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武本宣雄の初心者用トレーニング・コース 3

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月刊ボディビルディング1969年12月号
掲載日:2018.07.12
 武本コーチの初心者用コース最終回。今月のテーマは、ウォームアップとクールダウンの意義、柔軟体操の重要性そして、内胚葉型(肥満型)の人を対象とするトレーニング。
武 本 蒼 岳
柔体1

柔体1

柔体2

柔体2

柔体3

柔体3

ウォームアップとクールダウンについては、10月号で一応概略的なことを述べましたが、ここでもう少し深く掘下げて考えてみたいと思います。

ウォームアップ

 ウォームアップとは、激しい運動を行なう前に、各部の関節や筋肉をほぐし体内の血行をうながす目的で行なうもので、保健衛生的な考え方から成り立っていることは、皆様よくご存知のことと思いますが、その目的に合ったものであれば、軽い運動でも一般的な徒手体操を用いてもよいのです。

 しかし、身体をより効果的かつ能率的に調整するためには、とくによく使用する筋肉や関節の部位を、最小限度の運動種目でウォームアップすればよいのです。また、ウォームアップは、次の順序で行なうのがもっとも望ましいでしょう。

 首→下肢→上肢→体側→背・腹

クールダウン

 クールダウンとは、トレーニングの後に行なう調整運動の意で、強い運動を行なった後、身体を早く普通の状態にもどすために行なう終末体操のことである。呼吸を整え、気持を落ちつかせ、疲労を軽減したり、局所的な痛みをやわらげたりするために行なうものなので、ウォームアップの内容とは異なり、体操をしないで、バーベルやダンベルを使用して行なってもよい。しかしその場合は、部分的に筋肉を発達させる運動ではなく、からだ全体を使う種目(ハイ・プルアップが最適)で、重量はもっとも軽く、回数は15~20回でよいのです。

柔軟体操の重要性

 真の健康体というのは、形態的に調和がとれ、心臓や肝臓など内臓の機能も十分で、あらゆる日常の活動に適応できる身体のことである。現在、運動生理学や運動心理学は発達したが、健康でない人間が非常に多い。生活がぜいたくになるにつれ、不精になり体力がだんだんおとろえるのである。
ウォームアップ・クールダウン

ウォームアップ・クールダウン

柔体4

柔体4

 人間のからだというものは、柔軟性、筋力、バランス、敏捷性、持久力、巧緻性、適応性などの基本的な能力を高めることによって発達させることができる。柔軟体操は、不健康で悪い姿勢を正し、あるいは予防する目的で行なうのです。

 姿勢というものは、猫背、せき柱側湾、肩関節の固いもの、X脚、O脚など、いずれにしても、2、3の例外を除いてほとんどすべて後天的なものなのです。一定の生活習慣により、筋肉や関節の可動範囲が小さくなることが原因で起こるのです。したがって、柔軟体操がいかに重要であるかおわかりでしょう。
柔体5

柔体5

内胚葉型の人へ

 今月は、内胚葉型の人のためのトレーニングを紹介しましょう。内胚葉型の人は、一般に肥満体で、やせたいと思っている人が多いはずです。そのため、トレーニングを軽視し、絶食にたよってやせようと思う人も出てきます。人間食べなければ体重は減少しますが、栄養が十分にとれないので栄養失調に陥り、内臓も悪くなり、外見上も非常に見苦しくなるのは当然です。だから、食事は必要以上に少なくしないで、トレーニングの量を増すことにより肥満体の悩みは解消し、健康なからだになれるのです。

 それでは、内胚葉型の人が守るべき食事についてのいくつかの条件をあげてみましょう。

①食事は1日3回とる(ごはんは1回軽く1ゼン程度)
②間食は避ける
③ビールはできるだけ飲まない
④食事の前に、水分の多い果物をとる
⑤甘いものはできるだけ食べないようにする

 食事については、以上5つの条件を守るだけで十分です。では次にトレーニング・スケジュールについて、初心者の方にわかりやすいように各種目別に細かく説明してみましょう。

トレーニング・スケジュール表

①ウォームアップ
②柔軟体操
③ツー・ハンズ・カール
④スタンディング・プレス
⑤ベンチ・プレス
⑥ベント・オーバー・ローイング
⑦ヒンズー・スクワット
⑧シット・アップ
⑨カーフ・レイズ
⑩クールダウン

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①ウォームアップ/トレーニングを始める前に、各部の筋肉や関節を十分にほぐす。

②柔軟体操/体の柔軟性を高めるように。柔軟体操1--足を前に投げ出してすわり、上半身をできるだけ深く曲げる。柔体2--脚を開いてすわり、上半身を左右の脚に近づけるように前に曲げる。柔体3--腕を横に伸ばしてうつ伏せになり、腕と足を上げながらからだをエビのようにそらす。柔体4--腕立て伏せ。腰を曲げないようにして行なう。手の位置によりいろいろな部分に効果がある。たとえば、手を内側に向けると大胸筋への効果が大となり、指を前に向け、手の間隔を肩幅くらいにして肘を体側につけるようにすると腕への効果が大である。柔体5--ベンチを利用し、それの乗り降りのくりかえし。注意することは、胸をはってリズミカルに行なうこと。決して膝に手をつけたりしないで、脚だけで運動する。右脚から2分、左脚から2分で合計4分以上行なうこと。
ツー・ハンズ・カール

ツー・ハンズ・カール

③ツー・ハンズ・カール/この運動のとき、初心者は肘をよく伸ばさないで行ないがちであるが、運動範囲が小さくなり、効果も少なくなるので、バーベルを下ろしたときに腕が真直ぐ伸びているか注意しながら行なうようにする。屈筋(上腕二頭筋)は肘関節が完全に伸展されたとき最大の効果があるが、伸筋(上腕三頭筋)はその逆で、肘関節が完全に屈曲されたとき最大の効果が得られる。上下運動をリズミカルに、そして、意識を上腕二頭筋に集中させることが肝要です。

④スタンディング・プレス/バーベルを肩幅よりやや広くにぎり、胸の上部から上へさし上げる。上体を後方へそらさず、反動は使わないで静かに行なう。三角筋、僧帽筋にとくに意識を集中させる。
スタンディング・プレス

スタンディング・プレス

⑤ベンチ・プレス/バーベルを胸の上に下ろすとき、腕でバーベルの重さを支えながら静かに下ろす。また、大胸筋を緊張、収縮させながら行なうことが大切です。最初はこの感じがつかみにくいが、ゴムひもを伸ばしたり縮めたりしたときのようすを頭の中に描き、それを大胸筋におきかえて想像しながら運動を行なうようにすれば、だんだん感じがわかるようになります。
ベンチ・プレス

ベンチ・プレス

⑥ベント・オーバー・ローイング/この種目は腰をかがめて行なうので特に初心者の方は腰を痛め易いので気をつけて行なってください。腰の故障はなかなか治りにくく、日常の生活にも支障がありますので正しい姿勢を保つようにしてください。バーベルを上に引き上げるときに息を吐いて、下ろすときに吸うようにします。そして、上げるときよりもむしろ下ろすときに意識のポイントをおくようにし、できるだけゆっくりと動作を行なうようにします。このとき、背中をまるめないで、必らず胸を張ってください。また、疲れて苦しいときには、呼吸を一時止めて行なってもよいでしょう。
ベント・オーバー・ローイング

ベント・オーバー・ローイング

⑦ヒンズー・スクワット/持久力をつけるのに絶大な効果のある種目で、とくに内胚葉型の人におすすめしたい。心臓や肺臓への良い刺激にもなり、ちょっとつらくはありますが、できる限り続けたい種目です。両足の間隔を30cm前後に保ち、手を後頭部で組み、そのまま脚を深く曲げて反動を利用しないで立ち上がる。そして、立ち上がるときに息を吐くとよい。回数は、ふつう50回くらいであるが、最初は20回でもよい。

⑧シット・アップ/肥満体質の方には欠かすことのできない腹筋運動です。この運動で大切なのは呼吸のしかたです。初心者の方はたいてい呼吸を止めたまま上体を起こしますが、上体を起こしながら息を吐き、倒しながら息を吸うようにしなければいけません。また息を吐くと同時に腹筋を緊張させるように努めてください。

⑨カーフ・レイズ/もっとも発達しにくいといわれているふくらはぎの運動です。ポイントは、ふくらはぎに意識を集中させ、十分に収縮、伸展させるよう心がけてください。

⑩クールダウン/ハイ・プルアップを20回行なう。また、ストレート・アーム・プルオーバーでもよい。重量はあくまで軽いものを使用してください。
ヒンズー・スクワット

ヒンズー・スクワット

シット・アップ

シット・アップ

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 3回にわたり連載した私の初心者用トレーニング・コースも今回で終りです。書いているうちに自分の不勉強さを痛切に感じいった次第ですが、少しでも初心者の方々に役立っていただければうれしい限りです。

 ボディビルディングは、非常に手軽で誰にでもでき、現代人の体力づくりにはうってつけのものだと思います。現在自分の体力に不安を感じ、健康への切なる願望を抱いている人達にこそボディビルディングを始めてもらいたい!健康は“座して思う”だけでは得られません。
   (筆者は大阪武育センタ一指導主任)
月刊ボディビルディング1969年12月号

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