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2013年第67回世界男子アマチュアボディビル選手権大会
2013年11月4~ 8日
マラケシュ・モロッコ
田代誠 3位に入る快挙!!

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[ 月刊ボディビルディング 2014年3月号 ]
掲載日:2017.09.03
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モロッコ遥か

 昔、『カサブランカ』という古い映画を見たことがある。遠い異国のラブストーリー。地球の果ての物語のような気がした。

 今回のIFBB男子世界選手権はモロッコ。モロッコで思い出すのはカサブランカだけという、ちと情けない私としては「遠い遠い国へ飛ばなきゃ」という思いが浮かんだ。事前に勉強もしないで成田を飛び立ってしまった。気が付くとモロッコについて知っていることは何もない。

 一緒に行くのは玉利JBBF会長。世界選手権の正式日程の前に行われるIFBBの常任理事会に出席するために選手より一日早く出発。私はJBBF国際委員長として通訳を兼ねて、会長と同行することになった。

 フライトスケジュールは頭に入っていたものの、いざ飛び立ってアナウンスを聞いてうんざりした。ドバイまで12時間。4時間ドバイ空港で待って、カサブランカまで9時間。2時間待ちで世界大会会場のマラケシュまで1時間。長い長い旅になりそうだ。

 映画を何本か見て、最初に見たのが何だったのか思い出せないほど時間がたって、ようやくカサブランカへ到着。あの古い映画の舞台を見てみたい感じがしたが、空港は長蛇の列。1時間ほど待った後で、乗継の人はここに並ばなくていいということが分かった。「どこにも案内がないからこういうことになっちゃうんだよね」と文句をたれながら、ようやく国内便の待合室へ。ここは古き良きカサブランカというインテリアで雰囲気は最高。しかしアナウンスもサインもない。

 結局2時間待たされて、周りの人が言ってくれたのは飛行機はキャンセルになったということ。しかも次の便は夜。まだ6時間もある。なんてこっちゃ!

 私は次第に無口に。しかし玉利会長は元気。2013年のエクアドル遠征から帰ってしばらく体調が悪かったと聞いたが、今回の遠征中にどんどん回復してきている。まさに超人。

 ようやく大会ホテルにチェックインしたのは、私が家を出てから36時間後。荷物は私の分も玉利会長の分も到着せず。着替えもない。眠いし、腹減ったし、まったく元気なし。元気な会長には申し訳ないが、おやすみなさい、先に寝ます。着の身、着のままで。11月2日の夜に日本を出たので、今は多分11月4日。

多様化するボディビル

 4日の夕方、IFBBの常任理事会。玉利会長はIFBBの終生パトロン。常任理事会の常連として皆さんから認められている。
 さて今年の常任理事会の主な話題。

①女子のボディビル部門が消滅
 ミスオリンピアの写真を見ると、私のようにボディビルを長く見てきた人間でもびっくりするぐらいマスキュラーな女性たちが戦っている。日本の地方大会の男性を軽く超える筋肉量とカット。筋肉を追求していくと当然そこまで行ってしまうのは人間の本能のなせる業。しかし、一般の人間に受け入れられなくなったらどうする?

 女性の筋肉は実はもうそのレベルまで行ってしまっているのだ。特にアンチドーピング問題の手の届かないプロの世界では。

 IOC公認を目指すIFBBとしては、実につらい決断だったと思う。2014年から女子のボディビル部門をやめると理事会で発表された。えええっ!という感じだが、日本の選手にとってはいいニュースだと思う。

 バルクを評価しない。男性化した体を評価しない。女性らしさを保ちつつ、均整のとれた筋肉の美しさを評価する。まだできたばかりの女性のフィジーク。これを女性の筋肉美を競う競技とすると決まった。

②増えるカテゴリー
 女子はフィジーク、ボディフィットネス、フィットネス、ビキニの4つのカテゴリー。フィジークが一番筋肉の評価を重視し、ボディフィットネスは鍛え上げられたプロポーション、フィットネスは動きを伴う体、ビキニはトレーニングで美しく整えられた女性美。そんな序列となった。 男子は筋肉順に、ボディビル、クラシックボディビル、フィジーク、フィットネス。

 フィジークはだぶだぶの膝までの水着着用で脚を評価しない。平たく言うといかに女性にモテる体を作るか。フィットネスは女性と同じで、難しい動きを可能にする体が求められる。

③IOC公認への道
 2014年のアジア・ビーチゲームズにはIFBBのボディビルが復活する。ポール・チュアグループが強奪していったアジア・ビーチゲームズだが、OCA(アジアオリンピック委員会)に根強く説明してきたIFBBが復活することになった。ヨーロッパゲームズも同じような動きがあるらしいし、アメリカ大陸でも足並みはそろってきたという。

 WADA(国際アンチドーピング機構)との関係も良好で、IFBBはかつてサマランチ会長を通じてIOCといい関係だったのが、ロゲ会長になってその道が途絶え、今年からのバッハ新会長とは対話が始まっているという。少しは期待していいのかもしれない。
IFBB 常任理事の面々。前列右端がJBBF 玉利斉会長。後列左端が筆者

IFBB 常任理事の面々。前列右端がJBBF 玉利斉会長。後列左端が筆者

最高峰は男子世界選手権かアーノルドか?

 サントンハIFBB会長は明確にこう言った。「この世界男子選手権がIFBBの一番大切な大会だ。常任理事会もあるし、総会もある。今回は59か国が参加している。IFBBのすべてのルールはここで承認される」

 IFBBでは新しい流れも生まれている。それもすごいスピードで。

 まずアーノルドアマチュア大会。すでに世界中のトップ選手たちが目指す大会として成長している。観客数は明らかにアマチュア大会では世界最大。同時に開催されるプロのアーノルド・クラシックと合わせればものすごい数の観客がボディビルを見ていることになる。

 そして、そのアーノルドアマチュアは毎年、開催国が増えて行われるようになってきている(現在アメリカ、スペイン、ブラジルで開催され、今年さらに中国で開催される噂がある)。

 さらに、プロの最高峰であるミスター・オリンピアのアマチュア版も登場した。ミスター・オリンピア・アマチュア。そしてとどめがベン・ウィダー・ダイヤモンドカップ。今年が第1回目で、この大会も毎年開催になるそうだ。

 常任理事会が終わった4日の夕方、予定通り日本選手一行が到着した。飛行機のキャンセルもなく、荷物がなくなることもなく無事に到着。選手は70㎏クラスに合戸選手と田代選手。80㎏クラスに鈴木選手。日本選手権のトップ3がそろうという豪華な顔ぶれ。日本選手の戦いが楽しみ。

赤土の街マラケシュ

 続く11月5日は検量のみ。選手は検量後はそれぞれ独自の過ごし方。カーボアップに励んだり、いつもと変わらない食事をとる。人それぞれ。

 私と玉利会長は2日間続いたボディビルダー食にすでにギブアップ気味。夜は隣のホテルまで歩いて3分なので、探索に行き、イタリアンレストランを発見。地元料理も食べないうちにイタリアン。

 いよいよ予選が始まる。11月6日。我々はバスで試合会場へ。

 我々のホテルは郊外に建っていた。周りは何もない。ちょっと歩いてみたが本当に何もない。赤茶けた土の広大な土地だけ。道路は広いが交通量は極端に少ない。

 バスで10分ほど行くと、徐々に建物が増えてくる。どうやらマラケシュの都心部のようだ。高い建物でもせいぜい5、6階建て。多くは2、3階。色は不思議に同じ色。赤砂岩のような赤茶けた色。街全体がこの色だから、ある意味落ち着く。

 会場はホテルからバスで15分ぐらいの文化会館のような建物。インテリアは暗くてよくわからないが、アラビア風というかカサブランカ風(知らないけど)。

 予選の前にパウエル・フィルボーン審査委員長が言っていた。「減量しているのに、異様におなかが出っ張っている選手は明らかに薬使用だ。最下位に点数をつけろ。シリコン注入がはっきり見て取れる選手も最下位に。我々は努力して手に入れた体だけを審査するのだから」いつも強気のパウエル。彼が毎年言うからだろう、確かに最近異様に胃の出た選手がいなくなってきているような気がする。

 最軽量級は60㎏クラス。圧倒的に目を惹くのは韓国。二人の選手を送り込んできているが、二人ともメダル確実。そういえば、昨年もこの二人が金メダルと銀メダルを分けたのでは?韓国は重たいクラスにも良い選手を持っているが、メダル確実なのは軽量級。そこに重点的に選手を多く派遣するというのは、一つの作戦だ。よって、今年は重量級を一人も連れてきていない。
今大会会場。カサブランカ風の建物だった。

今大会会場。カサブランカ風の建物だった。

検量の風景。中央 の赤いポージングスーツが鈴木選手

検量の風景。中央 の赤いポージングスーツが鈴木選手

予選
田代の戦い、合戸の戦い

 70㎏クラス。総勢29名。これだけの選手が舞台に並ぶと、いったい誰がいいのか最初は見当がつかない。つかないばかりか、どこに日本選手がいるのかさえも一瞬わからない。しかし一通りざっと見ると、日本の二人がかなり目立っているのがわかる。 合戸選手の大胸筋の大きさ普通じゃない!

 田代選手の全身から漂うオーラ、これも普通じゃない!

 29名もの選手がいると予選も2段階となる。第一段階でトップ15名を選ぶ。二人とも当然のように15名に入る。ここからが準決勝。5名ずつ選んで比較審査を行うが、実に簡単に審査して進んでいく。世界選手権で審査員をするためには瞬時に見分ける能力を磨かなくてはならないようだ。じっくり見ていくと、いろんなことが見えてくる。

 田代選手のカットは、ほとんどこのクラスでトップではないかというほど素晴らしい。一口にカットと言ってはいるが、全身のバランスとプロポーションも含めて美しい。かっこいい。

 それぞれの筋肉のセパレーションも素晴らしい。今まで見た田代選手の最高の仕上がりではないかと思う。さらに決勝に進出しそうな選手と思える人と比べると、ちょっとバルクでは負けているかも知らない。ガツンと前に出てくるような迫力では2、3の選手に負けているかもしれない。しかしいずれにせよかなり上にいることは間違いない。特に日本選手でバックポーズでこれほど深々としたカットがあり、形も完成している選手は今までいなかったのでは?

 一方の合戸。筋肉はデカい。左右の広がりが今までは少なかったが、今ではかなりそれを克服している。脚のカットが少し甘い。世界選手権レベルとなると、脚で差がつく場合も結構多い。でかい筋肉に深々としたカット。その点、健闘しているが、上半身が大きいためか脚が少し弱く見える。カットの鋭さも微妙に足りない。決勝に残れるかどうかの微妙なラインにいるように見えた。
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70㎏級の合戸孝二。上体は全盛期の迫力を見せるも15位に終わる。世界選手権ともなると、上下のバランスや、多少のカットの甘さで順位を落とすことになる

鈴木の戦い

 80㎏クラスも20名の選手が参加。しかもレベルが高い。

 検量の時に鈴木の後ろに並んだ選手。後でわかったのだがアルジェリア出身。恐るべきカットでバルクもある。こいつにはちょっと勝てないだろうという気がした。この選手が何位に入るか?

 ラインアップでは、鈴木のプロポーションはなかなかいい線を行っている。結構目が行く。自然体の時に審査員がざっと全体を見渡し、第一印象でピックアップしていく。ポーズをとると俄然よくなる選手よりは、自然体で目立つ選手の方が有利ともいえる。決勝まで進めば、フリーポーズや比較審査でじっくり見られるから、また違う見方をされると思うが予選では第一印象が大切。

 そういう目で鈴木を見ると、上体の弱さがちょっと気になる。脚の発達はトップ選手にまったく引けを取っていないが、力を入れたときのカットの深さでちょっと差がつく。アルジェリアの選手は健闘していて、メダル圏内にいるようだ。

 鈴木のサイドポーズは脚の太さ、大腿二頭筋の発達が十分にアピールできている。バックポーズの迫力も年々増している。さらに細かなニュアンスが出てくれば決勝は可能だ。

 しかし、レベルの高いこのクラスで鈴木が決勝に残れるかどうか?可能性は五分五分か?
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80㎏級の鈴木雅。大腿部の発達は上位選手に全く引けを取っていないが、その分上体に弱さを感じる。ただ、このレベルの中で8位は立派だ

馬車で決勝へ

 予選はものすごいスピードで進んだが、参加選手が多いだけに時間は相当かかった。夜になってホテルのロビーに張り出された決勝進出者の中には、田代選手の名前だけがあった。合戸選手も鈴木選手も決勝進出を逃してしまった。世界選手権の恐るべきレベルの高さを身をもって知ることとなった。

 翌朝11月7日。午前中はIFBB総会。理事会で話されたことが中心で、ほとんどサントンハ会長の独演会に近い。特に強調していたのは「ヘルシーライフスタイル」という、最近彼が好んで使うIFBBのコンセプト。筋肉だけじゃなく、健康なライフスタイルをウェイトトレーニングで作り出すんだという表明である。

 もう一つ強調していたのはIOCとの関係。様々な場所で行われるIOCの集まりには必ず顔を出し、積極的に要人に会い、ボディビルを説明し、重要な大会には彼らを呼ぶ。アーノルド大会はその絶好の機会になっているようだ。

 午後。いよいよ決勝。指定された時間にホテルのロビーに集合すると、「馬車が待っているから玄関先に出るように」という。「馬車? バスの間違いじゃないの?」と思いつつ表に出ると、何十台という馬車がホテル前に集まっている。一つの馬車に数名。IFBBの役員と各国の代表やコーチを乗せて、会場までパレードしようというものだった。しかしアラブ系の選手は制止も聞かずにどんどん馬車に乗ってしまい、降りようとしない。ここまでやってしまうと野蛮人と変わらない。

 ホテルの前には大きな旗を振る人、音楽隊、トラックに乗った盛り立て役の人たちでごった返している。彼らの大きな歓迎の声。これがモロッコ風の歓迎。しっかりやってくれているのでうれしい。
決勝の日はホテルから大会会場まで馬車に乗ってのパレードだった。

決勝の日はホテルから大会会場まで馬車に乗ってのパレードだった。

決勝のオープニング

決勝のオープニング

リラックスしていた田代

 決勝は1分間のフリーポーズと規定ポーズでどんどん進んでいく。しかし9クラスあるので、それ相当の時間はかかる。会場はほぼ満員。北アフリカの選手が出てくると国に関係無く会場から大きな声援が飛ぶ。

 60㎏級は昨年と同じように韓国が1位、2位。パク選手は連続金メダル。

 65㎏級、リビアのエダリが優勝すると、はるばるリビアから来た応援団が爆発。

 70㎏級、田代のポージングがさえた。昨日よりリラックスして素晴らしいポージング。伸び伸びしているので余計に良さをアピールできているようだ。全身のバランスの良さ、カットの深さ、仕上がりの良さが光る。ひょっとして?と思う成績発表。下位から名前が呼ばれていくがなかなか名前が呼ばれない。ということは上位。3位のところで名前がコールされた。メダル獲得。世界選手権で3位は快挙だ!

 75㎏級、イランのサジャッドが激戦を制して優勝。

 80㎏級、今まで大活躍だった二人のエジプト選手が決勝に残らないという激戦を制したのはイランのババク。イランの強さが目立ってきた。

 85㎏級、有名どころが目白押しのクラス。多くの元チャンピオンを破って優勝したのはイランのジャメド。
 
 90㎏級、しばらく世界選手権から遠ざかっていたカマルが優勝。バルク、仕上がり、プロポーション共にピカイチの素晴らしさ。生まれはイラン、しばらく前はカタールで戦い、今はリビアの選手として戦う。観客席のリビアの応援団は興奮しすぎてもう止めようがない。

 100㎏、珍しくと言っていいのか悪いのか?ヨーロッパの選手が優勝。ウクライナのオレクサンダー、完璧な優勝。

 プラス100㎏級、巨人たちの戦い。その中でずば抜けていたのはエジプトのザカリア。大きいうえに完成度が高い。オーバーオールも制した。

 団体戦は僅差でイランが初優勝。連勝のエジプトに土がついた。
60㎏級優勝、韓国のイ・シェンフン。昨年に続いての2連覇だ

60㎏級優勝、韓国のイ・シェンフン。昨年に続いての2連覇だ

同じ韓国のパク・キョンモも 60級で2年連続して2位に入った

同じ韓国のパク・キョンモも 60級で2年連続して2位に入った

70㎏級優勝者のナム・キョンユン。仕上がりの厳しさが半端ではない

70㎏級優勝者のナム・キョンユン。仕上がりの厳しさが半端ではない

70㎏級比較。左より13位、5位、9位、3位田代、10 位

70㎏級比較。左より13位、5位、9位、3位田代、10 位

70㎏級ラインナップ。左より3位田代、10位、優勝ナム、7位、15位合戸

70㎏級ラインナップ。左より3位田代、10位、優勝ナム、7位、15位合戸

80㎏級比較。左より10位,7位、6位、8位鈴木、9位

80㎏級比較。左より10位,7位、6位、8位鈴木、9位

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80㎏級優勝ババク・アクバミヤ(イラン)。バランスと仕上がりの良さに秀でた選手だ。一時のようなバルクのみの選手は、上位に入らなくなってきている
80㎏級の鈴木選手(左)と優勝者のアクバミヤ(イラン)

80㎏級の鈴木選手(左)と優勝者のアクバミヤ(イラン)

90㎏級でカマルが優勝した瞬間騒ぎ出すリビアの応援団

90㎏級でカマルが優勝した瞬間騒ぎ出すリビアの応援団

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85㎏級優勝、ハディ・チューパン(イラン)。6階級において3位以内入賞、そのうち3階級で優勝しているイランがエジプトを抑えて団体優勝を果たした
70㎏級で3位に入った田代選手

70㎏級で3位に入った田代選手

日本に来たこともある90㎏級優勝者 カマル・サラム

日本に来たこともある90㎏級優勝者 カマル・サラム

+100kg &総合優 勝者のモハメッド・ザカリア

+100kg &総合優 勝者のモハメッド・ザカリア

オー バーオールの比較。どの階級を見ても お腹の迫り出した“ いかにも”といっ た選手は見られなくなった

オー バーオールの比較。どの階級を見ても お腹の迫り出した“ いかにも”といっ た選手は見られなくなった

ライト級予選の合戸(左)。上体が良いだけに脚が弱く感じる

ライト級予選の合戸(左)。上体が良いだけに脚が弱く感じる

日本はどんどん有利になる?

 ドーピングテストに関して報告しておこう。今回はどんな方法で選手を選び、どのようにテストしているかをじっくりと見させてもらった。普通ならあまり見せないところだが、「手伝うよ」ということをドーピング検査のまとめ役カンポス理事に伝えておいたので、召集の場所で実際にドーピングテスト対象者を集める役をしながら観察した。

 各クラスの決勝進出者全員が対象。各クラスの中から1名だけをランダムに選んでいる。決勝ラウンドが終わったら、舞台裏で待ち受け、6名全員を廊下に立たせる。ここで弁護士のマルコ(IFBB理事)が大きな黒い袋に白いゴルフボール5個、黄色いゴルフボール1個を入れて、選手に見えないように取らせていく。黄色いボールを引いたものがそのクラスのドーピングテストを受ける。見ているとみんな心配そうにボールをつかんでる。手を開いて白だった時に露骨にうれしそうになる選手もいる。

 何はともあれ、公平にドーピングテストをしているのは確かだ。あとは結果がどう発表されているかだが、WADAは陰性、陽性の結果をすべて把握しているので、隠しようはないはず。

 ただこんなこともあった。85㎏級のエジプトの選手。かなりごつい選手でちょっと怪しい感じ。舞台裏に戻ってきたところを招集したら、嫌がった。しつこく「こっちへ来い」というと逃げ出しそうになった。逃がしてなるものかと肘をガチッとつかんで離さなかったら、水が飲みたいから仲間のところへ戻るだけだと。逃げる気だなと直感したので、肘を押えたまま仲間の元へ。すると急にその場に倒れこんでワーワー声を上げて泣き出した。泣き止むまで5分ぐらい。なんてやつだ。

 ようやく抽選のゴルフボール選びの場所に連れて行ったが、彼がとったのは白ボール。ドーピングテストを受けなくていいと分かったときのほっとした表情。こいつは絶対に怪しい。

 パウエル審査委員長の厳しい指導と数は少ないが厳格なドーピングテスト、この二つが効果を上げているのは、選手のラインアップを見ていると分かる。2、3年前よくあった、異常に腹の出た選手、または極端な出べそ。これは激減した。徐々に選手の態度も紳士的になってきた(さっきのエジプト選手を除いて)。

 これを徹底していけば、日本選手にとっては有利になることは間違いない。レベルは限りなく高いが、到達不可能な高さではない。そんな気がした。

名残を惜しむ間もなく

 大会の終わった夜。毎日食べていたレストランの味気のない料理も飽きたので、隣のホテルで日本チームの食事会。といっても前日行ったレストランしかないので、再びイタリアン。珍しくビールで乾杯して、皆さんの頑張りを慰労。モロッコのビールは今一だけど、何日かいる間に体がなじんだ。

 選手の皆さんとゆっくり話が出来たのはこの時だけ。あっという間のモロッコ遠征。ほとんど街も見ず、買い物もせず、モロッコ伝統料理も食べず。いや贅沢を言ってはならない。選手は戦うために日本からはるばるやってきたのだし、会長と私は世界の動向をつかみ、日本の意見を伝えるためにやってきたのだから。

 涼しい風が吹き抜ける大きな中庭のレストランで、束の間のゆったり時間を過ごした我々。もう1日ぐらいいてもよかったかな?

 いやいや日本で待っている人もいるし、日本で待っている仕事もある。 短いけれど充実した世界選手権。そしてディナー。ごちそう様でした。


文と写真/吉田進
[ 月刊ボディビルディング 2014年3月号 ]

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