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ボディビルディングの革命理論<その3>
デニス・デュブライルの理論

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月刊ボディビルディング1979年4月号
掲載日:2018.10.23
国立競技場指導係主任
矢野雅知

ネガティブ・ワーク(オーバーロード・トレーニング)とは

アーサー・ジョーンズらは、筋肉を発達させるためには、筋肉を短縮(コンセントリック・コントラクション)させるポジティブ・ワーク(ポジティブ・ムーブメント)よりも、伸縮(エクセントリック・コントラクション)させるネガティブ・ワーク(ネガティブ・ムーブメント)を重要視して、ウェイトを持ち挙げるのに2秒、下ろすのに4秒間もかけて、ネガティブを主体にして全ての筋線維を収縮させる方が効果的であるとしていることは、すでに述べた通りである。
このエクセントリック・コントラクションでは、コンセントリック・コントラクションよりもはるかに強い筋力を発揮することが可能である。たとえば、オーバーロード・トレーニングと呼ばれるネガティブ・ワークでは、最大負荷よりもさらに強い抵抗を筋肉にかけて伸縮させようとするものであるが、最大筋力を100kgとした場合、さらにそれ以上の150kgものウェイトを用いて、補助者が持ち上げてスタート位置につけて下ろし始めると、これでは当然重すぎるからウェイトはいくら頑張ってみてもさがってきてしまうことになる(ふつうネガティブ・ワークといえば、このオーバーロード・トレーニングを指すので、以下この意味として述べてゆく)。
こういったエクセントリック・コントラクションでは、コンセトリック・コントラクションの150%もの筋力を発揮する場合もあるという(ときには2倍にもなる)。したがって、エクセントリック・コントラクションは、コンセントリック・コントラクションやアイソメトリック・コントラクションおよびアイソキネティックスといった筋収縮の形態のなかで、最も強い力を発揮することができる。

ネガティブ対ポジティブ

これらのことから、「ネガティブはポジティブよりも筋肉を発達させて、筋力とサイズを大きくするためには効果的である」という人もいる。前回述べたように、筋肉を発達させる一つの要因としての「筋肉に強い刺激を与えるという面でネガティブは条件を満たしているし、あとは回復能力があればよいのだから、ネガティブはポジティブに優るといえるだろう」と、この様に考えて、ネガティブ・ワークをせっせと採用している人も少なくない。
確かに、ネガティブは最大筋力以上のウェイトを扱うことができるので、パワー・リフターのように筋力を重視するものにはかなり愛用されている。しかし、デビット・クラークは「ポジティブ・ワークとネガティブ・ワークの両者の間には、筋力増強効果の面では差は認められない」(「体育の科学・アイソトーニック・トレーニングの理論と実際」窪田登訳)と報告しているし、その他の研究でも、ネガティブの優位性を認めるものは、ほとんどないようである。
しかしここで述べる見解は「実際に筋肉を発達させるためには、ネガティブよりもポジティブの方が、筋肉はより大きく反応する。だから、筋肉を発達させようとするならば、やはりポジティブにより大きな関心を払った方がよい」というものである。いったい、それはなぜだろうか?

カギを握る超回復

筋肉は、トレーニング後に超回復されることによって発達してゆくが、我々が食物から得ている80%ものエネルギーは、体組織の維持やその再合成に使われている。だから、大きな再合成を起して、より大きく超回復させるためには、より大きくエネルギーを消費することが必要となるはずである。
これにつていは、ソ連のヤコフレフらが、「エネルギーの消耗が強度であればあるほど、一定範囲内において、その回復も激しくなり、超回復の現象も顕著となる」(「スポーツ・コンディショニング」不味堂出版、窪田登他編)と述べていることからもうなずけよう。
ベンチ・プレスを例にとろう。
ポジティブ・ワーク、つまり一般い我々が行なっている方法のベンチ・プレスを100kgをやるのと、アイソメトリック・トレーニングで120kgをやるのと、150kgを用いてのネガティブ・ワークのベンチ・プレスの三者を比較した場合、100kgのベンチ・プレスは120kgのアイソメトリックのベンチ・プレスよりもエネルギーを消費する。また120kgのアイソメトリックのベンチ・プレスは、150kgのネガティブのベンチ・プレスよりもエネルギーを消費する。つまり、ポジティブよりも50%も重いウェイトを用いてのネガティブは、エネルギー消費という点からみると最も小さいので、回復システムを大きく働かせないから、ネガティブよりもポジティブの方が筋肉は大きく反応することになるのである。
もっとも、ふつうのトレーニングをやっていて、常にオーバー・ワークの傾向があるような人にとっては、エネルギー消費と回復システムがうまく働いて、ネガティブを採用することによってグンと発達するような人がいるかもしれない。
このケースは恐らく多いのではないだろうか。いくらトレーニングをやってもまったく進歩がみられないと嘆いている人の大多数は、オーバー・ワークから慢性疲労になって発達が見られないということが多いが、そんなときにネガティブを採用したところ、エネルギー消費が少ないので、今までオーバー・ワーク気味だったのが、ここにきて大きく超回復が始まり、どんどん発達しはじめるというわけである。そこで彼は、声高らかに「ネガティブは最高であるゾ!」とのたまうことになり、それを盲信する人がネガティブにとびつくというわけである。

ネガティブと筋肉の緊張度

もう一つ、ネガティブがボディビルダーに注目されることがある。
我々の筋肉には筋紡錘と呼ばれる知神経があるのはご存知だろう。バーベルを持つといちはやく筋紡錘は脳にシグナルを送って、このウェイト持つためにはどのくらいの筋線維を働かせるのが必要なのか教えている。脳と筋肉はこのフィード・バックによって、たえず筋収縮を調整しているわけである。
この筋紡錘を定期的に刺激していると、筋肉は収縮され続けるので、筋肉の緊張度(マッスル・トーン)が高まることになる。だから、筋紡錘が働いてマッスル・トーンが高まっていると、翌日、腹筋などがディフィニションにとんで、いかにも発達したかのうように見えて驚ろかされることがあるが、これはけっして腹筋の皮下脂肪が減少して、筋肉が増加したというのではなくて、腹の筋肉が緊張しているから、そのように見えるだけなのである。つまり、神経作用によって、発達したように見えるわけだ。
ところで、中枢神経システムというものは、炭水化物の食事が極端に低い場合には、十分に機能しなくなることが知られている。筋紡錘とて中枢神経システムの一端をになうものであるから、それに影響される。だから、フィジーク・コンテストなどを目指して炭水化物の摂取量をあまりに制限してしまうと、筋紡錘を機能させなくなって、マッスル・トーンが失われてしまうことになる。ビンズ・ジロンダをはじめとする多くの人が指摘しているように、炭水化物の摂取をゼロに近づけると、3日後ぐらいには筋肉は実際になくなっているわけでもないのに、のっぺりしたからだつきに見えてくる。
だから、コンテストを狙っているボディビルダーが、少しでも皮下脂肪を落としてやろうと、炭水化物をいっさい口にしないでせっせと蛋白質ばかりをとって、死にもの狂いでトレーニングをやったとしても、こういうことを知ってないと、コンテストのステージ立ったときに、のっぺりとして、まったく低調な成績に終わってしまうことになる。
話をもどそう。さて、ネガティブであるが、このネガティブ・ワークでトレーニングをやると、筋紡錘を大きく刺激することになる。だから筋肉は強く緊張するので、マッスル・トーンが高まるから、「ネガティブは筋肉を早く発達させるのに間違いない。それが証拠に、ほれこのからだを見てくれ!」と、騒ぎたくなるのだが、筋肉がピーンと緊張してはりつめているから、いかにもネガティブは抜群の効果がある、と思いやすいわけである。
さらに話をもとにもどそう。
ネガティブ・ワークでウェイト下げてゆくときは、エネルギー消費が少ないというのはどうしてであろうか?その理由の一つとしては、「筋肉の摩擦」いわゆる内部抵抗といわれる現象があげられる。
筋収縮のメカニズムは、現在のところ筋原線維のアクチンの中にミオシンが入り込んで、長さが短くなることによって収縮が引き起こされる、いわゆる滑走説が定説となっている。つまり実際に筋原線維そのものが短くなるのではなくて、線維の中に他の線維が入り込むことによって収縮が起こるのであるから、当然そこには筋肉内に摩擦が生ずるでえあろうということが考えられる。
したがって、筋肉が短かくなればなるほど、つまりコンセントリック・コントラクションのときに、この摩擦が大きく働くことになる。逆に、線維の中に入り込んだ線維を引っ張り出すような伸縮。つまりエクセントリック・コントラクションでは、ウェイトを下げるときにむしろ摩擦が働いているので、楽におろすことができる。
だから、100kgのウェイトを持ち上げようというときには、筋肉は実際には摩擦に打ちかつために10kgも大きい110kgの力を発揮しなくてはならないことになる。しかし、ウェイトを下げてゆくならば、かえって摩擦があるので90kgの力を発揮するだけでよいことになる、と考えられる。
また、筋肉にたまった脂肪も、内部抵抗を強めるかもしれない、もしそうであるならば、デップリと肥ったリフターは、脂肪の少ないリフターよりもウェイトを持ち上げるためには、より強い力を発揮しなくてはならないことになる。
このように書いてくると、まるでネガティブはボディビルディングには必要ない、と主張してしているようかの様に誤解されては困る。ただ、ポジティブの方が、オーバーロードをかけてやるネガティブよりもエネルギー消費が大きいので、筋肉にとってはよりハードになり、ネガティブが一般に信じられているほどポジティブに優るトレーニング形態ではない、ということを強調しているにすぎない。ネガティブだって、むしろ筋力などに大きな効果をもたらすことは十分に承知している。
ことに、ポジティブでは、扱えるウェイトの重量が、スティッキング・ポイントでの筋力に制限されてしまうけれども、ネガティブではこの制限がないので、スティッキング・ポイントでは、より強く筋肉を働かせることができるという利点もある。アーサー・ジョーンズは、ネガティブで行なえば、よりグッドなフォームを強いられるので、正確な動作でトレーニングすることができるとしている。

ネガティブの利点

我々のからだには急にストレスが加わると、副腎からアドレナリンが分泌されて拍動数も増加したり、交感神経が緊張してストレスにそなえる体制に入る。もちろん、筋肉もサッと緊張させるわけだが、緊急のストレスが加えられると、中枢神経が筋肉に「活動せよ!」というシグナルを送るよりも速く、筋肉は完全に活動してしまう。
神経が作用を及ぼす前に、筋肉は何のシグナルをキャッチして活動するのであろうか?それは、一種の電磁波として知られている。
「Electromagnetic Field and Life」において、A.S.プレスマンは、「我々は緊急事態になったとき、からだはSOSの電磁波のシグナルを送って、それに備える」といった実験証明を著わしている。このことは、我々のからだは、急激なストレスが加わると、ただちに強い筋肉の活動を引き起すことができる、ということを意味している。
このことは、我々がまったく新しい急激なルーティンを行なって、筋肉に今まで経験させたことのないような刺激を与えると、からだはきわめて早く反応するが、それは急にストレスが加えられたので、からだがただちに反応したと説明することができる。
ネガティブも、これと同じようなことがいえる。ポジティブやアイソメトリックスでは、ウェイトを持ち挙げたり、止めたりすることができる。ところが、ネガティブでは、動いているウェイトを止めようと(あるいは逆に押し挙げようと)しても、まるでそれはできない。ウェイトはますます下がってくる。いくら渾身の力をふりしぼっても、どうにもならない、といった緊急事態のように大きなストレスがからだに加わることになる。SOSが発せられて、すべての機能がより活発に働かされる結果、からだは驚くほどに反応することになる。
こういったメカニズムが考えられるから、ネガティブ・ワークは、決してないがしろに出来ない面を持っているのである。
それに、「スポーツ・コンディショニング」(前出、窪田登担当章)で、ソ連のスロボディアンは、「ウェイト・リフティングの選手に、アイソメトリックス、ネガティブ・ワーク、ポジティブ・ワークを実施させた結果、ポジティブだけを採用したトレーニング・コースをやるよりも、いろいろの筋収縮を網羅したトレーニング・コースの方が、リフティング記録を向上させた。この実験によると、全体のトレーニングの75%をポジティブ、25%をネガティブ、10%をアイソメトリックスでやるのが最も効果的であった」ということを述べている。
このことからも、筋力向上のためには、ポジティブだけでなく、ネガティブもどしどし採用してゆくことも必要となろう。(つづく)
月刊ボディビルディング1979年4月号

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