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ボディビルディングの革命理論<その1>
アーサー・ジョーンズの理論

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月刊ボディビルディング1979年2月号
掲載日:2018.10.09
国立競技場指導係主任 矢野雅知

トレーニング法の移り変わり

ボディビルディングは、いわゆるウェイト・トレーニングを主体としてやるわけであるが、このウェイト・トレーニングには、基礎的な学問の裏づけがあり、この分野に関する研究も山ほどある。
使用重量、セット数、レピティションなどにしても、これが唯一絶対のルーティンである、というものはなく、各人各様によって効果の現われ方も異なっているために、結局、ベストというものは、試行錯誤によって、自分自身で見い出さなくてはならない、と言われている。確かに、これは事実だし頭っから否定する根拠はないのだが、何をやっても「所詮は、各人で効果の現われ方が違うのだから……」の真理ですべてを片づけてしまうには、これまたもう1つスッキリしないのも事実であろう。
いくら個別性の原則があろうとも、最大負荷の1/3以下の抵抗をもってして「オレは史上最高の筋肉に発達させてみせる!」と豪語したところで、せいぜいマラソン・ランナー程度の体格以上にはなりようがない。
「いや、30億もの人類の中には、1人や2人はそれでもって部厚い筋肉をつけるヤツがいるかも知れない。それこそ個別性の原則が生きているのであり、そこに妙味があるのだ!」なんて真顔でこんなことを言う人がいたとしても、「なるほど、そういうものですかァ」と感心する人は、おそらくいないであろう。
筋肉を発達させるためには、やはりそれなりの生理学的に裏づけされた研究をもとにトレーニングしていかなくてはならないのは当然である。

ウェイト・トレーニングに本格的な科学のメスが入れられたのは、第二次大戦ごろからである。医学博士のトーマス・デロームは、「筋肉を発達させるには、10回×3セットをするのがよかろう」という見解を発表した。
その後、ウェイト・トレーニングに関する研究は急速に進み、とくに、より以上に筋肉を発達させようというボディビルダーなどを中心として、週3回のセット法によるトレーニング・ルーティンは、スプリット・ルーティンの登場によって毎日のトレーニングに変わり、つづいてスーパー・セット法が現れ、さらにはジャイアント・セット法にまで発展して、今ではトリプル・スプリット・ルーティンを用いるボディビルダーも少なくない。
この結果、ひと昔前のビルダーと比べると、練習量は当然多くなる。1つの筋群に25セット以上もやるビルダーなどザラである。スティーブ・リーブスなどは、せいぜい1種目3セット程度だったのに比べると、格段の差があるというものである。筋肉の発達という面から見ても、ひと昔前のビルダーと現在のトップ・ビルダーを比較してみればわかるように、現在のビルダーの方がはるかに高いレベルになってきている。
これは、栄養面での研究が進んでいることにもよるが、トレーニング方法の進歩も大きいであろう。それだけウェイト・トレーニングの理論的な面での研究が進み、また、ビルダー各自がよくそれを研究し、実践しているからである。

アーサー・ジョーンズの理論

私もウェイト・トレーニングには日頃から興味をいだいている人間なのでマンガなどを読破したあとに、鼻をススリながら専門書などに目をとおすことがある。もともと私は学者でも何でもないので、自分の確固たる信念などというものは持っていない。だから、偉い先生の意見を拝聴すれば、「なるほど、これこそ永遠の真理だ」とヒザをたたいたかと思えば、別の学者の意見を知るや、たちまち「そうであったか、これこそ私が本当に求めていたものだった!」と、泣いて喜ぶといった具合である。
そんなある日、私は、アーサー・ジョーンズをはじめとする運動生理学の権威ある博士たちによって著わされた「Strength Training」なる書物を読んで、強く引きつけられた(本書については、1978年12月号のボディビルディング誌に窪田教授がその概略を紹介している)。筋力トレーニングに関して、実に詳細に書かれており、今まで読んだ書物の中でも、とくに強く印象に残るものであった。
アーサー・ジョーンズは、言うまでもなくノーチラス・マシーンの開発者で、その卓抜した理論をつつしんで傾聴する人も少なくない。
1日3時間ものトレーニングを週6日やるのがコンテスト・ビルダーの常識である今日に、
「従来のトレーニングでは、何時間も費やしているが、こんな必要はない。1日わずか30分、いや20分もあれば十分であり、しかも週に3回やるだけでよい。体力トレーニングというものは長くやればよいというもんじゃない。要はその中味の質が高いかどうかということである。私のいうとおりに行えば、筋力のみならず、バルクをも最高に発達させられるであろう。すなわちこれこそ筋肉を発達させるベストなものである」
と、力説するのである。
それも実に説得力があり、私などはこれを読んだとき、神棚にでも上げて拝もうかと真剣に考えたほどである。
そして、ノーチラス・マシーンを使ってこの理論を実践したビルダーにAAUミスター・アメリカのタイトルを史上最年少で獲得したキャセイ・バイターがいる。彼は、アーサー・ジョーンズに教えを受けたというエリングトン・ターデン博士の指導によって、大きな成果をあげており、バルクはもとより、強いパワーも身につけたという。
また、昨年のIFBBミスター・ユニバースを獲得したマイク・メンツァーは、以前は週6日、1日2時間のトレーニングをやっていたが、さしたる効果が上がらないので、さらにハードにやらなくてはならないと、1日3時間のトレーニングをやったのだが、逆に筋肉の萎縮が始まってスランプに陥ってしまった。そんなとき、バイターのことを想い出して、彼もアーサー・ジョーンズの理論に従ってトレーニングしてみたところ、効果抜群で、たちまち世界のトップ・ビルダーにのし上がってしまったのである。
このアーサー・ジョーンズの理論やノーチラス・マシーンについては異論も多くあるようだが、ウェイト・トレーニングの世界にセンセーションを巻き起こしたことは事実だし、1つの進歩であると私は考えている。
では、彼のいう理論とはどんなものなのか、具体的に述べてみよう。

<1>レピティション(回数)

セットあたりの繰り返し回数は8~12回の間で、正確な動作で、もはやこれ以上もち上げられなくなるまで、つまりオール・アウトになるまで行なう。もし、8回以下のレピティションであるなら、そのウェイトは重すぎるし、12回以上も出来るのであるならそのウェイトは軽すぎるということになる。
では、なぜ8~12回という数が出てくるのだろうか?それは――――
知ってのとおり、筋肉はいくつもの筋線維から出来ている。この筋線維が収縮することによってパワー(筋力)が生み出されるのであろうが、筋線維のすべてが同時に収縮することはほとんどない。最大筋力を発揮したときでもせいぜいその35パーセントが収縮しているにすぎない。つまり、残りの65パーセントはまったく働いていないのである。ということは、1回しか収縮できないような最大筋力では、筋線維のすべてに刺激を与えることはできないので、筋肉を最大限まで発達させることができないことになる。
つまり、筋肉を最大限まで発達させるためには、筋肉の予備能力まで刺激がゆきわたるようにしなくてはならないのである。
筋肉の収縮には「all or nothing――全か無の法則」というのがある。それは各筋線維は「最大限に収縮するか、全く収縮しないかのどちらかである」というものである。最大限に収縮するということは、何回も収縮できないということである。したがって、ウェイトを連続して持ち上げるには、実際には筋線維が入れ換わり立ち換わり収縮に参加していることになる。
つまり、10の筋線維が収縮するパワーを発揮するようなウェイトを持ち上げた場合、次の収縮には9の筋線維しかないので、新しい筋線維が1つ参加して、10のパワーを発揮するようになっている。こうして、次々と新しい筋線維が参加して収縮していくので、予備能力まで刺激されることになる。予備能力を最大限に刺激するためには、オール・アウトになるまで運動を続けることが必要とされる。
そして、セットあたりのレピティションが6回以下では、予備能力まで十分に刺激を与えることはできないし、15回以上も行えるようなら、それは実際に筋肉が収縮できなくなるのではなくて、酸素の欠乏でオール・アウトになってしまうのである。したがって、8~12回が最も適切なレピティションということになる。

<2>動作

ウェイトを持ち上げるとき、すなわちポジティブ・ムーブメントでは、2秒間ほどかけてゆっくり挙上する。ウェイトを下げるとき、すなわちネガティブ・ムーブメントでは、さらにゆっくり4秒間ほどかけてやる。したがって、ここでいう正しい動作は、チーティングを用いずに、しかも可動範囲いっぱいにフル・レインジ・ムーブメントでやらなくてはならない。
以上のことから、1回のセットではおよそ40秒から70秒間行なうことが、筋肉の発達には最も適しているということになる。これは、理論的な裏づけではなく、経験的な証明である。
では、なぜポジティブ・ムーブメントよりもネガティブ・ムーブメントを強調するのであろうか?それは、筋肉の発達には、ポジティブよりもネガティブの方が優れているからに他ならない。このことは、科学的データがそれを裏づけている。
したがって、パワー・アップやバルク・アップを目指すのであるならば、ネガティブ・ワークをしっかりとやることが大切である。

<3>セット数

バーベルやダンベルを用いるのであれば、正しい動作で8~12回のレピティションで、2セットやればよい。またノーチラス・マシーンやアイソキネティックの器具(例えばミニ・ジム)等を用いるのであるならば、それは可動範囲全体にわたって、強い刺激が筋肉に与えられるので、1セットやれば十分である。
もう一度繰り返そう。10セットではない、1セットでよいのだ。胸筋のために、ベンチ・プレスを10セット、ラテラル・レイズを5セットの計15セットもやる必要はまったくない。胸筋のためには、正しい方法で1セットやればそれで十分なのである。
理論的にも実際にも、少ないセット数でより早い超回復を引き起こせるのである。あまりに多くのセット数を行なえば、からだは十分に回復することができなくなってしまう。筋肉の発達は余分なセットをやることによって、グーンと遅れてしまうのである。
残念ながら、多くの書物に多セットをやっているビルダーのことが紹介されており、ほとんどの人がそれを正しいと信じているが、より大きな効果はより数少ないセット数で獲得される、ということをよく知っておかなくてはならない。
ことに、多くのセット数を行なってようやく「今日はよくトレーニングをやったなァ」と満足感を覚えているような人は、どうしてもセット数を気にして、ペースを考えながら意識的に最後の種目のためにエネルギーを残しておこうとトレーニングするので、毎回のセットに全力を発揮してやらないことになってしまう。最大の努力を惜しんでいるのでは、明らかに筋肉に強い刺激を与えることはできない。したがって、彼らは滝のように汗を流して満足感を覚えたとしても、結局、それは時間を浪費していることになってしまうのである。

<4>頻度

トレーニングは、1日おきに週3日やればよい。つまり、筋肉は48~72時間ごとにトレーニングされるということになる。このことは、チャンピオン・ビルダーであろうとは、また、トレーニングを開始したばかりの初心者であろうと同様である。
どのようなレベルの人であっても、48~72時間以内に、再びトレーニングを行なえば筋肉の萎縮が始まる。つまり、筋肉の回復には、48~72時間が必要なのである。だから、毎日トレーニングやるなんてことは、愚の骨頂といってよい。

<5>インターバル

バーベルやダンベルを用いて2セット行なうときは、1セット目を終えたら、ウェイトの重量を変えるだけで、すぐに2セット目をやるようにする。
運動種目間のインターバルの長さは何を目的にしているかによって変わってくる。すなわち、心肺機能も同時に高めようとする筋力増強プログラムでは、インターバルはできるだけ短くする。筋力だけを目的とするプログラムなら、次の運動を再び全力を発揮して行えるように十分に時間をとるようにする。

以上が、アーサー・ジョーンズの説く「筋肉を最も発達させる」理論の骨子である。
彼の説でいけば、当然、同一筋群を刺激しようというスーパー・セットやトライ・セット、はたまたジャイアント・セットなどというものは、少なくともパワー及びバルクを最高度に高めるものではないことになろう。なぜなら、筋肉を刺激する強度が小さくなってしまうからである。
また、1日に20~30分間で十分なトレーニング効果を引き出せるのであるから、なにも好きこのんでスプリット・ルーティンなどを用いることもないとうことになってしまう・・・・・・等々、現在、我々が広く用いているようなトレーニング方法は、大幅に変わってしまうことになる。
そして、バイターやメンツァーを見るにつけ、今後はこのアーサー・ジョーンズの理論が、トレーニングの主流を占めるようになるのでは・・・・・・と、いう気がしてくる。

そのようなとき、「Iron Man」誌に以前から生理学的な研究を発表して、なかなかのウンチクを傾けているデニス・デュブライルなる人物がいる。彼は「ノーチラス・マシーンは、だいたい値段が高すぎるし、実際にはまだ完全なものではない」と述べたりしているが、かなりの理論家で、「なーるほど」というような見解を示している。彼は、アーサー・ジョーンズの理論とはまったく反対のことを主張したりしているが、例によって、たちまち私はこれに引き込まれてしまった。
実は、このデニス・デュブライルの提唱する説が、この「ボディビルディングの革命理論」のテーマであり、これから私がスポットを当てようとしているものなのである。
ともかく、彼の理論は、他のものとはやや違っている。いや、かなり違っているといったほうがいい。だが、マイク・メンツァーなどは、
「私はアーサー・ジョーンズの理論をとり入れてトレーニングしているがデニス・デュブライルにも大きく影響されており、彼の理論も参考してトレーニングを進めている・・・・・・」
と言っているように、すでに一部のトップ・ビルダーの間にも、彼の理論は浸透しはじめているようである。
デュブライル氏は言う――――
「トレーニングについては、数多くの研究があるが、これらはある点では類似しているけれども、まったく正反対のものもある。そういった中にあって、私はここに、これがトレーニング方法の終局的な結論ともいうべき、いわばトレーニングの虎の巻を見い出したのである。
私の理論は、他の多くの研究者のものとはかなり異なったものであろう。しかし、世界的なボディビルダーたちの中には、私の理論のすべてではなくとも、その一部を実践することによって大きな効果をもたらしているという事実が、この理論の絶大なる効果を証明してくれよう。とにかく、私の見い出した虎の巻は机上の空論ではなく、実際のトレーニングにおいても、確実に効果を発揮するものである」
まあ、これだけ自信をもって言われれば、付和雷同をモットーとしているような私などは、たちまちにしてデュプライル氏を正義の味方と信じてしまったのも、理解していただけるに違いない。
デュブライル氏は、うやうやしく
「これだけの虎の巻を、カンタンに教えてしまうのはチトもったいない気もするが・・・・・・」
てなことを言っているが、なにかまうことはない。良いものはドシドシ取り入れて、少しでもボディビルダーの質が向上してくれればよいのであるから、彼の理論の要点をふまえておいていつものように私の独断と偏見をもって、次回から彼のいうトレーニングの虎の巻なるものを紹介していこうと思っている。(つづく)
月刊ボディビルディング1979年2月号

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