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減量法総点検〈2〉ジョギングについて

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月刊ボディビルディング1982年9月号
掲載日:2018.11.10
健康体力研究所 野沢秀雄

1. 問題の多い減量法

 前号につづき、まちがいだらけの減量法を指摘してゆこう。お役に立てば何よりである。

 前号でサウナ法について述べたが、ちょうど神戸で若い女性がやせたいあまり、サウナに長時間入りつづけ、脱水症状をおこして死亡してしまった、というニュースが報道されている。

 彼女はサウナと冷水浴を交互に繰返していたが、心臓がドキドキし始めたのに気付かなかったか、気付いても、「これは効果があがるための過程だ」と歯をくいしばって、サウナの部屋から出なかったにちがいない。

 あまり長時間出てこないので、係の人が扉をあけてみると、サウナ室の中でカサカサに乾いた女性の死体を発見した、と言われている。むごい話だ。

 サウナに入って除かれるのは水分であり、これは一時的な減量にすぎない。本当の減量は、「脂肪」がとれないと、成功したとはいえない。

 ボディビルにしろ、他の体重制スポーツ(ボクシング、レスリング、重量挙、柔道など)にしろ、減量がたいへんなのは、単にガマンして食べないでいればいいだけでなく、減量しつつ、トレーニングを一生懸命におこない、しかもそのハンディのもとで力いっぱい戦わなければならないことだ。

 一般健康管理や、美容の点だけなら体力が少しくらい低下しても、ジッとしているだけなので、比較的スムーズにゆくことが多い。スポーツ選手は、ボディビルダーを含めて、当日、体力の限界いっぱい、パワーを発揮しなければならない。「栄光のカゲに涙あり」と高くスポーツマンが評価されるのは当然であろう。

 体重制スポーツの選手が逃れることのできない「減量」とどう戦うか、一流選手の作戦の見せどころでもある。

2. 大流行のジョギング

 どの地方にいっても、早朝ランニングしている人の姿をよく見かける。朝だけでなく、昼も夕方も、研究所の近くの神宮の森や青山附近を走る人は絶え間がない。アメリカではカーター大統領が来日した時でさえ、大使館の庭を走りつづけたことでわかるように、ジョギングが生活に定着している。

 筆者も大阪の研究所に出張する3日間は、欠かさずに淀川の提防づたいに西中島から十三まで、往復約5キロを走ることにしている。

 ジョギングの効用を挙げると、

①エネルギーを消耗する率が大きい

 各種スポーツの強度の指標となるRMR(エネルギー代謝率・後述)は長距離6.7、マラソン15.6。1分間に体重1kg当り使われるカロリーは長距離走0.138、マラソン0.296である。机上で仕事をしているときRMRが0、6、1分間体重1kg当りカロリー消費量が0.030であることと比較すると、4倍以上のカロリーを使い尽くすることになる。これが「ジョギングをするとやせる」といわれる理由である。

②毛細血管の発達を促す

 下半身の筋肉に必要な酸素を十分に供給するため、毛細血管が発達し1本1本の筋せんいに対する毛細血管の割合が増加する。

 毛細血管が発達すると、皮ふの耐寒反射を高め、風邪の予防に役立ったり、肩こり・立ちくらみ等をなくすことができる。

③下半身の筋力を強める

 運動不足で退化しがちな脚の筋肉を強化し、パワーを強くする。

④心臓を強くする

 ランニングを継続している人は、1回に血液を全身へ送りこむ量がふえ、心臓壁がじょうぶになる。そのため平常時の心拍数が50〜60で、一般の人が70〜80なのと比べて、心臓が強くなっている。心臓自体が大きくなるほか、心臓を取りまく冠状動脈を太くし、血流量を著しく増加させる。その結果、狭心症や心筋梗塞を予防する効果が期待される。

⑤高血圧の予防

「最高血圧184、最低血圧90という55才の人が、軽いジョギングを続けているうちに、血圧が20ぐらい低下して、健康になれた」といった例がよく報告されている。走ることにより、血管が太く拡張され、血液が流れやすくなったと解説されている。血液性状そのものも、中性脂肪やコレステロールが消費されて、血管壁につきにくくなる効果も大きい。

⑥ストレスを解消する

 走っているときの爽快感は、日常生じる神経疲労をとるのに効果が大きい。「気分転換に汗を流すのにピッタリ」というファンが多い。

⑦やせすぎ・太りすぎの防止

 カロリーを消費し、新陳代謝が高まるので、食欲は増進し、少しくらい食べすぎても脂肪太りにならない。その結果、適切な体重が得られる。

−−以上をまとめると、ランニングは酸素消費量が大きく、心拍数が高くなり、エアロビクス・トレーニングとして最適という結論になる。
[表1]男子にみられる各種スポーツ時の心拍数棒グラフのほぼ中央にある印は平均値である。

[表1]男子にみられる各種スポーツ時の心拍数棒グラフのほぼ中央にある印は平均値である。

3. ジョギングVSボディビル

 確かにジョギングの効用はそれなりに大きい。運動量としても比較的大きいので、全身的に脂肪をとるのに効果があることは否定しない。

「体重80kgの人が、1週間に2〜3回の割で、約20週間、毎回30分ほど持久走を続けたところ、3kgの体重減がみられた」「別冊壮快」東京教育大学小川新吉教授ら)といった実験報告も数多い。

 だが、ジョギング支持派の人たちは「ジョギングや水泳・テニスなどは良いが、ウェイト・トレーニングは筋肉を部分的に鍛えるだけで効果がない」とまっこうから否定しがちだ。最近もある大手アスレチック・クラブを経営する人に出逢ったところ「ボディビルは無酸素運動なので、健康づくりによくない」と、非難ばかりで閉口したことがある。

 アメリカのK・クーパー氏が「エアロビクス」(有酸素運動)を提唱し、種目ごとに点数をつけて、「1日30点以上になるトレーニングが好ましい」と発表したのは1970年のことである。クーパー氏の評点ではランニングや水泳が最上位に位置し、彼の提唱により、アメリカはじめ世界各国で、ジョギングが大ブームになったわけだ。

 残念ながらクーパー氏は、ウェイトトレーニングに対して偏見ともいうべき意見を持っており、「筋肉が太くなっても、筋肉に送りこむ血管づくりが行われない。このような筋肉は血管から酸素を受けとり、老廃物を捨て去るのが困難で、疲労しやすくなる」(べースポールマガジン社「エアロビクス」より)とさえ主張している。

 日本でも「ジョギング健康法」とか「心臓とスポーツ」といった本が出版されているが、バーベルやダンベルを用いたトレーニング法について、正しく理解されていないことが多い。

 たとえば上のグラフは、各種スポーツと心拍数をわかりやすく示したものである。(山地啓司著「心臓とスポーツ」共立出版)

 著者によると、心拍数が120以上なら全身持久性のトレーニングとして有効で、120以下なら、持久性トレーニングとして効果がないと述べられている。時間としては心拍数が120〜130なら1日40分くらい、心拍数が150〜160なら1日に5〜10分程度を行うのが、酸素摂取量からみて有効であるとされている。

 ジョギングを実行するとわかるが、自分の体調により、速く走ったり、ゆっくり歩いてみたり、自由に自己コントロールでき、これがジョギングの楽しさと優れた点の一つであろう。心拍数も走り方に応じて、130〜180と変化することを私自身確めている。

 ではウェイト・トレーニングはどうか。心拍数が上らない方法かというと決してそうでない。以前に本誌に発表したことがあるように、息がハーハーはずみ、心拍数はジョギングと同様に130〜180まで上昇しているのだ。

「ウェイト・トレーニングが無酸素運動に該当する」と分類したのは誰だろうか? 体育学の先生方が教科書で講義し、生徒は鵜のみにする。ボディビルのジムを経営している会長や、協会役員の中にでさえ、それを信じている人がいるのは驚くばかりだ。

 ジムで練習している人たちをみればみんなハーハーと息を激しくはずませていることがわかる。手首の脈をとって、10秒間測定してみるだけでよい。6倍すれば、1分間の脈拍数が判明する。

 トレーニングの開始時や、各種目の1セット目は比較的心拍数は少ないが、反復してトレーニングしていると脈拍数が140〜150にすぐ上昇してくる。とくにセット間の休憩時間をなるべく短かくしたり、ベンチプレス、スクワット、バーローイング、シットアップなど、筋肉のボリュウムが大きい部分を鍛えているときは、150〜160まで上昇するケースが多い。

 またポージングを2〜3分、力いっぱい演じたあとも、心拍数は140〜150に達している。

「ボディビルで心肺機能がきたえられない」などという迷信は1日も早く捨て去ったほうがよい。

4. 減量効果はどちらが良いか?

 次表は、各種スポーツのエネルギー代謝を比較したものである。(体協スポーツ科学委員会による)

 RMRとは、その運動のみに消費されるエネルギーが、基礎代謝(早朝空腹時、排便排尿後、快的な温度条件(約20°C)で、畳に横たわっている時に消費されるエネルギー)の何倍に相当するかを示す指数で(算出公式は下)、運動のエネルギー消費強度を比較するときに便利なものである。

RMR=(運動時代謝量−安静時代謝量)÷基礎代謝量

運動時代謝量−安静時代謝量

運動時代謝量−安静時代謝量

 ここにいう「安静時代謝量」とは、食物を摂らない基礎体謝の状態から起きあがって、静かに椅子に座っているとき消費されるエネルギーである。

 ところで、RMRだけでは、カロリー消費量がどの位になるか、わかりにくいので、換算式を用いて、1分当りおよび体重1kg当りのカロリーを中欄に示すことにする。もし、体重60kgの人が、一時間ぶっ通しで、表のトレーニングを続けるなら、60×60=3600を掛ければ、1時間のカロリー消費量が出る。参考までに右欄にこれを示す。
〈表2〉各種スポーツのエネルギー代謝率と、エネルギー消費量

〈表2〉各種スポーツのエネルギー代謝率と、エネルギー消費量

 運動時代謝量を算出するにあたっては、被験者に酸素の入ったボンベをつけて、その運動をおこなったときに、酸素をどの位消費したかによって、数値を求めている。

 したがって、RMRや1分当りエネルギー消費量は、エアロビクスでいうところの酸素消費量と、密接に関係していることはいうまでもない。

 表の最後に、ボディビルのトレーニングを示しているが、ランニングや水泳・テニス等と比較して、酸素消費量が少なくはないことを明瞭に示している。

 練習種目・使用重量・休憩のとり方・反復回数・練習時間、習熟度などにより個人差があるので、コンテストに出場するようなビルダーは、はるかに前記の数字を上回っているわけだ。

 ジョギング支持派の人たちは、①全身運動である ②心肺機能をきたえる ③持久力を養成する ④エネルギー消費量が多い ⑤新陳代謝を盛んにする ⑥脂肪をとってやせられる、等の点で、ウェイト・トレーニングに優ると信じてきた。だが、実際には、心拍数といい、RMRやエネルギー消費量の数字といい、比較してみると、ボディビルのほうが、ランニングよりいずれも好ましい数字になっていることが判明した。

 それよりも、ランニングやジョギングのほうこそ、下半身の筋肉のみに偏った「部分的なトレーニング」なのである。

 そもそもジョギングをおこなうと、なぜ心肺機能が高まるかを考察するに、人体にある筋肉のうち、脚・胸・背・腹など大きな容積を占める筋肉を動かすと、動員される酸素量が増し、その要求量に応えようと、ハーハー息がはずむのである。つまり、走ることは脚部の大きな筋肉を動かすことであり、それにより心肺機能が高まってくるわけだ。

 ウェイト・トレーニングは脚だけでなく、全身の筋肉を順に、まんベンなく鍛えてゆく。大きな筋肉を鍛える種目(スクワットやベンチプレス)では当然、息がはずんで脈拍も速くなり、心肺機能も高まってくる。

 余分な脂肪を除く点においても、単に脚だけでなく、胸・腹・肩・腕と、全身にわたり、蓄積した脂肪を除去できる。最近、ジョギングやヨガ、ジャズダンスなどにあきたらず、ボディビルを目指す女性が急増している。体験した人たちは「この方法でないと満足できない」と異句同音に語っている。「ボディビルほ単に筋肉を発達させるだけでなく、全身持久力を高め、余分な脂防を除去する、科学的・合理的なトレーニングだ」とはっきりいえる。

5. 失敗しないジョギング法

「ウェイト・トレーニングでは毛細血管が発達しない」という意見が正しくないことは本誌の読者ならすでによくご存知であろう。ディフィニションのすぐれた一流選手は、筋肉の表面に網のように毛細血管が走っている。写真をみて「気味が悪い!」という人がいるくらいである。ジョギングは脚の筋肉の毛細血管が主体なのに対して、ボディビルでは部分別に各筋肉の毛細血管を発達させる。クーパー氏は筋肉と脂防を同一視しているのではなかろうか? 脂防なら、いくらバルクがあっても、収縮や伸展などの運動をおこなわないので、毛細血管がゆきわたらず高血圧はじめ成人病の原因になる。

 ボディビルによる減量法についてはいずれ回を改めて詳細に述べることにして、最後にジョギングを活用してスムーズに減量するためのポイントを挙げておこう。

 新聞の報道によると、「やせすぎを気にして、ジョギングを実行しはじめたのはいいが、ある日バッタリと倒れて心臓マヒで死んでしまった」という例がある。武田製薬の副社長が49才でランニング中に死亡したニュースを記憶している人も多いにちがいない。

 こんな誤ちをしないよう、ジョギングに際しての注意を箇条書きにしてみよう。

①空腹時には走りすぎないこと

 5kmくらいならいいが、10km以上になると、肝臓にも負担がかかる。朝食前に走る人は、前日たっぷり食べるか、走る前に糖を少しだけなめて走るくらいの心がけが安全だ。

②準備体操を充分に

 急に、猛スピードで走りはじめてはいけない。体をならす体操をして、始めはゆっくり、次第にスピードをあげてゆくとよい。

③疲労を感じたら休む

 仲間を意識しすぎないで、疲れたとか、調子がおかしいと感じたら、早目に休むこと。走れなければ歩いても構わない。

④炎天下では走らない

 汗が失なわれて、日射病で死ぬ人がいる。体の負担になるので、なるべく涼しい時間に走ろう。

⑤秋から冬の寒いときの薄着は禁物

 汗をかいたあと、体が急に冷えてくる。肉ばなれや腱の断裂をおこしやすいのもこの季節だ。長そでのトレーナーを着こんで走るのが賢明である。

⑥馴れるにつれて、距離をのばす

 走ることに馴れたら、地面を後に蹴る強さを強くして、速く走るよう心がける。また走る距離を少しずつ伸ばしてゆこう。脈拍をときどき測定して、若い人なら200、中高年なら160〜180を最高の目安に置いて、がんばってみよう。

⑦5キロのプレートを持って走ろう

 ミスター神奈川、ミスター実業団の各コンテストで優勝の栄誉に輝いた三田村選手は、「5キロのプレートを体につけて走った」という。鉛の入ったシューズやジャケットが発売されているが、ベルトにプレートをつければ同じ効果になる。両手に2.5kgの鉄アレイを持って走ってもよい。わずかな重さでも相当に効いてくる。だがムリは禁物、あくまでもマイペースで。
月刊ボディビルディング1982年9月号

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