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ボディビルの基本⑲ 初心者のための基礎知識と実技 ●トレーニング・スケジュール●

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[ 月刊ボディビルディング 1973年4月号 ]
掲載日:2017.10.19
竹内 威(NE協会指導部長’59ミスター日本)

トレーニング・スケジュール

 トレーニング開始に先だち,あらかじめトレーニングの「コース」と「日取り」をきめる必要がある。すなわちトレーニング・スケジュールの作成である。そしてトレーニングの成果は,このトレーニング・スケジュールの良否によって左右される。
 トレーニングの効果をあげるには,栄養を摂ることも大切であるが,それと同時に適切なスケジュールでトレーニングを行う必要がある。いくら栄養をとっても,スケジュールが不適では効果をあげることはできない。
 適切なスケジュールとは,日課としてのトレーニングを,体力的にさほど負担を感ずることなく実行し得るスケジュールのことである。体力的に強く負担を感じるようなスケジュールはからだに疲労を蓄積させ,効果の面での効率を悪くする。
 したがって,トレーニング・スケジュールを作成するについては,実施者各人の体力面のみならず,仕事の疲労度,食生活,睡眠状態など,体調に影響を与える諸事項をも考慮しなければならない。

◇トレーニング・コース

 スケジュールをつくるに際し,まず問題となるのがトレーニング・コースである。適切なコースをつくることはトレーニングの経験の浅い者や,まったく経験のない初心者にとってはかなり困難なことである。だからといってトレーニング・コースを定めずに無計画に行うことは,ボディビルの基本からいっても許されない。
 計画的にトレーニングを行うことは効果をあげるためにはもちろんのことトレーニングに対する自己の適性度を知るためにも必要である。適性度を知ることができれば,より自分に適したトレーニングの方法を考えるのに役立つからである。

◇トレーニング・コースの作成における要点

①全身を頸,肩,胸,腕,背,腹,腰および脚の部分に分けて考える。そして,運動種目を効果の面から,からだの分け方に則して分類する。つまり,胸の運動種目,脚の運動種目というように分類するのである。したがって,まず各運動種目の効果の面での特徴をよく理解しておく必要がある。
②初級者の段階では,採用する運動種目はごく基本的なものとする。
③採用する運動種目の数は,実施者自身の体力を考慮して定める。初歩の段階では5~6種目ぐらいが妥当と思われる。ただし,全身を強化できるように配慮して選ぶことを忘れてはならない。
④体力の弱い者は,トレーニングが負担にならないように,採用種目を3~4種目にとどめるほうがよい。その場合は,基本的な運動種目の中でも,とくに基礎的な体力を養うのに必要と思われる運動種目を選ぶようにする。
⑤トレーニング開始時における運動種目のセット数は2~3セットが無難である。
⑥全体のトレーニング量は,疲労がからだにとどこおることのないように配慮して定める。トレーニング後に爽快な疲労を感じるくらいがよい。

 以上が,トレーニング・コースの作成における要点であるが,始めはいくぶん余裕をもたせてつくり,それを続けていきながら,徐々に適したものへと改めるようにするのがよい。

◇トレーニング・コース

①体力に自信のあるひとは,「别表」に示した運動種目の中からAとBを選び,全部で5~6種目を行うようにするとよい。
 <コース例>
 ☆ウォーム・アップ(準備体操)
 ①シット・アップ(A)
  正確に行える回数で2~3セット
 ②スクワット(A)
  12~8回 2~3セット
 ③ベンチ・プレス(A)
  10~8回 2~3セット
 ④フロント・プレス(B)
  10~8回 2~3セット
 ⑤べント・オーバー・ローイング(B)
  10~8回 2~3セット
 ⑥カール(B)
 ☆クール・ダウン(終末運動)
②体力にあまり自信のないひとは,3~4種目の運動を行うようにする。たとえば,「別表」の中から,まずAの運動を選び,そのうえで余裕があるならばBの運動を1種目だけ加えるようにする。
 <コース例>
 ☆ウォーム・アップ
 ①シット・アップ(A)
  正確に行える回数で2セット
 ②スクワット(A)
  12~8回 2セット
 ③ベンチ・プレス(A)
  10~8回 2セット
 ④フロント・プレス(B)
  10~8回 2セット
 ☆クール・ダウン

◇運動の順序について

①ウォーム・アップ――トレーニングの始めに行う。
  本運動に入る前に,筋肉をあたため,関節をよくならし,循環器の態勢をととのえておくことは,トレーニングによるからだの損傷を防ぎまた,本運動において体力を充分に発揮させるためにも必要である。
②シット・アップ――本運動の最初に行うとよい。
  腹筋は他の部分の筋肉と比べて,もっとも損傷を受けにくい筋肉である。したがって,ウォーム・アップを補足する意味で,本運動の最初に行うのに適している。
③スクワット――トレーニングの始めの方で行うのがよい。
  この運動は,消耗度が非常に高い種目である。したがって,初級者の場合は,トレーニングのおわりの方で行うよりは,体力があまり消耗していないうちにすませておくのがよい。ただし,この運動は心肺機能をいちじるしく亢進させるから,その点を念頭に入れて,ウォーム・アップによってからだの態勢を十分にととのえてから行うことが大切である
④その他の運動種目――実施者の好みによって順序を定めればよい。
  ただし,毎回同じ順序で行うことを原則とする。トレーニングのたびに順序を変えると,安定した調子で運動が行えなくなり,ときには体調をくずすことにもなる。
⑤クール・ダウン――トレーニングの最後に行う。
  クール・ダウンを行うことによって筋肉の緊張をほぐしておくことは体力の回復を早めるのに効果がある

◇体力の弱いひとに対する注意

 ボディビルというものは,トレーニング量を多くすれば,それに付随して効果があがるというものではない。
 トレーニング量は,実施者の体力に応じて定められるもので,そこには当然,体力差による適量というものがある。適量を越えるトレーニング量は,体力をいたずらに消耗させるだけで効果を得ることはできない。
 体力の弱いひとが,適量を越えていると思われるトレーニング量で行なっているのをよく見かけるが,そのような方法では,よほど潜在的に素質がないかぎり成功することはない。そして多くのひとは効果を得られないままに挫折してしまい,やがては,ボディビルを放棄することになる。効果に対するあせりの気持はわからないでもないがボディビルにも,おのずから限度があり,もともと短期間に多大な効果を得ようとすること自体が無理なのである。もしも,そのような考えをもっているならば,それは誤りであるから,即座に改めなければいけない。そして,常に自分に適していると思われるトレーニング量で,時間と段階を経て,少しずつ体力を向上させるように心がけてほしい。
 トレーニングの適量を理解するうえで参考になると思われる一つの実例を紹介してみよう。

◇A君(19才)の場合

 開始時のトレーニング・コース
 (隔日,週3日)
 ☆ウォーム・アップ
 ①シット・アップ
  正確に行える回数で3セット
 ②スクワット
  10~8回 3セット
 ③ベンチ・プレス
  10~8回 3セット
 ④フロント・プレス
  10~8回 3セット
 ⑤べント・オーバー・ローイング
  10~8回 3セット
 ⑥カール
  10~8回 3セット
 ☆クール・ダウン

前記のトレーニングによる結果

開始時の体位 約7週間後
身 長 157cm 157cm
体 重 45kg 45kg
胸 囲 84cm 84cm
上腕囲 26cm 26cm
前腕囲 25cm 25.5cm
大腿囲 48cm 49cm
腹 囲 67cm 67cm

 以上のごとく,7週間経過したにもかかわらず,わずかに前腕囲と大腿囲がふえただけで,ほとんど変化はみられなかった。また,使用重量の増加もみられなかった。
 そこで,次に示すトレーニング・コースに変えて行なってみた。

変更したトレーニング・コース

 ☆ウォーム・アップ
 ①シット・アップ
  正確に行える回数で3セット
 ②スクワット
  10~8回 3セット
 ③ベンチ・プレス
  10~8回 3セット
 ④フロント・プレス
  10~8回 2セット
 ☆クール・ダウン

 このコースで約7週間実施したのちの体位は,身長157cm,体重47kg,胸囲87cm,上腕囲27.5cm,前腕囲26.5cm,大腿囲50cm,腹囲70cmであった。
 しかも,ベント・オーバー・ローイングとカールをやめてしまったにもかかわらず,胸囲と上腕囲が増加するという結果がでた。さらに,使用重量の増加もわずかではあるがみられ,トレーニングにおいて,体力的に余裕を感じるようになったとのことである。
 以上はほんの1例に過ぎないが,要するにこの実例の意味するところは,開始時におけるトレーニング量が適量を越えていたために,体力的な消耗が強すぎ,体力を強化し体位を向上するにいたらなかったということである。
 また,改められたトレーニング・コースにおいてはカールを除外したにもかかわらず,腕のサイズが増加したという理由については,次のように考えられる。
 からだには,とくにその部分の運動を行わなくても,他の運動によってある程度発達が促される性質がある。そして,鍛練の浅い場合には,そのような傾向は現われやすい。それにA君のように体力の弱いものにとっては,ベンチ・プレスやフロント・プレスなどによって腕を使用する程度で,腕を発達させるに足る刺激が得られるのではないかということである。
 トレーニング量を減らすことが,効果をあげるのに必ずしも良策とはいえないが,減らすことによって,良い結果を導き出せる場合もあるということを理解してもらいたい。

ダンベル使用による基本種目

◎ダンベル・スクワット
<動作> 両手にそれぞれダンベルをぶら下げてスクワットを行う。(写真参照)
<呼吸> しゃがみながら息を吸い,立ちあがりながら吐く。
<効果> 大腿四筋筋のベルクを増すその他,大殿筋,内転筋,仙棘筋,僧帽筋にも効く。
〔ダンベル・スワワット〕

〔ダンベル・スワワット〕

◎ダンベル・ベンチ・プレス
<かまえ> 両手にそれぞれダンベルを持ってベンチに仰臥し,両腕を伸ばしてダンベルを胸の上方で保持する。このとき左右のダンベルを縦に合わせる。(写真参照)
<動作> 双方のダンベルをそれぞれ胸の横へおろす。おろしたとき,両肘を床の方へ十分に引き下げるようにして胸を張る。つぎにダンベルを上方へ押しあげて,かまえの位置へ戻す。(写真参照)
<呼吸> おろしながら吸い,あげながら吐く。
<効果> 大胸筋全体のバルクを増す
〔ダンベル・ベンチ・プレス〕

〔ダンベル・ベンチ・プレス〕

◎ダンベル・プレス
<かまえ> 両手にそれぞれダンベルを持ち,両肩の横に保持する。(写真参照)
<動作> 左右のダンベルを上方へ押しあげる。押しあげる動作は,できるだけ前腕を垂直に保って行うようにする。(写真参照)
<呼吸> 動作に合わせて任意に行なってよいが,どちらかというと,おろしながら吸い,あげながら吐くようにするのがよい。
<効果> おもに肩。
〔ダンベル・プレス〕

〔ダンベル・プレス〕

◎ベント・オーバー・ダンベル・ローイング
<かまえ> 両手にそれぞれダンベルを持ち,上体を床面と平行になるまで前傾する。(写真参照)
<動作> 肘を屈して,左右のダンベルを両わき腹(やや腰寄りの位置)の下に引きあげる。(写真参照)
<呼吸> 引きあげながら吸い,おろしながら吐く。
<効果> おもに背
〔ベント・オーバー・ダンベル・ローイング〕

〔ベント・オーバー・ダンベル・ローイング〕

◎ダンベル・カール
<動作> 両手にそれぞれダンベルを持ち,肘を支点にして,左右のダンベルを肩の前まで巻きあげる。(写真参照)
<注意事項> 引きあげるようにしないで,あくまでも巻きあげるようにする。また,あまり反動を使わないように留意する。
<呼吸> 動作に合わせて任意に行なってよい。
<効果> 腕,とくに上腕二頭筋。
〔ダンベル・カール〕

〔ダンベル・カール〕

◇ダンベルによるトレーニングコース例

①体力に自信のあるひとは,「別表」の中からA´およびB´の運動を選んで全部で5~6種目行うようにするとよい。
 <コース例>
 ☆ウォーム・アップ
 ①シット・アップ(A´)
  正確に行える回数で2~3セット
 ②ダンベル・スクワット(A´)
  12~8回 2~3セット
 ③ダンベル・ベンチ・プレス(A´)
  10~8回 2~3セット
 ④ダンベル・プレス(B´)
  10~8回 2~3セット
 ⑤ベント・オーバー・ダンベル・ローイング(B´)
  10~8回 2~3セット
 ⑥ダンベル・カール(B´)
  10~8回 2~3セット
 ☆クール・ダウン

②体力に自信のないひとは,3~4種目くらいで始めるのがよい。たとえば「別表」の中から,まずA´の運動を選び,余裕があればB´の運動を1種目だけ加えて行うようにする。
 <コース例>
 ☆ウォーム・アップ
 ①シット・アップ(A´)
  正確に行える回数で2セット
 ②ダンベル・スクワット(A´)
  12~8回 2セット
 ③ダンベル・ベンチ・プレス(A´)
  10~8回 2セット
 ④ダンベル・プレス(B´)
  10~8回 2セット
 ☆クール・ダウン

〔註〕使用重量が不足の場合は,1セットにおける反復回数をふやして行うようにする。
 このダンベルによるトレーニング・コースは,あくまでもバーベルに変えてダンベルを使用して行うものであるから,その点を誤解しないでほしい。
 つまり,初心者においてはバーベルかダンベルのいずれか一方だけのトレーニング・コースを採用して行うようにしなければならない。
 効果を早く得ようとして双方を同時に採用して行なったりしては,オーバー・トレーニングになるから厳に慎しんでいただきたい。
〔註〕表中のA、A'は最も重要な種目。B、B'は準重要種目を示す。

〔註〕表中のA、A'は最も重要な種目。B、B'は準重要種目を示す。

[ 月刊ボディビルディング 1973年4月号 ]

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