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食事と栄養の最新トピックス59
中・上級者のための食事法〈5〉
筋肉維持とたんぱく質

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月刊ボディビルディング1986年2月号
掲載日:2021.10.25
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1.アメリカの一流選手の考え方

 本誌のバックナンバーの1980年6月号および1981年6月号・12月号を持っている人、あるいはコピーをとっている人は、「食事と栄養の最新トピックス①・⑫・⑯」をもう一度ご覧になっていただきたい。
 これらの号には「たんぱく質の適切なとり方」が載せられている。特に⑯には日本へのやってきたマイク・メンツァー(1976MRアメリカ・1978MRユニバース)が東京の渋谷区民会館でセミナーを行ったときの状況が示されている。
 この席上、メンツァーは「ビルダーが信じているほどには、たんぱく質は必要のない栄養素だ。わたくし自身、ふつうの人と同量くらいしかとってない。ビルダーたちはミスをしている」と強調したことを述べた。
 また、ハワイで開かれたクリス・ディカースン(1982MRオリンピア)も「ビルダーはたんぱく質を過剰にとりすぎている。自分は体重が100kgくらいだが、1日にたんぱく質は100g程しかとらない。それでも充分にこの筋肉は維持できるんだ」と多くのビルダーたちに説明していた。(既報)
 実際に著者は海外から一流選手たちが来日した際に、案内役とか接待役として食事の席を共にした経験が何回かある。たとえばバーテル・フォックスのときは京王プラザホテルのバイキングに案内したのだが、ゲストポージングが終了した後にもかかわらず食べる量は非常に少なかった。肉や魚も種類が多く「味はベリーグッド」とほめていたが、食べる量は日本人の一般客と同じか、少ないくらい。
 また、ステーブ・デイビスが京都に来た際、一夕をステーキ・ディナーでもてなした。この時にも意外なほど少食だった。「アメリカの一流選手は何枚もお代わりするのでないか?」とサイフが心配だったが遠慮しているのではなく、本当に大食いをしない。
 この点、日本のビルダーはどうなのか、心配な要素が多きい。

2.日体大の小林選手の実験

 以前にちょっと述べたことがあるが1981年12月号の「たんぱく質はどこまで有効で、どこからは無効か」の記事を読んで、「本当にそうなのか」を自分の体を使って実験し、卒業論文にまとめて発表した小林正人選手のことをここで紹介したい。
 卒論の内容をもっと早くお知らせしたかったが、今こそタイミングが適している。小林選手は愛知県小牧市の出身で、高校時代から、本格的にボディビルと取り組み、「もっと自分で研究したいから」と日体大を志願した。東京での生活は中のヘルスクラブでのトレーニングに集中し、学生オープンコンテスト、旧IFBB大会、統合後のミスター東京、ミスター愛知など、上位入賞を果たしている。現在は地元の中学校で体育教師をしながら、トレーニングを続けている好青年である。
 小林選手の卒論から食事法をメインに要点を述べてみよう。
「トレーニングを開始して以来、今日まで栄養面には注意していたが、一般的な知識により、たんぱく質をとればとるほど筋肉は大きく発達すると思い込んでいた。とにかくプロテインパウダーを多く使いすぎ、1ヵ月で2~3キロを消費していたことがあった。
 自分は他にもスポーツをしていたので何とか体が受けつけたが、ふつうの人だったら体に異常を起こさせたにちがいない」「トレーニング初期の人は1日トータルで2600~2800カロリーくらいが妥当な量と思われる。たんぱく質は自分の体の状態を見つつ、体重1kg当り1.9~2.5gくらいに調整するとよい。3g以上はオーバーである」
 「コンテスト出場ができる位の体に3~4年でなるとして、筋肉の発達と維持に、たんぱく質が体重1kg当り2.0gと2.2gの両方を各1ヵ月間つづけて体調をみた。その結果、2.2gだからよく維持できるということは全くなく、2.0gとっていれば充分に筋肉量の維持がはかれ、体調もよかった」およそ以上のような内容だ。
 ミスター愛知コンテストでは」このようなたんぱく質のとり方だったお陰かバルク、ディフィ二ッション、バスキュラリティ(血管の浮かび上がった状態)とも過去最高であったと聞いている。

3.維持には少量のたんぱくで可?

 小林選手のように自分の体を賭けて何が正しいか実験してくれたことに、筆者はたいへん感謝している。
 アメリカのビルダーは体重1kg当り1gで筋肉は維持できるという。そこまでレベルを下げる実験は残念ながら誰もしていない。厚生省が定めている普通人のたんぱく質必要量が1.14gである。体重に占める筋肉の比率が大きいボディビルダーも体重1kg当り1.14gでいいのだろうか?
 1981年から85年までの5年間、ミスター日本に出場した選手の体重の変化を別表にまとめてみた。
 別表からトップレベルに達した選手たちは毎年ほとんど体重の変化がないことがうかがえる。そして、脂肪を筋肉にどれだけ変えられているかが、毎年の努力の成果であり、進歩の足跡である。
《代表的な選手の体重変化(kg)》

《代表的な選手の体重変化(kg)》

 前々号で「発育に必要なたんぱく質量は体重1kg当り2g」、また、前号でも「筋肉発達時に必要なたんぱく質量は、体重1kg当り2g」と目安を示した。それでは「筋肉増量がそれほど大きくない場合、必要なたんぱく質量は体重1kg当り1gなのだろうか、それとも2gなのだろうか?」これが今月号のメインテーマだ。
 普通人が平均体重62kgで1日に約70gとすれば、体重80kgのビルダーは果して1日当り80~90gのたんぱく質でよいだろうか?
 前号で示した激しいトレーニングによる付加カロリー分を加えても(ボディビル等に2000カロリーを消費するとして)、最大127.5gとなり、体重1kg当り1.6gですむことになるのだが・・・?

4.たんぱく質の正常な代謝ルート

 この正解を得ようとすれば、栄養素としてのたんぱく質の本来の役割を考えなおせばよい。
 糖質の本来の役割は運動のエネルギー源として燃焼することである。車に例えればガソリンに当る。
 脂肪の本来の役割はエネルギー不足の事態に対処してストックすることである。車に例えれば予備タンクに蓄えられたガソリンである。糖質不足の際に燃焼してエネルギーを出す。
 ビタミンやミネラルの役割はいろいろあるが、体内の栄養素の化学変化をスムーズに動かすことである。車に例えれば潤活油とか、ガソリンに混入する補助剤や不凍液のようなものと考えられる。
 たんぱく質の本来の役割は全身の細胞をつくる材料である。筋肉や毛・ツメ・皮ふ・内臓・血管・骨など、たんぱく質が主成分である。車に例えれば車体やハンドル、シートなどの物質そのものである。
 たんぱく質の正常ルートを示すと別図のようになる。(図参照)
記事画像2
 たんぱく質はアミノ酸が数万~数十万個結合した物質である。従来は小腸ですべて個々のアミノ酸に分解してから毛細血管にとりこまれると教えられていたが、実際にはジペプチド、トリペプチドといった複雑のアミノ酸が結合した状態でも体内に吸収されることがわかってきている。
 とりこまれたアミノ酸は主として化学工場の肝臓で数十種、数百種の変化を受ける。20~22個といわれるアミノ酸のうち、必須アミノ酸以外はすべて他のアミノ酸や糖質から自分で必要に応じて生成する。
 アミノ酸は血液にのって全身へ運ばれる。筋肉では必要に応じ、血液中から必要なアミノ酸をピックアップして筋肉たんぱく質をつくりあげる。
 トレーニングをしてもしなくても常に一定量は一定のスピードで筋肉を新しく作り、一方で古い筋肉を破壊し、血管より肝臓・腎臓に送り、処理をしている。
 以上のプロセスの途中で、イオウ化合物や窒素化合物、リン化合物など人体に好ましくない物質を生じるが、正常な量ならば有害物質を処理するメカニズムが働くので心配ない。(とりすぎの危険は大きい)
 過不足なく、ちょうど適した量のたんぱく質をとったときに、本来の体成分をつくる役割をスムーズに行う。
 バランスがとれているかは、食品から摂取するN(チッ素)量と、尿・便・皮ふから排出されるN量を比べればよい。何回となく反復された実験結果から、科学的に、合理的に、体重1kg当り1.14gプラス付加エネルギーの10~15%のたんぱく質が適当と定められたわけである。
 たんぱく質が本来の役割を果すには条件として、エネルギー源になる糖質が常に充分あることである。もしそうでなく、たんぱく質が食事中の主要部分を占める場合は、たんぱく質自体が複雑なルートをたどって糖質に変化しエネルギー源として燃焼せざるを得ない。ムダであるだけでなく、有害物質を生じる危険性が高まる。
 車に例えれば、ガソリンが切れて、代りに他の高価でカスを生じるような物質を燃焼に用いるような事態といえる。ときには本体を燃やすこともおこりかねない。
 また、たんぱく質が突出して過剰で消費カロリーを上廻っている場合は、燃焼しても使いきれないため、たんぱく質→糖質→脂肪のルートをたどり、脂肪をとっているのと変わらなくなる。これもムダであるだけでなく、余分な有害物生成の危険が伴なう。
 以上のように糖質を適量とることを前提に考えれば、一流選手でも筋肉の維持に必要なたんぱく質量は体重1kg当り1.6gとっていれば充分である。体重当りの数字なので、体の大きい人は当然ふつうの人より多くなる。

5.私自身の体験を補足すれば

 ちょっと私ごとの話になるが、中3から高校時代にかけて、当時はバーベルやダンベルの器具の販売が今日ほど盛んでなかったため、もっぱら1日に朝と夕、各100回ずつのディップスを毎日のように実行した。そのお陰で大胸筋下部の筋肉だけは実にしっかりと大きくなり、現在に至るまで保たれている。トレーニングをさほどしなくてもまた大量にたんぱく質をとらなくてもこの部分の筋肉は維持されている。
 読者の方々にも同じ経験があるだろう。ラグビーやサッカーをしていた人は脚の筋肉は他の部分よりも発達がよく、しかも後まで残されている。剣道をしていた人は特に左肩や左腕がよく発達し、後まで残っているというように・・・・・。
 10代でトレーニングを開始した人は多かれ少なかれ、つくった筋肉はいつまでも維持されやすい。つまり筋肉細胞の数自体が増加しているためと考えられる。それだけ得である。
 逆に成人後に相当がんばって造りあげた筋肉は週に1回は必ずトレーニングしないとサイズが小さくなり、パワーも落ちてしまう。30代後半・40代・・・・・となるにつれ、細胞数は徐々に少なくなる。
 週に2回以上トレーニングできれば理想的だ。合わせて体重1kg当り1.6gを切らないようにたんぱく質を配分し、同時にごはん・パン・果物などの糖質が不足しないように配慮したい。
 最後にもう一つ見逃せない要素がある。日光浴による肌の新陳代謝についてである。強い紫外線の作用で表皮細胞が破壊されやすい。男性ホルモンの多い人はメラニン色素がカバーするので損傷は少なくてすむ。とはいえ一定量の細胞がアカとなって体外へ失なわれてゆく。
 日光浴を何回もおこない、肌からアカがよく出る場合は、このロスを補うためにたんぱく質を多く要求することになる。この点を加味すれば体重1kg当り2gずつをとっておいても結構ではないかと思われる。
 日光浴に関して、東北や北海道にビルダーから「あの選手は肌が白いからダメだ」と評されやすいが、日照時間が短く、気温が低い土地なので、一律に要求されるのは酷だ、という声を聞いている。
 確かに地域差と個人差が大きい。肌の黒さを重んじるのでなく、あくまでも本来の筋肉の発達度を重んじて評価するべきであろう。これはコンテストの審査をされる先生方に特によくお願いしたいことである。余談になったがこれは東京ボディビル協会の会合でも全国からの意見として述べさせていただいたわけである。

〈今月のまとめ〉
①ボディビルで筋肉がほぼ完成し、筋肉自体をほぼ同レベルに保つ場合、たんぱく質として体重1kg当り1.6gプラス、日光浴を盛んにする場合のロス等をみて、2g程度を目標にとっておくのが妥当と考えられる。
②「1985年度ミスター日本特集」に小沼選手の体験談がのっている。この中に「以前はたんぱく質がほとんどを占めるような食事法で、体調としてよくなかったが、典子さんのアドバイスでごはんを毎食とるようにしてバランスを考えた結果、ひじょうに楽に、ベストの状態が得られた」と述べられている。まさにその通りで、エネルギー源は炭水化物や脂肪にあおぐことが正しい。
③よく「たんぱく質は糖質の炎の中で役を果す」と言われるが、たんぱく質本来の役をさせる(筋肉をつくる)には、ごはんなどの糖質を全体の50%程度とっておくと最も効率がよい。
④10代の発育期につくった筋肉は比較的維持されやすいが、20代以降ではトレーニングの努力を続けないとサイズが小さくなったり、脂肪に変わりやすい。
---次回はいよいよアミノ酸について述べる予定です。質問のある方は本誌編集部または直接筆者までお寄せください。
月刊ボディビルディング1986年2月号

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