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JBBAボディビル・テキスト
指導者のためのからだづくりの科学
各論(解剖学的事項)―筋系5

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月刊ボディビルディング1974年9月号
掲載日:2018.07.31
日本ボディビル協会指導員審査会委員長
佐野誠之
③大腿伸筋群(大腿前面筋)―大腿前面にある伸筋には大腿四頭筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、膝関節筋がある。

 これらのうち、大腿の運動に関与する大腿前面を占める二関節性筋としては、縫工筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋(大腿四頭筋のうちの二関節性部分)があり、下腿の運動にあずかる筋(前面の一関節性筋)としては、大腿四頭筋のうちの外側広筋、中間広筋、内側広筋、膝関節筋がある。(参考図B―110)

 以下それぞれについて述べる。

3の1.大腿前面を占める二関節性筋

(イ)縫工筋―上前腸骨棘の直下から起こり、大腿前面を斜め内下に走る細長い帯状の筋で、脛骨粗面上部の内側についている。大腿を外転、外旋し、下腿を内旋する働きがある。すなわち、大腿を前方にあげ、やや外転し、少し外旋させる働きがあり、下腿に対しては屈筋として働くもので、大腿神経の支配を受けている。

 膝関節がのびているときは大腿を固定し、膝関節が屈しているときは大腿を内方にまわす。また、膝関節が固定しているときは股関節をまげ大腿を外転させるし、下腿を固定すれば骨盤を前にひき傾ける働きもある。非常に多用複雑な働きをする筋である。(参考図B―111)

(ロ)大腿筋膜張筋―神経支配の面からみると殿筋群に属するが、位置的関係からみると二関節性で、また前面に位置するのでこの項に入るが、前述の殿筋群のところで説明したのでここでは省略する。

(ハ)大腿直筋―大腿四頭筋の二関節性部分で、腸骨結節と寛骨臼上縁(腸骨棘)より起こり、下に紡錘状に筋腹をのばし、膝蓋骨の上で他の一関節性部分と合して強い腱となって脛骨粗面についている。大腿神経の支配を受け、大腿をまげ、やや外転する他に, 膝関節に関する一関節性筋部分と共同して膝関節を伸展させる(参考図B―112)。

③の2. 大腿前面の一関節性筋
(イ)大腿四頭筋一大腿前面のほとんど全部分を占める強く大きな筋で、膝関節の強力な仲筋として働き、また膝関節を前方より補強固定する重要な筋である。

 四頭はそれぞれ大きい筋頭で、独立した筋のようにもとり扱われており、1つ1つ独立した各称をもっている。四頭はいずれも強大な共通の腱に合して大腿四頭筋腱となり、腱の停止は膝蓋骨を包んで脛骨粗面についている。いずれも大腿神経の支配を受けている。(参考図B―113)

a腓側広筋(外側広筋)―大腿の大転子基部と粗線外側唇(大腿骨稜の腓側唇)につづいた部分より起こり、下外方に向って大腿四頭筋共同の腱に移っている。(参考図B―114)

b中間広筋―大腿骨骨幹上2/3の上前外側面から起こり、下に向い、共同腱の中軸となっている(参考図B―115)

c脛側広筋(内側広筋)―大腿骨転子間隙の下部と粗線内側唇(大腿骨稜の内側)から起こり、斜め下に向って共同腱に移っている。(参考図B―116)

 以上の3つと前述の大腿直筋とを合わせて大腿四頭筋と呼んでいる。

 膝蓋骨の底とその両側の線に共同腱がついており、一部は膝蓋骨の下で膝蓋靭帯となって脛骨の上部前面・脛骨結節についている。膝関節をのばし、下腿と大腿を一直線にする働きがあり、また、下腿を固定するときには坐位から大腿を立位まで起立させる。大腿直筋は股関節をまげる働きをする。なお、大腿四頭筋腱の中に種子骨と膝蓋骨が含まれている。

(ロ)膝関節筋―大腿骨前面の下部より起こり、膝関節包につく。大腿神経の支配を受け、膝関節を緊張させるすなわち、膝関節包をのばす働きをする。中間広筋が分かれて出来たものと考えられている。


C―下腿筋群

 下腿から起こって足に付く筋群で、伸筋群、屈筋群、腓骨筋群の3群に分けられる。伸筋群は下腿の前側に、腓骨筋群は下腿の腓側に(すなわち外側に)、屈筋群は下腿の後側にある。

①下腿の屈筋一下腿の屈筋には深層と浅層と各々3つずつある。

 (イ)深層筋群―下腿骨間膜、脛骨、腓骨の後面を埋めて起こっておりうちくるぶしの後ろをまわって足底にいっている。

 後脛骨筋は足根骨と中足骨につき、足を足底側にまげ、内足縁をあげ、足を内転し、つまさきをあげる働きがある。また、足が固定されると下腿を後方にひく働きがある。(参考図B―117)

 長指屈筋は第2指から第5指末節骨底につき、第2~第5指末節をまげ、足を足底側にまげる。また、足を固定すると前記後脛骨筋と同様に下腿を後方に引く。(参考図B―118)

 長母指屈筋は母指の末節の足底につき母指をまげると共に、長指屈筋の腱と腱束がついているところがあるため、他の第2~第5指をもまげる。(参考図B―119)

 以上いずれも大腿神経の支配をうける。

 膝窩筋は大腿骨腓骨顆(外側上顆)と膝関節窩靭帯から出て、内下方に向い、脛骨の後面上方についており、膝関節をまげ、下腿部を内旋する。脛骨神経の支配を受けている下腿後面の一関節性筋である。(参考図B―120)

(ロ)浅層筋群

a下腿三頭筋一大きい筋腹をもっているヒラメ筋と、二頭をもっている腓腹筋との2つの筋が合してできている強く大きい下腿後面の浅層筋である。(参考図B―121、B―122)

 すなわち、大腿骨の内側、外側上顆から起こっている内・外二頭をもつ腓腹筋と、その下で脛・腓両骨にわたって起こるヒラメ筋とが下部で俗にアキレス腱と呼ばれる下腿三頭筋腱となり、踵骨隆起(俗にかかとと呼ばれる隆起)についている。足を足底側に屈し、また、足を固定すると下腿を後方に引く働きをする。膝関節を屈曲させる作用は腓腹筋である。

 下腿後面の二関節性筋で、脛骨神経の支配をうける。

b下腿の外側(腓骨側)筋―これには長腓骨筋と短腓骨筋の2つがあり、まったく同じ働きをする協同筋で、長腓骨筋の方が表在性で起始点が高い。

 腓骨頭と腓骨体上部の外側面より起こり、下腿外側を下行してそとくるぶしの後ろをまわり、上腓骨筋支帯、下腓骨筋支帯の下をとおって足底に向い、第1楔状骨と第1、第2中足骨についているのが長腓骨筋で、長腓骨筋の起始部より下位で起こり、長腓骨筋と伴走して第5中足骨についているのが短腓骨筋である。

 作用は共に主として外反筋で、また弱い底屈筋としても働き、足弓維持をも助けている。すなわち足底を外後方に向ける働きをするとともに、足の方を固定すると下腿を後方にひく働きがある。長腓骨筋の方が足弓を保持する働きが強い。(参考図B―123、B―124)

②下腿の伸筋群(下腿の前側にある筋群)―下腿の前面で腔骨の外側にあり、脛骨と腓骨・骨間膜から起っている筋群で、足を足背にまげ、足指をのばす働きをするものである。

(イ)前脛骨筋―下腿前面中央の一番前にある長い筋で、脛骨の外側面および下腿骨間膜、下腿筋膜の上部に起こり、真下に向って走り、扁平な鍵となり、足背を経て第1中足骨と第1(内側)楔状骨の底面についている。強い内反筋であり、かつ背屈筋としても働く。すなわち、足の内側の縁を持ち上げまた、足を足背の方にまげる。足を固定すると下腿を前方に引きよせる働きがある(参考図B―125)

(ロ)長母指伸筋一腓骨中央部の内側面と、下腿骨間膜から起こり、前脛骨筋と長指伸筋におおわれて、その間を並んで下にのび、上下伸筋支帯の下をくぐって足背に出て母指の指背腱膜となって母指末節骨の底と一部は基節骨底についている。

 母指の伸筋で、同時に足の背屈を助ける。すなわち、母指をのばし、また足を足背の方にまげる動きを助ける。足を固定すると下腿を前方に引く。(参考図B―126)

(ハ)長指伸筋―脛骨の上端外側、腓骨の前面縁および下腿骨間膜、下腿筋膜から起こって、下腿前面外側を下に向ってのびる。半羽状の筋腹は内側で腱に移り、上・下伸筋支帯の下をとおり、付着腱は4分されて第2~第5指の背腱膜を形成し、中節骨と末節骨につく。第2~第5指を伸ばし足を足背にまげる。また、足を固定すると下腿を前に引く働きをする。(参考図B―127)

D―足の筋

 足の筋は小さい筋ばかりで、そのうち、下腿の筋で足まで腱ののびたものと1つになって作用するものと、足の間のみで作用する筋とがある。

 足の筋は、足背の筋と足底の筋とに大別されるが、足底の筋はさらに母指球筋と小指球筋、および中足筋とに分けられる。(参考図B―128)

 足背にある筋は、短母指伸筋と短指伸筋の2つだけで、これらはいずれも下腿からの筋の腱につき、足指をのばすと共に足を少し外転させる働きがある。(参考図B―129)

 足の筋については以上にとどめ、詳細の説明は省略する。(参考図B―130B―131)

以上、人体運動に関する筋について深筋、浅筋ともにその所在部位別(ただし、手筋、足筋については大要のみにて詳細は省略した)に説明してきたが、これらすべてが運動器官としての筋系をなすものである。

 人体に組み立てられた筋系全体を参考図B―18、B―19(5月号)で示したが、これらの図では深筋を示すことは難しく、浅筋が主である。各部位における説明で容易に深筋の位置が考えられるよう参考図を挿入してあるので参照されたい。

 次号より重複するようであるが「運動と運動器官」として、運動を主体として骨格系、筋系をまとめて大要を述べていきたい。
〔7月号誤字訂正〕

○58ページ右側欄下から5行目、第6~第7頸椎および第2~第5胸椎へとあるは、第4、第5頸椎および第2~第5肋骨の誤り。

○60ページ右側欄下から5行目、上腕二頭筋とあるは上腕二頭筋腱の誤り

○61ページ参考図B―64撓側手根屈筋とあるはB―65尺側手根屈筋の誤り

○61ページ参考図B―65はB―64の誤り。

○63ページ左側欄下から5行目、母指中根中手関節は母指手根中手関節の誤り。

○63ページ中央上から14行目、中根中手関節とあるは手根中手関節の誤り

○63ページ中央下から6行目、腿がたくさんは腱がたくさんの誤り。
〔参考図B-110〕 大腿筋(前面)

〔参考図B-110〕 大腿筋(前面)

〔参考図B-111〕 縫工筋

〔参考図B-111〕 縫工筋

〔参考図B-112〕 大腿直筋

〔参考図B-112〕 大腿直筋

〔参考図B-113〕 大腿四頭筋

〔参考図B-113〕 大腿四頭筋

〔参考図B-114〕 腓側広筋

〔参考図B-114〕 腓側広筋

〔参考図B-115〕 中間広筋

〔参考図B-115〕 中間広筋

〔参考図B-116〕 脛側広筋

〔参考図B-116〕 脛側広筋

【参考図B-117〕 後脛骨筋

【参考図B-117〕 後脛骨筋

【参考図B-118〕 長指屈筋

【参考図B-118〕 長指屈筋

(参考図B-119〕 長母指屈筋

(参考図B-119〕 長母指屈筋

〔参考図B-120〕 膝窩筋

〔参考図B-120〕 膝窩筋

〔参考図B-121〕 ヒラメ筋(下腿三頭筋の一頭)

〔参考図B-121〕 ヒラメ筋(下腿三頭筋の一頭)

〔参考図B-122〕 腓腹筋(下腿三頭筋の二頭)

〔参考図B-122〕 腓腹筋(下腿三頭筋の二頭)

〔参考図B-123〕 長腓骨筋

〔参考図B-123〕 長腓骨筋

〔参考図B-124〕 短腓骨筋

〔参考図B-124〕 短腓骨筋

〔参考図B-125〕 前脛骨筋

〔参考図B-125〕 前脛骨筋

〔参考図B-126〕 長母指伸筋

〔参考図B-126〕 長母指伸筋

〔参考図B-127〕 長指伸筋

〔参考図B-127〕 長指伸筋

〔参考図B-128〕 足底の浅筋

〔参考図B-128〕 足底の浅筋

〔参考図B-129〕 足背筋(右側)

〔参考図B-129〕 足背筋(右側)

〔参考図B-130〕 下肢の筋(右側)

〔参考図B-130〕 下肢の筋(右側)

〔参考図B-131〕 下肢の筋(右側、膝を出した形)

〔参考図B-131〕 下肢の筋(右側、膝を出した形)

月刊ボディビルディング1974年9月号

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