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新ボディビル座講 ボディビルディングの理論と実際<33> 第6章トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1983年11月号
掲載日:2020.12.24
名城大学助教授 鈴木正之

Ⅱ上腕三頭筋の運動<その3>

◎ラット・マシン系の上腕三頭筋の運動

ラット・マシン自体の特色については、前に背の運動のところで述べたので、ここでは省略する。
上腕三頭筋のトレーニングとしてラット・マシンを利用する場合、まずラット用のバーからプレスダウン用の短いバーに変えること。そして、プレスダウン用のバーはグリップが回転するものを利用すると、運動中グリップに違和感がなく、動作がしやすい。

運動動作としては、バーベルやダンベルのようなフリー・ウェイト器具よりも、ラット・マシンを用いたほうが、単純で一方通行的であるので、初心者でもトレーニング・フォームを固めやすく、コンセントレーションをかけやすい特徴がある。
無理にバーベルやダンベルによるフレンチ・プレス系の運動から入るよりも、はじめはこのラット・マシンや次項のチェスト・ウェイト・マシンを用いてトレーニングに入り、しだいにフリー・ウェイトの高度な種目に移行するようにするとよい。

また、トレーニング動作が補助しやすいところから、上級者にとってはフォースド・レプス・セット(自力でオールアウトしたあと、補助者の力を借りて反復をくり返す)や、マルティ・パウンデッジ・システム(重量を減らしていく方法)を採用しやすいという特色もある。
その他、グリップの幅と握り方によって、上腕三頭筋の長頭と内外側頭への意識を高めることもできる。肘を外側に開くか、グリップを広めに握ると、外側頭から内側頭に効き、また、肘を内側にしたりグリップをアンダーにすれば、長頭から内側頭に強く刺激を受けるといった点を念頭に置いてトレーニングをするようにする。
ラット・マシンを使用する場合の共通の注意事項としては、バーを胸の前でかまえた位置で、つり上げられたマシン・プレートが、上下運動中に下のプレートにぶつからないよう、5~10cmくらいの空間が保てる長さにワイヤーを調節しておくとよい。

《1》スタンディング・ミディアム・グリップ・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン(通称:スタンディング・トライセプス・プレスダウン、初級者)。[図1]

[図1]スタンディング・トライセプス・プレスダウン

[図1]スタンディング・トライセプス・プレスダウン

<かまえ>プレスダウン用のバーを腰幅ぐらいの間隔に握り、ハイ・プーリーの真下より20cmほど後方に立ち、バーを胸の前にかまえる。

<動作>肘を固定し、その肘を支点として、バーを上腕三頭筋でもって押し下げる。

<注意点>足の立つ位置をハイ・プーリーの真下よりやや後方に下げてかまえる理由は、真下ではどうしても体重を利用したり、他の筋肉(三角筋、広背筋)が運動に関与しがちになるので、それを防ぐためである。
この三頭筋の運動の場合は、肘の支点が重要なポイントとなるので、肘をしっかりと固定し、三頭筋への意識集中を高めるようにする。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《2》ニーリング・ミディアム・グリップ・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン(通称:ニーリング・トライセプス・プレスダウン、初級者)[図2]

[図2]ニーリング・トライセプス・プレスダウン

[図2]ニーリング・トライセプス・プレスダウン

<かまえ>プレスダウン用のバーを腰幅ぐらいの間隔に握り、ハイ・プーリーの真下より20cmほど後方に膝をついて、バーを胸の前でかまえる。

<動作>肘を固定し、その肘を支点として、上腕三頭筋でバーを押し下げる。

<注意点>前項のスタンディングの場合と直接動作は同じであるが、膝をつくことにより重心が下がるので、動作が安定し、正確な運動ができる。上級者になるにしたがい、上体を前に倒し三頭筋へのコンセントレーションを高めるようにする。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《3》スタンディング・アンダー・グリップ・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン(通称:スタンディング・アンダー・グリップ・プレスダウン、中級者[図3]

[図3]スタンディング・アンダーグリップ・プレスダウン

[図3]スタンディング・アンダーグリップ・プレスダウン

<かまえ>プレスダウン用バーをアンダー・グリップで握り、ハイ・プーリーの真下よりやや後方に立ち、バーを胸の前にかまえる。

<動作>肘を固定し、バーを上腕三頭筋で押し下げる。

<注意点>アンダー・グリップ(逆手)で持つということは、三頭筋以外の筋肉をこの運動になるべく関与させないためと、肘をしめ、三頭筋への意識集中を高めやすくする点にある。
ただ、アンダー・グリップは、ヘビー・ウェイトがやりにくいという欠点もある。そこで、トレーニング・フォームの矯正、トレーニングのマンネリ化防止、あるいは、オーバー・グリップのトレーニングからアンダー・グリップのトレーニング移行などに利用するとよい。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。

《4》ニーリング・アンダー・グリップ・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン(通称:ニーリング・アンダー・グリップ・プレスダウン、中級者)[図4]

[図4]ニーリング・アンダー・グリップ・プレスダウン

[図4]ニーリング・アンダー・グリップ・プレスダウン

<かまえ>プレスダウン用バーをアンダー・グリップで握り、ハイ・プーリーの真下よりやや後方に膝をつき、バーを胸の前にかまえる。

<動作>肘を固定し、バーを三頭筋で押し下げる。

<注意点>前項のスタンディングで行う場合と同じようにアンダー・グリップの利点を生かして行なうこと。また膝をつく利点も生かしていけば、おのずと三頭筋への意識集中も高まる。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。

《5》インクライン・フェイス・フォワード・ミディアム・グリップ・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン(通称:インクライン・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン、中級者)[図5]

[図5]インクライン・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン

[図5]インクライン・トライセプス・プレスダウン・オン・ラット・マシン

<かまえ>インクライン・ベンチに伏臥し、プレスダウン用バーを握り、顎の下にかまえる。(バーをアンダー・グリップにして行なう方法もある)

<動作>かまえの姿勢からバーを押し下げる。

<注意点>インクライン・ベンチを利用することにより、肘を固定しやすくなり、より正確な動作が要求される。ベンチを置く位置はハイ・プーリーの真下よりやや後方にする。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。

《6》スタンディング・リバース・グリップ・トライセプス・プッシュダウン・オン・ラット・マシン(通称:リバース・プッシュ・ダウン、中級者)[図6]

[図6]リバース・プッシュ・ダウン

[図6]リバース・プッシュ・ダウン

<かまえ>背面でプレスダウン用バーを握り、肘を開かないように注意しながら引き上げてかまえる。

<動作>引き上げられた肘を押し下げるように伸ばしながら、バーを押し下げる。

<注意点>踏台を利用したリバース・プッシュアップの運動をラット・マシンで採用するとこの運動になる。大胸筋腹部、小胸筋の補助を受けやすいので、とくに三頭筋への集中力を高めて行なうようにする。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋、補助筋......大胸筋腹部、小胸筋。

◎チェスト・ウェイト・マシン系の上腕三頭筋の運動

チェスト・ウェイト・マシンで上腕三頭筋の運動を行なう場合は、グリップ・ハンドルをプレスダウン用バーにつけかえると、ラット・マシンと同じ運動ができるようになる。
しかし、チェスト・ウェイトにはハイ・プーリーの位置が低いという欠点がある。低いということは、力を平行方向にいれる大胸筋運動や三角筋運動の場合には有利であるが、力を上下方向に使う上腕二頭筋、三頭筋などの運動の場合は不利になる。

その点をカバーするためには、上体を前に曲げたり、椅子に腰掛けたり、床に座ったりすることによって補うことができる。このスタート・フォームによって、ラット・マシンで行なうプレスダウン系の種目を同じように行なうことができるし、また、ロー・プーリーを利用すれば、バーベルによるフレンチ・プレス系運動と同じような効果をもつ運動も可能となる。
従って、チェスト・ウェイトのワイヤーの先端のハンドルは固定してしまわず、ワンタッチでプレスダウン用バーに取り換えられるようにした方がよい。
また、チェスト・ウェイトは、ハンドル・グリップのみで行なうツー・ハンド、ワン・ハンドの両方の運動もできるので、種目バリエーションが多く組める特色と、マシン・プレートが運動動作の2分の1となるので、初心者でもたいへん扱いやすい器具である。

《7》ライイング・フェイス・アウエイ・トライセプス・エクステンション・オン・ハイ・プーリー(通称:ライイング・フェイス・トライセプス・エクステンション、中級者)[図7]

[図7]ライイング・フェイス・トライセプス・エクステンション

[図7]ライイング・フェイス・トライセプス・エクステンション

<かまえ>プレスダウン用バーを握り、頭のうしろにかまえて、縦方向のフラット・ベンチの上に伏臥し、肘をベンチに固定させる。このとき膝はベンチの上でも下でもどちらでもよい。

<動作>肘をベンチに固定した状態から三頭筋でバーを引きおろす。

<注意点>上腕三頭筋の動きは、とかく肘を前に出したくなる傾向がある。そこで肘をベンチで固定することにより、上腕二頭筋の運動の時にカール・ベンチを利用するのと同様に、目的とする上腕三頭筋を正確に運動させることができる。
ベンチを縦方向に利用する方法は、うつ伏せしやすいが、フィニッシュで手がベンチに触れる欠点がある。なお、この運動はラット・マシンで行なってもよい。

<作用筋>主働筋............上腕三頭筋。

《8》ニーリング・フェイス・サポーテッド・トライセプス・エクステンション・オン・ハイ・プーリー(通称:ニーリング・フェイス・トライセプス・エクステンション中級者)[図8]

[図8]ニーリング・フェイス・トライセプス・エクステンション

[図8]ニーリング・フェイス・トライセプス・エクステンション

<かまえ>プレスダウン用のバーを握り、頭のうしろにかまえたら、膝をついて横方向のフラット・ベンチの上に顎をのせ、肘を固定する。

<動作>肘を固定した状態から、三頭筋でバーを引きおろす。

<注意点>前項と同様な運動特色をもっているが、胸と腹が安定しにくい点がある。しかしフィニッシュで手に触れるものがなく、運動がやりやすい。
肘が開きやすい人はグリップをアンダーにかえて行なってもよい。この運動もラット・マシンで行なってもよい。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《9》シーテッド・フェイス・アウエイ・ロー・プーリー・フレンチ・プレス(通称:シーテッド・フレンチ・プレス、初級者)[図9]

[図9]シーテッド・フレンチ・プレス

[図9]シーテッド・フレンチ・プレス

<かまえ>ベンチに腰掛け、プレスダウン用バーを握り、頭のうしろにかまえる。

<動作>バーベルのフレンチ・プレスと同様に、バーを頭上に押し上げる。

<注意点>抵抗が真下よりやや斜め後方の下からくるので体重を前にかけておく。
ロー・プーリーを利用した運動はいずれも斜め後方の下から抵抗がくることと、その抵抗がフィニッシュでも継続しているので、最後までしっかりと肘を伸ばすようにする。なお、アンダー・クリップで行なってもよい。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《10》ニーリング・フェイス・アウエイ・ロー・プーリー・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス(通称:ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス、中級者)[図10]

[図10]ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

[図10]ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

<かまえ>プレスダウン用バーをアンダー・グリップで握り、頭のうしろにかまえ、膝をついて体重をやや前にかける。

<動作>前項と同様にバーを頭上に押し挙げる。

<注意点>通常はオーバー・グリップでもって行なうが、ここではトレーニング・サンプルとしてアンダー・グリップの運動方法を採用してみた。
両者の違いは肘の開閉にあるので、自分の目的に合ったグリップの方法を選択するようにする。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。

《11》シーテッド・フェイス・アウエイ・オールタネット・フレンチ・プレス・オン・ロー・プーリー(通称:シーテッド・オールタネット・フレンチ・プレス、中級者)[図11]

[図11]シーテッド・オールタネット・フレンチ・プレス

[図11]シーテッド・オールタネット・フレンチ・プレス

<かまえ>ベンチに腰掛け、両手にハンドルを握り、頭のうしろにかまえる。

<動作>ダンベル・フレンチ・プレスと同じように、交互に肘を伸ばし、ハンドルを頭上に押し上げる。

<注意点>ダンベルによる交互押し挙げ動作と同様、左右交互にリズムよく押し挙げる。三頭筋へのコンセントレーションを高めるにはワン・ハンドの方がよい。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《12》スタンディング・フェイス・アウエイ・ツー・ハンド・フレンチ・プレス・オン・ロー・プーリー(通称:スタンディング・ツー・ハンド・フレンチ・プレス、中級者)[図12]

[図12]スタンディング・ツー・ハンド・フレンチ・プレス

[図12]スタンディング・ツー・ハンド・フレンチ・プレス

<かまえ>両手でハンドルを握り頭のうしろにかまえる。

<動作>両肘を伸ばしながらハンドルを押し挙げる。

<注意点>他のバーベルやダンベルによるツー・ハンドのフレンチ・プレス同様、押し挙げる方向は、頭のやや後方に押し挙げ、重心バランスをとるために胸、腹を前方に張り出すようにする。なお、この運動はアンダー・グリップで行なってもよい。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。

《13》スタンディング・オールタネット・ツー・ハンド・トライセプス・プレスダウン・オン・ハイ・プーリー(通称:スタンディング・オールタネット・プレスダウン、初級者)[図13]

[図13]スタンディング・オールタネット・プレスダウン

[図13]スタンディング・オールタネット・プレスダウン

<かまえ>両手にハンドルを握り、両手をそろえて胸の前にかまえる。

<動作>左右交互に肘を伸ばしながら、ハンドルを引きおろす。

<注意点>チェスト・ウェイトを利用した最も簡単なプレスダウンの方法である。初心者のうちから適当に導入し上腕三頭筋のトレーニングに馴れさせるとよい。
かまえの位置で一歩さがり、マシン・プレート同志がぶつからないように注意すること。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《14》ニーリング・フェイス・アウエイ・ワン・ハンドル・ツー・ハンド・フレンチ・プレス・オン・ロー・プーリー(通称:ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス、中級者)[図14]

[図14]ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

[図14]ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

<かまえ>両手で1個のハンドルを持ち、頭のうしろにかまえて、胸をつき出し背中を反らす。

<動作>肘を伸ばしながら、ハンドルを押し挙げる。

<注意点>1つのハンドルを両手で持つことにより、ツーハンドルの場合より意識集中も高められ、トレーニング効果を上げやすい。なお、チェスト・ウェイトのハンドルは小さい物より大きい方が握りやすい。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。

《15》スタンディング・フェイス・アウエイ・ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション・オン・ハイ・プーリー(通称:スタンディング・トライセプス・エクステンション、中級者)[図15]

[図15]スタンディング・トライセプス・エクステンション

[図15]スタンディング・トライセプス・エクステンション

<かまえ>片手でハンドルを握り、肘を前に出して曲げ、頭の耳横にかまえる。空いている方の手でハンドルを握った腕の上腕をおさえる。

<動作>ハンドルを握った腕を伸ばしつつ、ハンドルを前方に強く押し出す。

<注意点>通常の動作は足が平行であるのに対し、この場合に限り、プーリーからの抵抗が前後に加わるため、足を前後に開き、体重を前にかけておく。また、空いている方の手は、コンセントレーションを高めるため、しっかりとハンドル側の上腕を押さえておく。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。
月刊ボディビルディング1983年11月号

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