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★自分でつくる栄養シリーズ★④おいしい天ぷらの作り方

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月刊ボディビルディング1978年3月号
掲載日:2019.05.09
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)
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1 不況時代の中で

世界的な不景気の波がおしよせ、政府の対応策も定まらず、入学金・授業料・私鉄運賃など値上げのラッシュ。国民は不安感のために財布のひもが固くなるばかり。
「給料やボーナスが出て、預貯金はそれなりに持っているが、あまり出費しない」というのが実状だ。
こんな状況の中にありながら「健康產業」「食品產業」「情報產業」は好調だといわれている。
なるほど「失業者がふえ、社会がきびしくなればなるほど、健康な体と体力が大切だ」と考える人が多いのだろう。ランニングする人、ボウリングをする人、トレーニングセンターや空手道場に新しく入る人などが急にふえている。
また「三度の食事だけは、かけがえのない体をつくる源だから、質をあまり落さず良い内容をとりたい」という家庭が多い。そうでなくてもたしかにある時間がくれば「空腹」になり、
「なにか食べなくては生きられない」という生理的な根拠があるために、
「食品産業には不況はあまりない」と一般にいわれている。
「天ぶら」を紹介するにあたり、東京で評判の高い2軒の店を訪れた。
銀座八丁目の「天国」(てんごくでなく、てんくにと呼ぶ)。一番最低の天ぷら定食「梅」が1600円。これを食べるグループでいつも混んでいる。
大森にある「天ぷく」はカウンターになっていて、客の目の前でタネを調理してあげてくれる。繁華街から少しはずれているが、家族連れでにぎわっている。マスターの話では、「一週間に一度は外でおいしい食事をパッと奮発して楽しんで食べる」という家庭が多いとか。良心的で味がよければお客さんは喜こんできてくれるようだ。

2 天ぷら料理のコツ

からっと揚がった天ぷらは美味であり栄養満点。「あなたはどうして背が高くなったか?」という調査をバレーボール選手にしたところ、「小中学校から天ぷらが好きで、母によくつくってもらいました」と答えた選手があり「なるほど」と感じたことがある。
だが、「天ぷらを作るのは難しい」という人が多い。油をぐらぐらわかすために、火が鍋にうつったり、油がはねて眼に入ったり、手に火傷をしたり危険がともなう。またコツを誤まると、油がベタベタして中味が半煮えになったり、逆に焦げてパリパリしたり食べられない味になってしまう。
用心しないと、街のスーパーや食品店で売っている調理した天ぶらにひどいものがある。油が酸化しており、味や臭いも悪い。食べたあと一日中胸やけや吐き気がする。「これじゃプロとして恥ずかしいぜ」といいたくなる。
そこで今回は、おいしい天ぷらをつくるコツをおしえてあげよう。第一のポイントは油の種類と温度である。

㋑油は新しいほどおいしくあがる。くりかえして古い油を使うと、油の酸敗がおこり、カラッと揚がらないだけでなく、胸やけや消化不良の原因になる。

㋺天ぶら油として売られている製品はサラダ油80・ゴマ油20に調合したものが多い。中高年でコレステロールや血圧を気にする人は、べに花油・調合コメ油・小麦脳卒芽油を使うと、血液成分を健康にするのに有効である。

㋩油の温度は170〜180度が最適。低い温度であげると、油をふくみすぎた天ぷらになる。高温すぎると焦げて自然の風味や栄養が無くなる。第二のポイントは天ぷらにつけるコロモだ。
普通、卵黃味1個・水200cc・小麦粉300ccの割合で調合すればいいがコロモが濃くて固すぎたり、混ぜるときにていねいに攪拌しすぎると、たんばく質のグルテンのために粘性がでてコロモが固くねばる。そうすると材料を厚くくるんで、重苦しい味になる。
逆にコロモが薄いと、材料が裸になって、天ぶら本来の風味と栄養がそこなわれてしまう。
第三のポイントはタネの新鮮さと、水分をよくとってから揚げることだ。とくに水気が多いと、なべの中で激しく油が飛びとり、危険である。

3 おいしい作り方(手順)

「おもしろそうだ。よし、一度自分でやってみよう!」とファイトをわかせたなら、次に具体的な手順へうつろう。

<材料>(2人前)
大正えび4尾・きす小4匹・いか6切・さつまいも4切・なす2個・ピーマン2個・たまねぎ1/2個・にんじん小1/2個・れんこん4切(以上タネ)
小表粉300cc・水200cc・卵1個・天ぶら油約1L・大根・レモン・しょうゆ。

<道具>

フライパン・さいばし2組・油こし皿、紙ナプキン・ざる・おわん。

<調理法>

①下ごしらえ。スーパーや食料品店で買い集めた新鮮な材料を次のように処理しておく。
a.えびは頭とカラと内臓にあたる黒いすじを除いて、身と尾だけにする
b.きすは開いて、頭と骨をとる。
c.イカは丸い輪状に切っておくのが無難である。
d.野菜類は洗って、イカ・なす・たまねぎ・れんこんは、厚さ1cmくらいに輪切りにする。ピーマンは縦に半分に切る。にんじんは長細くきざむ。
以上をザルに並べて、ペーパータオル、またはふきんで水分をよく吸いとっておく。

②おわんに卵の黄味だけをとり、200ccの水と共によくかきまぜる。次に、300ccの小麦粉を加えてはしでサッサッサと軽く均一にまぜる。(ダマが少しあっても平気である)固さとしてははしの先からポターリとたれるくらいがよい。まぜすぎると粘って腰が出てくるので注意。

③フライパン2/3くらいまで天ぷら油をいれる。多すぎると材料を入れたときにあふれて引火の危険がある。少なすぎると熱が足りず、おいしく揚がらない。

④ガスに火をつける。約4〜5分待ちコロモの一滴をポタリと落してみる。フライパンの底に沈んで、浮上するまでに何秒かかかるなら、温度がまだ低い証拠。もう少し待つ。コロモを落してすぐにパチパチと泡が花火のように立ち、フライパンの中ほどからすぐに表面に浮んでくればちようど良い温度である。
温度があがりすぎて着色したり、油がモウモウと煙を出すようなら、温度が高すぎるわけだ。

⑤温度が適当になったら、タネをコロモにつけて油の中にソロリと入れる。たくさん入れると油の温度が低下しておいしくあがらない。

⑥グラグラと水分が泡になって蒸発する。出来上るにつれて、表面に浮かんでくる。あまり長時間油に入れておくと、色がついてまずくなる。高温でサッと揚げるのが成功のコツだ。

⑦揚がったら油切りの上に並べて油をよくとる。皿に移して盛りつける。

ーーーさあこれで出来上り。時間として30分~40分かかる。

5 栄養満点の食べかた

 天ぷらは揚げたてがとくにおいしい。しょうゆやみりん、砂糖をまぜて「天つゆ」を作ってもいいが、私は大根おろし・しょうゆ・レモン汁でさっぱり食べる方法をすすめたい。
 大根おろしに含まれるジアスターゼは炭水化物の分解だけでなく、油などの分解も側面的に助けるためか、胃腸にもたれず、さっぱりする。天ぷらとは絶妙のコンビネーションである。
 天ぷらをつかったメニュー例は次のとおりである。カロリー1068、たんばく質48.2で、これなら若い育ち盛りの人にも、スポーツマンにも充分である。
 天ぷらがスタミナの王座といわれる理由は3つある。
 第一は油を多量に使用するため、油のカロリー増加とおいしさが材料のタネに加わることだ。油を使うと、せんべい・あられ・ピーナッツ・中華料理などでわかるように味が向上する。
 第二はピーマンやなすの炎やかな色を見ればわかるように、成分があまり破壊されず、ビシミンが生きたまま食べられることだ。油の中に入っている時間が瞬間的なので、成分も風味も生きているわけだ。
 第三は海の幸・山の幸が、とり合わせよく食べられることである。
 変わり種として、牛肉や豚肉を天ぷらにあげることができる。またバナナを適当な大きさに切って天ぶらにすれば有名なインドシナ料理になる。私もときどきバナナを揚げてみるが、酸味がおいしくて、健康的である。
私が食事分析をして気付くことは,「日本人の食卓に脂肪がまだまだ足りない」という点だ。外国人やスポーツマンで10代のうちに体を大きくできた人はひじょうに油料理を好んで食べる傾向にある。「油ぎれ」をおこさないように、ときどきは天ぷらやフライを食べていただきたい。
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月刊ボディビルディング1978年3月号

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