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新ボディビル講座 ボディビルディングの理論と実際<19>
第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1982年9月号
掲載日:2018.11.09
名城大学助教授 鈴木正之

◎インクライン系の肩の運動

 インクライン(incline)とは、傾くとか、傾斜している状態の意味であるが、これと似たような言葉にデクライン(decline)がある。日本語で〝傾く〟といった場合その傾き方が理解できないが、普通、直立した状態から傾いた姿勢をインクライン、水平の状態から傾いた姿勢をデクライン、というように分けて理解したらよい。つまり、同じ傾いた姿勢でも、水平位より頭の位置が高い状態がインクライン、頭の位置が低い状態がデクラインということになる。デクラインについては、腹筋運動の時に詳しく述べるので、ここではインクライン系の肩の運動の特色について述べる。
 インクラインで運動する場合は、姿勢を保持するためのインクライン・ベンチが必要である。このインクライン・ベンチを用いることによって、通常ではかまえることのできない姿勢がとれるため、起立姿勢や仰臥姿勢では受けることのできない刺激を受けることができる。
 前頃までのレイズ系の肩の運動の場合は、最大筋収縮時に最低負荷を受ける状態になったり、またその逆の最高負荷を受ける状態になったりして、両者の中間位がなかった。そこで、筋収縮中間位において最大負荷を受けようとするならば、インクラインの状態で行なえばよいということになる。
 その他、インクライン・ベンチのためにチーティング・スタイルがとり難く、運動の正確性が要求される点も特色の1つである。

≪1≫インクライン・ハーフウェイ・ワイド・グリップ・バーベル・フロント・レイズ
(通称:インクライン・フロント・レイズ、上級者)[図1]

[図1]インクライン・フロント・レイズ

[図1]インクライン・フロント・レイズ

<かまえ>
バーベルをワイド・グリップに持ち、インクライン・ベンチに背を当てて仰臥し、手に持ったバーベルを大腿部の前に少し浮かしてかまえる。バーの握り幅をミディアムまたはナロウに変化させると、ミディアム・グリップ・フロント・レイズ、ナロウ・グリップ・フロント・レイズとなる。

<動作>
他のフロント・レイズ同様、肩の水平位までゆっくりと上げて下ろす。これが顔の前まで上げて下ろすとインクラインでのフル・レイズとなる。

<注意点>
他のレイズ系の運動と同様に、動作はゆっくりと行なうようにする。最大刺激を受ける位置は、上の方よりも下方45度の位置であるので、そこを大切に意識集中してトレーニングする。

<作用筋>
主働筋……三角筋(前部)。

≪2≫インクライン・フェイス・フォワード・フロント・バーベル・レイズ
(通称:インクライン・フォワード・フロント・レイズ)[図2]

[図2]インクライン・フォワード・フロント・レイズ

[図2]インクライン・フォワード・フロント・レイズ

<かまえ>
インクライン・ベンチに胸を当てて伏臥し、補助者よりバーベルを受けて、インクライン・ベンチの下にぶら下げてかまえる。

<動作>
前項と同様に肩水平までバーベルをゆっくりと上げ下げする。

<注意点>
動作の注意点は他のレイズ系の運動と同じであるが、最大刺激を受ける位置が、上の45度の位置であるから、前項の下45度の位置で最大刺激を受けるインクライン・フロント・レイズと合わせて組めば、上下45度方向の位置で最大刺激を受けることになる。

<作用筋>
主働筋……三角筋(中心部)

≪3≫インクライン・ハーフウェイ・フロント・ダンベル・レイズ
(通称:インクライン・ダンベル・レイズ)[図3]

[図3]インクライン・ダンベル・レイズ

[図3]インクライン・ダンベル・レイズ

<かまえ>
両手にダンベルを持ってインクライン・ベンチに背を当て、両手を体側にかまえる。

<動作>
他のフロント・レイズの運動と同様に、肩水平まで、ゆっくりと上げて下ろす。これを顔の位置まで上げればフル・レイズとなる。

<注意点>
他のインクラインによるレイズ系運動と同様、下方45度の位置に注意して行なう。

<作用筋>
主働筋……三角筋(前部)。

≪4≫インクライン・ハーフウェイ・サイド・レイズ
(通称:インクライン・サイド・レイズ)[図4]

[図4]インクライン・サイド・レイズ

[図4]インクライン・サイド・レイズ

<かまえ>
両手にダンベルを持ち、インクライン・ベンチに背を当て、両手を体側にかまえる。

<動作>
他のサイド・レイズと同様、体側にそって肩水平までゆっくりと上げて下ろす。

<注意点>
インクラインにおけるサイド・レイズでは、フロント・レイズのように45度方向の明確な最大負荷を受ける位置はない。作用筋が中心部よりもやや前部に移行する程度である。その他、バーベルでは行なうことのできない刺激を与えることができるのが特色である。

<作用筋>主働筋……三角筋(中心部)僧帽筋。

≪5≫インクライン・オールタネット・フロント・ダンベル・レイズ
(通称:インクライン・オールタネット・ダンベル・レイズ)[図5]

[図5]インクライン・オールタネット・ダンベル・レイズ

[図5]インクライン・オールタネット・ダンベル・レイズ

<かまえ>
両手にダンベルを持ち、インクライン・ベンチに背を当て、両手を体側にかまえる。

<動作>
両手に持ったダンベルを左右交互に肩水平まで上げて下ろす。左右の上下運動のダイミングは、右を上げながら左を下ろすというようにする。顔の上まで上げきってしまえばオールタネットのフル・レイズとなる。

<注意点>
インクラインによるレイズ系運動の場合は、当然、ベンチにぴったり背をつけているため、動作は反動や加速をつけることのできないストリクト・スタイルであるが、より強い刺激を得ようとするならば、途中からベンチをおりてチーティング・スタイルに移行してもよい。
<作用筋>
主働筋……三角筋(前部)。

≪6≫インクライン・サイド・ラテラル・レイズ
(通称:インクライン・サイド・レイズ)[図6]

[図6]インクライン・サイド・レイズ

[図6]インクライン・サイド・レイズ

<かまえ>
片手にダンベルを持ち、インクライン・ベンチに横になって、ダンベルは腰の横にかまえる。

<動作>
腰の横にかまえたダンベルを体側に添って肩水平よりやや高い位置まで上げる。

<注意点>
反復動作中は、ダンベルが腰にふれないように、ゆっくりと行なう。インクラインにおけるサイド系の種目が少ない中で、この運動は下45度方向で、三角筋中心部に対して最大負荷を与えるのによい種目である。そのため、動作中、下方45度方向に意識集中して行なうこと。

<作用筋>
主働筋……三角筋(中心部)僧帽筋。

≪7≫インクライン・フェイス・フォワード・フロント・ダンベル・レイズ
(通称:インクライン・フォワード・ダンベル・レイズ)[図7]

[図7]インクライン・フォワード・ダンベル・レイズ

[図7]インクライン・フォワード・ダンベル・レイズ

<かまえ>
両手にダンベルを持ってインクライン・ベンチに胸を当てて伏臥し、両側にダンベルをぶら下げてかまえる。

<動作>
両側のダンベルを肩水平よりやや高い位置までゆっくりと上げ下げする。この姿勢の場合は、バーベル・レイズと同じく最大刺激を受ける位置が上方向の45度であるため、この方向に意識を集中して行なうこと。

<作用筋>
主働筋……三角筋(前部)。

≪8≫インクライン・フェイス・フォワード・オールタネット・フロント・レイズ
(通称:インクライン・フォワード・オールタネット・レイズ)[図8]

[図8]インクライン・フォワード・オールタネット・レイズ

[図8]インクライン・フォワード・オールタネット・レイズ

<かまえ>
両手にダンベルを持って、インクライン・ベンチに胸を当て、両側にダンベルをぶら下げてかまえる。

<動作>
片手ずつ交互に肩水平よりやや高い位置まで、ゆっくり上げ下げする。

<注意点>
ダンベルを上げ下げするタイミングは、他のオールタネット・フロント・レイズと同様であるが、上方向45度の位置に意識集中して行なうこと。

<作用筋>
主働筋……三角筋(前部)。
月刊ボディビルディング1982年9月号

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