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健康と体力強化、そして筋肉発達のための
食事に関する基礎知識

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月刊ボディビルディング1980年1月号
掲載日:2019.03.01
健康体力研究所・野沢 秀雄

炭水化物について

 「太りすぎはイヤだからごはんは食べない」というヤングがふえている。年ごろの女性ばかりでなく、小学生でさえスタイルを気にして敬遠するという。おかげで米の消費量は減るいっぽう。「もっとごはんを食べよう」と政府(農林水産省)がさかんに呼びかけているのだが・・・。

 たしかに、米・いも・麦・豆などには「でんぷん質」が多く、食べすぎると体内で脂肪に変化して、体のあちこちにたまることになる。すもうとりの大めしぐらいはあまりにも有名だ。

 さらに、その肥満が引きがねになって「糖尿病」「高血圧」「心臓病」などをおこすのは事実である。「うまい、うまい」と、つい食べすぎることは危険である。

1.エネルギー源として重要

 強い力は筋肉が収縮したときに発揮され、筋肉の断面積が大きいほどパワーがでることが知られている。筋肉をつくるのはいつも述べるように「たんぱく質」であるが、筋肉が収縮するエネルギー源は「ぶどう糖」つまり炭水化物なのだ。

 ごはん・パン・うどんなどの主な成分は、ぶどう糖が数多く連結した「でんぷん」である。でんぷんは唾液に含まれるプチアリンという酵素が働いてかんでいるうちに、ぶどう糖の数が少ない物質にかわる。ごはんが甘く感じられるのは「麦芽糖」のためである。そして、胃でぶどう糖に分解されて、小腸から体内に吸収され、「たんぱく質」と同様に、肝臓を通過して筋肉や内臓や大脳に運ばれる。

 筋肉に運ばれたぶどう糖は、そのまますぐに運動エネルギーとして消費されるほか、グリコーゲンに変化して体内に貯蔵される。グリコーゲンはぶど糖が多数連結したものである。

 グリコーゲンは全身の筋肉に約250g、肝臓に約250g、合計約500gの貯蔵ができ、血液中にぶどう糖が不足しないように働いている。そして空腹になったとき少しずつ分解してぶどう糖として与えてくれる。

 以上のように、体を動かす原動力として、炭水化物は大事な役割をしていることがわかる。

2.多すぎると脂肪にかわる

 だが、炭水化物を過剰にとるのはよくない。ごはんを4杯も5杯も食べたり、空腹になるたびにラーメンやパンや中華まんじゅうをガツガツ食べると大変なことになる。

 ぶどう糖はそのままエネルギーになったり、グリコーゲンとして約500gまでは蓄蔵されたりするが、それ以上多い場合は、肝臓で脂肪に変化して各臓器や筋肉と筋肉の間、あるいは皮膚の下などにたまる。

 「ビール腹」「たいこ腹」とよくいわれるように、脂肪はとくに腹のまわりにつきやすい。ヘソの横2~3cmの部分を両指ではさんで厚みがどれくらいあるか調べてみるがよい。鍛えたスポーツマンなら10ミリ以下のはずだ。

 女性はホルモンの関係で、男性の2倍くらいの厚みがある。赤ちゃんを宿したとき、外部からのショックや寒暖から守るためである。なめらかな女性の曲線美のゆえんである。

 逆に、男性なのにポチャポチャしている人を見かけるが、精神までダランとたるんでいるように思われる。男なら男性ホルモンが働いて、キリッと筋肉がしまって、スマートな体つきが理想とされている。食事や運動によって体質がかわるのだから、よく研究していただきたい。

3.適量はどのくらいか?

 では、炭水化物はどのくらいの量を食べればバランスがとれるだろうか。個人により毎日の生活ぶりがちがうので、いちがいにはいえないが、重労働やスポーツをする人は多く、事務や家事的な仕事をする人は少なくてよいのは当然だ。

 ボディビルダーの目安としては、筋肉づくりのたんぱく質を第一重点にして(体重1g当り2gの純たんぱく食を食べる)、炭水化物の量は、カロリーとなる栄養素の60~70%を占めるようにするとよい。

 といっても、栄養士でないとくわしい分析はむづかしいので、「ごはん・パン・めん類・菓子・いもなどは、今までよりもやや少な目に食べる」と決めればよい。つまり、ごはんを3杯食べていた人は2杯に、間食にラーメンを食べていた人はチーズ・卵・ピーナッツ・納豆・魚の缶詰などを食べるようにすればよい。

4.忘れてならないポイント

 練習で汗をかいたあと、ノドがかわいて水を飲みたくなるのは人間の生理現象として当然だ。そんなとき、よくコーラやソーダ水をおいしそうに飲みほす風景を見かけるが、この清涼飲料には問題がある。

 というのは、たいていの場合、「水とあまり変わらない。ノドさえいやされれば」と深く考えないで飲んでいるが、コーラ1缶中にはなんと25~29gの砂糖が含まれているのだ。喫茶店でコーヒーに入れる砂糖がスプーン2杯半で約10gだから、コーラ1缶にはその2.5倍から3倍の砂糖が入っている勘定になる。冷されてつめたいのと、炭酸の泡のために気にならないが、実はたいへんな量である。

 せっかく甘い菓子やごはんを制限しながら、コーラやソーダに気づかないと、いつの間にか肥満体になってしまう。

 もう1つのポイントは、よくかんで食べること。同じ量を食べても栄養価はまるでちがってくる。たんに体を通過するだけのような食べ方をしていると、いっこうに太れない。

ビタミンについて

 学校の保健体育の時間に、ビタミン欠乏症について習ったことを覚えているだろう。

 ビタミンAが不足すると夜盲症、B1 が不足すると脚気、Cは壊血病(出血が止まらなくなる病気)、Dはくる病、Eは不妊症など重大な障害があらわれる。だから野菜、肝油、小麦胚芽、レバーなどの食品をよく食べなさいと教わったにちがいない。

1.ビタミン不足病はあまりない

 だが実際には、ビタミン欠乏症は今日の日本ではほとんど無いといってよい。それは食生活が向上して、なんでもふんだんに食べられる結果、よほど偏食をしない限り栄養失調になることはない。むしろ、カロリーのとりすぎから、肥満症や成人病になったり、ビタミン剤を飲みすぎて、ビタミン過剰症になる心配が出てくる時代なのだ。

 ビタミン不足が問題になるのは、戦争中で極端な食糧不足に陥った場合とか、純粋な動物実験でわざと病状をつくらせたときであり、ふつうの生活をしている人にはビタミンやミネラルのことをあまり気にする必要はない。

 それにもかかわらず、駅の売店や薬局の店先でビタミン入りのドリンク剤を飲んだり、ビタミンの錠剤を飲んだりする人をよく見かける。製薬会社のCMで「お元気ですか?」とか「やってますね、お疲れさん!」などという宣伝を見ているうちに、自分もビタミンが不足しているんじゃないかと思い込んでしまうからであろう。

2.ビタミンの役割

本来、ビタミンは補助的な役割しか果さないものだ。つまり、炭水化物、タンパク質、脂肪の三大栄養素が燃焼してエネルギーをつくったり、体の構成分になるときに「助酵素」といって、円滑に化学反応をすすませる酵素のパートナーとなるのがビタミン類だ。だからビタミン自体にはカロリーもないし、エネルギー源や体の構成成分にはなり得ないのだ。

 「俺は朝めしを食わないかわりにビタミン剤やアンプル剤を飲んでいる」と誇らしげに語る人がいるが、このような人は、ビタミンの性質や働らきをはきちがえているからであろう。

 このような誤解をさけるためにアメリカではビタミン剤のラベルに「健康な人にはビタミン剤は不要です」と明記することを義務づけている。最近タバコに「健康のためタバコの吸いすぎに注意しましょう」という文字が入っているが、これもアメリカにならったものであり、ビタミンについても同様なことがおこるかもしれない。

3.スポーツマンとビタミン

 激しいスポーツの後など、確かにビタミンの消耗がはげしく、ふつうの人に較べて2倍くらいのビタミンが要求されるのは事実である。だが激しいスポーツをする人は、当然、食事の量もふつうの人より多いので、それに伴ってビタミンも多く摂取できることになる。わざわざビタミン剤を飲まなくても、バランスのとれた食事をする限り心配はないのだ。

 たとえば卵、落花生、豚肉、牛乳、マグロは重要なタンパク源であると同時に、それぞれビタミンA、B1、B2、Dの豊富な食品である。また、色の濃い野菜、にんじん、セロリ、ほうれん草などはビタミンA、B1、B2、およびCを多く含んでいる。

 食事から自然に摂取したビタミンの方が、工場でつくられたビタミン剤より体内によく吸収されることが実験で証明されているが、これは消化液がよく働くこと、および濃度が適当であるためだと考えられる。ビタミン剤の中に25ミリとか50ミリという高濃度で入っていても、実際に吸収されるのはごく一部分で、大部分は尿や便と一緒に排出されてしまう。これではなんにもならない。

4.上手なビタミンのとり方

 ビタミン剤やドリンク類は、健康な人が常用するものではないし、また決して朝食がわりになるものでもない。病気などの、イザというときにのみ用いるべきで、健康なスポーツマンなら日常の食事を充実させるように心がけた方がよい。さしあたって次のようなことを覚えておくと役に立つだろう。

 ビールのつまみに出される落花生や枝豆は優秀なビタミンB1源であるが、よくかまないと、未利用の形で便となって排出されてしまう。口の中でドロドロになるまでよくかもう。また、落花生は、バターピーナッツよりも茶色の渋皮のついたままのものを買おう。渋皮の部分にビタミンB1がたっぷりあるからだ。

 大根の葉は、レモンやみかんよりはるかに多量のビタミンC、Aを含んでいる。よくレモンをかじっている人を見かけるが、本当は大根の葉を細かくきざんで、フライパンで油いためにした方が栄養効果は高い。

 レバーにはビタミンD、C、鉄が含まれる。野菜や果物をまるっきり食べないライオンが元気なのは、このレバーのためだといわれている。焼き鳥風にしたり。濃く味つけして食べればおいしく食べられる。

ミネラルについて

 「ミネラルウォーター」などというシャレタ名前の「水」が発売されるようになって、ミネラルという言葉をよく耳にするが、果たしてこれは何なのか案外知らない人が多いのではないだろうか。

 ミネラルとは本来は鉱物という意味で、カルシウムやナトリウムなどの無機物をいう。地球上には104の元素があり、これらが種々様々に組み合わさって、我々の目に見えるような物質をつくりあげている。その中でミネラルは単独で独立して存在することが多く、人体にいろいろな作用を与えている。

 たとえば、鉄は赤血球のヘモグロビンを構成して、肺から酸素を受けとっては体内のあちこちに配達するルートセールスマンの役割をしている。だから鉄が不足すると貧血をおこすのだ。

 また、カルシウムやリンは骨の構成員であり、もし新陳代謝がうまくいかず、カルシウムが不足するとチタニー症をおこし、筋肉がケイレンすることになる。

1.悪いミネラルもある

 五大栄養素の中に入っているので、ミネラルといえばなんでも良いものと考えがちだが、ミネラルにも良いミネラルと悪いミネラルとがある。

 よいミネラルは、前にあげた鉄、カルシウム、ナトリウムのほか、カリウム、マグネシウム、コバルト、ゲルマニウム等である。逆に悪作用をするミネラルは、ヒ素、鉛、亜鉛、カドミウム、水銀などで、ヒ素ミルク事件や水俣病(水銀)、イタイイタイ病(カドミウム)などがよく知られている。

 また、良いミネラルといわれるものでも、とりすぎると排泄しきれずに体内に残留し、悪影響を及ぼすことがある。さらに、イオウ、塩素、リン酸などは、体内でマイナスイオンとなり、血液や体液を酸性にする原因となり、疲れやすい体質となる。肉や魚、卵ばかりでなく、野菜や小魚などいろいろな種類の食品をバランスよく食べるこが大切である。

2.スポーツマンとミネラル

 ビタミンと同じように、好き嫌いなく食事をする限り、重大なミネラル不足病になることはないが、スポーツマンは体のエネルギーをはげしく消耗するため、栄養素、とくに食塩などのミネラル成分を多く摂取するように一般にいわれている。

 だが、昔の食塩は塩田で自然の海水からつくられていたので、塩素やナトリウムのほか、マグネシウム、カリウム、カルシウム等が含まれていたが、近年は化学工場で純粋に製造されるので、これらの微量ミネラルはほとんどゼロである。したがって、食塩をなめることはあまり流行らず、むしろレモンや牛乳を飲むことを私はすすめている。

 逆に、汗と共に悪いミネラル、たとえば、ヒ素、亜鉛、カドミウム等が体外へ排泄されることが判明している。したがって、体をきれいに保つためにも、大いに運動をしてどんどん汗をかくことだ。

3.自然食がよいわけ

 近年、とくに食品公毒が社会問題となり、安全食品が要求されている。とくに無漂白のパン、ビスケット、うどん等の人気が高いが、これは精製した小麦粉や砂糖、食塩などはミネラルが失なわれ、栄養価が低下しているので、同じ食べるならあまり加工していない自然食品的なものをという欲求からきているのであろう。

 同様に砂糖は黒糖や三温糖、酢やしょうゆも合成したものより天然醸造で製造されたもの、タラコやタクワンも色のついていないもの等、自然に近いものが好まれている。
月刊ボディビルディング1980年1月号

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