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なんでもQ&Aお答えします 1980年6月号

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月刊ボディビルディング1980年6月号
掲載日:2019.10.21

胸郭を大きく発達させたいが

Q ボディビルをはじめて1年ほどになります。将来はコンテストにも出てみたいと思っています。まだ全体的にビルダーらしい体になっていませんが、中でも、胸の発達がおそいように思えます。これは生まれつき私の胸郭が他の人より狭いのではないかと考えています。そこで次の3つのことがらについてお教えいただきたいと思います。

(1)胸郭の発達を促すには、ベント・アーム・プルオーバーとストレート・アーム・プ  ルオーバーとではどちらが効果的でしょうか。
(2)プルオーバーを行うときの、呼吸のリズムや深さについて教えてください。私がプ  ルオーバーを行うと、どうしても途中で息が続かなくなってしまいます。
(3)胸郭を大きくするための効果的なトレーニング法を教えてください。

(大阪府東大阪市 T・K)
A 胸部の発達が思わしくないということは、コンテスト・ビルダーを目指す者にとってはもっとも深刻な問題だと思います。胸囲を大きくしたいという場合、とかく大胸筋だけを考えがちですが、あなたが、まず胸郭を大きくすることに着眼されたのは大へんよいことだと思います。では、質問について順にお答えしていきます。
〔ベント・アーム・プルオーバー〕

〔ベント・アーム・プルオーバー〕

〔ストレート・アーム・プルオーバー〕

〔ストレート・アーム・プルオーバー〕

〈1〉ベント・アーム・プルオーバーとストレート・アーム・プルオーバーとではどちらが胸郭の発達に有効か?

 ベント・アームで行うにしても、ストレート・アームで行うにしてもプルオーバーはどちらも胸郭の発達を促すのに有効な運動種目であるといえます。しかし、強いてどちらがより有効であるかといえば、それはやはりストレート・アームの方に分があると考えられます。(写真参照)

 プルオーバーによって胸郭の発達を促すためには、運動時に、胸郭をできるだけ伸展させるように動作を行うことが大切です。また、意識的な深呼吸によって胸郭をできるだけ大きく拡張させるようにする必要もあります。

 実際に行なってみればわかると思いますが、胸郭をより大きく伸展させるという意味では、ストレート・アームで行うほうがベント・アームで行うよりは動作的に適しているといえます。また、深呼吸が行いやすいという点でもストレート・アームのほうが勝っていると考えられます

〈2〉プルオーバーを行うときの呼吸方法について

 あなたの質問にはプルオーバーとす。書いてあるだけで、ベント・アームとも、また、ストレート・アームとも明記されていません。そこで、一応、双方についてお答えすることにします。

〈a〉ベント・アーム・プルオーバーの呼吸法

 大胸筋の下辺に構えたバーベルを頭越しに床の方へおろしながら息を吸い、元の位置へ引きあげ戻しながら息を吐く。吸う息の量は、動作に合わせて自然に吸える量とし、不自然な努力が要求されるほどに息を吸う必要はない。

 ベント・アーム・プルオーバーは元来、上半身の筋、つまり大胸筋、広背筋、上腕三頭筋などの強化を目的とする運動なので、必要以上にゆっくり動作を行うこともない。使用筋を十分に伸張させることはもちろん大切であるが、気持の上で自然と思われる速度で行うようにすればよい。必要以上にゆっくりした速度で運動を行うと息苦しくなるので注意すること。

〈b〉ストレート・アーム・プルオーバーの呼吸法

 ベント・アームの場合とちがってできるだけ息を大きく吸うようにする。
 両腕を伸ばして胸の上方で保持したバーベル(あるいはダンベル)を頭越しに床の方へおろしていきながら、可能なかぎり息を大きく吸い、胸部を十分に伸展させたなら、元の位置にあげ戻しながら息を吐く。反復をくりかえしていくうちに、もしも息苦しくなるようであれば、セットの中途で呼吸の調整を行なうようにすればよい。

 ストレート・アーム・プルオーバーは、どちらかといえば、筋の強化よりも胸郭の発達を意図して行う運動であるといえるので、通常は深呼吸をともないながら動作を行う。したがって、運動で使用する重量も、あえて筋力的に負担の大きい重量を用いる必要はない。胸部を十分に伸展させ得る重量であればよい。ただし、この運動を筋の強化種目として採用する場合はその限りではない。

〈3〉胸郭の発達を促すトレーニング法

 胸郭の発達を促すには、筋作業の大きな運動種目と深呼吸をともなう胸部の運動とをスーパー・セットとして行うのがよいと考えられています。つまり、フル・スクワットやハイ・クリーンなどの筋作業の大きな運動に、ラタラル・レイズ・ライイングやストレート・アーム・プルオーバー等の運動を組合せて行うのがよいといわれています。したがって下記のA種目、B種目の組合せによる方法を試されたらよいと思います

〔A種目〕
(a)フル・スクワット
(b)ハイクリーン

〔B種目〕
(c)ラタラル・レイズ・ライイング
(d)ストレート・アーム・プルオーバー
〔註〕胸郭の発達を促すには、どちらかといえば、多回数制で運動を行うのがよいとかん考えられていますので、これからはその点に留意してトレーニングするようにしてください。

下腿三頭筋とアキレス腱を強化したい

Q 私は剣道の補助運動として1年ほど前からウェイト・トレーニングを行なっています。これまでは基礎的な体力を養なう意味でごく初歩的なトレーニングを実行してきましたが、今後は下腿部のパワーをつけるための運動も加えてトレーニングしていきたいと思っています。
 
 剣道では踏み込みをすばやくするために下腿部の強力なパワーが要求されます。また、アキレス腱が強靭でないと、踏み込むときや、踏み込んだときにアキレス腱を切断することもあります。そのようなわけで、私は、下腿三頭筋のパワーをつけると同時に、アキレス腱(下腿三頭筋腱)を強化したいと考えています。

 下腿部の鍛練にはスティッフ・レッグド・ジャンプが有効であるということは存じていますが、それ以外の運動があることは知りません。スティッフ・レッグド・ジャンプ以外に下腿部のパワーをつけ、アキレス腱を強化きでる運動があれば教えてください。

(神奈川県横浜市 酒井 正23歳)
A 昔は、試合や稽古などで足のスジを切ると「剣の道を志す者として1人前になった」などと俗にいわれたりしたものです。いってみれば、剣道とは、それほどアキレス腱に負担がかかり、また、下眼のパワーを必要とする運動であるということでしょう。

 そのような意味で、あなたがアキレス健の強化をも含めて、下腿部を鍛練したいというのは、剣道を行う者としのて非常によいことであると思います。では、いくつかの運動を紹介しますので、その中からあなたの好みにあったものを適当に選んでください。ただし、下腿部の運動(とくに瞬発力を強化するための運動)は、無理をするとアキレス腱を損傷する危険があるのでくれぐれも注意してください。ことに下腿部がコリぎみのようなときには、危険も一層増大するので格別の配慮が必要です。
記事画像3

バーベルを肩にかついでの爪先運動

<運動法>
スクワットの場合とちがっていくぶん余裕の感じられるバーベルを両肩でかつぎ、足踏みするようにして、左右の下腿部に交互に負荷をかける。または、歩幅をあまり広くしないようにして歩行する。ただし、いずれの場合も、腫を完全に床に着けてしまわないように留意して踵の上下運動を意識的、かつ、リズミカルに加えるようにする。

◎片足跳び(けんけん)

<運動法>
片足で立ち、その場で跳びはねる。または、一定の距離を片足で跳び走る。いずれの場合も、1セよットずつ足を変えて運動を行う。下腿部により十分に負荷をかけるには、着地するときにできるだけ踵に体重をかけないようにする。

◎窓枠などに寄りかかって行う片足跳[写真参照]

この運動は、下腿のパワーを強化する運動としては思いのほか有効といえます。

くかまえ>
まず、適当な間隔を置いて窓(あるいは壁、または固定された台)に面して立つ。次に、写真のように窓枠などに両手をつき、片足を床から浮かし、両腕と片足でからだを支える。
<動作>
上述の体勢のまま、片足で跳びはねる。両腕でからだをいくぶん押しかえすようにして、意識的に負荷を下腿部にかけるように配慮して運動を行う。1セット当りの反復回数は、15回以上の多回数を行うのがよいようである。

下腹部とウエストの横のぜい肉をとり引き締った腹筋をつくりたい

Q ボディビル歴は6ヵ月です。開始当時と比べると、腕も太くなり胸幅も広くなってきました。ただ、腹部がまだ弱いようで中腹部から上腹部への腱画はよいのですが、下腹部とウエストの横のぜい肉がとれません。腹部のトレーニングは十分すぎるくらいやっているつもりですがどうも効果があがりません。
現在は下表のようなトレーニングをしていますが、よろしくアドバイスをお願いします。
記事画像4
(大阪市 松本一善)
A まず、下腹部について考えてみたいと思います。率直にいって、現在あなたが行なっている腹部のトレーニングは、下腹部を強化するという面ではいまひとつもの足りなさが見うけられます。

 腹筋の運動というものは、運動時における上体の姿勢と動作のいかんによって、技術的に一応はより強い緊張を下腹部にもたらすことは可能です。したがって、あなたと同じようなトレーニングの内容でも、人によっては中・上腹部だけでなく、下腹部をもかなり強化できる場合もあります。

 しかし、あなたの場合は、ご自分でもいわれているとおり、あまりかんばしい結果が得られなかったのですから今後、下腹部を強化していくためにはそれなりの手立てを講じるようにしなければならないでしょう。

 サイド・ベンドは腹直筋の強化を主目的とする運動種目ではないのでそのかぎりではありませんが、現在あなたが採用されている腹直筋のための種目は、通常的なフォームで運動を行なった場合、下腹部を積極的に強化するという面では、いずれも採用種目として十分であるとはいえません。
 前置きはこのくらいにして、それでは具体的なことがらについて述べることにします。

〈A〉レッグ・レイズ系統の種目を採用

 あなたは現在、レッグ・レイズ系統の種目を採用しておりませんが、そのことが不思議でなりません。
 下腹部に強い緊張を与えることに関しては、どちらかといえば、レッグ・レイズ系統の運動種目のほうがシット・アップ系統の運動種目よりも有効度が高いと考えられます。したがって、あなたも早速レッグ・レイズ系統の運動を採用してみてはいかがでしょうか。では、ごく一般的なレッグ・レイズ系統の運動を2種目紹介します。
〔傾斜した腹筋台の上で行うレッグ・レイズ〕

〔傾斜した腹筋台の上で行うレッグ・レイズ〕

◎傾斜した胸筋台の上で行うレッグ・レイズ(インクライン・レッグ・レイズ)
〔写真参照〕

<かまえ>
傾斜した腹筋台に頭の方を上にして仰臥し、両手で腹筋台の上部の縁をかつんで、からだがずり落ちないようにする。

<動作>
両脚を伸ばしたまま、あるいはいくぶんまげた状態で上へもちあげる。

◎フラット・ベンチの上で行うレッグ・レイズ

<かまえ>
大腿部から先を一方の端から出すようにしてフラット・ベンチ(平らなベンチ)に仰臥する。
<動作>
上体が浮きあがらないように頭越しに両手でベンチの縁をつかみ両脚を伸ばしたまま、あるいは、いくぶんまげた状態で、床すれすれの位置から両足を上へあげる。この場合、下腹部に重点的に効かすには、もちあげた下半身をあまり深く反転させないほうがよい。深く反転すると、腹直筋に与えられる負荷が減少し、ひと息入れる結果となる。

 なお、この運動を普通のフラット・ベンチよりも高さのある台(たとえばレッグ・カール・マシーンの台など)を使用して行う場合、大腿部からではなく、臀部から先を台の縁から出すようにして運動を行うようにするとよい。そのようにすると下腹部に与えられる負荷が一層強くかかる。ただし、この場合、腰部に対する負担も同時に強くなるので腰を損傷しないようにくれぐれも注意すること。

〈B〉下腹部の伸展度の大きい種目を採用する

 前項で説明した高い台の上で行うレッグ・レイズもこの種の運動種目に該当するが、シット・アップ系統の運動としては、ローマン・チェア・シット・アップとクロス・ベンチの・シット・アップがある。総じてこの種のシット・アップをストレッチ ・シット・アップという。     
 ローマン・チェア・シット・アップについてはことさら説明を必要としないと思うので、クロス・ベンチ・シット・アップについて運動のやり方を説明します。

◎クロス・ベンチ・シット・アップ

〔クロス・ベンチ・シット・アップ〕

〔クロス・ベンチ・シット・アップ〕

<かまえ>
上体をうしろへ倒したときに、ベンチとからだが交差するように横向きにベンチに腰をかけ、両足をあらかじめ設置しておいたバーベの下へ差し入れるか、トレーニン・パートナーに押えてもらうかして固定する。(写真参照)
<動作>
上体をうしろへ倒していき、両肩が床に触れるくらいまで深く倒したなら、起きあがる。 ローマン・チェア・シット・アップともどもこの種の運動は、他のシット・アップ種目に比べて腰に対する負担が強いので、くれぐれも腰を痛めないよう留意する。運動に馴れないうちは上体を無理に深く倒さないようにする。

 次に、側腹部を引きしめるための運動について述べることにします。

 側腹部のための運動種目として最も一般的なものは、あなたも現在実施しておらるサイド・ベンドです。しかしこのサイド・ベンドは、運動種目とし一般的である割には、適正な動作が身につきにくい運動です。
 たんに外腹斜筋を強化しさえすればよいというのであれば、それほど運動上の所作についてやかましくいう必要はありません。しかし、側腹部を引き締めるということが目的ならば話は別です。

 一般的の傾向として、サイド・ベンドのやり方を見ると、ただ無雑作に腰を左右に屈伸するといったフォームで運動が行われているようですが、側腹部を引き締めるには、腰のあたりだけでなくワキ腹をも充分に伸縮させるように運動を行う必要があります。

 そのような意味では、同じサイド・ベンドにしても、立って行うサイド・ベンドよりは、台などに腰かけて行うサイド・ベンドのほうがより有効的であるといえます。それも普通のベンチのような腰をかけた時、両足でふんばることのできる高さの台ではなく、レッグ・カール・マシーンの台のように両足が床から離れてしまうくらいの台のほうがよいといえます。

◎サイド・ベンド・オン・レッグ・カール・マシーン

<かまえ>
片手にダンベルをぶらさげレッグ・カール・マシーンの台の上(ロールのついていない側)に腰をかける。

<動作>
運動中にからだが台から落ちないように、空いている方の手で台の縁をつかみ、前傾姿勢にならないように留意しながら、可動範囲いっぱいに上体を左右へ屈伸させる。
 この運動では、もとより必然的にワキ腹が伸縮するようになるが、そのことを意図して意識的に動作を行えば一層効果が期待できる。なお、この運動は、腰背部を伸ばし、背すじを正した姿勢で運動を行うようにするのがよい。

 最後にもう1つ気がついたことをつけ加えておきます。といういは、あなたの場合、側腹部にぜい肉がついているということは、それにも増して後腹部にも多量の脂肪がついているということが考えられます。もしもそのとおりであれば、次に示す運動をも併せて行うようにするとよいでしょう。

◎レッグ・バック・レイズ

<動作>
立った姿勢で、片脚を伸ばしたまま斜め後方へゆっくりあげる。直立姿勢で行うのが困難であれば、いくぶん上体を前傾した姿勢で運動を行うようにしてもよい。しかし、いずれの場合も、脚を斜め後方へあげたときには、上体をいくぶんうしろへ反らすようにする。バランスをとるために柱などにつかまって行うようにしてもよい。

〔回答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生〕
月刊ボディビルディング1980年6月号

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