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食事と栄養の最新トピックス42 食生活赤信号<7>
豆乳はだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1984年8月号
掲載日:2021.03.10
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1. 豆乳のパイオニアは?

 今でこそ、「豆乳」という名称は多くの人々に知られ、売上高も昭和56年60億円、昭和57年130億円、昭和58年260億円と、倍々ゲームで急増している。製造メーカーも「とうふ・みその醸造業者」「牛乳メーカー」「水産会社」のほか、化学会社や化粧品メーカーまで参入して、大手が有利の様相を示している。

 だが、ボディビル界で「豆乳」の名前は昭和40年前半から有名だった。ラッピー栄養化学研究所の矢吹禎介さんこそ、本格的な豆乳「ラッピー」を日本国民に問うたパイオニアである。

 当時、同研究所の江本軍四郎さんがボディビルの実践者で、各トレーニングセンターを廻っては愛用者を一人、二人と増やしていった。アスレチック関の関二三男会長や遠藤光男さんを始め、販売や研究データづくりに協力したビルダーは多い。

 ところが、さんざん苦労をしたのにラッピーは「ハウス食品」に吸収されて、次第にボディビル界から遠ざかってしまった。相つぐ大手の進出に飲まれてしまったといえる。

 「良い物は形を変えても残り、語りつがれる」というが、10年後、20年後に豆乳ブームが訪れて、こんなに盛んになるとは矢吹さんも江本さんたちも想像すらできなかっただろう。

2. 豆乳人気の秘密

 豆乳の原料は、プロティンや納豆、みそ、しょうゆ、枝豆、もやし、とうふ、油揚げ……などと同一の「大豆」である。「畑の肉」といわれ、乾燥した丸大豆の粒には、100g当り約35%のタンパク質を含んでいる。

 また、約20%の脂肪が含まれているが、リノール酸などの不飽和脂肪酸が多く、コレステロール蓄積の心配が無いと言われている。さらにレシチンやビタミンE、サポニンも含まれていて健康づくりに適している。

 製造方法は比較的簡単で、家庭で作ろうと思えばできるほど。大豆を洗ってよく蒸煮し、すりつぶして、再び水を加えてよく煮たあと、しぼりとった汁が豆乳。この豆乳に「ニガリ」(塩化マグネシウム)を加えて凝固させたのが「とうふ」である。

 だから「豆乳を飲む」イコール「とうふを食べる」と考えてよい。後で述べるように、メーカーは各種の物質を添加しているが、基本的には「とうふ」である。

 では、なぜ、こんなに人気が高まっているか、これは牛乳との比較なしには考えられない。「牛乳をやめて豆乳を飲もう!」と豆乳業者は意図をもってキャンペーンに走り、消費者も信じさせられ、牛乳業者自体「このままでは牛乳消費量はジリ貧だ。豆乳を自社でも売らなくては」と、各牛乳メーカーとも牛乳と豆乳を併売する事態に至っている。
<牛乳と豆乳の比較表>(100g当り)

<牛乳と豆乳の比較表>(100g当り)

3. どちらが良いか?

 「牛乳と豆乳は別の飲み物だから比較することがおかしい」という評論家がいる。だが、メーカーも消費者も牛乳との対比で、豆乳をえらんでいる。やはり厳密に比べることは必要だ。

①どちらも大体似たような成分・用途である。

②くわしくみると、カルシウム、ビタミンB2の点では牛乳に軍配が上る。

③鉄とビタミンEの点では、牛乳より豆乳がすぐれている。

④たんぱく質の効果では、プロティンスコアが74と50なので、牛乳のほうが適している。

⑤この表にはのせていないが、不飽和脂肪酸は豆乳のほうが多い。脂肪をふやす飽和脂肪酸は牛乳のほうが多い。

⑥牛乳に含まれる乳糖のために下痢をする人がいるが、豆乳にはその心配がない。

――以上のように比較すると、次のような結論になる。

 「子供が成長期で、体を大きくしたい人は牛乳のほうが良い。中年になって脂肪太りやコレステロール、血圧を気にする人なら、牛乳より豆乳が良い」

 実際に豆乳を愛用する人は、中高年の人に多い。成人病予防の点で一理がある。

 だが、赤ちゃんや幼児にまで豆乳を飲ませるのは行き過ぎである。

 私の知っている母親は、生れた子供に「安全性の面で心配がある牛乳は与えない。豆乳なら健康いっぱいの子供になるだろう」と、豆乳ばかりを飲ませてきた。ところが比較表のように、骨や歯の原料になるカルシウムや、成長ビタミンのB2のが大幅に不足していたので子供は骨格が弱く、体の小さい病気がちの幼児になってしまった。

 「カルシウムがこんなに少ないことをなぜ私は教えられなかったのか」と、母親は後悔している。

 体を大きくするのは0歳から3歳まで、10歳~15歳までと、大きなチャンスは2回ある。このときにしっかり栄養を与えて、適切な運動をさせないと後で悔んでもはじまらない。

 激しいトレーニングをおこない、筋肉を発達させたい人なら、豆乳でなくて牛乳のほうが栄養的に適している。ただし前号で述べたように、コーヒー牛乳やフルーツ牛乳はダメで、なるベくなら「成分無調整牛乳」か、せいぜい「高濃度牛乳」(濃厚牛乳)にしていただきたい。

4. 豆乳にも3種類ある

 ところで、一見したところ同じに見える豆乳にも、大別して3種類ある。ちょうど牛乳やアイスクリームに意外なほど差があるのと同じである。

①大豆からしぼっただけの「無調整豆乳」……大豆固形分8%以上の製品。

②大豆特有の青臭さや渋みを除き、栄養成分を強化した「調整豆乳」……大豆固形分6%以上の製品。

③さらに果汁や野菜ジュース、コーヒーエキスなどを加えて、おいしさのバラエティーをふやした「豆乳飲料」……大豆固形分6%以下の製品。

――農林省のJAS規格で決められているが、実は日本で消費されている豆乳のうち、まともな①②の豆乳は全体の5%だけ。残り95%は③の「豆乳飲料」である。あなたが飲んでいる豆乳はどうだろうか?

 「区別がわからない」という消費者が大部分で、実は「果汁やコーヒーが混じった栄養分の薄い豆乳を飲まされている」のが実態である。パックをよく見ると、小さな活字で「豆乳飲料」とか「調整豆乳」とか書いてある。書いてはあるが、そこまで確められる人は僅少にすぎない。

 「フルーツの味がして飲みやすい」「おいしい」と飲んでいるが、原料名を見ると、最後に「香料」と書かれている。香りや味で、本物らしく見せて飲みやすくしているにすぎない。

 では、いかに「豆乳飲料」の栄養が少ないか、別表に示す。

 別表のように、たんぱく質は半分以下しかない。代りに甘い砂糖、もしくは液糖が10%も含まれて、口当りをよくしている。

 ちょうど「コーヒー牛乳」「フルーツ牛乳」が甘いだけで、栄養的にダメなのと同様に、豆乳飲料も合格とは言えないわけだ。牛乳の場合は90%以上が白い普通牛乳であるが、豆乳は逆に95%がごまかされた豆乳である。
<本物の豆乳と豆乳飲料の比較>

<本物の豆乳と豆乳飲料の比較>

 これを消費者団体が「おかしい」と指摘するのは当然である。過日の新聞報道によると、「豆乳――まがいものが多い。消費者団体が業界に申し入れもっと違いをわからせるように指導しろ」と訴えている。

 まったくその通りと思う。大半の消費者は「そんなちがいは知らない」といい、認識しないまま、単にムードで「体にいい」と信じて愛飲している。

 こんな「豆乳飲料」だったら、牛乳のほうがすぐれていることは誰でも気付くのに……。

5. 上手な豆乳の利用法

 プロティンスコアが低いことから、筆者は牛乳のほうをビルダーの皆さんにすすめている。牛乳が飲めない人や中高年の健康管理に限るなら、「豆乳飲料以外の豆乳」が良い。

 遠藤光男さんのジムに行くと、さすが「豆漿」といって、大豆からしぼっただけの「無調整豆乳」を会員の人たちに販売している。

 プロティンパウダーとの相性が良いので、このような豆乳を選んで使うなら、これはこれで良い。

 今後の課題としては、プロティンのように、不足しているアミノ酸やカルシウム等を加えて、効果のある豆乳が望ましい。こうなると、プロティンと競合したり、「液体状に缶詰にしたプロティンドリンク」の開発と競合することになる。消費者としては安くて、栄養が確実にとれる製品が、どんどん出現して、研究やサービスが充実すればこれほどうれしいことはない。

 はっきり言って、現在の豆乳はどれをとっても値段が高すぎる。原料は大豆なのだから、そして、つくり方も「とうふ」とほとんど同じであるから、それから考えても、今の半額くらいが妥当と思われる。

 「豆乳が牛乳より高いなんて信じられない」と外国人はいう。飼料代や飼育にコストがかかる牛乳より安くて当然である。(高くて利益が上るからこそ大メーカーが我も我もと進出するのだろうが、財布が痛むのは個々の消費者である)

 最後に、豆乳の場合も例外でなく、食品添加物が加えられたり、LL牛乳と同様の安易なパック詰めが街にあふれたり、また残留農薬や殺菌剤の心配があったり、およそ安心できない点が多い。少なくとも表示をみて、香料や保存料、酸化防止剤などの入った製品は避けよう。中には、これらの物質を使用しているにもかかわらず、表示をしなかったり、逆に「有機農法」などと、もっともらしく販売する悪徳業者が存在する。信用を確めて、良い製品を購入しよう。
月刊ボディビルディング1984年8月号

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