フィジーク・オンライン

なんでもお答えします Q&A 1980年7月号

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1980年7月号
掲載日:2019.10.25

スクワットにおけるバーベルのかつぎ方と懸垂力の強化法

〔質問〕

 ボディビルをはじめてやっと2ヵ月になります。現在、下記のスケジュールでトレーニングを行なっております。

◇トレーニング・スケジュール
(月・水・土の週3回実施)
①シット・アップ 15回×2セット
②スクワット 10回×2セット
③ベンチ・プレス 10回×2セット
④カール 10回×2セット

 トレーニング後の疲労感は快いもので、このスケジュールは今の私の体力にマッチしたものだと考えています。

 ところで質問ですが、私はスクワットの運動がどうもうまくいきません。

 というのは、バーベルをかついだときに、ウェイトが肩の上にしっくりとした感じでのらないからです。そして、両手でウェイトを支えるようにして動作を行うようにしないと、運動の中途でバーベルが落ちてしまいそうになります。

 バーベルを肩にかつぐにもいろいろなやり方があるのでしょうか。初心者向きのいい方法があれば教えていただきたいと思います。

 なお、私は現在、けんすい運動が1回もできません。鉄棒にぶら下がって体を10cmほど引き上げると、そのあたりでどうしても動かなくなってしまいます。体力的に考えて、もう1種目ぐらいは運動種目を増やしても大丈夫と思いますので「けんすい」ができるようになるためのなにかよい運動がありましたらご紹介ください。

(栃木県 下田五男 会社員 23歳)
〔答〕

 まず、スクワットに関する質問からお答えします。あなたの体つきを実際に見ていないので、はっきりしたことはいいかねますが、バーベルが肩の上にしっくりした感じでのらないのは、体型的な理由というよりは、技術的な理由によるものと思われます。一応、そのような観点にたって、スクワットにおけるバーベルのかつぎ方を説明したいと思います。

 あなたの手紙には、スクワット・スタンドの有無についての記載がありませんが、もし無い場合は、いずれ先にいって必要になるものですから、できるだけ早い時期に購入されることをおすすめします。

 あなたのように、バーベルのかつぎ方に問題がある場合は、下から自力でバーベルを引き上げてかつぐよりは、スクワット・スタンドを使用して肩にのせるようにする方が、より安定した感じでバーベルをかつぐことができると思います。したがって、ここではスクワット・スタンドを使用するものとして説明することにします。

◎スクワットにおけるバーベルのかつぎ方

①スクワット・スタンドに載せたバーベルのシャフトを適当なグリップ間隔で握る。あなたの場合は、肩幅の倍くらいの間隔が適当ではないかと思われます。

②クビをバーベル・シャフトの向う側へ下から差し入れる。

③両足の位置をバーベル・シャフトの直下に定め、左右の肩甲骨を内側へ寄せ合わせる感じで背中をつぼめ、バーベル・シャフトを頸椎に触れないように留意して僧帽筋の上に当てがう。背中を中側へつぼめるようにするのは、背の上部に隆起をつくりバーベルを肩にのせやすくするためである。しかし、だからといって、必要以上に左右の肩甲骨を内側へ寄せることもない。必要以上に寄せ合わせると、僧帽筋や菱形筋が強度に緊張するので、かえって運動がやりにくくなる。また、頸椎にシャフトが触れないようにバーベルをかつぐのは、運動中に頸椎を痛めないための配慮からである。

 なお、バーベルのシャフトを握るときに左右のグリップの間隔を広くしすぎると、背中が中側へ寄りにくくなることがあるので注意。
〔スクワット〕

〔スクワット〕

 つぎに、懸垂力を強くする方法について述べることにします。

 懸垂運動は、主として広背筋と大円筋、それと上腕の力を必要とする運動です。したがって、それら使用筋を他の運動で補強的に強化することによって間接的に懸垂力を強くすることはできます。しかし、それら使用筋の(ビルダー的な意味での)発達をトレーニグにおける副次的な目的として、あくまでも懸垂力の強化を一次的な目的とするのであれば、もっと直接的な方法を採用するのがよいでしょう。

 この意味でラット・マシーンによる牽引運動(ラット・マシーン・プルダウン)はポピュラーな種目の中では最も直接的な運動種目であるといえますが、次に紹介する運動を試みられるのもよいかと思います。

◎ベンチの上に乗っかって行うチンニング

<かまえ>ベンチをチンニング・バーの下にタテにして置き、その上に乗っかってバーを任意なグリップ間隔で握り、両足をベンチにつけたまま両腕を伸ばしてぶらさがった姿勢をとる。

<動作>両脚をベンチにつけたまま、体重を脚でいくぶん支えるようにして、過不足なく重量(体重)が両腕にかかるように調節しながら、懸垂動作をていねいに行う。

 このとき、首がバーの位置に達するまで体を引きあげたなら、そのままの姿勢で、自力で体重を保持するようにして、ベンチから両足を浮かす。両足を少し左右に開き、全体重をなおも自力で保持したまま、両腕をできるだけゆっくり伸ばして体を下へさげる。両腕が伸びきったら、さらに両足をベンチの上に載せ、同様な動作をくり返す。

 なお、体を上へ引きあげた状態で全体重を自力だけで保持することができないときは、両足をベンチに載せたまま、いま説明した全動作を行うようにしてもよい。そして、懸垂力が強くなってきたら、両足をベンチから浮かすようにする。

腕、とくに上腕三頭筋の長頭を発達させたいが

〔質問〕

 ボディビルを始めてから3年ほどになります。まじめにトレーニングを続けてきた甲斐があって、今ではみんなに体格をほめられるくらいになりました。といっても、決して自分で満足しているわけではありません。もっと鍛えて、2~3年後にはコンテストにも出場したいとさえ思っています。

 胸・背・脚などに関しては比較的順調に発達しているので、今のところはさほど問題はないようです。しかし、腕の発達がどうもかんばしくありません。ことに上腕三頭筋の長頭の発達がよくありません。自分なりにいろいろ考えて運動を行なっているのですが、長頭に効かずに外側頭に強く効いてしまいます。

 現在は、上腕三頭筋のための運動としては下記の種目を行なっています。

①リバース・グリップによるディップ 8~12回×3セット
②ナロウ・グリップ・プッシュ・アップ(背の上に10kgのプレートを載せて) 10~12回×3セット
③クロスオーバー・トライセプス・イクステンション・ライイング 10kg 8~10回×3セット

 そこで、お尋ねします。

①現在、私が採用している種目は、上腕三頭筋の長頭の発達を促す運動として適切でしょうか。

②長頭の発達があまり得られないのは採用種目に問題があるというよりは運動そのもののやり方が悪いからでしょうか。

③上腕三頭筋の外側頭よりも長頭の方に効かせやすい運動種目があったらご紹介ください。

 ちなみに、現在の私の体位は下記のとおりです。

 身 長 174cm  上腕囲 37cm
 体 重  72kg  前腕囲 31cm
 胸 囲 118cm  大腿囲 59cm
 腹 囲  71cm  下腿囲 39cm

(京都市 T・S 自営業 22歳)
〔答〕

 質問にお答えする前にお断りしておくことがあります。というのは、体位表を参考にして、ビルダー的な見地から、あなたの体格を評価すると、あなたはすでに上級者の部類に属しているものと思われます。したがって、あなたがすでに上級者であるという観点にたって質問の順にお答えすることにします。

〈1〉上腕三頭筋の長頭の発達を促すのに、現在採用している運動種目は適切か?

 運動種目には、それぞれ常識的な意味での特徴といったものがあります。そのような常識的な意味での特徴をよりどころとして、あなたが採用しておられる運動を検討してみると、上腕三頭筋の長頭の発達をより重点的に促すには、どうも適切な運動とはいいがたいようです。

 しかし、このことは、あくまでも常識的な意味での特徴を重視した場合に、傾向としていえることですから、まるっきり不適ということではありません。現在採用しておられる運動でも、動作のやり方により長頭に強く効かすことも可能ですが、最善の方法とはいえないようです。

〈2〉採用種目が悪いのか、それとも運動のやり方が悪いのか?

 現在採用しておられる運動でも、動作のやり方次第では長頭に効かすことができるということはすでに述べました。しかしそのような運動のやり方は技術的にかなり難しいといえます。

 というのは、通常的な動作で行うのと比べて、より以上に筋と関節のやわらかさが要求され、また、長頭における筋収縮のポイントを的確にとらえるために、かなり不自然な感じで動作を行うようにしなければならないからです。

 そのようなわけで、誰もが簡単にできるというものではありません。したがって、他に長頭のための種目がないわけでもないし、今のところはそのような不自然な動作を無理して行うこともないと思います。

〈3〉上腕三頭筋の長頭の発達を促す運動種目は?

 どうしてこのようになったのかはわかりませんが、現在あなたが採用されている種目は、上腕三頭筋の運動としては、いずれも長頭よりも外側頭に対する有効度のほうが強いようです。とかく採用種目を自分の好みだけで選ぶと、えてしてこのようなことになります。

 では、比較的長頭に効果的と思われる運動を2種目紹介いたします。なお、比較的という言葉を付したのには、それなりのわけがあります。つまり、運動動作のやり方いかんによっては、長頭に与える効果が半減するということです。
記事画像2

◎トライセプス・プレス・ライイング

 この運動は、上腕三頭筋の運動としてはありきたりの種目ですが、長頭に効かせやすいという点ではみるべきものがあります。

<かまえ>肩幅よりやや狭ばめにオーバー・グリップでシャフトを握り、ベンチに仰臥してバーベルを上方へ差し上げる。この場合、手首を返して下へまげた状態でバーベルを保持するようにする。また、シャフトの握り方はサム・アランドよりもサムレス・グリップのほうがよいようである。〔写真参照〕

<動作>左右の腕(左右の前腕、および左右の上腕)が常に並行を保つように留意しながら、肘を支点にして前腕を屈曲させ、バーベルを額、または頭頂部の上あたりへおろす。おろしたなら、やはり肘を支点にして前腕を伸展し、バーベルを元の位置へ押しあげ戻す。

<動作上の要点>

①左右の上腕をほぼ垂直に固定して、できるだけ動かさないようにする。

②中間動作においては、前腕、および上腕が、つねに並行を保つように留意して運動を行う。そのためには、意識して両肘を内側へしめるようにするとよい。

③この運動は、手首を返し、グリップ(あるいは手の甲)を落した状態で動作を行うほうが長頭には効かせやすい。

④上腕部の内側(直立して腕を下へさげたときに内側になる部分)を常に中へ向けた状態で動作を行うように努力する。〔註〕肩の関節が硬いとそのような状態を保つのに困難がともなう)

⑤バーベルをもちあげるときは、前腕を反転させる感じではなく、押しあげ伸ばす感じで動作を行うほうが長頭に効かせやすい。
〔トライセプス・プレス・ライイング〕

〔トライセプス・プレス・ライイング〕

◎ワン・ハンド・トライセプス・イクステンション

<かまえ>片手にダンベルを持ってベンチに仰臥する。

<動作>先に説明したトライセプス・プレス・ライイングと同様な動作を片手だけで行う。ただし、この場合は、ダンベルを水平にではなく、タテ向き(垂直)に保持して動作を行うようにする。そのためには、グリップの位置をシャフトの中心部よりも少し上方へずらして握るようにするほうが動作がやりやすくなる。

 なお、動作を正確にするために、空いている方の手で、肘、または上腕部を押えるようにしてもよい。

<動作上の要点>

 ダンベルをあげるときには、前腕を反転させる感じではなく、押し伸ばす感じで動作を行う。フィニッシュのときに、ダンベルが水平になるように持ちあげると、前腕が反転した感じになるので注意。腕を伸ばしたときに、グリップの小指の側が上向きになるようにすると動作がやりやすい。〔写真参照〕

 その他のことに関しては、前述のトライセプス・プレス・ライイングに準ずる。
〔ワン・ハンド・トライセプス・イクステンション〕

〔ワン・ハンド・トライセプス・イクステンション〕

疲労からくる事故防止には、レイ・オフか、それとも逆療法か

〔質問〕

 ボディビル歴は5年です。私はつい先日まで、週4回のスケジュールで、1回1時間半(25セット)のトレーニングをレイ・オフというものを全くとらずにつづけてきました。

 ところが、トレーニングからくる疲労のためか、左腕の関節と右腰を同時に痛めてしまい、現在ではトレーニングを休止せざるを得ない状態にしまいました。ちなみに私のベンチ・プレスとスクワットの記録は115kgと135kgです。

 そこで質問があります。

 レイ・オフは筋肉の事故防止、および健康管理のためには『絶対的』に必要でしょうか。それとも、ちょっとやそっとのことでは故障しない強い肉体をつくるためには、激しいトレーニングによってもっときびしく身体を鍛えるのも1つの方法だと思います。また故障してしまった場合は、あまりトレーニングを休まずに、逆療法でもって故障を解消するようにするのはいかがでしょうか。私はいま、そのようなことについてあれこれと考え、ジレンマに陥っている次第です。よき回答をお願いします。

(愛知県 浅井信裕 公務員 31歳)
〔答〕

 あなたの質問は、すべて身体の故障に関係したことがらなので、そのような見地から総体的に説明するのも1つの方法かとは思います。しかし、やはりあなたの質問の趣旨に添って、項目別に順を追ってお答えするほうが解りやすいと思いますので、そのようなかたちで、まず最初の質問からお答えすることにします。

〈1〉レイ・オフは絶対的に必要か?

 結論的にいって、レイ・オフは、故障の防止および健康管理のために必要なことだといえます。しかし、このことは厳密にいえば、休養をとることの必要性に応じていえることなので、トレーニングによる蓄積疲労もなく、格別に長期的の休養をとる必要のないときは、その限りではないともいえます。

 要は、レイ・オフというものは、日頃のトレーニングの量、および強度に関連し、その蓄積疲労の有無に応じて、必要性を判断する向きのものであるといえます。

 したがって、同じウェイト・トレーニングではあっても、健康法としてごく軽度に行う場合は、レイ・オフを全く必要としないこともあるかも知れません。しかし、積極的な意味での体力強化、および体位向上といったことがらを目的としてトレーニングを行う場合には、そのトレーニングの内容に関連して、レイ・オフを必要とする時期がいつか必然的にやってくるものと考えられます。

 トレーニングの効果は、疲労がたまっている状態では得られません。だから、トレーニングの継続によって疲労が蓄積した場合には、レイ・オフによって速やかにその状態を解消する必要があります。

 それに、筋肉というものは疲労が蓄積されるにつれて、弾力性と伸張性が減退して硬化するので、そのような状態では強度な緊張に耐えられなくなり、筋の組織はもとより、関節なども損傷しやすくなるということがいえます。あなたが腕の関節と腰を痛めたのもそのような原因によると思われます。筋が疲労のために硬化すると、腱や靭帯などにも不当な負担がかかるので、損傷する危険性も増すことになります。

 以上に述べたことがらを、あなたの場合に当てはめて考えれば、あなたにとってレイ・オフが筋の故障防止、および健康管理のために『絶対的』に必要であるか否かは、自分で判断できるかと思います。

〈2〉強い肉体をつくるためには、激しいトレーニングの継続が必要か?

 頑丈でねばり強い肉体をつくるには、もとよりトレーニングが必要です。しかし、だからといって、ただやみくもトレーニングの内容を激しくすればよいといったものではありません。

 トレーニングの効果というものは前項で述べたように、疲労が蓄積された状態では得られません。したがって、身体をきびしく鍛えるのにも自ら限度があるといえます。トレーニングの内容をより激しいものにするにも、また、密度を高めるにしても、生理的に許容できる範囲でなければなりません。

 つまり、前回のトレーニングによる疲労が、次回のトレーニングまでに解消し、その上に超回復がなされるであろうことを見こしてトレーニングの内容と頻度を定めるようにしなければならないということです。

 ボディビルとは、本来、トレーニングの適正度をボディビル(レジスタンス・エクササイズ)としての観点から吟味して行うべきものでありまた、実施者の個別性を重視して行うべき性質のものです。

 激しいトレーニングといっても、他のスポーツと比べて、自らその意味するところがちがってくると思います。ボディビルの場合、その運動としての性質上、過度な精神力を必要とするような、云い方を変えれば多分に根性主義に根ざしたような意味での激しいトレーニングを継続し行うのは、少なからず問題があるといえます。

 したがって、激しいトレーニングを行うにしても段階を踏まえ、かつ生理的に許容できると考えられる範囲で、そのトレーニング量、および強度を漸増的に増やしていくことが大切です。

〈3〉逆療法について

 逆療法とは、本来、それなりに理にかなった療法のことです。あなたが考えておられる逆療法は、療法にして療法に非ず、まったくでたらめもいいところです。

 世間では、よくそのような方法によって故障が治ったというようなことを耳にしますが、そのような方法を深く思慮もなく試みるのは危険きわまりないことです。たまたまよくなったとしても、それは運がよかっただけのことで、大方の場合は患部を悪くするのがオチです。

 筋肉部位の故障にしても、また、関節などの故障にしても、それらの故障の原因は、たいていの場合、筋や腱、または靭帯など(ときには骨や軟骨の場合もある)の損傷によります。したがって、筋や腱、あるいは靭帯などの組織が傷ついているときに、重い重量を用いて患部に不当な負担をかけ、強度な緊張を強いるのは、損傷した箇所を治癒させるどころか、かえって悪化させることの危険性の方が大であるといえます。
〔回答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内 威先生〕
月刊ボディビルディング1980年7月号

Recommend