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ボディビルディングの革命理論≪その7≫
デニス・デュブライルの理論

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月刊ボディビルディング1979年8月号
掲載日:2019.03.23
国立競技場指導係主任 矢野雅知

<ウォーム・アップとは>

筋肉の興奮性を高めて収縮しやすくするためには、温度が大きく影響するので「体温を上昇させるために、ウォーム・アップが必要である」といわれる。それはまた、障害の予防にもなるとされている。

オストランドはこれについて概要次のように述べている。

「温度が1度上昇するごとに、細胞の代謝率は約13%増大する。さらに神経の伝導能力もアップする。そして筋肉の温度が高いほど(あらかじめ行なうウォーム・アップが激しいほど)作業成績はよい」(「オストランド運動生理学」浅野勝己訳、大修館書店)。

このように、体温を上昇させれば神経が活動しやすくなって、筋肉の収縮力も大きくなるのであるなら、サウナに入ったり、風呂に入ったり、あるいはジアテルミー(熱照射)をすることによって体温を上げてもよいことになろう。現に、これらの方法でウォーム・アップの効果を得て、よい結果をもたらしている例もある。

「ところが、ピーター・カルボピッチなどは、「ウォーム・アップは一般に信じられているほど必要性がない。いまだ研究の余地があるとはいえ、スポーツの世界ではウォーム・アップなしで新記録を樹立したなんて例は、山ほどある」という意味のことを述べている。

つまり、体温が上昇していなくても筋肉や神経は十分に活動できることになるのだが、はたしてウォーム・アップはやる必要があるのであろうか。それとも、やらなくてもさしつかえないのであろうか。

そこで次の実験報告をみてみよう。

ブルガリアのウェイトリフターは、脈博を計る小さな送信機をからだにつけて、リフティングにおける脈博を測定した。もちろん、脈博はリフティングを行なうことによってアップして、休息しているときはダウンした。

ところが、この実験で注目すべきことは、リフターが「さてリフティングしようか」と準備体制に入ったときやプラット・フォームの上に置かれているバーベルにアプローチしたとき、選手たちの脈博は50%も上昇したことである。

脈博の増加は、リフターに最大能力を発揮させるための準備をさせることになる。それは筋肉内への血流の増加をも引き起すので、結果的にはウォーム・アップしたのと同じことになる。ということは、つまり「さあリフティングしよう」と気持をギュッと引き締めただけで、ウォーム・アップと同様の効果をもたらすということである。このことは、経験者になればなるほどウォーム・アップする必要がなくなるということであり、気持の持ち方ひとつでからだの方も反応するのであるから、「精神力が肉体を支配する」とでもいえようか。

いずれにせよ、この精神力を鍛練してゆくことは、ボディビルダーやパワーリフターにとっては、決して小さな問題ではない。

<筋肉を超越する精神>

「内臓や神経なんぞというものは、不随意に働くものであって、これを意のままに動かすなんてとんでもない。バカもやすみやすみ言え!」と、長い間科学者は、血流や心臓の鼓動をコントロールできるという、いわば神秘主義者の主張をあざ笑っていた。だが現在では、科学者はあざ笑うどころか、驚きと畏敬の念さえいだいて彼らを見つめている。彼らが実際に心臓の鼓動を止めたり、内臓をコントロールすることが科学的に裏付けられたからである。

そして、これを実証する科学技術によって、誰でも比較的容易に、ある程度まで内部機能をコントロールすることが学べるようになった。神秘主義者は瞑想の精神状態に入ると、それは脳波グラフに如実に表わされるが、ふつうの人でも訓練によって、そういった脳波に近づけることができる。また、体温、皮膚温、血流、胃の働き等をもコントロールできるようになる。

このことから、筋肉の新陳代謝にも精神は大きく影響するということが考えられよう。人体内部をコントロールできるなら、その変化は筋肉の発達にプラスとなるような変化へと、精神によって導くことも可能であろう。

たとえば、血流が精神によって変えられるのであるならば、発達させたい筋肉の血流を集中的に大きくすれば、新陳代謝は高まるだろうし、神経をフルに働かせて、その部分の筋線維が十分に刺激されるようにすれば、筋肉の発達にプラスとなろう。

フランコ・コロンブは、「ボディビルディングの70%は精神力である」として、筋肉を発達させるには、発達させてやろうという強い意志が重要なのだ」と精神力を強調している。

このことから、我々がトレーニングにのぞむ態度は、少しでも筋肉を発達させようという気持でやるのと、ただ漠然とやるのとでは、おそらくたいへんな差が生じることになろう。

<体内に目を向ける>

トレーニングによって筋肉を刺激した結果、新陳代謝が促進されて我々のからだは発達してゆくわけだが、驚くべきことに、ハード・ワークで筋肉が刺激されてから、かなり長期間のあとで変えられるのである。

これには副賢皮質が関与している。副腎皮質とは、からだの全ての働きを直接、あるいは間接的にコントロールしており、自身でも40種類以上ものホルモンを分泌して、他の分泌腺もコントロールするというように、かなり重要な器官である。それに筋肉と持久力の比や、体重および筋肉の発達に関する面でも強い影響を与えるので、ボディビルダーにとっては、この器官の働きが悪ければ、当然からだの発達もよくないことになるので、無視できないものである。

そこで、こういった器官の機能をより活発にさせよう、ということになるのだが、それにはからだ全体の組織の働きを活発にさせなくてはならない。それは、からだの内部組織すべてが関連してくるからである。つまり、トレーニングによって筋肉を刺激することとあわせて、その刺激を高いレベルの発達へと結びつけられるようなからだにしなくてはならない。つまり我々の内部自身を変えなくてはならないのである。それを論じてゆくと、人体における細胞の問題へと話は進んでゆくことになろう。

このシリーズも長らく続いたが、どうやら終章に近づいてきた。まだ他にもビルダーにとって興味のつきないことも多いのだが、コムズカシイことをクドクド述べてもしかたがないので、ここらでやめることにした。ただ、以上のことから、からだの内部に関する細胞についての問題を、もう少し述べてゆこう。

それは、回復能力、疲労、エネルギー等の問題にも関係してくるし、トレーニング法に直接むすびつくものではなくとも、その概念的なことを知ることは、将来何らかの形でボディビルディングにプラスになるような気がするからである。

<細胞電気とは>

ジョージ・クライルなる人物は、彼の著「Phenomena of Life」(生命の現象)で次のことを証明した。

「我々のからだの細胞は、核と細胞壁の間に電位がある。核はプラスの電気で、細胞壁はマイナスの電気を帯びている。疲労したり病気になると、この電位は低下する。しかも、それがゼロになってしまうと、たとえ他の組織が健康であっても死んでしまうことになる」

このことから、細胞の高い電位を維持もしくは増加させることは、からだをエネルギッシュに感じさせて爽快にすることになり、逆に電位が低下してしまうと、疲れてエネルギー不足にさせてしまう。

この細胞の電位は、食物に影響されるので食事の問題は考えている以上に重要なものとなってこよう。


我々は生命を維持するために、空気中の酸素を吸っているが、この酸素が細胞に充電する力を与える。つまり、体細胞を元気づけることになるのである。激しい運動のあと、深い呼吸をやると、次第にからだが回復されてくるが、このことから、多くの酸素をとり入れることによって、細胞に電気を充電しているのだ、という解釈もできるだろう。

ヨガの行者などの神秘主義者は、呼吸をコントロールすることによって、からだにエネルギーを与えることができると主張していることは、この点からも信用しうるものとなってこよう。

ただ、実際にはこれはもっと複雑な問題を含んでいる。というのは、地球の磁気や磁場、食物、空気中のイオンなどによる電気的エネルギーも影響してくるからである。たとえば、原始人たちは、バッテリーを充電するように、からだにも充電する方法があると信じていた。

以前、内外ボディビル情報に紹介された名嘉真正弘氏は、東洋医学の研究家でもあるが、氏によると、日本の山伏などの修験者は、山に数日間も入って修業したというが、それはからだの中に「気」をたくわえるためであり、平地よりも山岳の方が「気」を充電するのに適しているからである。「気」を体中に充電するとは、すなわち体細胞に強い電荷を与えることであり、それが身心を強壮にするのであろう、という。

現在では、からだに充電するマグネチック誘導コイルの装置が一部の国では開発されているといわれており、これによってたちまちのうちに疲労を追放してしまうことも可能だという。

ともかく、ジョージ・クライルの説が正しいならば、疲労を除去して細胞に活力を与える能力を高めるには、もっと体力そのものを向上させなくてはならないであろう。むろん、疲労のファクターというものは、本来、化学的なものであることは心得ているが、からだがそれに必要な反応を生じるためにはエネルギーがなくてはならない。そのエネルギーを十分にたくわえるための体力が必要とされるのである。

<エネルギーとしてのアミノ酸>

ある実験において、からだの電導体の容量をテストしているときに、2オンスのアミノ酸を得た。それがわずか2、3分のちには、およそ1000倍にも増加したのである。

この容量とは、電荷の主となるものである。ということは、アミノ酸の増加によって、からだのエネルギーも同様に増加するのであろうか?その答は知らないが、ただ、ほんの一部の人々は、アミノ酸をとり入れたあとでトレーニングしたところ、疲れにくく、エネルギッシュであるというフィーリングを得ている。

アミノ酸からエネルギーを増加するということは、炭水化物とプロティンの見地から考えると、どうしても道理に合わないのだが、電気的レベルでなら合点がゆく。つまり、アミノ酸を体内にとり入れることによって、細胞の電位をより高められるから、疲労しにくく、エネルギッシュになるということが、考えられないであろうか。

<組織の再生>

ベッカーという科学者は、「下等動物は、四肢を失なってもすぐに再生できるというのは、からだの電流が異なっているからである」と結論した。

ネズミの後脚を切断したところ、ネズミは注意深く、切断された脚に電気を放電しはじめた。放電すれば、当然電位が下がってくるが、その結果、脚は再生をはじめたのである。それで、ベッカーは、ネズミはホルモンと電位の変化によって、四肢を再生できるのだ、と信じたのであるが、残念なことに、彼は研究のための資金が床をついてしまい、この重要な仕事を続けられなかった。

もし科学者がこの組織の再生をもっと深く研究してゆけば、我々ボディビルダーにとっても、筋肉細胞の増加といったように、きわめて興味深い分野となってゆくであろう。そこで、もう少しこの点について述べてゆこう。

<細胞分割>

「細胞壁のマイナス電位を下げることによって、いかなる細胞も分割することができる」

これは、筋肉の細胞も神経の細胞もすべて同じである。このことは、ある大きな障害とともに、からだの発達ということに、ひじょうに多くの可能性を与えることになる。大きな障害とは、ガンである。

<ガン細胞の分裂>

ガン細胞は、これと同じ方式で分割する。細胞壁の電位が下がると、どんどん分裂して大きくなってゆく。だから、人間の組織を再生しようと電位を下げることは、ガンが発生する危険があるので、慎重にコントロールされなくてはならないことになる。しかし、このことは同時に次のような疑問を生じるであろう。すなわち、

「人為的手段によって、細胞壁の電位をノーマルな状態にまでもどせたらいったいどうなるだろうか?」

そう、答えは考えた通り、細胞は分割しなくなるから、「それは大きくならない」ことになる。したがって、何人かの科学者は、実験において電気療法によってガンを阻止したり、治癒することで、大きな成功をみたのである。

ところが、こういった研究結果の大部分は、無視されているようである。少なくとも、人体にこの方法を用いたという科学者は、今のところ誰一人としていないようである。

それはともかくとして、ここから導き出せることは、ガンの発生と強い疲労やショックを受けたようなときは、ともにからだの細胞の電位が低下している時なので、両者には何らかの関連があるのかもしれないということであろう。

<発達を誘発する>

ベッカーは電流を小さくして細胞を活発化させることを研究したが、もし細胞が次々と分裂してアミノ酸を生んで大きくなってゆくのだとしたら、細胞の電位を変えることによって、それを誘発することができることになる。

このことは、当然筋肉の細胞も大きくするように誘発できることになり、骨の細胞だって同様な可能性が生じることになろう。そうなれば、ボディビルディングの世界でも、一大センセーションを巻き起こすことになる。骨の成育まで変えられるようならば、筋肉の発達だけでなく、体型そのものまでも理想的なプロポーションへと変えられるようになってしまうからだ。

これはまだまだ研究されてゆかねばならないが、いずれは電気によるボディビルディングなどという時代が、本当にやってくるかもしれない。もしそういう時代が来たら、一体どうなるであろうか?恐らく、誰もが骨を刺激して背を高くして、さらに大きな筋肉をつけて、ものすごいからだでノシ歩くようになろう。そうなれば、毎日汗を流しながら自分のからだをコツコツと鍛えあげてゆくというボディビルディングの意義など、まったくなくなってしまうことになろう。現在問題になっているステロイドと同様に、自然の摂理に反するような助けをかりてやることなど、歓迎すべきものではないだろう。

だが、そうは言っても、大きな興味を引かれるのは事実である。もっと大きくなりたい、もっと体型をよくしたいと思うのは、誰にでもある本能的欲求であるからだ。

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デュブライルの理論について、基本的な概念に私なりの解釈で肉付けして紹介してきたが、これで終了である。次回からは、彼の理論をもう一度要約して、実際的なプログラム等にも触れてみたいと思う。
月刊ボディビルディング1979年8月号

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