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食事と栄養の最新トピックス⑱
どこまでが有効で、どこからは無効か?<その7>
プロティンを飲めばやせられる?

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月刊ボディビルディング1982年6月号
掲載日:2020.09.07
健康体力研究所 野沢秀雄

1.ブーム状態のボディビル

 今年になって東京だけで一挙に6ジムがオープンというほど,ボディビルが盛んになっている。東京だけでなく千葉・埼玉・静岡・横浜など全国的にトレーニングセンター新設のニュースで賑わっている。

 一昔前なら「ボディビルという言葉は避けたい」とか「ビルダー・パンツ1枚の男性の体が写真になっているのを見るのは抵抗感が強い」と言われたのが,現在は「ボディビルは健康的ですばらしい」というように認識が変わっている。一流デパートのカルチャー教室も「女性ボディビル講座」と明記して,ボディビルを強調しているほどだ。

 とくに,女性に対するボディビルの啓蒙,普及という面に関しては,実業団コンテストを牽引している山際昭氏はじめ,多くの関係者の努力によりもたらせていることは明らかであり,まことに喜ばしい。

 最近の日経新聞のデータによると,アメリカにおけるボディビル人口はなんと1200万人にも達し,ごく当然に人びとがバーベルやダンベルなどの専門のマシーンで汗を流しているという。ジョギングにとってかわるほどの人気というから,近い将来日本でもいっそう盛んになるだろう。楽しみである。

2.プロティンにも話題集中

 ボディビルが盛んになるのと軌を一つにして,プロティンもポピュラーになってきた。以前はボディビルを実行しているごく一部の人たちだけに認識され,愛用されているにすぎず,「えっプロティンなんて言葉は聞いたことがない」と100人のうち99人まで知らなかった。

 ところが「スプーン1杯でやせられる」「ラストチャンス,ダイエット」と女性を対象にした通信販売の広告や液体プロティンの広告が昨年秋くらいから相ついでいる。このお蔭で「プロテイン,ああ知っている」「聞いたことがある」という人が100人中50人くらいにも増えだした。実際に使用している人はまだまだ少ないが,一般の人に「やせる魔法の薬」という誤解を与えている心配が大きい。

 プロテインブームの火付け役は「スプーン1杯でやせられる」という本と共に売出した液体プロテイン「シェイプ亅。あまり味のいい製品ではないが,本を読んだ人びとが薬局を訪れ結構売れている。次いで「アメリカからやってきた」と大きな広告を各新聞にのせたN社である。N社の広告に誘発されて,十数社が「プロティンは売れる」とばかり派手な宣伝を開始した。

 私が問題だと思うのは次のような宣伝文句である。

①プロテインを朝・昼・夕食の前にスゾーン1杯ずつ飲めば,それだけで減量できます。

②たんぱく質は体に蓄積した脂肪をエネルギーに変え,燃焼させる効果がある。脂肪を焼焼させるのに同量のたんぱく質が必要です。

③プロテインを飲むと,血液中にアセトンという物質が増え,食欲をおさえる働きをします。

④飲んでいる間だけやせるのではなくふとらない体質に改善します。したがって元の食事にしても体重がふえることはありません。

⑤特別の運動もいらない。食事制限もいらない。ふつうに食べながら誰でも確実にやせ,二度と太らない。ラストチャンスと呼ぶにふさわしい科学的ダイエットです。

 -もし本当な,ら実に簡単で素晴らしいが,こんな方法で減量できないことは賢明な読者ならすぐ分るだろう。

3.“逆噴射”がかえって心配

 「ジェーンフォンダなど女優さんたちが愛用」「西ドイツから上陸」と派手に広告するため,450g×2缶で9,000円とか,500g×2缶で9,600円というような,高すぎる製品を買わされている人びとが多い。
 あるデパートの店頭で苦情をいう女性客に出くわしたが,「いい加減な製品はやめてください。食事の30分前に飲んで普通どおりの食事をしていたらやせるどころか2週間で3キロも太ってしまった。責任をどうしてくれますか?」という彼女の言い分は誠にもってである。
 トレーニングを何もせず,食事制限をせず,今までよりカロリーを余分にとるのだから,太るのが当り前で,やせれば奇跡である。
 このN社は減量用だけでなく,「筋肉をつくる奇跡のプロテイン」「プロティンはぜい脂肪(?)をつけず,筋肉を太くし体重を増やす」「大サジ1杯でステーキ1枚分の高蛋白。お湯か牛乳にとかして1日2~3杯飲むだけで効果が出てくる」と,スポーツ誌や若者向雑誌に宣伝をのせている。甘いキャッチフレーズに乗せられて, 8500円も投じて購入した人も多いようだ。
 本当であれば誰でも苦労して重いバーベルやダンベルを挙げてトレーニングする必要はない。筋力強化のパートナーとして,プロティンは初めて効果をあげるものである。
 ごていねいにもN社は「アメリカから輸入しているのは当社だけ,他社の製品には同じ効果はありません」と新聞や雑誌に広告をのせている。現実には「N社の製品でひどい日にあった」と訴えている人が相次いでいるのに。
 健康体力研究所でも何種類かの製品を購入して分析したり,試食して効果を調査しているが,広告のとおりに成果があがるはずがない。過大な期待を抱かせ,高価な支出をさせるのは商道徳上問題である。「プロティンとはこんないい加減なものか」と消費者が悪い印象を持ち,見向もされなくなっては何にもならない。

4.製品そのものより使用法が重要

 「体重増加用プロティン」「減量用(女性用)プロティン」と分けて販売している会社が多いが,基本的にはプロテインはプロテイン,どちらにしろたんぱく質が主成分であることは共通である。配合に糖分を加えるかどうかでやや差があるとしても,基本的性質に変りはない。
 むしろ重要なことはプロティンの使用方法である。1日3食のほかに間食としてプロティンを採用し,筋力強化トレーニングを併用すれば,体重増加になる。逆に103食のうち,1~2食をプロティンに替えて生活すれば,カロリー減少に応じて体重が減ってくる。
 すでにボディビルダーたちはこの方法を実行し,ある時は体重増加に,またコンテスト前の減量時には脂肪を除く手段として,プロティン製品をうまく使いこなして成功している。いわば常識といっていいほど当り前になっている。

 減量に際してプロティンが効果をあげているのは次のような理由による。

①減食期間中は普通よりカロリーを相当に低下させるので,身体細胞の新陳代謝に必要なたんぱく質・ビタミン・ミネラルまで失なわれやすい。
 これを補うためにプロティンが役立つ。

②大さじ1杯(7g)を牛乳にとかすと144カロリー,たんぱく質12g,ビクミンA 7800IU,ビタミンB1 0.3mg……というように栄養素をとることができ,これに野菜や果物を食べれば,食事の代用になる。

③たんぱく質はアミノ酸が網状に連結した構造をしており,内部に空気泡を含んでいる。したがって溶かして食べたとき,体内で気池を生じて,ある程度の満腹感を与える。

④たんぱく質は自分自身が消化される過程で,たんぱく質の持つカロリーの30%余りを消粍する。したがって実質的なカロリーは下がることになる。

⑤脂肪は除いても,筋肉のサイズは維持もしくは増大をはかりたい時に,プロテインから効率よくたんぱく質やビタミン・ミネラルを補給できる。

――このようにプロティン製品をうまく使い,部分的に蓄積した脂肪を,シットアップやレッグレイズなどのトレーニングで除去すれば,シェイプアップが相当にうまく果せるわけだ。
 トレーニングを実行しなければ,ゲッソリとやっれ果てた感じで全身が衰えたスタイルになってしまう。空腹時に適度のウェイトトレーニングを実行すれば,付くべきところはほどよく筋肉か維持され,余分な脂肪は効率よく除去される。
 ボクシングやレスリングの減量なら体型に関係なく,水分や筋肉が検量の瞬間にだけ除かれていればそれはそれでパスをする。しかし,ボディビルは健康的な減量を目的とするので,余分な脂肪だけがうまく除去されないと意味がない。

5.どこまで信じられるか?

 プロティンは決してやせる薬ではない。普通の食事をしていてプロティンをさらに加えると太るのが当然だ。正しい食べ方とトレーニングが大切である。
 「やせるプロティン」と称して外観だけを変えて高く販売したり,単なる大豆たんぱくだけを未調整のまま(アミノ酸を加えてプロティンスコアを高めず),そのうえビタミンやミネラルも配合せずに,「筋肉がっく」「飲むだけでやせられる」と販売している例が多すぎる。
 こんな製品では期待した効果が上らないだけでなく,必要な栄養素が補給されてないために,貧血や立ちくらみを起したり,月経が停止したり,最悪の場合は「栄養失調」などで死んでしまう例さえある。
 現にアメリカでは数年前に「液体プロティンにより数名の死者が出た」といわれたほどである。プロティンは両刃の剣である。うまく使えば健康が得られるが,間違った使い方や,悪い製品を多用すれば,とりかえしのつかない失敗をすることになる。
 食品を販売する者は,食品衛生法・薬事法・不正競争防止法(正しい表示や広告をする義務)などの規制を熟知しなければならない。とりわけ,薬品まがいの効能・効果をうだったり,誇大な宣伝をすることは厳重に禁じられている。
 食品は生命を預る大切なものであるにもかかわらず,他分野から「儲りそうだから自社も手がけよう」と進出し限界を超えた広告で,消費者を陥いれ良識ある人たちを凌駕してしまう。嘆かわしいことだ。
 「ブームの後には反動がくる」と言われる。現在の通信販売業者で,真に良心的に,アフターフォローを完備して,悩んでいる消費者を助けようとする会社は少ない。実際に「他社の広告につられて買う人がいるから自分のところも広告する。売れるときに売ってあとは知らない」という姿勢がまぎまざの感が多い。
 ボディビルが単なるブームでなく,人びとの生活の中に定着するのと同様に,プロティンなどのサプルメントフーズも良い製品が,静かに,愛用されることを望みたい。どれが本物の製品か,使用する人は判断できる知識や情報を自分の物にしておいてほしい。
 なお,「プロティンを飮むとアセトンを生じ,そのために食欲が抑えられる」という広告表現か,やせるプロティンを売る会社に共通パターンとして使用されている。アセトンとは糖類やデンプン,酢,アルコールなどが分解したときに体内でつくられる物質だ。たんぱく質が分解したときにも若干生じるが,肉や魚・牛乳・チーズなどでも共通だ。
 したがって「アセトンが生じるから」という理由はあまり根拠がない。プロティンが特にこの作用が強いという証明はほとんど知られていない。
 以上のごとく,あまりにも間違いの多いプロテインの広告が氾濫しており寄せられる質問や問合せが多いので今月は誤解を正すためにペンをとったわけである。
月刊ボディビルディング1982年6月号

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