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Mr.OLYMPIA 2011 観戦レポート

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text=Sumio Yamaguchiphoto=Ben[ 月刊ボディビルディング 2011年12月号 ]
掲載日:2017.06.14
9月16日、17日 オーリンズアリーナ・ラスベガス

9月16日、17日 オーリンズアリーナ・ラスベガス

大方の予想通りではあるが、ついにフィル・ヒースが念願のミスターオリンピアの座を手中にすることができた。前チャンピオンのジェイ・カトラーもサイズではフィルを上回り、仕上がりも厳しいものではあったが、今多くのファンたちが望んでいる“トレンド”ではなく、長らく続いた“サイズ”時代が終焉を迎えたようだ。フィル・ヒースの優勝で“美”の時代が幕開けするのだろうか!?

ニューキング誕生!!

ミスター・オリンピアも残すはジェイ・カトラーとフィル・ヒースの2人だけとなった。昨年とまったく同じ光景であるが、今年は王者カトラーの隣には信じられないようなフィジークの男が立っている。
「これから発表するのは、ミスター・オリンピアの優勝者です」

司会のボブ・チチェリロは何度も繰り返す。

ステージには多くの人が上がり、スポンサーが賞金20万ドルの小切手を、IFBBプロリーグのジム・マニヨン会長がサンドウ像を手にして発表を待つ。
「2011年ミスター・オリンピアは…フィル・ヒース!!」

ジェイ・カトラーは笑顔でヒースを讃え、「あなたがニューキングだ!」と祝辞を送る。ヒースは涙を流して感激に浸る。新オリンピア誕生の瞬間であった。
表彰式で涙ぐむヒースを、カトラーは笑顔で讃えた

表彰式で涙ぐむヒースを、カトラーは笑顔で讃えた

カトラー対ヒースの再戦

昨年45周年を迎えたミスター・オリンピアは、ジェイ・カトラーとフィル・ヒースの戦いとなったが、ジェイ・カトラーが一昨年同様のハードなフィジークでヒースをかわし、4度目のタイトル防衛に成功した。

ジェイ・カトラーが5度目のタイトル戴冠にチャレンジした今年も、カトラーとヒースの再戦が話題となった。他に優勝候補に挙がったのは、昨年は大きく外したカイ・グリーンだった。これまでの対戦ではヒースよりも勝るものを持っていたことから、仕上がり次第では優勝も狙える存在である。そこで今年のオリンピアはカトラー、ヒース、グリーンの3人での優勝争いになることが予想された。また昨年4位でサイズが大きいデニス・ウルフ、08年オリンピアのデクスター・ジャクソンやビクター・マルチネスなどの実力者も十分優勝争いに関わってくることが予想された。ただひとつ残念だったのは、09年準優勝、昨年3位で、今年のアーノルド・クラシック優勝者であるブランチ・ワレンが怪我のため欠場したことだ。

以上がトップ争いであるが、今年は前半にオフを取った日本の山岸秀匡は以降2つのコンテストに出場しそれぞれ2位と、まずまずの成績とコンディションで4度目のオリンピアステージを踏むことになった。09年9位、昨年10位とオリンピアでも実力が安定しつつあることから、今年はトップ6も射程圏内にあるものとも思えた。

今年のオリンピアは初出場が7人いたが、中でも2人が注目された。まず一人目はショーン・ローデン、36歳。身長175cm、体重103kgとサイズは大きくないが、ウエストが細く、シンメトリーに勝れたフィジークで“フレックス・ウィラー2世”と言われている。もう一人はマリアス・ドーン、30歳(身長180cm、体重114kg)。長身でサイズもありバランスの取れたフィジークで、今年はプロボディビルディングウィークリーで優勝もしている大型新人である。

ボディビル界のスーパーボール“ミスター・オリンピア”は、今年もチケットが完売し、初秋のラスベガスで幕が上がった。

プレジャッジ

出場選手紹介のトップバッターは、大きなデニス・ウルフ。仕上がりはハードで期待が持てる。注目の新人マリアス・ドーンはまだ荒削りなフィジークである。ビクター・マルチネスはセパレーションが良く出ている。デクスター・ジャクソンはキレが良いが、ややサイズが小さい。新人のブランドン・カリーは意外にもサイズがあり、セパレーションも出ている。カイ・グリーンは、今年はオンだ。ロニー・ロッケルは仕上がりが甘い。新人のショーン・ローデンは細いが、仕上がりは良い。山岸は今年もしっかり絞れている。フィル・ヒースはただただ“アンビリーバブル”で、ジェイ・カトラーは苦戦が予想されるコンディションである。

ファースト・コール
ジェイ・カトラー、フィル・ヒース、カイ・グリーン、デクスター・ジャクソン、ビクター・マルチネス、デニス・ウルフ。予想通りの6人だ。

フロント・ダブルバイセップスポーズでは、ヒース、グリーン、デクスター、マルチネスのプロポーションが良い。ウルフは胴が長く、ジェイはウエストが太い。仕上がりは、ヒースが上腕から胸、腹筋、そして脚まで明確なカットを出し、すこぶるインパクトが強い。ジェイもハードであるが、ヒースのようなメリハリはなく、グリーンとマルチネスはセパレーションが出ているがシャープさがない。デクスターとウルフはカットも出た良いコンディションである。

フロント・ラット・スプレッドに入っても、デクスターは見事なパッケージを示し、仕上がりの良いウルフはサイズが大きく、マッシブなフィジークはインパクトが強い。ヒースも上腕から肩、そして胸といった上体上部には山並みを作り上げ、パワフルなフィジークを示す。ジェイ、グリーン、マルチネスはここでもアピールするにはやや弱いフィジークである。

サイドチェストでは、上体ではヒースとウルフが丸く大きな肩や胸、上腕、腹筋まで良くカットが出て、大きくハードである。ヒースは上体から脚までメリハリのある明確なセパレーションを出している。ただ、ウルフは上体に比べるとカーフが小さいし、デクスターも脚が上体の密度と比べると弱い。ジェイ、グリーン、マルチネスの脚はハムストリングスのセパレーションも出て、上体とのバランスも良い。

バック・ダブルバイセップス。フロントで圧倒的なフィジークを見せたヒースは、バックに入ってますますその威力を発揮した。大きく腕を広げてからバックポーズを決めると、上背から下背まで背中全体が幾重もの高い山と深い谷を作り、その筋肉の密度とディテールは、これまで見たことのないような、インクレディブルな背中である。その上、下半身も大きくハードで、ヒップにはストリエーションが幾重にも走るなど、完璧なバックポーズである。
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カトラー(左)ヒースの比較。臀部にまでストリエーションを走らすカトラーの仕上がりであったが、背部のデフィニションはヒースと比べると明らかにぼやけている

今年注目された2人の新人ショーン・ローデン(右)とマリアス・ドーン

今年注目された2人の新人ショーン・ローデン(右)とマリアス・ドーン

左よりデクスター、ウルフ、グリーン、マルチネス。アウトラインの良い3人に比べウルフは明らかに胴が長く見える

左よりデクスター、ウルフ、グリーン、マルチネス。アウトラインの良い3人に比べウルフは明らかに胴が長く見える

グリーンとマルチネスも背中は良く絞れてカットの密度もあり、脚とのバランスもある。ウルフにも上背には凹凸のある筋肉の密度は見られるが、ディテールはなく、上背は良いが、広背筋が高い位置にあることから下背はスムーズで、下半身には上体のような大きさがない。デクスターは、背中は定評のあるカットを出しているが、脚は上体のようなインパクトがない。デクスターは周りがサイズの大きな選手ばかりなので、特にサイズが小さく見えてしまう。ジェイはカットの深さがなく、フラットで、背中に立体感がない。特にヒースの隣で比較を受けることは、ジェイにとっては致命的な打撃である。

ここまでのポージング比較を見て、王者ジェイ・カトラーの仕上がりがぼやけ、挑戦者フィル・ヒースの仕上がりがずば抜けていた。特にバックポーズで勝負がついてしまった。

アブドミナル&サイに移る。このポーズはジェイの最も得意としているポーズで、彼に太刀打ちできる人はいない。このポーズを見る限りジェイのコンディションは非常にハードで、腹筋から大腿へのカットとディテールは他を圧倒。唯一ジェイがパワーを見せ付けたポーズであった。一方ヒースはこれまで腹筋がソフトで弱点であったが、今年はハードになり、カットも鮮明に出るなどインプルーブしている。

最後のモストマスキュラーでは、ウルフの巨大なサイズが目立つが、ヒースは大きさとディテールが際立っている。また彼の闘志が伝わってくるような力強いマスキュラーポーズは、物凄いパワーである。

ポージング比較はポジションを変え、ジェイとヒースが中央に移動して引き続き行なわれたが、ここでも仕上がりの良いヒースが主導権を握った。このため、今回はトップ2、そして3~6位の2つのグループに分かれる形になった。
記事画像6

(右)リラックスポーズから既に他を圧倒していたヒース。まさしく“アンビリーバブル”な身体であった (左)カトラーが得意とするアブドミナル&サイ。このポーズを見る限りでは、非常にハードな仕上がりだ



セカンド・コール
記事画像7

左より山岸、ロッケル、フリーマン、カリー、ローデン。状態から下半身まで良く絞れている山岸に対し、ロッケルの下半身は明らかにカット不足だ

左よりリチャードソン、ドーン、ヌーン、ジョニー

左よりリチャードソン、ドーン、ヌーン、ジョニー

山岸秀匡、ロニー・ロッケル、ブランドン・カリー、トニー・フリーマン、ショーン・ローデンの5人で行なわれた。新人のカリーとローデンが早くもコールされた。

フロントの比較では、山岸とフリーマンはハードな仕上がりであるが、山岸の方がメリハリがある。カリーとローデンは、ハードさはないが、セパレーションは出ている。ロッケルは絞れておらず、カットに鮮明度がない。

サイドでは、大きさはフリーマンとカリーがあり、仕上がりでは山岸。ローデンも綺麗なセパレーションが出ている。ロッケルはここでもカットが出てこない。バックに入り、山岸は背中から脚まで良く絞れたコンディションで、上体と下半身とのバランスも良い。カリーはセパレーションのみであるが、筋肉の密度があるためにインパクトがある。上体は大きいが、脚の裏側のサイズが欲しいところだ。フリーマンとロッケルはセパレーションのみ。特にロッケルは下半身がスムーズでアピールするところがない。ローデンはバックもハードなコンディションではないが、セパレーションは綺麗に出ている。
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(左)腰のすぐ上から広がるグリーンの背中。まるでお尻が二つあるかのようだ (右) もう一人の大型新人ブランドン・カリー。あまり注目されていなかったがサイズがあり、セパレーションもよく出ていた


以上5人での比較では、山岸とフリーマンがリードし、カリー、ローデン、そして仕上がりがやや甘いロッケルの順と思えた。しかしスコア表ではフリーマンが7位、カリーが8位、ロッケルと山岸が9位タイ、ローデンが11位になっている。フリーマンはやや高い評価を受け、山岸は低い評価を受けたということだ。新人のカリーはノーマークな存在だっただけに、なおさらサプライズなフィジークであった。

このあと、コールアウトは第5コールまで行なわれた。マルチネス、ウルフ、グリーン、デクスターの4人がコールされ、3~6位までの比較となった。ファースト・コールの時点では、仕上がりではデクスターとウルフが良かったことから、グリーンとマルチネスをリードしているものと思えた。だが、このコールではグリーンのコンディションがインプルーブし、シャープになっている。そのため

スコア表ではグリーンが3位、ウルフが4位、デクスターが5位、マルチネスが6位に。グリーンが本領を発揮して浮上したことになる。

第6コールはジェイ・カトラーとフィル・ヒースの2人だけの比較で、プレジャッジも最高潮に達したが、ヒースのコンディションが良いだけに、新ミスター・オリンピア誕生を印象づけている。

それにしても、今回のプレジャッジの比較は少なかった。トップ6以外の比較は一度だけで終了している。通常ならば何度もミックスして比較されるのだが、今回はそれがなく、6位と7位のボーダーラインの比較などがまったく行なわれなかったのだ。この理由は、この日ビキニ、フィットネス、ミズの各オリンピアのファイナルが行なわれたのだが、それに時間がかかり、ミスターOのプレジャッジがスタートしたのが遅れたため、比較審査に多くの時間がかけられなかったのではないかと推測できる。オリンピアのプレジャッジとしてはあまりにもお粗末な感じがした。

ファイナル

アメリカは不景気が続き、中でも雇用が進まず、特にラスベガスの失業率は15%近くになっている。しかしながらラスベガスを訪れる観光客は増加しており、不景気とはまったく関係ない世界を思わせ、ホテル街のラスベガスブルバードには人が溢れている。以前はギャンブルが主体であったが、最近はショー観賞やレストランでの食事、ショッピング、そして若い人々にはクラブで遊ぶことがトレンドになっている。またドル安のため、ヨーロッパやメキシコからの観光客が増加している。

ファイナルでの話題はジェイ・カトラーが5度目のタイトルを取るか、あるいは第13代の新ミスター・オリンピア誕生かということである。

昨年からプロコンテストではルール改正があり、ファイナルのフリーポーズは審査対象ではなくなっている。つまりプレジャッジは今まで通りポージング比較を行ない、スコアの50%を占め、ファイナルはトップ6のみポージング比較とポーズダウンがジャッジされ、このスコアが50%を占めるように改正されたのだ。しかし今年もルール改正があり、ファイナルではトップ15の間でポージング比較が行なわれている。つまりプレジャッジ50%、トップ15によるファイナルでのポージング比較が50%という比率になったということだ。これまで順位はプレジャッジのスコアで決まっていた傾向が強かったが、新ルールではファイナルもポージング比較がカウントされることになった。出場選手にとってもより納得のいくものではないだろうか。ボディビル界が毎年進歩しているのは、喜ばしいことである。

202ポンドクラス
1位 ケビン・イングリッシュ

1位 ケビン・イングリッシュ

(左)2位 フレックス・ルイス、(右)3位ホセ・レイモンド

(左)2位 フレックス・ルイス、(右)3位ホセ・レイモンド

(左から)4位 ヨロソラフ・ホルバス、5位 ジョセフ・ターバーナー、6位 ジェイソン・アーンツ

(左から)4位 ヨロソラフ・ホルバス、5位 ジョセフ・ターバーナー、6位 ジェイソン・アーンツ

予選落ちの選手
オープンクラスのミスター・オリンピア。今年は24人がエントリーし、トップ15までに順位が付けられた。残りの9人は全員16位となっている。昨年は15位に入り、今年もコンディションの良かったベテランのトロイ・アルべス(43歳)や、昨年は13位だったマーカス・ハーレー(38歳)がファイナルに残ることができなかった。
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■16位=ベン・ホワイト/ロバート・フロトコーズ/フランク・マクグラス/マーク・ラボイエ/マーカス・ハーレー/エフゲニー・ミシン/ロバート・ブルネイカ/トロイ・アルべス/マイケル・ケファリアノス
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ポージング比較
今年からファイナルでもプレジャッジ同様のポージング比較が行なわれているが、比較は1回のみであった。まず12~15位までの比較、次に7~11位までの比較が行なわれ、両方のグループとも順位の変動はなかった。3~6位の比較では順位の変動があったが、1位と2位では変動はなかった。プレジャッジの項でもコメントしたが、ポージング比較ではもう少しミキシングして比較してほしいものである。
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■15位 クレイグ・リチャードソン(37歳)170cm/98kg
オリンピア出場は5度目で、08年13位がこれまでの最高位。今回はサイズを犠牲にしてかなり絞りこんできたため、そのぶん細くなっているが、仕上がりは良かった。ただ、オリンピアではサイズもあり、仕上がりも良いことが要求される。今年は予選落ちしている人でもレベルが高いフィジークを持つ人がいたため、ファイナルに残るのは容易ではなかった。

■14位 マリアス・ドーン(30歳)180cm/114kg
南アフリカ出身。04年NABBAミスター・ユニバース優勝。今年プロデビューして2戦目のプロ・ボディビル・チャンピオンシップで優勝し、オリンピア初出場。長身でウエストが細く、上体の広がりがあるスケールの大きなフィジークである。ただし仕上がりは絞れているがセパレーションのみであった。

まだ30歳と若いためか荒削りであり、そのためフィジークでもインプルーブできる素質があるだろう。将来に期待をかけたい大型新人である。

■13位 ジョニー・ジャクソン(40歳)173cm/115kg
上体は厚みがあり、山のように巨大なマッスルが顔を埋めつくしているが、仕上がりにシャープさがないため、筋密度を強調することができない。オリンピア出場は8回目で、07年9位が最高位。実力、筋量はトップ10入りするものを持っているが、コンテストごとに仕上がりのムラがあること、そして上体と下半身のバランスに欠けるという課題がある。いずれにしても、40歳になっても少しも衰えを見せないマッシブでパワフルなフィジークである。

■12位 エド・ヌーン(40歳)185cm/116kg
オリンピア出場は昨年に続き2回目で、昨年は予選落ちしているが、今年は大きく順位を上げている。ウエストが細くプロポーションに優れたフィジークで、仕上がりはフロントからバックまで絞れてカットも良く出たドライなコンディション。身長が高くてフレームが大きいために、オリンピアで上位に入賞するためにはもっとサイズが欲しい。


■11位 ショーン・ローデン(36歳)175cm/104kg
ジャマイカ生まれ。以前はチームユニバースに出場していたナチュラルビルダー。09年に北米選手権で優勝してプロに転向。彼もマリアス・ドーン同様に、プロ3戦目でオリンピア出場を果たしているため“シンデレラボーイ”と思うかもしれないが、36歳とやや遅咲きのビルダーである。

彼のフィジークは“フレックス・ウィラー2世”と言われるように、ウエストが細くシンメトリーが良い。仕上がりも綺麗なセパレーションが良く出てドライなコンディションであった。ただ、フロントは良いが、バックはフロントほどのインパクトが見られなかった。フレックスはカリスマ性のあるビルダーだったが、ショーンはとてもおとなしいステージングであった。今後オリンピアで上位を目指すためにはサイズが必要だが、彼のフレームからすると、サイズを増やして体型を崩すよりも、仕上がりにフォーカスする方が持ち味を活かせるのではないだろうか。

トップ10

今年のオリンピア出場者の平均年齢は37歳。昨年よりも0.5歳アップ。そのうち40歳以上が7人。最年長はトニー・フリーマン45歳、最年少はブランドン・カリー28歳。平均体重は112kgで、昨年の平均とほぼ一緒であった。

これまでファイナルでのポーズダウンはトップ6で行なわれていたが、今年はトップ10でポーズダウンが行なわれた。オリンピアの大きなステージいっぱいに10人のモンスター達がポーズを繰り広げるさまは、まさしくバトルロワイアル。ポーズダウンは終始ジェイ・カトラーがリードし、ステージの端から端まで観客へのサービスを繰り返し、会場は一気に盛り上がり、オリンピアも最高潮に達した。
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■10位 山岸秀匡(38歳)165cm/100kg
昨年よりもディテールを増し、インプルーブしたフィジークで臨んだ4度目のオリンピア。プレジャッジ第2コールで呼ばれた際は、他の人と比べて仕上がりが良かったため7~8位につけているのではないかと思えたが、実際のスコアは9位であった。またファイナルでフリーマンやカリーが仕上がりを上げてきたためスコアを悪くし、10位に後退している。今回の山岸のコンディションであれば、もう少し順位が上でも良いと思えるが。

今年前半はオフを取り、その後2つのコンテストでともに2位になっている。ただ山岸の現在の実力からしたら、“コンテスト出場=優勝”であるべき。オリンピア3年連続トップ10入りは見事で、日本人に元気を与えたことだろう。ファイナルのフリーポーズでは、東日本大震災に際して多くの人々からサポートしてもらったことに対し、最後にスプレッドポーズで日の丸を掲げて感謝の気持ちを表した。
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■9位 ロニー・ロッケル(39歳) 168cm/102kg
小さなフレームであるが、筋肉が詰まり、良くまとまったトータルパッケージのフィジークだ。そして仕上がりが良かったことから、09年7位、そして昨年は6位とトップ6入りを果たす活躍をしている。しかし今年は仕上がりが甘く、大きなセパレーションのみ。特に背中は平坦でアピールするところがなかった。

ロッケルはこれまで厚みのある完成されたフィジークを持っており、仕上がっていれば筋肉の密度が強調されインパクトが強かった。しかし今年のような仕上がりでは単なる“バルキーなビルダー”になってしまう。今回の9位はかなり高い評価を受けたものと思える。


■8位 ブランドン・カリー(28歳)173cm/116kg
ボディビルをスタートしたころはナチュラルビルダーだった。08年USA選手権でヘビー級&オーバーオール優勝し、プロに転向後はほぼ2年間オフを取り、昨年プロデビューをしたが、成績はそれほど良いものではなく、今年ようやくトロントプロで3位になり、オリンピア出場を果たした。そのため、ほとんど注目されていなかっただけに、今回はサプライズと言っても良いほどの活躍で、まさに新人賞ものである。

プレジャッジでは山岸らとともに第2コールで呼ばれたが、サイズが大きい以外では仕上がりもハードでなかったことからそれほどインパクトがなかった。しかしファイナルでは仕上がりを詰め、カットの鮮明度が増し、初めてのオリンピアチャレンジでいきなり8位に入賞した。カリーはサイズが大きくリラックスではふっくらしているが、一度ポーズを取ると密度のあるマッスルが浮き上がってくる。今回最年少の28歳が、来年はどこまでインプルーブしてくるか楽しみである。


■7位 トニー・フリーマン(45歳)188cm/132kg
最年少出場者がカリーなら、17歳年上のフリーマンは最年長。昨年の9位から2つ順位を上げている。フリーマンもプレジャッジではハードな仕上がりではあるが、カットのシャープさは見られなかった。しかしファイナルではカットがインプルーブして筋肉の張りも出て、サイズが大きいためにアピール性があり、7位を勝ち取っている。年齢のせいか、近年はフロントは良いが、バックにはフロントほどのハードさがなくなっている。それにしても45歳にしてサイズと筋肉の張りを保っていることは見事である。

トップ6

今年から実施されたファイナルでのポージング比較で、順位に影響が出ている。デクスターとウルフはプレジャッジでは良かったが、ファイナルではややコンディションが落ちている。これに対してマルチネスは仕上がりがシャープになり、カムバックをアピールした。
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■6位 デクスター・ジャクソン(41歳)170cm/107kg
08年にジェイ・カトラーを破ってミスターOになっているが、その後は09年が3位、昨年が4位と一歩ずつ順位が後退しており、今年は二歩後退して6位になっている。プレジャッジでは良い仕上がりで5位につけていたが、ファイナルでややコンディションを落としたことがスコアに影響した。

近年、上体と比べると脚の張りがなくなり、そして今年は絞ってきたためかサイズダウンしているが、フリーマン同様に40歳を超えてもトップシェイプのフィジークを維持し、オリンピア12回目の出場を果たしている。

■5位 デニス・ウルフ(32歳)180cm/125kg
08年に4位に入ったものの、09年はオフのコンディションで予選落ち、そして昨年は5位に返り咲いている。このようにステージに立つまで彼のコンディションは判らないが、「今年はそろそろ勝負をかけてくるのではないか」という期待がかけられていた。だが、昨年からほとんどインプルーブが見られなかった。仕上がりはセパレーションのみでディテールがなく、フロントはまだ良いが、バックは平坦で、脚はハムストリングスからカーフが小さいためにインパクトが弱い。プレジャッジでは4位であったが、ファイナルではコンディションが落ち、5位に後退している。

彼の広背筋が高い位置にあることはよく言われているが、これは体型というか、骨格というか、どうにもならないことである。ウルフが今後オリンピアを狙うのであれば、まだ32歳と時間は十分あることから、背中に厚みをつけ、脚の裏側をインプルーブさせること、そして仕上がりにフォーカスするしかないのではないか。


■4位 ビクター・マルチネス(38歳)175cm/115kg
07年にはジェイ・カトラーを破ってオリンピアのタイトルを取るべきであったとよく語られているが、その後は脚のケガに悩まされ、09年6位、昨年は9位と順位を落とし、キャリアが危ぶまれていた。

プレジャッジではファースト・コールで呼ばれたが、コンディション的にはシャープさがなく、6位になっている。しかし24時間後のファイナルでは仕上がりがインプルーブし、カットも良く出てメリハリのあるフィジークとなっている。特にバックは下背までストリエーションを出し、脚まで良く絞れていたためスコアを上げ4位に上昇し、ファイナルのポージング比較での恩恵を受けている。怪我から回復し、本来のフィジークとコンディションでカムバックしてくると、来年からのオリンピアも楽しみである。
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■3位 カイ・グリーン(36歳)173cm/118kg
09年4位、昨年は優勝候補にもなっていたが、仕上がりが甘く期待を裏切る7位。今年のニューヨクプロでは持ち前のフィジークでカムバックしたことから、今年も再び優勝候補の一人に名が挙がっていた。確かに昨年よりは仕上がりは良くなっているが、フィル・ヒースが予想以上に良いフィジークであったことから、優勝争いに入れるだけの凄さとシャープさはなかった。プレジャッジでは3~6位の比較にしか入れず、再び期待を裏切ることとなった。ファイナルでもそれほどカットの鮮明さが見られなかったため、マルチネスとはもう少し接戦になると思えたが、スコアでは単独3位につけられている。

昨年までグリーンはフィル・ヒースが超えられない存在だった。しかしグリーンがもたついてる間にヒースはグリーンを飛び超え、はるか先に行ってしまった。グリーンのニックネームは“略奪者( プレディター)”である。今一度オリンピアのタイトル略奪に奮起してもらいたい。

今年の話題であるジェイ・カトラー対フィル・ヒースの再戦の、最後の比較が再びファイナルでもあり、オリンピアのハイライトを飾った。確かにヒースの方がコンディションが良くリードしているが、ジェイ・カトラーはオリンピアのステージは何度も経験しており、ステージに慣れているため、会場をリードしてエキサイトさせるなど、チャンピオンのパワーを示した。2人の最終バトルで、会場は興奮のるつぼと化した。


■2位 ジェイ・カトラー(38歳)175cm/122kg
過去2年間のジェイのコンディションはミスター・オリンピアに相応しい見事なフィジークであった。今年は「勝っても負けてもオリンピアから引退するのでは」という噂が流れていたため、どのような勇姿を見せてくれるかと期待が持たれた。

しかしながら仕上がりは過去2年のようなシャープなものではなかった。フロントはまだカットも出て、腹筋と脚は健在である。しかしバックは平坦で、背中のカット、そして下背には幾重ものシワが出ていた。実はオリンピア2週間前に左の上腕二頭筋を怪我していたため、調整に影響が出たのかもしれない。

今回は終始ヒースと2人での比較となったが、フィジークではヒースが常に勝っていたことから、完敗であった。ヒースはボディビルをスタートしたころからジェイを師として尊敬するなど、彼らの師弟関係は広く知られている。ステージでジェイはヒースを「ニューキング」と称賛。弟子が師匠を超えた悦びは、弟子よりも師の方が強かったかもしれない。

オリンピアは12回目の出場になるが、前半はロニー・コールマンとのバトル、そして後半は4回優勝したものの、仕上がりにムラがあることから自分との戦いとなり、タイトルを失ったり、奪還したりと、波乱のオリンピア人生でもあった。オリンピアが終了したばかりの今、進退は判らないが、今後の動向が注目される。
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■優勝 フィル・ヒース(31歳)175cm/110kg
誰がこれだけ衝撃的なフィジークを予想しただろうか? たしかに昇り調子のヒースであるから、昨年よりはインプルーブしてくると思われていたが、ここまでインプルーブするとは誰も予想していなかったのではないだろうか。想定外のスーパーサプライズであった。

ヒースは今年、スポンサー社のトレーニングビデオなどでもTシャツ姿で撮影に挑み、身体を露出していなかったことから、それなりの戦略があったと思える。ステージに姿を現したフィジークは丸々とマッシブですさまじい筋量。まるでアニメのスーパーヒーロー、さしずめ“超人ヒースマン”と言えるようなショッキングなものであった。

昨年はジェイ・カトラーと接戦と言われていたが、その実力の差はまだあった。身体の幅がなく、特に腹筋が弱いこと、そして脚の大きさでジェイに敵わなかった。しかしヒースは体重を10ポンドも増量するサイズアップを果たし、わずか1年でこれらの課題を克服したばかりか、得意の背中にはディテールと密度が増すなど、「アンビリーバブル」の一言だった。

ヒースはプロ転向わずか6年で頂点を極めた。彼のニックネームは“ギフト”つまり才能や素質に優れているということであるが、彼はまだ31歳と絶頂に達していない。今後まだ成長する素質と可能性を持っている。

ヒース時代の幕開け

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先にも触れたが、今年のオリンピア出場者の平均年齢は37歳とやや高齢化している。しかしながら28歳のブランドン・カリーや30歳のマリアス・ドーンなど若い新人も台頭してきており、新しいチャンピオン誕生を機に、新旧交代の時期に来ているのではないだろうか。
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毎年、オリンピア前には優勝候補者が何人か挙がる。今年もジェイとヒース以外では、グリーン、ウルフ、マルチネス、デクスターなどがいたが、みな“もし、仕上がっていれば”という条件が前提となっていた。この“もし”は曲者で、期待を煽るものであるが、今年はフィル・ヒースのフィジークがずば抜けていたために、この“もし”が通用しなかった。しかし、“もし”ヒースが来年以降も今年のようなフィジークで出場してくれば、彼は引退するまで敗れないと考えられる。それほどまでにニューキングによる“フィル・ヒース時代”の幕開けを強く印象づけられたオリンピアであった。
text=
Sumio Yamaguchi
photo=
Ben
[ 月刊ボディビルディング 2011年12月号 ]

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