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食事と栄養の最新トピックス② 17年ぶりに改訂された食品成分表

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月刊ボディビルディング1980年7月号
掲載日:2019.10.25
健康体力研究所 野沢 秀雄

1.「それなりに・・・・・・」

「美しい人はより美しく、そうでない人は、それなりに・・・・・・」というコマーシャルが人気を呼んでいる。

 バーベルやダンベルを用いたウェイト・トレーニングの場合は「強い体力のあるスポーツマンが実行すれば、基礎体力が向上してより強くなり、そうでない弱い人が実行すれば、それなりに筋肉や体力がついて進歩する」ということになる。つまり誰が実行しても、それなりの効果が出てくるわけだ。

 だが、個人の体質による差や食事法の影響も大きい。また年令によるハンディもある。

 とくに、食事法については、効率の良い摂取法を研究することが大切である。そこで本号では、食事分析の基礎になる「食品成分表」が17年ぶりに改訂されたので、この話題をとりあげることにした。

2.食品成分表の意義

 学校給食や病院の献立、それに一般家庭やスポーツ合宿などの場合、栄養価計算は「日本食品標準成分表」に基づいておこなわれる。

 現在、約1000種類の食品について、カロリー(エネルギー量)・水分・たんぱく質・脂質・炭水化物(糖質とせんい)・カルシウム・ナトリウム・リン・鉄・ビタミンA・ビタミンB1・ビタミンB2・ニコチン酸・ビタミンC・ビタミンDについて、それぞれ100g当りの含有量が科学技術庁資源調査会が責任のもとに発表されている。

 手軽な形態のハンドブックが約300円で書店で発売されているので、買っている人も多いだろう。食事法に関する記載も多くて、健康体力研究所では便利に使用しており、みなさんの食事分析の点数を出すときの基礎となっている。

 「牛肉100g中に含まれるたんぱく質は約21gである」「サバ缶詰(1缶220g)を食べると約41gもたんぱく質がとれる」「とうふ一人前(半丁)でたんぱく質が約6gとれる」といった数字は、すべて食品成分表に基づいて述べられているわけだ。

 また、外食や家庭料理の栄養価については、直接、科学技術庁から公表されたものではないが、栄養に関する専門家(たとえば国立栄養研究所のメンバーなど)が材料を買い集めたり、レストランやスナックで原材料を調査し、それぞれ食品ごとにカロリー・たんぱく質・脂肪・糖質・カルシウム・ビタミンの量を「食品成分表」に基づいて計算し、発表しているものである。

「スパゲティ・ミートソース1人前を食べると、約26gのたんぱく質がとれる」「それに対して、中華そばでは1食当り約5gのたんぱく質しかとれない」といった情報の根拠も、ゆきつくところ、やはり「食品成分表」なのである。

 この重要な数値を発表するまでに、慎重な分析試験を反復しておこなっていることはいうまでもない。国立栄養研究所の分析室や各大学の食品分析の専門家、食品メーカーの優秀な検査室のスタッフなどが動員されて、何年もかかって検討のうえ、平均的な標準値が決定されている。

 私自身も分析研究の一員として関与した経験があり、一つの数字にも並々ならぬ苦労があることを痛感している次第である。

3.時代と共に成分は変わる

「食品成分表の数値が実状にそぐわないのでは?」という意見はかなり以前から出されていた。

 専門の学会や研究会に出席したとき「今の食品成分表の項目は少なすぎるので、ビタミンE・コレステロール量・不飽和脂肪酸含有量・ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸などの数値を加えて公表するつもりだ」と、国立栄養研究所の責任者の人が語っていた。

 昔の栄養学と現在の栄養学とでは、本質的に大きく変化している。私は下表のようにまとめている。

<表1>栄養学概念の変化
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 とくに、現代社会でもっとも問題になっているのは、食事を必要以上にとりすぎたときにおこる過剰症、つまり成人病である。脳卒中・心臓病・高血圧・糖尿病・肝硬変・腎硬塞など、死因の上位を連ねる病気は、過食の習慣と運動不足がダブっておこることが定説になっている。

 これを予防する方法はいくつかあるが、とりわけ、よい成分を多く含む食品を選んで食べる心がけが重要である。

 動脈硬化をおこさずに、いつまでも若々しさを保つ、ビタミンE・不飽和脂肪酸・低コレステロール食品(コレステロールにも善玉と悪玉があり、いちがいに総てコレステロールの多いものが悪いとはいえない。新潟県のビルダー新井さんから興味ある手紙をいただいたので次回に特集予定)などの含有量が公表されることは大きな価値がある。

 また女性や青少年に増えている貧血を防止するために、たんぱく質や鉄と並んで重要な役割をするビタミンB12や葉酸の含有量も食品別に知ることができれば便利である。

 以上のような、現代病と関連して、測定項目をふやすことが、今回の改訂の大きな目標であった。

 第二の目標は、食品成分そのものが時代と共に変化する点である。昭和30年代は自然栽培の野菜や果物が主流であった。魚も養殖より自然に泳ぎまわっていた近海魚が多かった。

 ところが17年の間に栄養源そのものが大きく変化し、ハウス栽培や養殖漁業が主流を占めている。資源も海外にあおぐ食品が急増した。人びとの嗜好も少しずつ変化している。――こんな状況では、食品成分の含有量そのものが変化するのも当然である。

 掲載品目をみても、「きんつば」や「どら焼」といった和風食品が当時はよく売られていたが、今はあまり売られていもいないし買う人も少ない。その反面「チーズケーキ」「ハンバーガー」「フライドチキン」「クレープ」といったナウい食品で、すでに広く一般に定着している食品が収録されていず、食事分析をしながら不便を感ずることが多かった。

4.実際にどこが改訂されたか

 いうわけで「食品成分表の改訂」は切実に迫られており、各研究機関では、ここ数年間、分析につぐ分析で、深夜までの残業はもちろんのこと休日返上で作業に当ってきた。

「いよいよ、2月に全面改訂が発表にる」という新聞記事が出たとき、関係者はたいへん期待を抱いたものである。また、「今度の改訂版は成人病予防に役に立つ」と誰もが信じていた。

 けれども2月の時点では、コレステロール値やビタミンEなどの追加項目は発表されず、単に各含有量の変化が発表されただけである。この理由は、分析作業が膨大なために追いつかないこと、学説そのものがくるくる変化して定説にならないこと、その間に食品成分がまた変わり、一つの標準値を決定できにくいこと、などが考えられる。

 とはいえ、17年間の成分値の変化だけをとっても、含有量に大きな差が見られる。それを次表に紹介しよう。

<表2>主な食品の成分変化
記事画像2
<解説>

 魚類の脂肪がふえているのは、養殖で魚が運動不足になっているほか、しゅんの季節に水揚げし、冷凍しておいて、その都度市場に放出することが一般的になったためである。つまり、消費者は1年中、油ののった魚を食べることになる。

 逆に豚肉の脂肪が減っているのは、味覚上の理由と、太りすぎや成人病の知識が次第に普及して、脂肪を避ける人がふえてきたためである。

 野菜や果物については、水分が多くなり、新鮮な材料を食べるのが日常的になっている。と同時に、ビタミンAやビタミンCの含有量が減っているのが問題である。自然の太陽を受けて育ったものとちがい、温室で石油をたいて季節はずれに育成されたものは、成分的にも弱々しいといえる。

 調味料やアルコールに関しては「から口が消えて甘口ばかり増える」とプロはこぼすが、実際その通りで、どの食品も糖分が明らかに急増している。

5.日常生活にどう活かすか?

 ことから分るのは、「ビタミンやミネラルを充分にとっているはずだが、実際には不足している」といったことがおこることだ。とくに野菜や果物、それに精製され、漂白された食品が多いため、微量栄養成分はますます摂取しにくいことが理解されよう。

 第二は、発表された数字は、あくまでも「標準値」であって、実際に食べるときはバラツキが相当にあることだ。たとえば同じ種類の加工食品でも発売する会社によって、含まれる「たんぱく質」「ビタミン」「ミネラル」等の各成分は大幅にちがうはずである。食品成分表では、このバラツキを考えず、一つの食品として、平均的な数値を示しているわけだ。

 栄養知識が進んでいるアメリカでは各メーカーが包装レーベルに、成分ごとの含有量を明示する法律的義務がゆきわたっている。1缶あたり、および1回の使用量あたりの栄養価が明白に示されているので、消費者はひじょうに便利である。

 第三は、従来発表されていた「外食の栄養価」についても、見直して考える必要性があることだ。

 たとえば「カレーライスに19.2gのたんぱく質がある」といっても、17年前と現在では、せちがらさが違っており、ランチ時に食堂へ入って注文しても「肉が40gも入っている」とはとうてい考えられない。「いくら探してもニンジンや玉ねぎばかりだ」という経験をしている人が多いにちがいない。

 もちろん、店によってもちがうし、自炊して作れば同じカレーライスでもずっとデラックスになることはいうまでもない。

 以上、問題点がいろいろ浮びあがってきたが、一般食品の栄養価が希薄になればなるほど、ヘルスフーズの分野が発展するのが肯づけよう。欧米では「栄養素をまとめて、濃縮して売られているのが、いわゆる栄養補助食品(サプルメンツフーヅ)だ」という認識が広くゆきわたっている。

 たんぱく質をとる目的ならハイプロティン、脂肪を合理的にとりたいなら植物油、ビタミンEをとる目的なら小麦胚芽油・・・・・・というように、各栄養素ごとに濃縮した高純度食品が対応して作られ、利用しやすいようになってる。

 最後に、総合的にビタミンやミネラルをとる目的で、欧米では、胚芽・ぬか・ふすま・酵素・レバー・納豆など従来あまり重視されていなかった食品がスポットライトを浴びて人気を呼んでいる。とくに、小麦のふすまは「ブラン」と呼ばれ、せんいが多く、腸の活動を高めるのに良いといわれている。日本でもボツボツ売られているようある。
月刊ボディビルディング1980年7月号

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