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ボディビル・コンテストにおける選手の体位・体質について

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月刊ボディビルディング1978年6月号
掲載日:2018.05.29
日本ボディビル協会技術委員会委員長
名城大学助教授 鈴木正之

Ⅲ ミスター日本出場選手の申込時と大会当日の体位数値の違いについて

 われわれは以前からプログラムに記載された出場選手の体位については疑問を持っていた。このことについては、すべてのビルダーが興味をいだいていたことと思う。そこで、昨年度ミスター日本コンテスト出場選手44名に対する実測値(コンテスト当日、第二次予選審査終了直後に舞台裏で測定)を全国のビルダーならびにそのファンのために公開すると共に、それに対する解説を加えてみたいと思う。

〈1〉体重[図7]

 プログラムに記載された平均体重、いわゆる申込み時の平均体重は72.7kgであり、大会当日の実測体重の平均は70.8kgであった。誤差は1.9kg(2.7%)である。この誤差は後で述べる減量とも関係があるが、体重について云えば当然のことながら、大会3週間前の申込み時には72.7kgぐらいはあったものと推察される。
 各選手の減量の仕方に個人差がありすぎて、分析するには資料が不足していてできないが、大会3週間前の申込み時点においては、かなり正確に測って現状の体重を記入したものと思われる。
 減量についての私の体験であるが、約1ヵ月で、75kgの体重を66kgまで落とすことに成功したことがある。このとき、コンテストの1ヵ月前、つまり申込み時には、減量を予測して私は72kgと記入しておいた。そして、コンテスト当日は67kgで出場した。
 このことからもわかるように、コンテスト・ビルダーであれば、当然、7月~8月の地方大会を目標にして減量(しぼり込みを意味する)が始まっているので、10月のミスター日本コンテストであれば1.9kg(2.7%)の誤差は、正確な申込みであると云えよう。とくに、他の胸囲、腕囲、腿囲の誤差が3.6%~5.0%あることからみても、最も実測値に近かった。このことは、体重については日頃から注意して測っているためと、体重は審査上あまり重要視されないということからきているものと思う。[図7]を見るとあきらかなように実線(申込み時の数値)の左側への移行が他項目より小さい。
 これは、他項目においては、審査イメージを上げるため、減量に伴うサイズ・ダウンを考慮しないばかりか、逆に大きめなサイズを記入している点があるので、とくに胸囲など、実測値との差が大きく図にもあらわれている。

〈2〉胸囲[図8]

 胸囲の申込み時の平均サイズは116.5cmで、大会当日の実測値は111.6cmであった。つまり4.9cm(4.3%)の誤差である。胸囲は基本的問題として測定方法による誤差を生み易く、実態を把握しがたい点もあるが、[図8]を見ても明らかなように、点線(実測値)が並行して左側に移行しており、共通した測定方法であったと思われる。つまりこの4.3%の誤差は、測定方法の違いからくるものではなく、審査のイメージアップをねらった大きめの申込みによるものといえよう。

〈3〉腕囲[図9]

 腕囲の申込み時の平均サイズは41.7cmで、大会当日の平均サイズは40.2cmであった。つまり、1.5cm(3.6%)の誤差ということになる。減量等で一番影響を受けるのは腹囲で、次いで、腿囲、胸囲、腕囲の順であろう。このことは腕はもともと脂肪量の少ないところであり、3週間の間に3.6%も変化することは考えられない。胸囲や腿囲と同様に、審査イメージをねらった過大サイズの申込みによるものと考えられる。

〈4〉腿囲[図10]

 腿囲は各サイズの中で最もサイズ誤差が大きく、申込み時の平均サイズが60.5cm、大会当日の平均サイズが57.5cmで3.0cm(5%)の誤差であった。腕囲や胸囲と比較しても、腿囲がこのように大きく変化するとは考えられずこれもまた過大サイズの申込みであるといえる。また、腿囲は日頃、まったくと云ってよいほど、正確な測定をしていないものと思う。
〈ミスター日本出場者の申込み時と大会当日の体位数値の違い〉

〈ミスター日本出場者の申込み時と大会当日の体位数値の違い〉

Ⅳ ミスター日本出場選手の減量について

 はじめに述べたように、オフ・シーズンにバルク・アップと共についてきた体脂肪を、コンテストに備えて取り除くために減量を行う。この減量を、ふつうビルダーは"からだをしぼる"というように表現する。つまり、たんに減量を目的とするものではなく、筋肉を鮮明に浮びあがらせるための手段いわゆるデフィニションを出すためであり、コンテストに勝つための手段である。
 最近、各選手ともに食事の研究がよくなされていて、大変に減量の方法が上手になったように見うけられる。とくに、ミスター日本コンテストに出場するような選手になると、その減量の傾向がはっきりとでていることがうかがえる。
 出場選手の減量は[図11]に示されているように、最高13kg、最低1kg、平均6kgである。また、ミスター日本コンテスト出場時が最高減量ではなくまず、地方大会を勝ち抜くために、それに標準を合せてコンディションを調整している選手も中にはおり、必ずしもミスター日本出場時が各選手の最高状態であるとも云えず、この大会に出場することに意義と名誉を感じている選手も中にはみられる。その証明にはミスター日本出場時の方が、最高減量時より体重が平均して0.5kg多く、ミスター日本に参加することの意義と権威が認められる。
 年間を通しての減量は平均6.5kg(8.4%)で、最も多い人では15.0kgにも達している。このような大幅な減量をするためには、食事による方法はもとより、激しいトレーニングと節制、および身体的、精神的欲求に対する苦痛をはねかえす強い忍耐力がなくてはできない。このことから、ボディビルが単なる感覚的な肉体美コンテストを目指したものではなく、心身をとおした激しい鍛練を要求される体育活動でありスポーツであるといえる。正にその真髄は、減量と激しいトレーニングを要求されるボクシングやレスリングとなんら変わることはない。ただ、競技の表現方法が異なるだけであると云えよう。
 しかしながら、一般人に対して、ボディビル・コンテストが、減量も伴う激しい競技であり、スポーツであると云っても、なかなか正しい評価がされていないのが現実ではなかろうか。しかし、この減量や筋肉を肥大させる手段は、ボディビルの目的を大いに発揮させるものであり、そのためにも我々は大いに頑張り、ボディビルの普及発展に力を入れ、社会体育の中で活躍をしなければならない。
[図11]ミスター日本出場選手の減量

[図11]ミスター日本出場選手の減量

Ⅴ 各種コンテスト出場者の体質(皮下脂肪厚)について

 体脂肪は、肥満という問題となって多くの疾患を起こしやすい体質に変化させ、体力を低下させることにつながる。ボディビルダーの場合は、体脂肪はただちに競技成績に影響する重要な問題であるといえる。よって、前項で述べたように、体脂肪を除去するために食事療法とトレーニングによって減量が行われる。
 [図12]~[図14]に示した皮下脂肪厚は、各大会に出場した選手を大会当日、栄研式皮下脂肪計を使って、上腕部(上腕三頭筋の中央部をつまむ)、背部(肩甲骨下端を脊柱に対して45度の角度でつまむ)、腹部(ヘソの右、約3cmのところをつまむ)の3部分を測定したものである。
〈各種コンテスト出場者の皮下脂肪厚の比較図〉

〈各種コンテスト出場者の皮下脂肪厚の比較図〉

 大会当日の皮脂厚を示した[表3]や皮下脂肪の比較図より明らかなように、ミスター日本コンテストの出場選手が、他のコンテストの出場選手に比して、体重や各サイズにおいて勝っていたのにもかかわらず、皮下脂肪は圧倒的に薄く、各測定で云えば、腕3.8mm、背7.5mm、腹5.4mm、合計16.9mmと極めて少ないことが示された。
記事画像4
 それに対して、地方コンテストとミスター・アポロ出場者は、やはりバルク不足のうえに皮下脂肪も厚く、各大会のレベルとデーターとが全く一致したと云える。とくに、ここに掲げた比較図より見れば、バルクを示した前号の[図3]~[図6]とは全く反対になっている。すなわち、バルクを示した図ではミスター日本出場選手の実線が右側に寄っていて数値が大きいのに対し、皮下脂肪厚を示した[図12]~[図14]では、逆に左側に寄っている。つまり数値が少ないのである。
 このことは、選手のレベルが高くなるにつれて、バルクはついて、しかもデフィニションが出ていることが明らかであることを示している。
 また、皮下脂肪厚の一般的水準を示した[表4]に照してみると、ミスター日本出場選手の場合は、3.8mm+7.5mm=11.3mmで、やせすぎに該当する。皮下脂肪厚についての日本体力医学会の資料(昭和52年10月5日、第32回日本体力医学学会、福井高専松沢氏発表)を見ても、15才~19才の平均皮脂厚は腕9.4mm、背10.2mm、腹11.5mmであると発表している。この数字からも、ボディビルダーの皮下脂肪厚がいかに薄いかが証明されよう。
( )内の数字は臍部、単位はmm

( )内の数字は臍部、単位はmm

 一方、[表4]の皮下脂肪厚の面からやせすぎに該当した問題であるが、[表5]の成人男子の標準体重から見ると、167cmで体重は61.2kgであるので、この点より云えばミスター日本出場選手の場合70.8kgあるので、体重過多と云うことになる。では、どの程度の体重過多かと云うと、それは一般的に用いられる肥満の判定計算で出すことができる。
記事画像6
 身長に対する比体重の算定方法にはケトレー指数やローレル指数など多くの算出方法があるが、いずれも肥満度を直接算出するのは難しい。そこで、標準体重を設定(松木の標準体重を用いた)して、下記公式で算出し、その答えの偏りでもって肥満度を判定してみた。その結果、下記のとおり体重過多という答えが出た。
記事画像7
 上記の計算の結果、いずれも体重過多と云う答えが得られたが、皮下脂肪厚の点からは「やせすぎ」、肥満判定からは「体重過多」という、全く逆の判定が出たことから云えることは、いかにボディビルダーの体が、むだのない筋肉質の体質であるかが証明されたわけである。
 この体質については減量のところで述べたように、年間を通じてこの体質ではなく、大会当日は、あくまでも競技に勝つと云ったスポーツ的要素をもつ前掲条件があるので、オフ・シーズンの平常時とは大きな変動があることを付け加えておこう。
 今後、ボディビルの正しい認識と発展のために、トレーニング方法と栄養摂取方法の体験を生かし、モヤシ体質や肥満で悩んでいる現代人の社会体育の中に入り、大いに活躍してほしいものである。また、競技として行うボディビルダーは、この資料を参考にして世界に打ち勝つ第二の杉田選手、須藤選手が出ることを願ってやまない。
月刊ボディビルディング1978年6月号

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