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なんでもQ&Aお答えします 1978年7月号

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月刊ボディビルディング1978年7月号
掲載日:2018.08.23

腰痛の原因と再開後のトレーニングのやり方

Q ボディビル歴1年7ヵ月、自宅でトレーニングしている者です。
 つい最近、ベント・オーバー・ローイングをやっていたときに腰痛がおこり、医師に診てもらったところ椎間板ヘルニアの疑いがあるといわれました。もちろん今はトレーニングを休んでいますが、1ヵ月ほどしたら再開したいと考えています。しかし、こわくて今まで通りにやれそうもありません。再開するときにはどのような内容でトレーニングを行うようにしたらよいでしょうか。なお、現在の体位、および、今までのトレーニング・スケジュールは下記の通りです。
〈体位〉

〈体位〉

〈トレーニング・スケジュール〉

〈トレーニング・スケジュール〉

 トレーニングの頻度は、原則としては週に6日、各コース2度ずつです。これを採用してから約2ヵ月経ちますが、1ヵ月ほど前から、気がのってきたので週に7日行うようにしていました。A、B、C、の各コースは従来通り週に2度ずつですが、余分の1日にトレーニングの足りないと思われる部分の運動を行うようにしました。
 腰痛がおきたのは、朝にAコースの胸の運動を行い、夜になってCコースをやったときです。その日は体調が良いと思えたので1日に2度トレーニングをしたのですが、まさかこんなことになるとは考えてもみませんでした。
 腰痛は4日ぐらいで治りましたが、1週間経った今でも、まだこわくてからだを前に倒せません。
 腰を痛めるまで、トレーニングが自分にとってそんなにハードであったわけではなく、いつも楽しくやっていました。ワン・ハンド・ローイングも、3ヵ月前までは32.5kgを使用していたのを、わざわざ10kg少なくしたくらいです。それが、なんでこのようなことになったのか不審を感じています。
(福岡県 三松年久 高校生 15歳)
A トレーニングに励む者にとって、身体を故障するくらい残念なことはないでしょう。お気の毒としかいいようがありません。
 しかし、トレーニング中に身体を故障したからには、それが他によってもたらされた禍でないかぎり、その責めは多かれ少なかれ自分自身にあるのではないでしょうか。たとえ偶発的に生じた故障と思われても、そのように考えて反省をするのが、スポーツマンとしてのあり方であり、また、必要なことではないでしょうか。
 あなた自身も、今後のトレーニングのことを考える前に、今までのトレーニングのやり方について反省をしてみる必要があると思います。
 自分では別に無理なトレーニングをしていたという意識がなくても、知らない間に無理をしていたかもしれません。また、運動のやり方にしても、あんがい誤ったフォームで無雑作に行なっていたかもしれません。
 あなた自身はトレーニングのやり方に問題はなかったと考えておられるようですが、トレーニング・スケジュールを第三者の目で客観的に見るかぎりにおいては、かなり無理があるように思われます。したがって、「トレーニングを再開する場合の指示がほしいという」あなたのご依頼にお答えする意味においても、まず、今までのトレーニング・スケジュールの問題点を指摘する必要があるかと思います。しかし、問題点を指摘するにしても、直接あなたにお会いしてのことではなく、あくまでも現在のあなたの体位と、今までのトレーニング・スケジュールを資料にしてのことですから、当を得ない場合もあるかも知れませんが、その点はご了承ください。
 あなた自身はどう考えておられるにしても、あなたのトレーニング・スケジュールにはボディビルの一般的な理論にそぐわない点が随所に見受けられます。
 では、そのような問題点につき、あなたの年令と現在の体位を十分考慮した上で、気がつくままに箇条書にしてみましょう。
①トレーニングの頻度が不適正
②コースの組み方に不適正な面がある
③反復回数に問題がある
④使用重量が適切ではない
⑤運動の動作に疑問が感じられる
⑥トレーニングの仕方に計画性を欠いている
⑦ボディビルの認識の誤り
 問題となる点はだいたい以上ですが、順を追って、項目ごとにもう少し掘りさげて考えてみましょう。

①トレーニングの頻度が不適正
 分割法を採用してトレーニングを行う場合、トレーニングの週間頻度は通常4~6日です。つまり、一般的には次に示すような方法でトレーニングを行うようにします。
記事画像3
 以上が分割法におけるスケジュールですが、2分割の場合、週に5日~6日の頻度でトレーニングを行うのは体力が強くて回復の早い人でなければいささか無理なようです。
 そして、トレーニングに関する決まりをつけるという意味では、1週間のうちの特定の日を必ず休むようにするのがよいようです。わたくしたちは、多くの場合、1週間単位の生活をしています。したがってボディビルのトレーニングも1週間単位でスケジュールを組み、毎週特定の日を休養日と定め、その日はボディビルのことを忘れてゆっくり休むようにするほうがどちらかといえばよい結果が得られるようです。

②コースの組み方に不適正な面がある
 このことについてはまず、あなたのトレーニング・スケジュールは、分割法の利点を無視したトレーニング法であるといえます。つまり、あなたの場合、運動種目の分割が、身体の各部位を交互に鍛練して、交互に休めるという分割法の利点にそぐわない配分の仕方になっています。そのような配分の仕方では、部位的にいって、筋に刺激を与えるためのトレーニングも徹底しえないし、また、筋の超回復も十分には得られません。場合によっては、特定の部分に疲労が蓄積し、身体の故障をひき起こすことにもなります。
 分割法とは、トレーニング量をむやみやたらに多くするだけの運動法ではありません。採用全種目を部位的にまとめ、それを、交互鍛練、交互休養という分割法の規範に照らして分割配分するようにしなければなりません。そのところをよく考えて各コースを作成してください。

③反復回数に問題がある
 あなたの場合、ほとんどの運動種目に極端な高回数制を採用していますが、どのようなトレーニング上の意図があってのことでしょうか。目的のいかんによっては、高回数制を採用してトレーニングを行うのも、けっこうなことです。しかし、もしも、あなたがトレーニング上の目的を筋の肥大に置いているのでしたら、あまりにも極端な高回数制を採用するのは考えものです。
 一般的にいって、高回数制は、通常的な回数制、および低回数制に比べて、筋の持久力の強化には適しても、筋の肥大と筋力の強化には不向きであると考えられています。したがって、もし、あなたが筋の肥大、または筋力強化をトレーニングの目的としているのでしたら、今までのような高回数制で運動を行うのは改める必要があるでしょう。

④使用重量が適切ではない
 使用重量は、反復回数の問題と切りはなしては考えられません。1セットの反復回数を少なくして運動を行うのであれば、比較的重い重量を使用することはできます。しかし、その反対に高回数制を採用して運動を行う場合には、必然的に使用できる重量は軽いものになります。したがって、使用重量を決めるには、前項で述べたことがらと関連して決めるようにしなければなりません。
 ところで、あなたの場合、上述のことは別としも、各種目の使用重量に疑問が感じられます。それというのは、あなたの体位から推察される筋力に比して、運動で使用している重量が多少重すぎるような気がするからです。たとえば、ツー・ハンズ・カールで30kgを使用しておられますが、サイズが32.5cmの上腕では、客観的に考えて、20回も運動を反復するのは無理と思われます。もしできるとすれば誤ったフォームと動作で運動を行なっているとしか思われません、したがって、自分なりに、その点について再検討してみてください。誤ったフォームと動作では、いくら重い重量を使用して運動を行っても使用筋に十分な刺激を与えることは難しいといえます。そればかりか、トレーニング的には無益な体力の消耗を招き、場合によっては、著しい局部的な疲労を(たとえば腰部などに)もたらすので身体を損うことにもなります。(あなたの場合、種々の運動を行うのに腰の反動を使っていたと考えられるので、腰に局部的な疲労がたまっていたのではないでしょうか。そして、そのことが原因となって腰を痛めたのかもしれません)

⑤運動の動作に疑問が感じられる
 このことについては前の項で述べたことがらと重複しますので省略させていただきます。

⑥トレーニングの仕方に計画性を欠いている
 あなたのトレーニングのやり方には計画性というものが欠如しているようです。というのは、あなたの手紙の腰を痛めた日のくだりには、朝にAコースの胸の運動を行い、夜になってCコースの運動をやったと書かれており、そのことから判断して、無計画に好きなときに好きな運動をやっていたとしか思えないからです。それに腰を痛めたときの運動であるベント・オーバー・ローイングは、スケジュール表の中に見当りません。
 また、再分割法といって、1日に2度、3度とトレーニングを行う運動法もあるにはあります。しかし、あなたの段階では、そのようなトレーニングをことさら採用する必要もありません。また、あなたのトレーニング・スケジュールは、内容的にいって再分割法に適したものではありません。
 しかも、あなたのように一貫性を欠いたやり方で行うのなら、最初からトレーニング・スケジュールなど作る必要はありません。トレーニング・スケジュールとは、あくまでも計画性を持ってトレーニングをする場合に必要なものであり、また、それを忠実に実行することによってそのスケジュールの真価を問うことができるのです。

⑦ボディビルの認識の誤り
 このことについては前項までに述べてきた諸々のことがらによって、あなた自身すでにお分りのことと思います。ボディビルの基本的な原則を知らないままに運動方法的な理論だけを生かじりすると、あなたのように誤った知識が身についてしまいます。そして、誤った知識というものは、ときとしてトレーニングの内容を無謀なものへとエスカレートさせ、場合によっては、身体の故障を招く原因にもなります。
 あなたもこのことを肝に銘じて、ボディビルの基本的な原則を勉強するように心がけてください。
 以上が、あなたのトレーニング・スケジュールにおける問題点への考察です。そして、以上に述べたことがらの中に、あなたが腰を痛めた原因を探る鍵が隠されていると思われます。したがって、あなた自身で、今までのトレーニングのやり方を客観的に考察し、腰を痛めた原因を探り出すようにしてください。
 では、トレーニングを再開する場合の参考として、トレーニング・スケジュール(例)を記しておきます。改めていうまでもないでしょうが、トレーニングを再開するのは医師の許しを得てからにしてください。
◎トレーニング・スケジュール(例)

◎トレーニング・スケジュール(例)

 年令的にいって、以上の内容で十分と思います。筋の持久力を強化するために高回数制を採用する場合には、各種目の反復回数を20回ぐらいにして、セット数を1セットずる減らすようにするとよいでしょう。なお、腰に負担がかかる運動種目に関しては、初めのうちは余裕のある重量を使い、より慎重な動作で運動を行うようにしてください。腰に異常を感じた場合は、速みやかにトレーニングを中止し、トレーニングの再開を見合わせてください。
(解答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内威先生)
月刊ボディビルディング1978年7月号

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