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★自分でつくる栄養料理シリーズ★⑨“スタミナ・ドリンクの作り方”

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月刊ボディビルディング1978年8月号
掲載日:2018.07.24
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.ファイトお~、一発!

 「リポビタンD」「オロナミンCドリンク」「チオビタドリンク」……テレビのコマーシャルに各社のスタミナ・ドリンクがくりかえしくりかえし放映されている。

 以前は王選手をはじめ、強そうなスポーツ選手が登場していたが、現在は「よお大山ッ」で代表されるように劇団の人たちにかわっている。それというのが、プロ選手ではイメージが強烈すぎて、「彼は△△社のドリンクを飲んでいるから強い」と消費者に誤解されるといけないためである。

 また、「疲労回復に!」「疲れたときに○○ドリンク」という表現がなくなり、かわって「肉体疲労時の栄養補給に!」という言葉に変わっている。

 疲労には2種類あって、現代人には「仕事のトラブル」「対人関係」「必要以上の競争」など、精神的な疲労が多いが、この精神疲労には、ドリンク剤やビタミン剤をいくら飲んでも効かない。逆に、スポーツや肉体労働の疲労はビタミンやミネラルを消耗するので、この目的には、ビタミンA・B1・B2・Cなどのビタミン類や、ナトリウム・カリウムなどのミネラル、あるいはクエン酸や糖類が、ある程度役割を果たすわけだ。

 <表1>に体協スポーツ科学委員会が発表している資料を示す。何もスポーツをしない一般人に比べて、運動部員は大幅に栄養補給する必要がわかるだろう。
<表1>運動選手に必要な栄養素量

<表1>運動選手に必要な栄養素量

2.ドリンク剤に頼りすぎるな

 通勤や通学の途中、駅の売店などでドリンク剤をチューチュー飲んでいる人をよく見かける。

 1本が120~150円する製品が多いが、含まれる栄養素はビタミンとミネラル、それに少しばかりの漢方薬や民間草の成分で、残りは水・アルコール・糖・酸類である。日常生活にもっとも必要なカロリー・たんぱく質はほとんど含まれていない。

 「これさえ飲めば朝食を食べなくても栄養満点だ」などと考えたら、たいへんな失敗をすることになる。

 19才になるスポーツ選手の例をあげよう。彼は下宿生活でいつもぎりぎりまで布団にもぐっていて、朝食をとる時間がない。あたふたと駅にかけつけ毎朝9時前後に会社にすべりこむ。

 途中の駅で、牛乳かドリンク剤を飲むだけで、昼休み時間になるまで何も食べない。こんな生活を約3カ月近くおこなったある日、会社でクラクラ目まいをおこして、倒れてしまった。

 病院の医師から「栄養失調ですぞ」と宣告され、体が元のように健康になるまで、相当ながい苦労を味わった。

 「テレビで栄養がある、栄養がある、と繰返していわれると、つい頭から信じてしまって……」と彼は頭をかいていた。

 まず一日三食のふだんの食事を充実させて、それでも足りないと思うとき補助的にドリンク剤・ビタミン剤・健康食品などを採用するのが正しい方法だ。頼りすぎてはいけない。

3.スタミナ・ドリンクは自分で作れる

 一日に何本も高価なドリンク剤を飲んでいるスポーツマンがいるが、これはナンセンス。自分で工夫すれば、手軽においしい栄養飲料ができあがる。必要な材料は自分のまわりにたくさんある。

a.ヤクルト・タイプ乳酸飲料

<材料>牛乳1本、カルピス(オレンジカルピスやパインカルピス、グレープカルピスなどがよい)、プロティンパウダー

<作り方>牛乳にプロティンパウダー大さじ1~2杯をまぜ、小さじ1~2杯のカルピスを加える。均一になるようにかきまぜて飲む。

b.濃厚スタミナ・ドリンク

<材料>牛乳1本、はちみつ、プロティンパウダー、ヨーグルト

<作り方>大き目のジョッキにヨーグルトを入れて、牛乳でうすめる。これにプロティン大さじ1~2杯とはちみつ大さじ1杯を加えてよくかきまぜる。レモンをふりかけて飲んでもよい。

c.プロティン・エッグ・パンチ

<材料>卵1個、牛乳1本、果糖少量、プロティンパウダー、赤ぶどう酒

<作り方>牛乳1本にプロティン大さじ1~2杯をまぜ、生卵をポンと割って落とす。果糖、もしくは砂糖を少量(スプーン1杯程度)加える。ここまでは普通のプロティン・エッグ。この上からスプーン1〜2杯のぶどう酒を加えて、味をととのえて飲む。

d.オロナミン・タイプ・ドリンク

<材料>水、レモン、ウイスキー、クエン酸、総合ビタミン粉末、砂糖

<作り方>薬局でクエン酸と粉末の総合ビタミンを求め、それぞれ耳かき2杯をグラス1杯の水にとかす。この上からレモン汁、ウイスキーをスプーン1杯ずつ加え、さらに砂糖スプーン2杯をまぜ、よくとかす。(水のかわりにキリンレモンや三矢サイダーなどの炭酸飲料を使用してもよい)

4.おもしろい成果

 上記以外に、コンクジュースや季節の果物を利用して、風味と栄養のあるソフト・ドリンクを合成することもできる。

 夏の暑さにフーフーあごが出る季節になると、私は毎日ヤカン一杯のスタミナ・ドリンクをつくり冷蔵庫で冷やしておく。これを職場の仲間たちとお茶がわりにゴクゴク飲むわけだ。

 今から約5年前、相撲の社会人青年の部で良い成績をあげている選手と仕事を共にしたことがあり、夏の練習に役立つよう、特製スタミナ・ドリンクを飲んでもらっていた。処方は前述のd.のオロナミン・タイプ・ドリンクでクエン酸、果糖、ぶどう糖に総合ビタミン粉末を加え果汁をまぜた飲料だ。

 「うわあ、これはうまい」と彼は何杯も飲んで、スタミナをつけていた。

 その成果が秋になって現われ、あれよあれよという間に県の代表になり、国体でみごと準優勝してしまった。

 相撲選手といっても、彼は典型的な筋肉質タイプで、立っているだけで腹筋のきれがみえるほど、脂肪のつかない選手である。どちらかというと、軽量のハンデがあり、倍以上のパワーを要求される相撲の世界で、たいへん良い成績をのこしてくれたものだ。

5.やめてみると真価がわかる

 ドリンク剤にしろ、健康食品にしろ「ちょっと一時だけ使ってみる」というのでは目にみえた成果はあがりにくいのが事実である。

 栄養補給がうまくゆき、いつも必要量が満たされている場合、「自分はこれで当り前だ」と思ってしまう。ところが、長く続けていたのを、ある日バッタリやめてしまうとどうだろう?

 「何だかダルイなあ」「体調が悪いなあ」と気付くにちがいない。
(上村正さん)

(上村正さん)

 写真は上村正さんといって、20才のボディビルダー兼レスリング選手である。彼は社会人として多忙でかつ重労働の毎日をすごしているが、仕事が終ったあと、どんなにつらくてもバーベル練習を欠かさない。

 「ハード・トレーニングだなあ、とまわりの人は感心しますが、僕には苦痛ではありません。トレーニングと同時に兄弟で工夫して毎日スタミナ・ドリンクをつくって飲んでいます。おもしろいことに材料が切れて中断したことがあるのです。すると、どういうわけか、筋力や持久力が弱くなって、すぐにバテてしまいます。ああやっぱり効いていたんだなあ、とつくづくわかります」と上村さんは語っている。

 この調子でトレーニングと食事法を改善していったおかげで、去る5月に行われた「社会人レスリング大会」62kg級のジュニアの部で、なんとトップになり優勝した。写真のメダルはそのときのものである。

 体力をつけたいなら、自分で努力して工夫をすることだ。地道にやっているうちに、きっと報われる日がやってるくるにちがいない。
月刊ボディビルディング1978年8月号

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