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食事と栄養の最新トピックス40 食生活赤信号<5>
とり肉、卵はだいじょうぶか

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月刊ボディビルディング1984年6月号
掲載日:2021.02.15
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1.とり肉を愛用するビルダーが多い

 毎月、好評連載されている「一流選手の食事法とトレーニング法」には、日本を代表するトップビルダーたちの努力があますところなく述べられており、参考にしている読者は数多いにちがいない。

 その中で、とり肉がビルダーたちの間で相当に多用されていることに気付いている人も多いだろう。

 たとえば59年3月号の広田選手は、大会前2ヵ月ぐらいの時は、1日に合計800gもの鶏肉をとっている。大会2週間前では合計850gにも達している。また、今月の岡本選手は、ふつう時に1日合計300g、減量時に合計500gも食べている。

 なぜ、鶏肉がこんなにモテるのか?ビルダーに愛用されている理由を挙げてみると、

①鶏肉、とくにささみは脂肪が少なく炭水化物もほとんどゼロ。カロリーが少なくて脂肪太りの心配がない。

②たんぱく質が100g中約20gも含まれ、プロティンスコアが86と高いので、筋肉をつくるのに良い。

③消化率は96~97%になっていて、プロティンなどと同等である。

④値段も牛肉や豚肉ほど高くなく、経済的である。
――等が考えられる。

 だが、鶏肉ばかりを主食のように食べ続けることに問題はないだろうか?

 今月は鶏肉に焦点を合わせて、よく検討してみよう。また、鶏肉と同時にビルダーに愛用されている卵についても、紙数のゆるすかぎり、検証することにしたい。

2.街にチキンがあふれている

 まず、NHKの「クイズ面白ゼミナール」にならって、みなさんに質問してみたい。

[第1問] 日本人国民一人当り、年間何羽のブロイラーを食べているか?(ヒントは1羽あたり体重が約2kg、肉は約1kgと計算すればよい)
a (年間6羽) b (年間30羽) c (年間100羽)

[第2問] 日本人国民一人当り、年間卵を何個くらい食べているか?
a (280個) b (1000個) c (2000個)

[第3問] 食用のブロイラーは、ヒナとして生れてから何日目くらいで出荷され、人間に食べられるのか?
a (60日) b (200日) c (365日)


――3つの答の中から正しいと思う答に○印を付けられただろうか?

 「見当がつかない」という読者が多いと思うが、正解はすべて、ⓐなのである。

 「意外に少ない」と感じる人は、日本人平均水準より相当に、鶏肉や卵を多く食べている人だ。とくにビルダーとなると、「1日平均100gはとり肉を食べるので、年間36.5kg、つまり30羽くらいは食べている」とか、「卵は1日平均3~4個、年間1000個くらいを食べている」という人が多い。つまり、平均的な日本人の5倍くらい、鶏肉や卵をとっている。

 こんなに多く食べても平気なのか?――鶏肉や卵が好きなのはビルダーだけではない。最近のヤングたちは、どの人たちも一般的に、とり肉や卵の摂取量を年々増やし続けている。昭和30年度の統計に比べると、なんと約4倍もふえており、しかも若い人ほど愛用者がふえている。その理由として、

①魚とちがっで、骨や内臓がなく、食べやすい。

②料理法がバライティに富んでいて、おいしく食べられる。

③何といっても安い。しかも栄養素がよく含まれている。

④ケンタッキー・フライド・チキンのような、専門店が急増している。

⑤焼き鳥屋の人気も根強く、ビールの季節には需要がいっそう高まる。

――等が考えられる。

 こんなに人気があり、街中、村中の人たちが食べている鶏肉や卵に、赤信号がついているなら、大変な問題だ。

3.チキンのここが危ない

 「こみにて出版会」(山田博士がリーダー)から発行されている「暮しの赤信号第19号」に基づいて、危険が指摘されている点を述べてみよう。

①ニワトリは昔から土の上を歩き廻り自由に卵を産み続けられるまで生存させられていた。ストレスもなく、のどかな風景が各地に見られた。卵を産めなくなったら、「カシワにしよう」と殺されていたのだ。

 ところが、日本ではブロイラーのほぼ100%が「ケイジ」と呼ばれる、暗い段になった室内に詰めこまれ、ベルトコンベアーに乗って運ばれるエサを食べることになる。

 都会には「カプセルホテル」という棺おけのような簡易ホテルが流行している。安いことは安いが、空間が狭くて、とても連続して何日も泊られる場所ではない。

 ブロイラーは一生涯、隣の鶏と肌がふれるほどの空間に押しこまれて、卵を産むだけの毎日をすごしている。日光に当るわけでもなく、好きな時に食べられるわけでもない。満員のラッシュアワーの生涯をおくるわけだ。したがって、ストレスをおこして内臓がやられているブロイラーが急増している。マレック病といわれるストレスで、1960年代には日本では50万羽も死んでしまった。

②白血病による悪性腫瘍にかかるニワトリがふえ(ヘルペスウイルスによると言われている)、これが女性にうつると子宮がんをおこすともいわれる。

③ブロイラーに与える配合飼料に、病気予防と称して、抗生物質などの薬物が添加されている。とくに、生育して60日目までは、薬品が多く与えられている。ちょうど人間の口に入るころまで、薬が与え続けられ、蓄積している心配がある。

④牛肉や豚肉は、屠殺場で検査があるのに、鶏肉は検査がない。アメリカでは「気のう炎のヒナは全部捨てられる」というのに、日本ではほとんどそのまま出荷されている。

⑤生産規模が大々的になり、大手商社の流通システムに支配され、少数の専門業者が大量飼育するようになり効率は上ったが、工場生産化され、肉質の水分がふえ、味も低下した。

4.卵のここが危ない

 同様のことは卵についても言える。当然上記のような方法で飼育されたニワトリが、自分の分身として卵を生むのだから、卵の中に医薬品成分が移行していたり、病源菌のウイルスを含んでいると考えても、決しておかしくない。「安全に対する検査体制がない」という点も共通である。

 ブロイラーの項で述べた以外に、問題点としては、

⑥卵を割ると、黄味が濃すぎるほど黄色く、鮮やかな場合が多い。自然に黄色くなったのならいいが、飼料中に「合成着色料」が混ぜられて、きれいな黄色になっている例がふえている。

⑦昔は有精卵といって、オスとメスが1対1で交尾して出来る卵が普通だったが、現在は「メスだけを飼育して、交尾なしに生ませる無精卵」が主流。滋養分がちがぅと言われている。

⑧白玉と赤玉では、赤のほうが高く売れるので、わざと着色を試みる業者さえ出ている。

⑨卵の中に、赤い血が混っていることが多いが、ブロイラーが強いストレスを受けているためと言われる。

⑩昔は卵のカラが固く、割れにくかったが、今の卵はカラが弱く、すぐに割れる。ビタミンの量は変らないか、以前より増えているが、自然につくられたものではなく、飼料中に合成的に加えられたにすぎない。

――こう述べると、卵を多食することに頭をかかえてしまう。以前「卵とコレステロール」が問題になったことがあった。卵に含まれているコレステロールが動脈硬化をおこし、成人病にかかることが心配されたわけだ。

 国立栄養研究所等で実験がおこなわれ、毎日10個ずつ食べつづけたが、結論としては「1日4~5個なら毎日食べても平気」ということになった。

 当時、トレーニングをしている人や運動選手などとの関連で、「コレステロールは体内で増減をコントロールする機能が備わっている。エネルギーを毎日使う人で、しかも10代、20代の人なら7~10個食べてもだいじょうぶ」と筆者も本誌に意見を述べたことがある。

 以来、ビルダーの中に、卵を1日に5~6個、なかには10個ずつ食べる人も結構多かった。それによる副作用や病気にかかったという例は聞いていない。

 だが、今回は卵そのものに含まれる栄養とか、コレステロールでなく、人為的に加えられた薬物や、ストレスの影響で生じた付加物が心配になっている。これらの問題には、いったいどう対処すれば良いのだろうか?

5.安全なとり肉と卵の食べ方

 とり肉や卵は筆者自身もよく食べる食品である。前回までの連載のように「牛肉も危ない」「豚肉もダメ」そして「とり肉や卵よ、お前もか!」となっては毎日食べる物が無くなってしまう。これでは人生つまらない。

 では、今後どのような方針で、とり肉や卵を選んでゆけばいいか?また「安全性」の問題について、どう考えてゆくか、筆者の意見を述べさせていただこう。

①一つの食品だけを集中して、長期間食べるのをやめる。「とり肉を毎日食べる」とか「ケンタッキーフライドチキンをいつも昼に利用する」「ビールにはあの店の焼き鳥」というように、決めてしまわないほうが良い。特に、ビルダーの減量時には、とり肉ならとり肉だけを集中的に食べる人がいるが、できるだけ偏らないように、あの食品、この食品と少量ずつ種類を増やして食べるのがよい。

②とり肉はとり肉の専門店、卵は卵を専門に売っている店で買う。不思議なことだが、看板のしっかりしている老舗では、オヤジが頑固に古い仕入先にこだわり、味のいい鶏肉、味のいい卵を常に並べている。こんな店は大切にしたい。田舎で、農家から直接、卵をわけてもらえる人は幸福である。

③卵をスーパーなどで買うなら、赤玉で、なるべく小さい卵を買うのが一番得である。表面がツルツルしている卵より、ザラザラしている卵が新鮮である。

④卵のカラが固く、黄身がハシでつかめるほど膜がシッカリしている卵が上等である。

 牛丼の店などで、ポンと割って出てくる卵は安物なので注意しよう。私がある店で経験した例では、卵の黄味がくずれて、変な臭いがしていた。ガマンして食べたら、2時間後にモーレツな下痢に見舞われ、熱まで出て、1日中苦しんだ。

⑤なるべく生で食べるより、ゆで卵にしたり、みそ汁に落したり、フライパンで目玉焼きにして、熱を加えてから食べよう。細菌類は熱に弱いので、中毒の心配が減る。また胃腸にとっても、消化性がよくなるので、利用度も高まる。

――最後に大切なことを述べたい。有害物に神経質になることは必要なことだが、それよりも人間の体には毒物をかなりの程度まで処理できるシステムが備わっている。

 まず、肝臓でたいがいの有毒物や薬品は分解される。そして、尿や汗と一緒に体外へ排出される。水銀のように毛髪から排除されるものもある。

 同じように食べても、体力のある人や抵抗力の強い人は、中毒にかかりにくい。ふだんからスポーツやトレーニングで体を鍛えている人は、体質そのものが強くなっている。

 よい空気を吸い、太陽の紫外線を浴び、適度に体を動かすトレーニングを行う。そして強度のストレスをさけて体を強くしておけば、危険な食品に対して、相当のところまで処理できるにちがいない。

不安な食品はできるだけ最小限にとどめるのは当然であるが、自分自身の抵抗力を強める努力を忘れずにしてゆこう。つまり、ボディビルなどのトレーニングはぜひいつまでも続けてゆきたいものだ。
月刊ボディビルディング1984年6月号

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