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★ビルダー・ドキュメント・シリーズ★
さわやかな青春<最終回>

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月刊ボディビルディング1979年5月号
掲載日:2018.11.15
川股 宏

◇規則正しい生活◇

東京都職員、学生、ビルダーという3つの顔。どれ1つもおろそかにできない充実した人生を送るには、規則正しい生活が要求される。どんな条件があろうと、ハンディキャップを認めないのが勝負の世界、ことコンテストに同情や温情は許されない。そんなことは百も承知だから、朝生選手は1日を極めて有効に使う。

たとえば、彼のふだんの日の平均的スケジュールは次のとおりである。

起床:7時

朝食:目玉焼(卵2個)、ごはん1杯、みそ汁1杯

出勤:7時45分に家を出て、8時50分東京都第一建設事務所着。9時より仕事開始。

間食:10時。牛乳200cc、ビタミンB₁・E少々、プロティーン少々。

昼食:12時。ふつうの弁当にいわしかさばの缶詰1個分。食後1時までの休憩時間は卓球、柔道、なわとびなどの運動をする。

間食:15時。牛乳200cc、ゆで卵、ビタミンB₁・E少々。

退庁:17時。勤務先から直接ジムに直行して約2時間トレーニング。

帰宅:20時~20時30分

タ食:21時。肉・魚・納豆・ごはん2杯、牛乳400cc、果物(ふだんは食べ物にとくに神経は使わない。体質的にあまり脂肪はつかない)

勉強:21時30分~0時(大学のスクーリングの期間には授業が18時~20時まであるため、トレーニングは9時からだいたい1時間となる)
〔東北一周サイクリングで仙台駅に到着〕

〔東北一周サイクリングで仙台駅に到着〕

◇楽しく充実した週末◇

上記のような規則正しい毎日を送っているが、それは自分と自分との約束だから、肉体ばかりでなく、人格トレーニングのためにも決して妥協しないように努めている。

がしかし、1年365日、規則・規則の連続ではたまらない。肉体的疲労と精神的疲労を取り除く充電日がちゃんとある。土曜日の練習後から日曜日にかけてである。特別の場合以外は、日曜日はトレーニングを休む。

土曜日の夜は、たいてい友人と連れだってバイキングや焼肉を食べに出かける。ビルダーといえば蛋白質、蛋白質といえば肉類である。トレーニングのあとのビルダー仲間の話には、必ずといってよいほど安くてうまくて、しかも量の多い焼肉屋が話題になる。こうして、新宿、五反田、池袋と方々へ足を伸ばすことになる。

彼はふだんはアルコールはほとんど飲まないが、土曜日の夜はビール2本くらいは飲む。リラックスして、大いに羽を伸ばし、大いに語る。そして日曜日は音楽を聞いたり、サイクリングをしたりしてのんびりすごす。とくに夏になると、プールに行って1日中、肌を焼く。生まれつき色が白くなかなか小麦色に焼けないばかりか、すぐ元の白さに戻ってしまうのが朝生選手の悩みである。

◇ライバルを心に描いて◇

コンテストが近づくと、自分の長所欠点をよく確かめて、それなりの対策をたてるのは誰でもやることである。そんなとき、彼は来るべきコンテストでの予想できる対戦相手、とくに自分と接戦になるだろうと予想されるライバルを心に焼きつけてトレーニングにファイトを燃やす。

また、ライバルの特長。欠点も十分に研究する。このような場合は、できるだけ固定概念を持たず、客観的に相手を見るため、先輩や経験者の意見に耳を傾け、自分との比較をよく研究する。その結果、時にはトレーニング法や使用重量を変える場合もある。

彼のトレーニング法については、本誌3月号のグラビアに詳しく載っているのでここでは割愛する。
〔1978年度ミスター日本コンテストで。中央が朝生選手〕

〔1978年度ミスター日本コンテストで。中央が朝生選手〕

◇今年の目標◇

燃える、翔ぶ。最近よく使われる言葉だ。目的を達成するにまず第一にしなければならないこと、それは心をどの程度燃やし、翔んでいる状態にもっていくかである。そうするには、自分の努力のしかたによっては達し得る目標の設定と計画を決め、確信のもとに実行することが“心”を燃やすコツかも知れない。

こうして彼がたてた今年の目標は次のようなものである。

①ミスター・アポロ、東日本チャンピオン大会、ミスター日本コンテストで昨年以上の成績をあげること。

②今までの経験を生かして何かの資格たとえば公認指導員などの資格をとる。

③パワーリフティング大会で上位入賞あるいは優勝を狙う。

ビルダーにとって筋肉の発達とパワーは切っても切れないものである。彼はこれまでにも何回か全日本パワーや実業団パワーに出場して上位入賞を果たしている。

朝生は外人ビルダーの中ではフランコ・コロンボと、エド・コーニーが好きだという。

コロンボの偽りのないパワー・ボクシングでの実績が証明する一味違ったパワフルな体。すみずみまで鍛えられ、バルクとデフィニションを兼ねそなえたあの体こそ、ほんとうの筋肉美ではないだろうか。そして、エド・コーニーの年令を克服したいぶし銀のような重み、長い経験によって磨きぬかれたポージングを見るとゾクゾクするような興奮を覚えるという。

そんな一流ビルダーと比較すると、まだまだ未熟であり“ひよっ子”だと感じる。だから、だからこそ高い目標を心に描き“心”を燃やすのだ。
〔51年8月。ジムの仲間と海水浴場で。もちろん一番下が朝生選手〕

〔51年8月。ジムの仲間と海水浴場で。もちろん一番下が朝生選手〕

◇朝生選手に私が学んだこと◇

4ヵ月にわたって朝生選手の記事を書かせていただいた。読者の皆さんも何か心に打たれるものがあったのではないかと思う。筆者自身も、取材していていろいろ教えられた。そこで最後に、私が彼から得た教訓の1つを紹介して“さわやかな青春”を終えたい。

きっと朝生選手は「そんなに持ちあげられちゃてれくさくていやですよ」というに違いないが、あえてそれを無視して・・・・・・。

法華教の中に書かれている言葉に、少欲知足、という言葉がある。「小欲」とは、一般にいう金銭、名誉、物などに対する欲が少ないばかりでなく他人からの愛情や奉仕を求める心が少ないことをいう。

一方、“知足”とは、いつも自分の現在の境遇に満足し、感謝しながら悠々としている状態をさしていう。つまり、向上心をもち、最大の努力をしながら、現在の置かれている立場に不平不満をいわずにベストを尽す。これがすなわち「少欲知足」である。

ちょっと前置きが長くなったが、結論は、こんな心境の人は、不思議なくらい神や仏の恵みがあり、どんどん成功するというのである。周囲の人がほうっておかず、みんなで盛り立てるからであろう。

このような仏教の教えと同じようにこれまでの朝生は、一歩一歩、前向きに足場を固め、不満やわだかまりをもたず、安定した精神状態で歩んできており、それが私たちの心にさわやかな印象を与えているといってもいい。

これも、小さいときからの環境によって養なわれたものであろう。そして彼のもっているものは努力して得たものばかり、きっと喜びも大きいことであろう。こんなことから、彼を見ると「小欲知足」を連想するのは間違いだろうか。 (おわり)

〔 筆者からのおことわり〕

“さわやかな青春”<その2>で「東北や北海道から出てきた田舎者」という言葉を、あたかも朝生選手が語ったように書きましたが、これは筆者が少しオーバーに脚色したもので、決して朝生自身の言葉ではないことおことわりしておきます。
月刊ボディビルディング1979年5月号

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