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減量法総点検<5>販売禁止の「やせ薬」とは?

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月刊ボディビルディング1982年12月号
掲載日:2019.04.22
健康体力研究所 野沢秀雄

1.モルモットはごめんだ

 去る10月6日付夕刊各紙を見た人は「豆エキス”やせ薬”禁止――アメリカでの廃棄命令判決」という4段抜きの記事を見てビックリしたにちがいない。日本でも類似品が発売されており、厚生省が回収させていると書かれている。そのうえ「二光通販のナサ、日本ゼネラルクレジットのプロティンFなどの十数社が同じような類似大豆たんぱく製品を発売しており、(危険性の点で)同じような問題をはらんでいる」と解説されているではないか!

 米国のシカゴ連邦地裁のプア判事は「いわゆる”やせ薬”によって金をもうけようとするメーカーに、米国民がモルモットのような実験台にされてはならない」とまで述べているという。

 事件の発端は、人気が出ているこの製品を利用した人の間で、腹痛・吐き気・意識混濁などの副作用が続出したためとされている。このため米国食品医薬品局(FDA)は7月に「安全性が確められるまで販売を中止するように」と命令を出した。ところがこれに対し、メーカーの14社が「これは薬品ではなく食品なので、安全性をチェックするための薬品テストの対象にならない」として、販売中止命令の取り消しを求める訴訟を起こしていた。

 10月6日の夕刊各紙は、裁判の結果メーカーが敗訴し、すでに生産されている製品の回収や廃棄を命じられたニュースを報道したわけだ。

 新聞報道以来、「ビルダーが愛用しているプロティンがだいじょうぶか」という質問が相ついでいる。今月はこの”やせ薬”を検討してみよう。

2.”豆エキス”の成分は何か?

 「やせる」と広告して販売されていた製品は、どんな成分で、なぜやせるのだろうか?

 実は今年の始めから「キドニービーンズ(いんげん豆)から抽出したエキスでやせる方法がアメリカで流行している。日本では通信販売のN社が大々的に発売する」という情報を得て、調査を始めていた。そして夏には会員の畠山晴行さん(彼の減量法を詳しく紹介する予定)より、「このやせる製品でトラブルが続出して、FDAが禁止を求めている」と教えられていた。さらにていねいに週刊誌「タイム」のバックナンバーを調べて、該当する記事をコピーしてくれた。これらから、この製品は次のような内容であることが明らかになった。

①問題の製品はスターチ・ブロッカーと称せられ、食べたでんぷんの消化を抑制し、体内でカロリーになるのを防ぐ作用がある。

②錠剤になっていて、1錠で150gのでんぷん質の消化をストップさせ、約600カロリーがカットできる。

③30錠で10ドル95セント(約3000円)、1びんで5キロやせた例があり、TV、雑誌でPRされ、約200社のメーカーで発売されていた。

④飲んだ人の間で、頭痛・吐き気・嘔吐・腹部のけいれん・下痢・ガスの発生・虫垂炎のような急激なショック痛などがおこった。

⑤メーカーは食品として販売しており薬品なみの安全性検査などはおこなっていない。

⑥なぜやせられるか、実証的なデータや理論的な裏づけが乏しい。

――これらの知識だけでは、なぜやせられるのかどうも分からない。でんぷん消化酵素の活動を阻害するためであることは確かで、その結果、消化されないでんぷんが腸管を通過するため、ひどい腹痛やガスの発生、下痢などを起すことが予測される。

 いんげん豆といえば夏の食卓を賑わせてくれる食品だ。かつを節としょうゆで、ゆでたいんげん豆を食べることはどの家庭でも一般的だ。そのいんげん豆に、でんぷんの消化を阻止する問題の物質がほんとうに含まれているのだろうか?

 研究所ではさらに詳しい調査をした結果、いんげん豆が成熟する過程でできる糖たんぱく質(酵素の一種とも、青酸化合物ともいわれる)であることが判明した。いんげん豆を煮て生ずる液体を煮つめて、ドロドロのエキスにする。この中に、問題の成分が含まれている。この物質がアミラーゼの活性を低下させるわけだ。

 こんな危険物は決して食品とはいえない。インゲン豆に含まれていても濃度はごくわずかで、普通に食べる量なら何ら問題はない。微量成分のみを抽出して、高濃度にして集めたとしたらもはや薬品以外の何ものでもない。

3.サポニンでやせる方法は?

 いんげん豆から抽出した問題のやせ薬は、日本では報道どおりN社から発売になり、7月30日夕刊に、通信販売の大きな広告がのっている。また女性週刊誌に他の会社が、同様の広告文を掲載している。

 ところで同じころ、同じように大きな広告で「毎日3粒でスリムなプロポーションに」とPRしていたサポニン製品との関係はどうだろうか?サポニン製品は今もなお大きく広告し、販売されているのだが……。

 サポニンとは植物に含まれる配糖体の1種で、ステロイド配糖体に属し、約20種類の型が存在する。サポニンは古来、洗濯剤として使われたり、袪痰薬といって、タンを除くのに使われる成分である。メーカーの説明によるとサポニンのサポは石けん(シャボン)の意味で、水や油に溶けやすく、いちじるしく泡を発して、身体の油やアカを洗い流してくれるという。

 このサポニンを大豆から抽出してカプセルにしたもので、1粒中に約800個分の大豆に相当する量が含まれている。毎日3粒ずつ飲むだけで、体内から脂肪を洗い流して、スリムな体にすると宣伝されている。天然の乳化剤(石けん)を飲むのだから安心できるということらしい。「今までの減量法とちがって、食事制限もいらない。苦しいトレーニングもしなくてよい」と結構ずくめの宣伝文である。

 サポニンの研究は大阪大学の某教授が発表し、その商品化の権利をある漢方薬メーカーに売り渡して、今年の始めから大々的に販売されている。

 サポニンの製法は大豆を煮るときにできるアワを集め、アクの強いドロドロした状態からさらに煮つめてエキスにし、これをカプセル状の球につめこんでいる。

 「問題になったいんげん豆のエキスとは原料がちがう。有効成分や作用の仕方も別なので、今のところは販売してかまわないと厚生省から言われた」と発売元の関係者は語っている。

 確かに生大豆には約0.5%のサポニンが含まれている。だがその成分は複雑である。同時にシアン化合物のような物質まで含まれないだろうか?含まれないとしても、サポニンそのものは危険はないのだろうか?

 乳化剤はいわば合成洗剤と同じ働きをする。合成洗剤を使いすぎたために川や湖に住む微生物が死滅し、その結果、水が腐敗して悪臭を放ち、ヘドロ状になってしまった。

 天然の乳化剤とはいえ、たとえば庶糖からとった「シュガーエステル」は次のような動物実験の結果が発表されている。

①シュガーエステルの成分を0、1、2、3、5、10、25%含有する飼料でラットを100日間飼育したところ2%および3%投与群では体重が減少した(考えようではやせるのにプラスと取る人もいよう)。5%投与群では数匹が下痢によって死亡。10%、25%投与群では、1週間以内に死亡し、白い軟便を排出した。

②0,3、1、3%の飼料で2年間飼育し成長度を観察したところ、体重の増え方が悪く、成長が遅れる傾向が見られた。


――これらのため、シュガーエステルは代謝障害や催奇形性(奇形児が生まれる心配)の疑いがあるとして、総理府が発表した食品添加物の中に入っているのだ。

4.薬品なのか、食品なのか?

 サポニンの安全性を示す実験として通常の大豆粉飼料に含まれる3倍以上の分離サポニンで、ラット、マウス、チキンを飼育した実験がある。それによると、サポニンが3倍くらいの量では、これらの実験動物に影響がなく、血液中にサポニンもその抗体も検出されなかったという。

 だが、1粒に大豆約800個、重量にして約300g、1日3粒食べるとしたら、1日に約1キロもの大量の大豆を食べることになる。こんな高濃度のサポニンを毎日毎日食べ続けて、果して平気なのだろうか?

 「大豆やいんげんは食品だから、加工品も食品であるだからくわしいデータなしで許可なく発売してもかまわない」と、メーカーも発売元も、厚生省まで発言している。

 常識からいって、特定の成分をとりだし、濃縮して売るのだから、もはや食品ではなく、薬品ではなかろうか?ふつうの食生活で、サポニンをこんなに多量に食べるケースはあり得ない。そこには慎重な実験データと安全性確認実験があってしかるべきではなかろうか?

 各社の広告文を見れば「飲めばやせられる製品だ」と誰でも判断する。食品には食べてやせるものは一つもなかろう。低カロリーの製品だって、カロリーが低いだけであり、何もやせるメカニズムをもっているわけではない。やせられるとしたら、薬品扱いが当然のことだろう。

 世の中に「やせる」「筋肉がつく」と効能をのせたり、効能を暗示させる製品があまりにも多い。

 あるプロティンの発売元は「短期間で筋肉がつくプロティン」「背がのびるプロティン」とマンガ誌やスポーツ誌に堂々と広告をのせて売りまくっている。こんな不法行為が許されていいはずがないのに、現実には長期間にわたり、誇大な宣伝や、連想させる宣伝が、大小さまざな会社からなされている。

 もし、本当に効能をキャッチフレーズに使いたいなら、ちゃんとした実験データをつけて、薬品の申請をおこない、薬剤師や医師、もしくは栄養士などにのみ発売させればいい。
 
それが不可能というのなら、食品らしい節度、ないし、栄養補給の範囲内にとどめて、良心的に販売するべきだろう。この点、厚生省や都庁など、行政側もケジメをしっかりつけていただきたい。

 消費する側の人たちも「苦労することが当たり前だった従来の減量法とちがって、何の苦労もいらない1日3粒の減量法に変えよう!」などという、業者の安易な広告にのらない良識を身につけてほしいと思う。

5.プロティンは果して安全か?

 さて最後になったが、ビルダーの人たちに最も関心の深い、プロティンパウダーやタブレットについて言及しておこう。

 以前に本誌上で「プロティンでやせられるはどこまで本当か」について発表したことがある。そこで述べたように、プロティンはやせる薬や、やせる食品では決してない。あくまでも減食時に不足しがちな栄養素(たんぱく質やビタミン・鉄など)を補給するサプリメントフーズである。体重が減るのは、カロリー制限をするのと、運動で脂肪を燃焼させることで、当然といえば当然の原理にすぎない。真理は常にシンプルである。そんなにうまい秘訣があるはずがない。あったとしたら危険と裏腹を覚悟しなければなるまい。

 (ステロイド剤も同じこと)

 プロティンは大豆の成分のうち、約34%を占めるタンパク質のみを、他の成分から分離して取出した粉末が主成分である。工程上、サポニンやシアン化合物などは除去されて、含まれていない。この粉末にビタミンやミネラル(鉄・カルシウム)、アミノ酸、消化酵素などをバランスよく配合して、製品化している。発売にあたっては、アメリカはもちろん、日本でも動物実験をおこない、安全性を確認したうえ使用試験を何回もすませている。すでにアメリカでは30年近く、日本でも10年近くなる製品である。これまでに使用した人は何万人、何十万人にのぼるだろう。

 「買った人がモルモットがわりに実験台にされている」というような非難は、少なくともプロティンにはあてはまらないだろう。

 だが、何ごとも100%安全とは断言できない。プロティンに対して厳しい目を向ける人たちもいる。「白米・白砂糖・小麦粉の三白を、加工精製させているからといって避けておきながら片方で高度加工技術から生れたプロティンパウダーを信ずるのはおかしい」「プロティンにする工程で、物理処理、化学処理され、その影響が不安である」「万一、工程で異物が混入したり毒物を入れられたら心配」……など代表的な意見である。「今のところは」とか「安全であるようにベストを尽くしつつあり、大きなトラブルは皆無」といった事実に基ずいて、「安心できる」といえるわけだ。これはプロティンだけではなく、他のどんな種類の販売品も同じであろう。

 プロティンの生産や販売競争は毎日激しくなっている。メーカーの中にはステロイドホルモンを混ぜたり(実際に健康茶にまぜて販売した会社があり有名なビルダーも被害にあったことがある)、あるいは食欲をおさえ、満腹感を与えるために、こんにゃくのマンナンを混入したり、思いもよらない処理を知らないうちにされることが無きにしもあらずだ。添加物に危険なものが配合されていないかどうか、よく注意しなければならない。使う前に商品を手にとって、どんな材料が使われているのかチェックしよう。

 残念なことに、現行の食品衛生法では、よほど問題がある添加物ではないかぎり、使用していても表示の義務はない。また、添加物ばかりでなくて天然物の中にも、危険のある成分は多い。表示されていなくても、安全性についてよく注意しよう。

 以上、今月は”やせ薬”といわれている製品、サポニン製品、プロティンとのちがい、薬品と食品のちがい、等について述べたわけだ。読まれた人が「ちがいがわかる人」になれたら、筆者の何よりの喜びである。
月刊ボディビルディング1982年12月号

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