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強いレスリング選手になるために

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月刊ボディビルディング1978年3月号
掲載日:2019.05.13
JBBA技術委員健康体力研究所 野沢秀雄

1.ウェイト制スポーツの代表

「小よく大を制す」と精神力や技能に重点をおいた柔道でさえ、近年は細かく体重別によって競技されることでわかるように、「体の大きい者と小さい者が戦ったら、筋力・スタミナ・リーチなど、あらゆる面で体の大きい者が有利」という事実はいかんともしがたい。
 だから「一日でも若いうちに体を大きくしておこう」と私たちはできるだけの努力をしているが、幸いなことにスポーツはルールにのっとって戦いがおこなわれる。
 世界チャンピオンの王座をまもっている具志堅選手など、まったく小柄な体格で、「この人がどうしてあんなに強いのか?」と会えば誰でも驚くほどだ。
 今回発表するレスリングの場合も典型的な体重別競技であり、それゆえに金メダルを連続手にできる高田裕司選手のような小柄な体格(身長161cm・体重51〜56kg)であっても、敢然とファイトを燃やして戦いぬけば、栄光が夢でないスポーツである。
 健康体力研究所では、レスリングを志ざし(仙台の国井玄雄さんのようにバーベル、ベンダルで猛練習して、レスリングに転向し、国体2位にまでなった例がある)、優秀な成績をあげたいと念願しているみなさんの役に立つよう、全日本学生レスリング大会(52年11月8日~9日。東京休育館)検量の際、出場選手の腹囲と皮下脂肪を測定したので、この話題を中心に述べてみたい。

2.レスリング選手の体位表

次表は各階級別に代表的な選手の腹囲と皮下脂肪の実測値である。
[注]皮下脂肪はへその横1〜2cmの部分、および脇腹をジョンブル型の皮脂厚計で測定。対象は58名。

[注]皮下脂肪はへその横1〜2cmの部分、および脇腹をジョンブル型の皮脂厚計で測定。対象は58名。

<考察>

①軽量級の各選手は、腹囲・皮下脂肪ともに、「やせすぎ」といわれる水準まで減量している。「5〜6キロ減量した」という選手が実際に多い。数日間ろくに食べないで、はげしい試合に出場するのだから苦労はたいへんであろう。
②検量の際、0.5kgと0.8kgの体重オーバーで失格した2選手の場合、皮下脂肪が皮下脂肪が4.4mmと5.3mmであり、ほとんど余分な脂肪がないわけで、生理的な限界ぎりぎりである。これ以上無理に減量すると、かんじんの筋肉まで失なわれる。したがって、このクラスで戦うことは諦めて、一階級あげてエントリーするのが適切である。
③中量級の選手たちも、数字でわかるように「脂肪をそぎおとして」、体をひきしめて試合にのぞんでいる。日ごろバーベルやダンベル練習をとりいれたり、階段を昇降したり、ランニングで走り込み、体をきたえあげていることがわかる。

④重量級になると、身体に脂肪のだぶつきがみられる。減量の苦労はほとんどせず、むしろ体重増加を目的としてトレーニングしたり、食事をとったりしていることがわかる。
 問題は「過剰な皮下脂肪」である。運動選手として適切な皮下脂肪は10mm前後まで。そして13mmをこえると「太りすぎ」の体型に属して、体重では合格しても、筋力・スタミナが伴なわず、かえって動きをにぶくする。

⑤とりわけ腹囲90cm以上、皮下脂肪20mm以上になると、典型的な「肥満児」であり、あまり戦力にならない。(相撲や柔道で「重さでつぶす」という利点はあっても、筋力や持久力の点でマイナス。これが重量級の世界的選手が日本に出ない最大の理由であろう)

3.ベスト・コンディション

以上のように「試合に勝つ」という体つきが得られているかどうかは、選手の腹囲と皮下脂肪をチェックすれば明確に数字として判定できる。
減量するにしろ、増量するにしろ、いつも自分の腹部の脂肪をつまんで目安にするのがよい。じゅうぶんに薄ければ、すでに体調ができあがっているのに対し、脂肪でブヨブヨしているならば、ぜひともハードトレーニングと食事法で、ピシッと引き締った体型をつくらなければならない。
さて「アニマル渡辺」と世界に恐れられた渡辺長武選手や、かっての学生チャンピオン、同志社大学の円羽選手あるいは先ほど紹介した仙台の国井選手に代表されるような筋肉質の体つきをつくることが理想である。「彼の体つきは硬いゴムまりのようだ。あの筋肉で相手をアッという間にかつぎあげ、おさえこむのだから、相手はしりごみしてしまう」と渡辺選手は評されている。
「強い筋肉づくりのために、バーベルやダンベルを使用している」という大学が多くなってきた。「バルク型」「デフィニション型」という言葉も知られるようになっている。実際に東京農業大学レスリング部の真下勝選手は「恵比寿トレーニングセンター」に入会して、本格的なボディビル練習をおこなっている。82kg級という大型選手なので骨格の発達がすばらしく、筋肉質に仕上がるのも早い。
「バーベルやダンベルを使ってトレーニングさえやればいいというわけでは決してなく、それぞれの競技種目に応じた専門トレーニングが大きな比重を占めることはいうまでもない。ただ共通的な体づくりという点で、バーベルやダンベルのトレーニングを深く研究して、最新の有効な方法をマスターするといい。
 重量挙が瞬間的に最大筋力を発揮するスポーツに対して、レスリングは格闘競技であり、強い筋瞬発力と同時に持続に耐える筋持久力が要求される。したがって、バーベル練習法として、通常の最大筋力発揮法と同時に、アイソメトリックス的な方法を加えるがいい。「ベンチプレスをおこなって、もうあがらない」というとき、その位置でブルブル筋肉がふるえるのを、歯をくいしばって耐える練習など大きな効果をあげる方法だ。

4.食事のとり方アドバイス

 NHKテレビで、レスリング選手の強化合宿風景を放映したことがある。「おい、○○選手、ちょっと来い!」とマットでタックル中の選手を呼び、手首をとり脈拍をカウントする。
「おまえはまだ200まであがってないぞ。もっとはげしくやれッ」と指示がでる。力いっばい練習しているかどうか、明確な数字で現われるので、選手たちもフーフーと大変であった。
 このように筋力と持久力を酷使するスポーツだが、食事内容はどうだろうか?
 先年ソ連のレスリング界をつぶさに見学して帰国された日本レスリング協会の八田一朗会長は次のように語っている。(朝日新聞による)
「根性が大切と日ごろ選手を鍛えてきたが、根性だけでは世界水準に追いつけないことを体得した。ソ連選手は厚い肉にたっぶりとチーズやヨーグルトなど加え1日に数千カロリーも食べている。選手を育成するには根性に加えて、食事や栄養の配慮をすることが大切と痛感した」一実際に私もソ連を訪れたが、朝食のメニューに、必ず一人2個の卵やチーズ、バターが出る。肉やハム、コンビーフなど、種類も量も圧倒されるくらいである。
 では日本の選手たちの食事はどうであろうか?
 ある合宿の場合、1〜2年生が食事当番で「カレーライス」「どんぶりめし」「スパゲティ」「みそ汁」などをつくっているが、ごはんばかり多く、たくあんや福神漬でパクパク食べる習慣だ。これでは筋肉の発達はじゅうぶんにのぞめない。
 減量するときに、たんぱく質やビタミンが欠かせない。増量のときも炭水化物が多いと体内で脂肪にかわり、ブヨブヨした体つきになってしまう。
 筋肉質で引き締まった体つきを自分のものにしたいなら、体重1キロ当りたんぱく質2gを目標に食事内容を構成していただきたい。
 たんぱく質を有効に含む食品は、卵、チーズ、スキムミルク、牛乳、肉、魚(とくに干物は高たんばく)、さばやさけの缶詰、とうふ、納豆、油揚げ、おから、ソーセージ、プロティン製品、レバーなどである。
 減量のため体力が落ちて入賞できなかったある選手は、食事法をたんばく質中心に切り変えて、みごとに成功している。その選手から寄せられた手紙を紹介しよう。
「私は青森県の高校でレスリングを修業している者です。この前の試合では減量に失敗したので、今度はうまくやろうと計画的に実行しました。ボディビルディング誌にのっていた一流選手の食事法がたいへん参考になり、自分も一ヵ月前から、ごはんなどを抜いて、かわりにたんばく質の多い食品を食べました。その結果、56kgから48kgへ約8kgスムーズに減量でき、しかも体調は良好でした。このおかげで県大会の2位に入賞でき大喜こびです。もっと早くこんな良い方法を知っていたら良かったと思います。ぜひみなさんも実行してください」
ーまったく同感。良い成果に心から拍手をおくりたい。
月刊ボディビルディング1978年3月号

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