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☆スタミナ栄養シリーズ特集版☆
強い選手になるために③

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月刊ボディビルディング1977年4月号
掲載日:2018.08.26
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1. すごいぞワンちやん

 「ジャイアンツ王選手の年俸6200万円」というニュースは、もちろんプロ野球史上はじめての高額で、日本だけでなく、アメリカのニューヨークタイムスにも写真入りで紹介され話題になっている。なにしろ同年令のサラリーマン15人分の年収になるうえ、テレビのCM収入も入ってくる。ナポナ・森ノ詩などお菓子の広告で500万、スキーの安売王ビクトリアの広告で1000万、紳士服オンワードの広告で2000万、それになんとペプシコーラの広告で1億5千万・・・・・・。(サンケイスポーツ誌)

 さらにテレビや週刊誌に顔を出してン万円、サイン会や地方からの招待でン万円など、いったい総収入はいくらになるか、われわれには見当もつかない。

 だが確かに王選手にはそれだけの実力がある。人間的な礼儀正しさ、信望もある。700本・715本とホームランをかっとばし、いよいよ755本目、756本目に今年は挑戦する。日本中をわかせる人気と実力、真剣な努力には心からの拍手をおくりたい。

2. 基本の体ができている

 この王選手の快挙の背景にはやはり健康と体力があることはいうまでもない。私は何年か前に、後楽園のロッカーで王選手のパンツ1枚の体を見たことがあるが、前人未踏の大記録を次々と打ち立てていく陰には、やはり、それにふさわしい肉体があることを知った。

 世紀の大打者のがんじょうな肩と背中の筋肉・厚みのある胸・くっきり浮びあがった上腕二頭筋・それに65cmはあると思われる大腿筋・力量感にあふれた下腿筋――全身がひきしまった筋肉のかたまりであることがありありとわかるのだ。身長が180cm近くあることを感じさせないくらい全身の筋肉が均育よく発達していた。

 「毎朝4時に起床して、居合のけいこ、3時間にわたるバットの素振り。体力のない選手なら一発でつぶれてしまうよ」と若い頃の王選手の師匠、荒川氏は語っている。こんな激しいトレーニングに耐え36才の現役選手として超一流の活躍ができるのも、基礎体力とそれを支える筋肉や心臓・肺臓など身体構造ができあがっているためだ。

3. 今の選手はなっていない

 ところがどうだろう。「王選手のような大選手になりたい」と野球をやる者ならみんな望むけれど、基本的な体づくりに関心があまりない。ランニングやらうさぎとび・バットの素振り・ノック練習・柔軟体操・・・・・・くる日もくる日も同じ練習ばかり。たまにはバーベルを持つことがあっても、気まぐれでサーサットトレーニング風に軽いのをヒョイとあげるだけで終ってしまう。「いやあ驚いたね。ジャイアンツの多摩川練習所によく行くが、プロ選手たちの体がなってないよ。とくに脚の太い選手がおらん」と証言するのは田端ボデイビルアカデミーの河合会長。早大時代ヒーローとして神宮の森をわかせ、以来野球界について長い実績を持っておられる河合氏の言葉だけに重みがある。

 私自身かねてから「野球選手はなぜもっと本格的なウェイト・トレーニングをやらないのか」と不思議に思っていた。ある人は「ボデイビルで筋肉をきたえるとスイングにじゃま」という。確かに広背筋が逆三角形につきすぎることを敬遠してのことかもしれない。だがそんな心配をする前に、全身にバネのような筋肉をつけておくメリットを考えるがよい。前月号に述べたように、ダッシュして走るスピードは大腿筋の太さに比例する。「スクワットで脚を太くしたら100mを11秒台で走れるようになりました。オリンピック重量挙の大内選手も11秒で走ります」(山梨県北村昭人さん)「ミスター東京になった加藤一男選手は、脚の筋肉がすごいので走るのが早いこと、早いこと。誰も追いつけません」(大森ボディビル・センター佐々木会長談)

 ――こんなに良い結果が明らかなのだ。

4. 食事法も粗末

 去年の夏、日米対抗大学野球に来日したユッシェル監督によると、「野球界の最近の傾向は上体の鍛練にある。バーベルやダンベルのトレーニングが重視されているのだ。日本では慶大の堀場選手の上体が逞していい選手だ。
彼のパワーは日本一だ」と関係者にアドバイスしている(朝日新聞51年7月4日)。1日に何時間も練習するなら、その一部を本格的なウェイト・トレーニングにあててはどうだろうか。とくに10代の若い選手にすすめたい。

 話は食事面にかわるが、栄養についての無関心も気になるところだ。「プロ選手はさぞ良い食事を食べているだろうな」と誰でも考えるが、厚いステーキを食べるのはまれなこと。合宿所にいって食堂風景を見るがいい。カレーライスにどんぶり物。町の大衆食堂と変りはない。フラフラになるほどきつい練習をして、こんな粗末な食事内容では良い体ができるはずがない。

 カネやんがロッテオリオンズの監督を引きうけてまっ先にしたことは「選手たちの食費を1日千円ずつアップすること」だった。経営者に交渉して実現してからというもの、選手たちが感激して、ドンジリだったチームが一挙に優勝してしまったことは耳新しい。

 スポーツマッサージをやれるトレーナーが12球団の各チームに専属としてつくことはいまや常識になったが、栄養や食事を考える立場の人があまりいない。また当然ながらバーベルを使ったトレーニングを指導できる人がいないのも残念なことである。
〔巨人軍・王選手(写真提供・ベースボールマガジン社)〕

〔巨人軍・王選手(写真提供・ベースボールマガジン社)〕

5. コーチにゆける人材は?

 日本ボディビル協会では「指導者養成講座」をひらいて、トレーニング法や栄養・人体構造など一通りの知識と技術を身につけたビルダーを認定している。長年の間この事業推進にあたってこられた佐野匡宣氏と「将来認定を受けられた人たちがどのように仕事として活かしていくか」親しく語りあう機会があった。

 理想としては野球チームやボクシング・ジムなどに正しいトレーニングと食事法などの指導をして、共に喜ばれることができればこれにこしたことはない。実際に広島ボディビル・センターの金沢利翼会長は高校野球の名門・広島商業チームにバーベル・トレーニングを指導しているし、やがては赤へルの広島東洋カープの指導もするときいている。このような高い地位のある仕事をビルダーがどんどんやれるようになればすばらしい。その日のために努力しよう。
(筆者は健康体力研究所代表)
月刊ボディビルディング1977年4月号

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