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JBBAボディビル・テキスト13
指導者のためのからだづくりの科学
各論(解剖学的事項)―筋系4

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月刊ボディビルディング1974年8月号
掲載日:2018.07.25
日本ボディビル協会指導員審査会委員長
佐野誠之

<10>下肢の筋

 下肢の運動をつかさどる筋群で、これらはその所在する部位にしたがって骨盤筋群、大腿筋群、下腿筋群、足筋群の4つに区分されている。神経支配はいずれも腰仙骨神経叢の枝である。

 下肢の筋の全景をつかみ、その機能を理解するには参考図B―83のような模型図によるのが最も便利である(参考図B―83)

A―骨盤筋群

 下肢帯筋は寛骨筋あるいは骨盤筋といわれるが、これには寛骨の内側の筋と外側の筋とがある。

①寛骨内筋(内寛骨筋)―下肢帯とその附近から起こり、骨盤後壁の前を占める一関節性筋である。(参考図B―84)

(イ)腰筋―腰椎から起こって斜めに下外側に走り、鼠径靭帯の下をくぐって大腿骨の小転子についているもので、大・小腰筋がある。

a大腰筋―大腰筋は二頭あり、浅部は第12胸椎から第4腰椎までの各椎体から、深部は全腰椎の肋骨突起から起こり、円柱形をした筋である。(参考図B―85)

b小腰筋―小さい筋で、第12胸椎と第1腰椎から出て腸骨膜についている。腸骨膜を張っているが、この筋のない場合もあり有無の比率は50%程度であるといわれている。

(ロ)腸骨筋―大腰筋の外側にあり、腸骨の内側(腸骨窩)から起こり一部は大腰筋の内側に合し、一部は直接大腿骨の小転子につく。大腰筋と協力して同じ働きをする。(参考図B―86)

 大腰筋、小腰筋、腸骨筋を総称して腸腰筋と呼ぶこともある。つまり、腸腰筋という名の筋が別個にあるのではなく、大腰筋、小腰筋、腸骨筋はその停止に近づくにつれて合体し、共通の停止部をもち、同じ作用をするからである。(参考図B―87)

 その作用とは、股関筋を屈し、大腿を外転(上にあげ)し、外方に回旋する。また、下肢を固定すると、腰椎と骨盤を前下方に回旋する働きがある。

②寛骨外筋(外寛骨筋1)―寛骨の外側にあるもので、下肢帯から起こり、骨盤後壁の後面を占める二関節性筋である。殿部の筋ともいわれている。(参考図B―88)

(イ)大殿筋一直立歩行するために人間ではとくに発達している殿部にある強大な筋で、強い結締組織の中隔で分隔された沢山の粗大な筋束で出来ている。

 腸骨の後方の骨面、仙骨や尾骨の縁、坐骨の外側後面、仙結節靭帯、腰背筋膜等から起こり、大きい筋束が斜め下外方に走り、大転子の上を越え、大腿骨粗面に長くついている。表面の一部は大腿筋膜の外側で腸脛靭帯に移っているこの腸脛靭帯は大腿筋膜の強力に発達した外側部である。(参考図B―88)

 下殿神経の支配をうけ、腸腰筋と拮抗して大腿を後ろに引き、かつ、外旋する働きがあり、下腿を固定すると腰をのばす働きをする。また、下腿伸展時には下腿を外転する。(参考図B―89)

(ロ)中殿筋(ハ)小殿筋―腸骨後面翼部外側から起こり、三角形の扁平な筋で、中殿筋が小殿筋をすっかりおおって重なり合って大転子の先端についている(参考図B―88)

 中殿筋は起始部の幅が広いので前部の筋束は下後へ、中部の筋束は下へ、後部の筋束は前下へとのびているが、前部、後部いずれが働くかによって動きが違ってくる。前部が働くと大腿を内旋(内方に回す)し、後部が働くと大腿を外転(外方に回す)する。大内転筋の拮抗筋である。(参考図B―90B―91)

 小殿筋は中殿筋のミニチュアであるが、内旋の作用は中殿筋よりも強い。いずれも上殿神経の支配をうける。

以上が殿筋群と呼ばれるもので、外寛骨筋にはこのほかに回旋筋群と呼ばれるものがある。また、次に述べる大腿筋膜張筋は大腿の外側にある筋で、当然、部位からは大腿の筋であるが、中殿筋、小殿筋と同じ神経支配によるものであるから、ここで述べることにする。

(ニ)大腿筋膜張筋―腸骨の前腸骨棘から起こり、大転子の前をとおって脛骨の粗面についている二関節性筋である。(参考図B―92)

 大腿筋膜、腸脛靭帯をつくり、下腿をのばす働きと、下腿をのばすとき脛骨を外転させる。下肢を固定すると腰をのばす働きもあるすなわち、大腿の前方挙上と内旋の働きもある。

③回旋筋群(外寛骨筋2)―仙骨内面、坐骨から起こり、大腿骨大転子とその附近についており、骨盤後壁の後面を占める筋であるが、殿筋群は腸骨外面からついているのと異なる点を注意すればよい。(参考図B―93)

(イ)梨状筋―中殿筋の下縁に接して現われる筋で、仙骨の前面で第2仙骨孔と第4仙骨孔の外側部から起こり、筋束が集まって外方に走り、大坐骨孔から骨盤外へ出て大転子の先端についている。大腿の外転筋であり、仙骨神経叢の枝の支配を受けている。(参考図B―94)


この筋の通過が大坐骨孔を上下に分けている。すなわち、梨状筋上孔、梨状筋下孔である。(参考図B―95)

(ロ)内閉鎖筋―寛骨内面の閉鎖孔の緑と閉鎖筋膜から起こり、小坐骨孔(小坐骨切痕、仙坐骨靭帯、仙棘靭帯に囲まれた部分)で前外方に転進し、骨盤を出て大腿骨の転子窩につく。大腿外旋筋(外方に回わす)として働く。神経は仙骨神経叢の枝の支配を受ける(参考図B―96)。

(ハ)外閉鎖筋―内閉鎖筋が閉鎖筋膜の内面とその附近より起こるのに対し、外閉鎖筋は閉鎖筋膜の外面とその附近より起こり、内閉鎖筋の下を平行に走り、大腿骨頸の後ろをとおって外方に向い、大腿骨転子窩につく。

 大腿を内転し外旋する。すなわち、内閉鎖筋と同様に大腿を外方に回わす働きがある。閉鎖神経の支配を受ける。(参考図B―97)

(ニ)双子筋―起始を坐骨棘にもつ上双子筋(棘双子筋)と、坐骨結節に起始をもつ下双子筋(結節双子筋)と呼ばれる上下2つの双子筋があり、前述の内閉鎖筋の腱に合体して終わり、大腿転子窩についている。(参考図B―98)

 神経支配と作用は内閉鎖筋と同じで、大腿を外方に回わす働きをする。これがため、内閉鎖筋の一部であると見ている学者も多い。

(ホ)大腿方形筋―双子筋の下方にあり、四角形の厚い筋で、広く坐骨結節から起こり、外方へ横にのびて大腿骨の大転子、および転子間稜についている。大腿外旋筋であるが、大腿を外旋すると共に内転する働きがある。神経支配は内閉鎖筋や双子筋と同じく仙骨神経叢の枝である。(参考図B―99)

B―大腿の筋

 大腿の筋とは大腿骨を中軸として、その周囲を縦に走る筋群で、いずれも長く太い筋で、これを伸筋群、屈筋群および内転筋群に区別することができる。伸筋群は大腿の前側にあり、屈筋群は大腿の後側に、内転筋群は大腿の内側にある。以下それぞれについて述べていく。

①屈筋群(大腿後面の筋)―伸筋群の拮抗筋群(対向筋群)であるが、伸筋群よりは発達が悪く、神経は坐骨神経の支配を受けている。(参考図B―100)

(イ)大腿二頭筋―大腿屈筋の外部を占め、長頭は坐骨結節から、短頭は大腿部の腓側稜(大腿骨粗線の外側唇)から起こり、下に向って1つとなり、最後は強い腱となって膝窩の外側をとおって腓骨頭についている。大腿を伸展し、膝関節を曲げ、下腿を屈して外旋する働きがある。また、大腿を固定すると骨盤を直立させる。(参考図B―101)

(ロ)半腱様筋―坐骨結節より起こり下半では円柱状の細い腱となって膝窩の内側を下がり、脛骨粗面につく細長い筋で、半膜様筋をおおっている。大腿を伸ばし、膝関節を曲げ、下腿を内旋する働きがある。また、大腿を固定させると骨盤を直立させる働きをする。(参考図B―102)

(ハ)半膜様筋―坐骨結節より起こり大腿二頭筋と半腱様筋の深部を走っている。扁平な腱をもって起こり、上半は腱膜で中ごろから筋腹となって下に向って走り、円柱状の腱となる。腱は3つに分かれ、前部は脛骨上部の内側につき、中央部の腱は下にのびて膝窩筋筋膜につき、後部は斜膝窩靭帯について膝関包の後壁についている。下腿を屈し、また、内旋する働きがある。(参考図B―103)

 以上の3つが大腿屈筋群であり、大腿後面を占める二関節性筋である。これらはまた、膝屈節群(ハムストリング)とも呼ばれている。


②内転筋群(大腿の内側にある筋群)

(イ)大内転筋―内転筋のうち、最も強く大きい筋で、短内転筋とは一部重なり合っている。坐骨結節と恥骨下枝から起こり、外下方に扁平にひろがり、一部は円柱状の腱となって大腿骨脛側上顆につき、筋束の大部分は大腿骨後側の骨稜全長(粗線内側唇全長)にわたってついており、また一部は、腱膜となって内転筋結節に終わっている。

 大内転筋には、上部の水平に近く走る線維と、中部の斜走する線維、下部のほぼ垂直に近く走る線維との3部分がある。(参考図B―104)

 水平ないし斜走する部分は、大腿の内転および屈曲、ならびに外旋に働く。垂直に近く走る部分は大腿を伸展し、やや内旋に働くというように複雑である。

 神経支配も異なっており、内転筋として働く部分は閉鎖神経の支配を受け、伸展筋として働く部分は坐骨神経の支配を受ける。すなわち、上部は閉鎖神経の支配を受け大腿を内転する働きをなし、下部は坐骨神経の支配を受けて大腿を後方に少し上げ、また少し内旋させる働きがある。

(ロ)短内転筋―恥骨下肢から長内転筋の下(内側)を外下方にひろがり、大腿骨稜の上方脛側唇についている。作用と神経支配は長内転筋と同じで、大眼を屈し、また内旋し、あるいは外方にまわす働きをし、閉鎖神経の支配を受けている。(参考図B―105)

(ハ)長内転筋―恥骨上枝から起こり短内転筋を少しおおうように大腿骨脛側の内転筋付着部の下方についており、大腿の内転、屈曲、および外旋に働く。閉鎖神経の支配を受ける。(参考図B―106)

(ニ)恥骨筋―恥骨櫛のところから起こり股関節を下行して大腿骨小転子のすぐ下のところ(大腿骨上後部の恥骨筋線)についている扁平な方形の筋である。大腿の拳上、内転、外旋の働きがある。

 この筋は位置的にみると腸腰筋の内側にあり、大腿前面にある諸筋と同様に一般的には大腿神経の支配を受けるが、ときには閉鎖神経の支配を受ける。内転筋としての作用よりも屈筋としての作用が強いといわれているものである。(参考図―107)

(ホ)薄筋―大腿前内側部にある二関節性筋で、内転筋群に属するが、他の内転筋は一関節性であるのと異なる。(参考図B―108)

 大腿の内転筋でありながら、下腿の屈筋として働く。また、下腿の内旋をも助ける働きがあるところが他の内旋筋と違う点である。

 恥骨結合の外側から起こり、大腿の内側をとおり、半膜様筋とならんで下にのびる細長い帯状の筋で、細い腱となって脛骨粗面内側についている。

 大腿および下腿を内転し、下腿をまげ内方へまわす働きがあるのは前述したとおりであるが、膝関節をのばしたときは下腿の位置を固定する働きがある。

 以上、イロハニホの5つの筋と外閉鎖筋との6つを内転筋群という。内転筋群のうち、薄筋を除いての5つの筋は大腿の前内側部を占める一関節性筋である。(参考図―B109)

(次号は下肢の筋のつづきについて記す。
〔参考図B―83〕 下腿筋の全景

〔参考図B―83〕 下腿筋の全景

〔参考図B―84〕 寛骨内の筋

〔参考図B―84〕 寛骨内の筋

〔参考図B―85〕 大腰筋、小腰筋

〔参考図B―85〕 大腰筋、小腰筋

〔参考図B―86〕 腸骨筋

〔参考図B―86〕 腸骨筋

〔参考図B―87〕 腸腰筋と腸方形筋の略図

〔参考図B―87〕 腸腰筋と腸方形筋の略図

〔参考図B―88〕 殿部の筋を示す略図

〔参考図B―88〕 殿部の筋を示す略図

〔参考図B―89〕 大殿筋

〔参考図B―89〕 大殿筋

〔参考図B―90〕 中殿筋

〔参考図B―90〕 中殿筋

〔参考図B―91〕 小殿筋

〔参考図B―91〕 小殿筋

〔参考図B―92〕 大腿筋膜張筋

〔参考図B―92〕 大腿筋膜張筋

〔参考図B―93〕 梨状筋を中心に大・小坐骨孔の内容物とともに若干の筋を示す

〔参考図B―93〕 梨状筋を中心に大・小坐骨孔の内容物とともに若干の筋を示す

〔参考図B―94〕 梨状筋

〔参考図B―94〕 梨状筋

〔参考図B―95〕 骨盤内より内閉鎖筋と梨状筋をみる

〔参考図B―95〕 骨盤内より内閉鎖筋と梨状筋をみる

〔参考図B―96〕 内・外閉鎖筋

〔参考図B―96〕 内・外閉鎖筋

〔参考図B―97〕 内・外閉鎖筋

〔参考図B―97〕 内・外閉鎖筋

〔参考図B―98〕 上双子筋(棘双子筋〕 下双子筋(結節双子筋)

〔参考図B―98〕 上双子筋(棘双子筋〕 下双子筋(結節双子筋)

〔参考図B―99〕 大腿方形筋

〔参考図B―99〕 大腿方形筋

〔参考図B―100〕 大腿筋(右、後面)

〔参考図B―100〕 大腿筋(右、後面)

〔参考図B―101〕 大腿二頭筋

〔参考図B―101〕 大腿二頭筋

〔参考図B―102〕 半腱様筋

〔参考図B―102〕 半腱様筋

〔参考図B―103〕 半膜様筋

〔参考図B―103〕 半膜様筋

〔参考図B―104〕 大内転筋

〔参考図B―104〕 大内転筋

〔参考図B―105〕 短内転筋

〔参考図B―105〕 短内転筋

〔参考図B―106〕 長内転筋

〔参考図B―106〕 長内転筋

〔参考図B―107〕 恥骨筋

〔参考図B―107〕 恥骨筋

〔参考図B―108〕 大腿薄筋

〔参考図B―108〕 大腿薄筋

〔参考図B―109〕 大腿筋(右、内側面)

〔参考図B―109〕 大腿筋(右、内側面)

月刊ボディビルディング1974年8月号

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