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強い重量挙選手になるために

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月刊ボディビルディング1978年2月号
掲載日:2019.05.07
〈JBBA技術委員健康体力研究所 野沢秀雄〉

1.高度になっている技術

 「スポーツとしての重量挙が人気を得たのは東京オリンピックのテレビ中継以来だ」と一般に言われている。
 「男らしいスポーツ」「力を数字であらわすスポーツ」として若者たちの支持率も高い。優秀選手が輩出している日体大重量挙部には、なんと42名もの選手が所属して、毎日バーベルと真剣にとりくんでいる。
 ひと昔前までは「ボディビルできたえた人が重量挙の大会に出場して上位に入賞する」ということがあったが、現在ではバーベルの挙げ方・スピード・呼吸のとり方などに技術的な格差がついて、一般の人が飛入りで参加しても「ほとんど歯がたたない」というレベルに達している。したがって「バーベル練習が好きでパワーもあり、競技選手として海外雄飛を夢みる」という人は、専門的なフォームや技術を一日でも早く学ぶとよい。

2.年齢とパワー

 昨年「体育の日」に文部省が発表した体力調査によると、体力のピークは男女とも17才であり、それ以後は背筋力をはじめ、敏しよう性・瞬発力・柔軟性が低下するいっぼうという。
 だがこのデータは、運動をする人も、しない人もひっくるめた一般的な数字にすぎない。運動を継続しておこなう場合は体力はさらに増加してゆく。
 体協のウェイトリフティング協会の資料をみると、次表のように、高校・大学・社会人と年令が高くなるにつれ記録が向上してゆく。
 この表でわかるように、決して17才(高校3年生)が力のピークではなくその後の筋力の充実・技術の向上などにより、体力は増す。実際に日本記録の大部分は23才~29才の年令で出ている。意欲をもってトレーニングすれば可能性はまだまだある。
 興味あることに、高校生で活躍した重量挙選手が、大学生・社会人になるにつれ、体が大きく発達し、階級を1ランクずつあげながら新記録を樹立しているケースがある。大内仁選手や平井一正選手である。窪田登先生もランキングにのっている代表的な重量挙選手である。
重量挙記録比較表

重量挙記録比較表

3.中・重量級選手の問題点

 レスリング同様に、重量挙は日本がオリンピックでメダルをねらえる有望種目であるが、あくまでも軽量級にすぎず、中・重量級選手はふるわない。
 実際に上の表の数字を各クラスの体重で割ると、軽量級は4.2〜4.5と大きいのに対し、重量級は2.9~3.7と小さいことがわかる。体重あたりバーベルの重さが5割もちがうわけだ。
 なぜ中・重量級が弱いのか、レスリング同様に「腹囲」「皮下脂肪」を測定した次の表を見ていただきたい。
 この表から判断すると、
①軽量級の各選手は生理的限界ギリギリまで減量をおこなって試合にのぞんでいる。皮下脂肪5ミリ以下は、一般の基準の「やせすぎ」に相当し、飢餓で栄養失調の状態をいう。
②このような限界まで脂肪をおとすと同時に筋肉たんぱくまで消費されて、体力低下をおこす者も出てくる。8キロも減量して貧血をおこす選手がいたりする。無理な減量は危険である。
③皮下脂肪が4〜5ミリ台で、しかも体重が制限以下にならない場合、そのクラスの出場は無理である。1ランクあげて出場することが適切である。
④中量級の各選手になると、腹囲・皮下脂肪に余裕が出ている。無理な減量はしていないと思われる。
⑤問題は75kg級以上の選手だ。男性の場合、腹囲76cm、皮下脂肪13mまでは「ふつう」と判定されるが、これを超えると「ふとりすぎ」つまり脂肪過剰である。とくに90kg、100kg級の選手は、たっぷりと脂肪がついており、まるで肥満児の大会や相撲とりの大会のようで、嘆かわしい。
⑥外国の選手たちはへビー級やスーパーへビー級はともかくとして、80〜90kgの選手でも腹部はキリッと引締まり筋肉質の体である。
 したがって、中・重量級の選手たちは、筋肉自体をもっと鍛えて大きくしなければならない。いくら体重があっても、脂肪や水分なら戦力にならないのは当然である。
重量挙選手の腹囲と皮下脂肪

重量挙選手の腹囲と皮下脂肪

4.最新トレーニング法

 技術的な練習のほかに、若い選手はオールラウンドな体づくりが必要である。バーベルやダンベルなど器具があるのだから十分に活用していただきたい。
「ウェイトトレーニングに関して日本でいちばんすすんだ研究と設備を持っている」といわれる日体大を訪れた。
 さすがスタッフも器具も備わっており、柔道・空手・水球など各クラブの選手が、順番を待ちながら懸命にトレーニングをおこなっている。
 ラグビー・サッカー・レスリング・重量挙など、どのスポーツもトップの成績をあげる秘密はこのウェイトトレーニングにある、と体得した次第だ。
 だが最高水準にある日体大でも、個人ごとの綿密なプログラムづくりとなると、検討の余地はまだまだ残されていよう。
 たとえばベンチ台が5〜6台も並んでいるが、単なるセット法か、自己最高の重さを競うケースが多いようだ。
 種目と種目を組むスーパーセット法、トライセット法、ジャイアント法、マッスルプライオリティ法、部分ごとに分割して練習するスプリット法など、個人ごとにスケジュールを組んで本格的におこなうところまでは達していない。
 まして一般の高校・大学・社会人のクラブでは、体を完成させるプログラムをほとんど採用してないだろう。
 体重を筋肉でガッチリ増やすことはパワー増加に大きな効果をあげる。
 鍛えて体を大きくしたあと、皮下脂肪をとる方法をおこなえば、日本人でも、体重82kg・腹囲73~74cm・皮下脂肪5ミリ以下という体型ができることが実証されている。

5.食事法が大切

 腹囲・皮下脂肪の測定は、全日本大学対抗重量挙選手権大会のひらかれた昭和52年11月4日〜6日の3日間、会場の大田区立体育館検量室でおこなったときのものである。この期間中、選手や監督の方と親しく話す機会があったが、私がもっとも驚いたのは、食事に無関心なことである。
 当日は食堂がなかったためもあるが売店で「中華まんじゅう3個にコカコーラ」「インスタントのカップ麺にジュース」といった食事で腹をふくらませている人たちが多い。これではカロリーはあるが、筋肉をつくる「たんばく質」がほとんど含まれない。こんな粗末な食事内容では体力が養成できないのは当然だ。
 また検量に際して、重量級の選手の中には体重不足の人もあり、体重計の前でジュースやコーラをガブ飲みして四苦八苦する風景も見られた。
 では最後に、減量と増量にわけて、ポイントを述べておこう。

Ⓐ減量する人へアドバイス
(イ) 極端に食事をへらし、たんばく質まで制限することは危険である。体は時々刻々新陳代謝をおこなっている。体の各組織を維持するのに必要なたんばく質だけは毎日とる。
(ロ) 食塩の多い食事をさける。水分で太る原因になる。ラーメンは生もインスタントも食塩が多いのでやめること。
(ハ) コーラ、ジュース、ソーダには意外に砂糖が多い。「水のかわりに飲む」というのは大まちがい。カロリーが約100〜120もある。

Ⓑ増量する人へアドバイス
(イ) 筋肉をきたえるトレーニングと同時に、たんばく質の多い食事をとる。筋肉細胞を大きくする材料として役に立つ。
(ロ) 同時にビタミンB2はじめ微量栄養素を欠かさないように考慮する。アメリカの栄養学者キャノンらのグループは、たんばく質合成と各ビタミンの関係をくわしく研究して、双方がそろっていないと、体重増加がおこりにくいと発表している。
(ハ) プロティンスコアの高い良質のたんばく質をとる。アミノ酸組成がそろっていないといくらとっても無駄になる。
(ニ) ごはん、パン、麺類をとりすぎると体内で脂肪にかわる。茶わん2杯くらいを目安にする。
月刊ボディビルディング1978年2月号

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