フィジーク・オンライン
  • トップ
  • フィットネス
  • 日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#1

日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#1

この記事をシェアする

0
掲載日:2020.12.23
記事画像1
2020年、環境の変化により、子供が十分に運動できずに不安を抱える親も多い。こういった未曽有の状況に際してどうすべきか。ジュニア選手を含む、各スポーツ競技のトレーニングをサポートをする日本代表のトレーナー陣(フィジカルコーチ)にビデオ通話にて話を伺った。
(協力:東大阪アリーナ/東大阪市)

泉 建史(いずみ たけし)
(体操/トランポリン 他複数競技)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学/コーチング)
ナショナル強化医科学支援チームPTC/フィジカルコーチ
複数ナショナルチーム強化兼任 体操/トランポリン・新体操・ウエイトリフティング他
ナショナルトレーニングセンター強化拠点/高地トレーニング/
飛騨御嶽高原高地/医・科学サポートプロジェクト委員
街のスポーツ健康プロジェクト/東大阪/HOSスポーツ健康教育アドバイザー
NSCA JAPAN最優秀指導者賞


松田 浩和(まつだ ひろかず)
(テニス)
日本オリンピック委員会専任メディカルスタッフ/強化スタッフ(医・科学)
日本テニス協会ナショナルチーム/デビスカップ・フェドカップ日本代表チームフィジカルコーチ
日本テニス協会強化本部テクニカルサポート委員会委員
DRESS BODY PROGRAM代表


栄徳 篤志(えいとく あつし)
(アーティスティックスイミング)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)
※日本水泳連盟・日本体操協会より委嘱
アーティスティックスイミング日本代表チーム フィジカルコーチ
医療法人はぁとふる 運動器ケアしまだ病院
Top Athlete Support team Heartful:「TASH」所属 理学療法士
泉建史氏 日本代表トレーナー

泉建史氏 日本代表トレーナー

選手のコロナ禍におけるトレーニング環境の変化

泉:通常通りに集まって練習ができない間、極端に運動量が減ることで世代によって男女共に体格の変化が出る時期がありました。成長期でもあるのでその点は仕方がないことです。後、コンディショニングを保つことはできましたがオンラインで情報を共有したり、普段できない座学での教育を実施したりと新たな環境を活用して前向きに進めていけたこともきっかけです。大会が限られる期間中は自己管理能力が問われる部分で「コンディション(体調)」と「コンディショニング(フィットネス・栄養・休息などのバランス)」管理など向き合う機会も多かったと思います。

栄徳:全国の指導者の集まるオンラインミーティングに出席していたコーチの話では、やはり全く練習できずに環境も整わないというクラブも多くあったようです。
環境が整っている中で一番能動的なクラブでは時間を決めて朝からオンラインでラジオ体操をしたり、陸上トレーニングをしたり、一日で複数回オンライン上で情報共有やミーティングをしたりなど体調を崩さない工夫があったようです。
他には数日から一週間でできる課題を出すなど達成可能な短期の達成目標を設定していたようです。競技のための練習(陸上トレーニングやランドドリルなど)の課題はもちろん、課題曲に対してダンスの創作などレクリエーションに近いこともやっていたようです。

松田:自分も同じようにオンラインでの指導やサポートが中心でした。いい変化としては、食事など広い意味でのコンディショニングに関して座学で学ぶ時間が取れた点です。睡眠の質やサプリ、食や栄養面の教育や意識付けなど、毎週日曜にコンディショニング講習の時間を設けました。
環境的に高強度のトレーニングやウェイトに触る時間は短くなりましたが、マット上での時間が長くなりストレッチポールやストレッチの時間が増えた事でモビリティ(可動域、可動性)の向上が見られました。
テニスにおいて非常に重要な胸椎の回旋や伸展など、選手各々の課題に取り組めた期間でもあります。

時期的に外には出れなかったので1RMや持久力、最大酸素摂取量の類は極力落とさないようにはしましたが、向上しにくくコントロールできないものとしてある程度ポジティブに割り切りました。 

泉:NSCAが発表した「アスリートのための安全なトレーニング再開のガイドライン」というものがあります。急にトレーニング環境から離れてまた戻るにあたり、最初は元のトレーニングの半分の量、次の週は7割というように、段階的に再開していきました。こういった目安に基づき再開することは指導者にも選手にも新しい機会だと思います。
COVID-19:アスリートのための安全なトレーニング再開に関するNSCAガイドライン
https://www.nsca-japan.or.jp/explain/infographics_COVID19NSCAguidans.pdf

集まれないときや自粛期間中のトレーニング

松田浩和氏 日本代表トレーナー

松田浩和氏 日本代表トレーナー

松田:具体例として、担当する選手の生活環境の周辺に公園や遊具があるか、人の少ない時間があるか、家の中に器具があるかなど各々の環境を聞き、それに合わせて個別でメニューを処方しました。
支柱みたいなものがあればTRXが使えますし、自分でダンベル等を購入した選手もいました。それらのメニューに対するフィードなどを聞いてコミュニケーションを取りながらトレーニングを行っていました。
栄徳篤志氏 日本代表トレーナー

栄徳篤志氏 日本代表トレーナー

栄徳:アーティスティックスイミング(以下AS)日本代表チームの選手は8名(コロナ自粛期間中。現在は10名で合宿中)で関西に6名、東京に2名と分かれています。
関西の選手たちは当初、行動・移動制限や施設の営業制限などの中、大阪、京都のプールから最終的には感染対策を徹底して個人邸のプールをお借りしながら練習を継続し、なんとか繋いできたという状況でした。陸上トレーニングも同じです。練習量も大幅に縮小されていく中、このような環境を提供していただいた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。陸上トレーニングで久しぶりに大汗をかいた選手のあの嬉しそうな顔、今でも忘れられないです。
東京の選手には私が直接会える状況ではなかったので週に3~4回のオンライン指導をベースに関わりを継続し、それ以外は疲労度等に合わせて個別の相談を受けたりしていました。
オンラインでのトレーニング指導に関しては家でもどこでもできるような種目(普段の合宿中、遠征先でも行う既にに決まったパターンのメニュー)や「遠征セット」と呼んでいる、脚に挟むような小さいジムボールや二種類のチューブ、錘バンドを使いました。
この錘入りのリストバンドは通常の水中の練習でも使っていて、腰に巻く各家庭の手作りの錘ベルトや足首に巻くものを選手各自が皆持っています。
また、普段はほとんどすることないのですが、その日のメニューのうち数種目を選手たちに考えさせ、モチベーションを保たせるように工夫していました。
泉:松田さんと栄徳さんの様々な取り組み、大変参考になります。
各ナショナルチームやナショナル強化拠点でシニア世代は特にそれぞれ変わってくるのですが、各々の取り組みを協会の情報ツールにアップしたり、早い段階からジュニア世代などにも外に向けて発信していました。
並行してオンラインでの教育や情報共有も行い、成長段階である2028年のロサンゼルスや2024年パリ世代に向けて自宅でもできる筋持久力の向上、サーキット、ステーション系の種目を動画で紹介して導入と実施を進めていきました。

ジュニアトレーニングの負荷や刺激は短時間か長時間か

泉:トレーニングの種類や目的にもよりますが、運動と休憩の比率に関してはショートインターバル(運動:休息が1:1)やロングインターバル(運動:休息が1:3)などがあります。ジュニア育成段階で新しいものを習得することを目的とした期間ということで、運動:休息比が1:3や1:5程まで休憩比率は長くして強度は6~7割に減らし、はじめは動きづくりに重点を置いています。
ジュニア世代はまず自体重での動きづくりや自分の体をコントロールできることを第一にしています。前や横などの方向から動画を撮影するなど「見える化」をして見比べることで主観と客観を合わせていくときもあります。
ジュニア世代は環境によって常にトレーニングの確保ができるわけではありませんので、日常的に「準備運動としても取り入れて習慣化して活用していくこと」も初期の狙いになります。

栄徳:自分は理学療法士の観点から、トレーニングにおいて主となる筋肉がちゃんと使えているか、そこに的確に刺激が入っているかを重要視することが多く、その目安として、狙った部分が熱くなるか、張った感じになるかという当たり前のことに加えて、トレーニングセッションが終了した後その筋肉のついている皮膚上に水滴のような汗が噴き出ているか?を1番重要な効果判定の指標としています。

松田:負荷に関して、自分はレベルを二段階に分けて考えています。
レベル1:自分の体を自分で支える。
テニスに限った話ではなく、腕立て伏せを不必要とする指導者もいます。しかしラケットにボールが当たるインパクトの瞬間はジュニアでも30㎏ほどの負荷がかかるので、それに十分に耐える筋力を養っておかなければいけません。腕立てやスクワット等の自体重種目をしっかりと行えることがまずレベル1。

レベル2:片足など支持基底面に変化を与える。
多くのスポーツは両足同時ではなく特に片足での瞬間的な力発揮が要求されます。基礎筋力を養う上では両足でのスクワットも大事ですが、競技においてはそれと同じくらい片足での力発揮能力が重要になります。

また、「両足でのスクワットで養われた筋力は片足では発揮されにくく、逆に片足で発揮できた筋力は両足でも発揮されやすい」という旨の研究が話題に出ることがあります。
そういった背景もあり自宅等では片足のスクワットやランジを行い、慣れたらペットボトル等の軽い重りを持ったり、座布団の上で不安定性を出したりしながらやっています。

有酸素性の持久力は時間をかけなければ発達しにくいですし、筋出力などそこまで多くの時間をかけなくても発達するものもあります。空いた時間でトレーニングを小分けに実施することが大事な場合もありますし、まとまった時間を取って一度に実施することが最適な場合もあります。前提条件や状況によってメニューが変わってきますが、総じてジュニア世代においてまずは継続することが重要だと思います。

続き:日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#2
フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」

フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」