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食事と栄養の最新トピック⑱
バルク・アップに失敗しない方法

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月刊ボディビルディング1982年7月号
掲載日:2018.12.17
 健康体力研究所 野沢秀雄

1.バルク・アップは重要な要素

 ボディビル・ジムに入門した初心者は,「とにかく体重をがっちり増やしたい」と切望する人が圧倒的に多い。とくに体質的に太れないタイプの人ほどその願望が強く,「脂肪太りでもいいから,太りたい」と願っている。

 また,コンテスト入賞を目標に努力している人も「最初はデフィニションとかカットをつけるよりも,体をバルクで大きくすることが先決だ。ガムシヤラに何でも食べられるだけ食べ,練習もガンガン週6日連続で重いバーベルやダンベルを持ちあげよう」と,体重増加を念頭におく。

 シュワルツェネガーが,映画「パンピングァイアン」の中で,次のように語っている。「ボディビルダーは彫刻家と同じです。ここを大きくして,ここを小さくしようとか,全体にここを細くというように立体的に成型してゆきます。彫刻家とちがって,生身の体を仕上げてゆくのがちがうだけです」

一一確かに,コンテストで勝とうと思えば,まず第一にバルクの大きさである。バルクの大きさが審査する人や観客の印象を左右する第一の要素である。とくに最近のように海外に進出して,骨格の太い外国選手と戦おうとすれば,デフィニションがいくら良くても,まずバルクがなければとうてい上位入賞は不可能だ。

 というわけで,ジムに通っている大や個人で練習している人の多くは,夏の季節でも気にせずに,「食べられるだけ食べて,今のうちに先ず体を大きくしておこう」とがんばっている。

 人によっては,腹囲が大きいことや皮下脂肪が次第に厚くなってゆくことを全然気にせず,「コンテスト出場時に減量をおこなえば,デフィニションは出てくるから平気」と,周囲が心配するほどよく食べている。

2.成功例と失敗例

 バルク・アップが大切であることは良くわかる。最初のうちは細部の筋肉群やカットを気にせずに,高重量に次々に挑んで筋肉のサイズを増やしてゆく方針が正しいと私も思う。

 しかし,「脂肪でもいいからとにかく太りたい」と,無茶に食べて,腹囲が80cm以上になったり,皮下脂肪が15ミリを超える体にすることは正しいことだろうか?

 減量することは,増量することに比べて容易である。食べることをセーブしさえすれば,ある程度は体重が減り脂肪がとれる。しかし,単に減量すれば,以前に自分が備えていたデフィニションやセパレーション,いわゆる,筋肉のカットが再び得られるものだろうか?

 この方針で比較的成功しているのは榎本選手や三田村昭選手であろう。どちらの選手も21歳~22歳の若さで,すでに大きな大会に出場していた。当時の体型は,典型的なバルク・タイプで体は大きかったが筋肉の切れ味にもう一歩のところがあり,上位入賞はできなかった。両選手とも3~4年間,じっくりと体を鍛えて全体的にさらにバルク・アップをはかったあと,コンテスト直前に,きびしい食事制限とランニングを加えた猛トレーニングをおこない,特に腹筋を多角度からせめあげて,実に見事なデフィニションを完成させた。

 そして日本青年館ホールでミスター・アポロに優勝した榎本選手の,彫りの深い筋肉の溝は強い感銘を人びとに与えた。

 この成功にならって,バルク・アップに専念するあまり悲劇的な失敗に終る例もある。D君と仮名にしておくが彼の場合,19歳のときはレスリングのフェザー級で活躍し,筋肉質で,全身に筋肉の一本一本が現われて見えるすばらしい体質であった。先輩のアドバイスで,とにかく太ることを命ぜられ,わずか10ヵ月間で体重を30kg以上もふやした。身長167cmながら,90kgを少し上廻る体重までバルク・アップに成功した。1.2kgのプロティンパウダーを1週間で使い切るほどのすごさであった。

 「もちろん,ごはんや麺類,肉,魚も腹いっぱい食べました。空腹でなくても3時間おきに食べたのです」と彼は語っている。

 だがシーズンが近づいて,減量を開始し,脂肋がとれてきたのは良いが,いっこうにデフィニションが得られない。絶食状態を4日近く続けて,腹囲や皮下脂肪が標準より小さくなってきたにもかかわらず,今一つ筋肉のカットが得られない。

「全身に脂肪層ができているようで筋肉の凄みが感じられない」と彼はしきりに悩んでいる。

 しかも減量のため全体のバルクが大幅に失なわれて,何となく病人のような衰弱したイメージになってしまっている。「無理な減量がたたっている」と精彩を失った体をいま彼はもてあましている。

3.脂肪細胞数がふえる危険

 望ましいバルク・アップとは,身体各部の筋肉細胞が容積を増して,太くなることである。筋肉細胞の容積は主にミコトンドリアやミクロソームと呼ばれる細胞質がふえることによっておこり,その材料は食事中のたんぱく質である。10代の成長期なら,1個1個の容積だけでなく,筋肉細胞数が増加するので,短期間に筋肉がびっくりするくらい発達してくる。

 ところが一方で,活動に要するカロリー以上に過食すると,栄養素が脂肋に変化して,身体各部に存在している脂肪細胞にとりこまれる。脂肪細胞はその名の通り細胞内に脂肪粒がみっちりつまっている。食べれば食べるほどシャボン玉のようにふくらんで容積をふやす。

 標準体重を20%以上上廻っている大で,ウェイト・トレーニングをやっていない人の場合,増量しているほとんど全ては脂肪細胞につまった脂肪のためである。

 脂肪細胞も筋肉細胞と同様に,成長期までは数が次々と増加する。したがって成人期までに肥満になってしまうと,大人になってから減食やトレーニングをどんなに激しくおこなっても,脂肪体質は変らず,一生涯苦しむことが多い。

 逆に,成人したあとで太ってしまった場合は,単に個々の脂肪細胞の容積だけが増えて,数まではふえないから比較的元のように減量するのは簡単だと,3年前までは言われていた。

 ところが,やっかいなことに,細胞数は成人後でも増加し,いったん増加すると元に戻らない,という2つの報告がされている。

 スエーデンで,バイオプシーという生体から直接紙織細胞を採取して,顕微鏡で観察する方法が開発された。そして,一流スポーツ選手が筋肉を採取され,これにより「赤い筋肉VS白い筋肉」の存在が判明したのは有名な話である。

 バイオプシー法により,男女37名の肥満者と,男女60名の非肥満者の細胞を詳しく調べたところ,前者の脂肪細胞は平均1.08μg,後者は約0.65μgでサイズの平均値に差があることが判明した。また,肥満男性は全身に平均230~820億の脂肪細胞を,非肥満男性は200~400億個の脂肪細胞を有していることかわかった。

 問題は太った人が減食や運動で体重を落したとき,脂肪細胞の重量や数がどう変化するか,である。

 体脂肪が71.2kgあった男性が,減量して体脂肪を31kgまで減らしたところ1個あたりの脂肪細胞重量は1.1μgから0.46μgと,半分以下にしぼんだことがわかった。ところが,脂肪細胞数は減量の前後で全く変化なかったことが証明されたのだ。これはもう一人の女性の場合も全く同じで,減量によりサイズは減るが,脂肪細胞数は減らないことが実験で証明されている。

 減量をやめると,個々の脂肪細胞はいっせいにふくらみはじめて,たちまち元のサイズ近くまで戻ろうとしてしまう。

 1978年にUCLAのスクーン博士らが行なった研究報告によると,成熟したラットに高栄養を与えたところ,細胞サイズはもちろん,細胞数まで増殖したという。それまでは成長後は「数まではふえない」といわれていたのでたいへんな反響をおこし,今ではこの説が正しいと認められている。

 この2つの実験結果から,成人後でも細胞数はふえ,しかも減量しても減らないことが理解されよう。

4.失敗しない増量法

 脂肪細胞だけでなく,筋肉細胞にもこの法則があてはまらないだろうか?つまり成人後でもウェイト・トレーニングを懸命におこなえば,サイズだけでなく筋肉細胞の数も増えないだろうか?

 実はマイク・メンツァーが,ワイダー研究所で調査や尖験した報告を,マッスル・フィットネス誌に発表したことがある。それによると,成人してからでも筋肉細胞の数は,明確にふえるというのだ。もちろん中・高校生時代のような活発さは見られないにしろ,定期的にトレーニングを積めば,数が増えることが報告されている。

 そして,練習をしばらく遠ざかっていても,再びトレーニングすれば,ずっと短期問に,筋肉のサイズやパワーが戻りやすい。このことは自分の経験として,あるいは周囲の人たちの体験として,実感している人が多いにちがいない。あるビルダーの話では,1年以上ブランクがあったのに,わずか1ヵ月の調整で,元のようなパワーと筋肉量まで回復し,みんなを驚かせているという。
 話をノリレク・アップに戻そう。

①がむしやらに,食事を多く食べすぎると,体重はふえるが,脂肪細胞数まで増やすことになりやすい。

②いったん脂肪細胞数がふえてしまうと,後になって減量をしても,その数は減らない。

③したがって,元はデフィニション型で,中胚葉型,ないしは外胚葉型の人であっても,方法が悪いと,バルク型の脂肪体質に変化してしまい,元に戻らなくなることがある。

④体質はいったん変ってしまうと,後でどんな手段をとっても(たとえば肥満体質の人が手術で脂肪層を除去したり,アナボリックステロイドで一時的に脂肪をとったりしても)元のような体質には戻りにくい。

一一以上から,バルク・アップの過程において,腹囲や皮下脂肪厚を常にマークしておき,必要以上に脂肪細胞数を増やさないよう,厳重に注意していただきたい。

 望ましいバルク増加法は,あくまでもトレーニングを積んで,筋肉で実質的な増量をはかることである。高重量制のトレーニングでは,筋肉細胞の量と数が増えるので,食事法を体重1kg当り2gずつのたんぱく質をとることおよび,ビタミンやミネラルの助酵素を欠かさず摂取すれば,わずかずつながら着実にバルクが増えてくる。

 筋肉に刺激を与えたあと,超回復をはかるために,充分な休養と栄養が大切である。またトレーニング自体は,現状の筋力の限界を少しオーバーするくらいの強度のレベルまで達しなくてはならない。

 一般的に「腹囲80cm以上,皮下脂肪15ミリ以上には絶対にならないようにコントロールしながら,バルク・アップをはかろう」というアドバイスを私はしている。

 過食は決してよくない。自分の毎日のエネルギー消費量を頭によくいれておいて,各種の栄養素をバランスよく食べていただきたい。

 「今日は運動量が少ない」と感じたら当日および翌朝は食事量を減らすくらいの心がけが成功をもたらす。「少しくらい食べすぎても,後でトレーニングすればいい」と,つい誰でも甘えやすいが,この甘えか積もり積もって知らず知らずのうちに脂肪体質に変ってしまう。せっかく恵まれた体質を,脂肪体質に変えてしまわないように,くれぐれも用心しよう。
月刊ボディビルディング1982年7月号

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