも傾斜させて行えば一層有効度を増すことができる。【写真参照】
【バックライイング・ダンベル・ベンチ・プレス】

【バックライイング・ダンベル・ベンチ・プレス】

◎プッシュ・アップ・ウイズ・フィート・エレベイティッド

両足をベンチなどにのせて高くして行うプッシュ・アップ。両足の位置を高くし、胸部を下向きに傾斜させればさせるほど、傾向として大胸筋の上部に効くようになる。

したがって、このことを頭において大胸筋の上部に効かせるのに最もぴったりした感じの傾斜で運動を行うようにするのがよい。ただし、傾斜が強すぎると大胸筋よりも肩に効くようになるので注意。また、運動中は腰を曲げたりくねらしたりしないで、からだをピンと伸ばした状態で腕の屈伸を行うようにする。【写真参照】
【プッシュ・アップ・ウイズ・フィート・エレベイティッド】

【プッシュ・アップ・ウイズ・フィート・エレベイティッド】

【解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生】
月刊ボディビルディング1977年1月号

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